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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
2章.鋼の国
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43話「蛇」

「超域魔法?」


クリフは、初めてガウェスと会った部屋で、彼から座学を受けていた。


「ええ、私たち古代のヒトが編み出した、特殊な工程を経て行う魔法の総称です」


ガウェスは部屋にホワイトボードを持ち込んでおり、テーブルのすぐ側で立って文字を書き込んでいた。


「魔力の発生源が魂……というのはご存知ですか?」


「ああ、気分が良いと出が良くなるんだろ?」


ガウェスは微笑み、ボードにヒトの形をした図形を描く。


「ええ、その通りです。そこで私達が考案したのは」


ヒトの図形の心臓部に、赤いペンで丸をする。


「魂で魔法を扱う方法です」


そこで、頭が混乱する。


「……なんだって?普通そうなんじゃないのか?」


ガウェスは、図形の頭にも赤い丸をつけ、胸と頭、手を線で結んだ。


「従来の魔法は、頭で考え、魂から魔力を貰って発動します」


ガウェスは頭と胸を結んだ線を指で消す。


「しかし、超域魔法はそれらの工程を飛ばします。更には、その過程で魂が体外に露出し、精神状態の如何に関わらず、八倍近い魔力を放出します」


彼の言葉を頭の中で噛み砕く。


「つまり、いちいちイメージしなくても良いって事か?」


「ええ、最低限のイメージで済み、脳が焼き切れずに済みます。その上、魔力の放出量と精度が向上する事で、ワンランク上の事象を起こす事が出来るのです」


ガウェスはホワイトボードに描かれた図形を全て消した。


「俺にも出来そうか?」


「今すぐには無理でしょう。しかし、あなたは筋が良い。基礎を憶えてしまえば、数年もしないうちに会得出来るかもしれませんね」


ガウェスは柔和な笑みを浮かべた。


「もし、そいつを扱える奴と戦ったなら、どうすれば良い?」


ガウェスは顎に手を当てて考えていた。


躊躇(ためら)いなく逃げて下さい」


彼はきっぱりと言い切った。



しかし、現実はそこまで甘くは無かった。

謎の男が発動した超域魔法は、血液が毛細血管のように広がり、瞬く間に森全体へと広がった。そして、血管は起き上がって、巨大な檻を形成した。


「マジかよ……」


拳銃を引き抜き、その場で発砲する。

屈折し、挙動を変えた光弾は、(はる)か遠方へと射出され、檻の外縁部に激突し、その場を何度も周回し、激しい金属音を鳴らす。


度重なる負荷を経て、光弾は自然消滅した。

しかし、檻の表面には傷ひとつ付いていなかった。


「真っ正面からか……」


ベルナルドは乾いた笑いをこぼし、一本の剣を足元の血管から射出させ、受け取る。


「そういう事だ」


彼が切先を向けると同時に、足元にあった血管が蠢き、そこから勢い良く血が吹き出した。


__そういうタイプか


勢いよく飛び上がり、それを回避する。

そして、魔力で足場を作って、彼の真上を取った。

しかし、全方位の血管が蠢き、発光した。


「オムニアント!!」


怒声混じりに武器の名を呼ぶと、握っていた拳銃が二丁に増えた。

銃口をベルナルドに向け、高速で連射する。


〈__塑性弾核(テュケス)


瞬間、脳が焼き切れる程の負荷を掛け、二十発にも及ぶ弾丸を操作した。

発射したそれぞれの弾丸が明確な役割を持って屈折し、襲い掛かる血液全てを迎撃し、籠状に飛び交う光弾によって視界が埋め尽くされた。


「挨拶代わりだ」


全ての血液を打ち払った光弾が一斉に集まり、ベルナルドへと降り注ぐ。

しかし、彼は回避行動を取らなかった。


結果として、凄まじい熱量が彼の上半身を跡形もなく削り取り、蒸発させた。


「裏があるな」


そう呟いて、二丁の拳銃を更に発砲し、残ったベルナルドの下半身も破壊した。


しかし、檻が自壊することは無かった。

次の瞬間、背中に強い衝撃が走る。


「なっ……クソ!」


胸部からはベルナルドの剣が飛び出していた。

いつの間にか背後を取られ、背中を刺されていた。


「運が悪かったな」


ベルナルドに背中を蹴られ、地面に落とされる。そして、間髪入れずに地面から槍が突き出し、腹部を貫かれる。


「俺の超域魔法は、超域魔法の使えん人間には滅法強くてな」


腹部に刺さった槍を抜こうとするも、全方位から発射された血の弾丸が、全身に風穴を開け、強烈な衝撃を与えて来た。


「お前に打つ手は無い」


彼の言葉を皮切りに、怒りがピークに達する。

レナートへの情が強い訳ではなかった。

一時の共闘、ミラナの兄貴分。それと気まぐれ。彼を殺さなかった理由など、その程度のものだろう。


「アイツに説教したばっかなのにな……はは、全く……」


しかし、どうしようもなく腹が立った。


「何を言ってる」


再び身体の傷を癒やし、腹に刺さった槍をへし折り、引き抜く。

そして、その場からすぐさに飛び上がり、上空に立つベルナルドの顔を殴った。

爆発音にも似た音を放ったその一撃は、彼の上半身を粉々に吹き飛ばした。


「……ぶっ殺す」


二発目を下半身に当てようとした瞬間、突然それら全てが血液へと変化し、地面へ飛び散った。


「言ったろう!お前に打つ手は無いと!」


ベルナルドが、真上に張った血管から飛び出し、剣を振り下ろす。

それに並行して、周囲の血管から、鋭利な血の斬撃波が発射された。


「てめぇが勝手に決めてんじゃねぇ!!」


オムニアントが形を変え、両腕を覆うような籠手へと形を変える。

両拳を振りかぶり、ベルナルドに向けて繰り出す。


未知の金属に覆われた拳はベルナルドの剣を砕き、彼の胴体を捉える。


そして次の瞬間、両腕の籠手が発光し、爆発した。


〈__塑性弾核(テュケス)


爆発による衝撃波でベルナルドが砕け散ったのも束の間、爆炎が屈折し、複数の衝撃波を放ちながら、迫り来る血の斬撃破を撃ち落とした。


「手を変え続けろ、相棒」


オムニアントは再び姿を変える。

粘土のように蠢き、次の瞬間には銃床の無い散弾銃に形を変えていた。


「上出来だ」


散弾銃は二丁に分裂した。


__弾は塊が良い。


銃がひとりでに排莢し、スラグ式の弾薬に取り替えた。


「ほら、どっからでも来やがれ」


右手に持った散弾銃を担ぎ、周囲を見渡した。

次の瞬間、周囲の血管からベルナルドが飛び出す。

しかし、一人では無かった。

眼前を覆い尽くす程に出現し、血管から絶え間なく生まれ続けていた。


「ああそうかよ!」


回転しながら散弾銃を乱射し、濁流のように迫るベルナルド達を迎撃した。



バベルは自室のモニターの前で、直前まで画面に映っていた映像を何度も繰り返し再生していた。

空色の魔力を放ち、屈折する弾丸を放つクリフ。その光景を見て、彼は歯軋りした。


「レナートを自爆させないで正解だったな。面白いものが見れただろう?」


バベルの横に立っていたケルスが、嘲笑混じりに話しかける。


「彼の魔法を再現するなんてね……」


バベルは声を振るわせ、動揺しながら呟く。

ケルスは、それを一笑した。


「まさか、お前の中では答えが出ているだろう。金色の魔力、そして魔力を含め、古代人の魔法を行使してみせた……まさかあの世捨て人がただの子供を育て、愛してやまない神から授かった武器をただ預けたとでも?」


バベルは震え、片手で額を抑える。


「っ、彼がエルウェクトだとでも!?」


ケルスはテーブルに片手を付いてもたれ掛かる。


「そうとも、彼女とお祖母様は、その高度な魂を保持したまま、死後に人として転生した。尤も、何故か彼女だけ記憶が失い、クリフという男になってしまったが」


バベルは、黙り込んでしまった。

その場で俯き、親指の爪を噛んでいた。


「……認めない」


彼は瞳に憎悪を滾らせ、クリフの顔と、ありし日の主人の顔を照らし合わせていた。


「いいや認めてもらおうか。今やアイツは俺の大叔父にして、ルナブラムの弟だ。お前の神じゃない」


「ケルスッッ!!」


バベルは勢い良く立ち上がり、ケルスを睨む。

しかし彼は、目線を動かすことなく、バベルの左手に短剣を突き刺し、テーブルに打ち付けた。


「偶発的な戦闘は許可しよう。彼にとって良い経験になる。だが、お前は駄目だ。お前たちが本気になれば、クリフでは処理出来ない。俺や、お祖母様が出る事になってしまう」


「お祖母様……?」


バベルは痛みに顔を歪めながら尋ねる。


「今もクレイグに監視させているだろう?なら、面白いものが見れるはずだ」



「……どれだけやる気だ、クソ!!」


クリフは、箱型のロケットランチャーを担ぎ、四発のロケット弾をベルナルドに向けて放った。


全ての弾が綺麗に屈折し、無数のベルナルドに命中、爆裂した。


しかし、またも次のベルナルド達が爆煙から飛び出して来た。

既に、ベルナルドの残骸が遺した血によって、檻の中は膝下程の深さまで血で満たされていた。


__レーザー、ミサイル、実弾、衝撃波……何を使う、何を使えばコイツらを崩せる!?


オムニアントが変形を繰り返し、一つの回答を出した。


彼は、一本の無骨な杖に形を変えた。


__杖?……アレか!!


杖にある限りの魔力を流し込む。

その過程で、金色の魔力が途切れ、体から光が失せ、力が抜けた。


「久しぶりに全部使う」


頭の中を空にし、漆黒で、不定型な何かをイメージする。

そして、それが弾けた。


〈__黒減(ニグリ)


ベルナルドの群れが迫る直前、黒い波動が杖を起点に溢れ出し、彼らを蒸発させた。

それだけに留まらず、尚も波動は広がり、血管の檻を融解させる。


「クソが……!」


歯軋りをし、その場から全力で走る。


__今のままじゃアイツに勝てない。


惨めに逃げる。

レナートの亡骸を置き去りにして。


「随分と冷たいな、二人を置き去りにするなんて」


ベルナルドは結界の中で仰々しく声を張る。

思わず振り向くと、檻の中心で、彼はメイシュガルの首を締め上げて立っていた。

そのすぐ側には、四肢を破壊されたソフィヤが、力なく転がっていた。


「悪いが仕事なんでな。念入りにやらせて貰った」


思わず立ち止まる。すぐ後ろでは、結界が閉じ掛かっていた。


「逃げてっ!!あなたは関係ない!!」


ソフィヤが叫ぶ。


だが考えるより先に、再びベルナルドに向けて走っていた。

血管の檻が再び構築され、閉じ込められる。


「クソ野郎が……」


ベルナルドはため息を吐いた後、メイシュガルを投げ、それを別のベルナルドが受け取り、更に追加で出現した個体がソフィヤを担いで連れて行った。


「お前が死んだら二人は逃がしてやる。だから、安心して死んでくれ」


ベルナルドは苦笑した後、再び増殖した自分をけしかけて来た。


「罪滅ぼしのつもりかよ」


ベルナルドは苦笑する。


「そんな所だ」


増殖したベルナルド達が一斉に溶解し、血液となって崩れる。

そして、血の濁流となって迫った。


身体の変化が解け、魔力が練れなくなっており、身体能力と再生能力も大幅に落ちていた。


つまり、避けられなかった。

せめてもの抵抗に飛び退くも、着地と同時に膝が血の池に浸かった。


そして次の瞬間、両足が溶けて千切れた。


「当然だが、猛毒だ」


そのまま背中から池に着水した。

眼球や耳から液体が侵入し、凄まじい速度で身体を溶かし、耐え難い痛みが襲う。

もがいた際に両腕が千切れ、残った身体も凄まじい速度で溶け、ごく僅かな内臓だけが残った。


にも関わらず。身体の感覚を知覚でき、散らばった身体それぞれから痛みを感じた。


__お姉ちゃんを呼んでよ。


突然思考に、そんな言葉が過ぎる。


__昔みたいに、お姉ちゃんがクリフを悪い奴から守ってあげる。ね?


身体の感覚を完全に喪失し、姉の言葉だけが残る。

既に頭の余裕は無かった。


__助けて、姉ちゃん。


心の中で、短く呟いた。


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