表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
2章.鋼の国
42/159

41話「喧嘩」

レナートは明かりの消えた部屋でソファに座り、リモコンを片手にテレビモニターを前のめりで凝視していた。


モニターの映像から反射される光によって照らされた彼の瞳は乾いており、表情の失せたその面持ちの裏には、強い殺意で満ちていた。


「……金色のアウレア人」


レナートはリモコンを操作し、モニターに映る、2年前の映像記録を再生した。


『逃げる側になった感想を教えてくれよ』


画面に映る男は、怒りの形相を浮かべて撮影者を……レナートの右腕を掴み、蹴り飛ばしていた。


レナートはリモコンを再び操作し、映像を停止し、男の顔を拡大表示する。

その顔立ちと輪郭は、彼がつい最近出会った男と同じ形、そして同じ声をしていた。


「クリフ……お前だったんだな」


レナートはリモコンをローテーブルに置き、テーブル上にあったウイスキー瓶を取り、直接飲んだ。


「……俺は」


彼は俯き、酒瓶をテーブルに戻す。


「親父が遺したものを守らなきゃならない……」



吹き飛ばされたレナートは、雪の上に軽やかに着地し、クリフへ躊躇(ためら)いなく引き金を引いた。


「俺はっっ、我慢したんだぞ!!」


レナートは怒りを露わにし、叫ぶ。

クリフはそれを弾丸を掌で受け止め、払った。


「何の話をしてる!」


彼は翼型の装備を起動し、腰部から翼のような噴射光を発しながら突撃した。

レナートは腰に差していた筒を引き抜き、そこから光刃を展開し、振り払った。


クリフもまた、素早い所作で剣を抜き、それを受け止めて、鍔迫り合いになる。


「二年前だ!お前が俺の親父を殺してから、俺は、空いた穴を忘れようとした!お前の正体に気付いても、復讐をすぐに諦めてやった!!」


その言葉で、クリフはようやく理解した。


「お前……あの時の……」


レナートは歯軋りをし、心の内に溜めた怒りと悔しさを顔に浮かべる。


「なのにお前は、そこに居る女の復讐を肯定しやがったんだ!!」


レナートは剣を弾き、鋭い突きを繰り出す。

クリフはそれよりも素早い速度で、その場から飛び退いてみせた。


「こんなの、真面目に仕事をしてる俺が……馬鹿みたいじゃないか……!!」


対するクリフの眼差しは、冷ややかだった。


「レナート。お前は二つ誤解してる」


「……は?」


彼は声を震わせ、光刃の展開を止めた。


「ソフィヤの件は俺のミスだ。しかも浅はかで、どうしようもない奴だ」


クリフもまた、剣を収めてレナートに近付く。


「だがてめぇの一件は、飽くまで戦争だ。俺の知ったことじゃない」


クリフは目と鼻の先にまで近付き、レナートを睨む。


「それとな、俺はソフィヤとケリを付けると伝えた筈だぞ。それをどうして、てめぇが水を差してやがる……!」


クリフの拳がレナートの腹部に直撃し、彼の身体が浮き上がり、着地と同時にレナートは悶える。


「気に食わねぇなら、真っ正面からハンカチでも投げて来いよ。望み通り、ブッ殺してやるさ」


クリフは鼻で笑い、軽蔑の眼差しを向けた。

それは、レナートにとって、到底耐えられるものでは無かった。


「……クリフぅぅっ!!」


レナートは嗚咽にも似た、怒りの叫びを上げ、光刃を再び展開して飛び掛かる。


「来いよ!受け止めてやる!」


クリフは剣を納刀したまま、両腕を広げる。


「馬鹿にするか!!」


レナートの剣がクリフの胸を袈裟に切り裂き、両断する。

しかし、剣が通り抜けると同時に体の再生が完了し、クリフはレナートの首を掴んで持ち上げた。


「丁寧に資料見せてくれたよな……脳ミソ潰せば死ぬんだっけな」


クリフは拳を固め、レナートの頭部に向けて振り抜いた。

その直後、クリフの側頭部に一筋の光線が通過する。


「ああ、またか」


クリフは顔を顰めると、頭が弾けて爆発した。

レナートは顔を青くし、背後を振り向く。

そこでは、アンジェラが自身の身長と同じ大きさの狙撃銃を構えていた。


「頭冷やしな!セルゲイが死んだんだ!!そいつに接近戦を仕掛けてどうするよ!!」


レナートは我に返った表情を浮かべた。

そして、翼型の装備を起動し、レナートは上空へと飛翔する。


それと同時に、アンジェラが二度目の狙撃をクリフへと行う。

しかしクリフは頭を欠損した状態で、身体をのけ反らせ、狙撃を回避し、アンジェラに向けて一直線に走り出す。


二年前と違い、二人との距離が短かかった。

更にアンジェラは、不自然な程にワンテンポ遅れてから退避行動を取った。


__レナートから注意を逸らす為か。


頭を再生させたクリフはそう判断しながら、アンジェラに追い付き、彼女の顔を掴み、頭を地面に叩き付ける。

そして、素早く剣を引き抜き、彼女の首を切り落とした。首を持ち上げ、レナートの居る方角に掲げる。


「メイ、こいつまだ生きてるんだよな?」


クリフは、ソフィヤを抱えて呆然としていたメイシュガルに尋ねる。


「えっ、はい!」


クリフはアンジェラの生首をメイシュガルに投げ渡す。


「持ってろ、レナートの奴に撃たれずに済む」


クリフは跳躍姿勢を取り、上空へと逃げたレナートに顔を向ける。


「クリフ……アタシが言うのも変だけど……」


ソフィヤは身体を起こし、クリフを見つめる。


「死なないで」


クリフは苦笑する。


「ああ、任せろ」


クリフはその場から、雪煙を巻き上げながら跳躍し、一気に上空へと飛び上がる。

上空で待ち構えていたレナートは、列車でソフィヤが使用していた長銃に酷似したものを構えていた。


「よく狙えよ!」


クリフは、ニールとの戦いでしたように、心臓の鼓動を加速させ、全ての認知能力と身体能力を底上げした。

彼は、遥か遠方に居るレナートの姿を視認し、引き金と銃口の機微を完全に捉えた。

トリガーが完全に沈み込んだ瞬間、クリフは足場に魔力を集め、その場から真横に跳躍した。


極太の熱線がクリフの真横を通過し、地面に着弾したそれが、球状の爆炎を発した。


__アレは……死ねるな。


その威力を見て、クリフは冷や汗を流す。

レナートは依然として後退を続けており、マトモに取り合う意思は無かった。


「……良いさ、地の果てまで追っかけてやる」


クリフは魔力で作った足場を踏み、空中を走り始めた。

すると、遠方に居るレナートから八つの光が、螺旋状の軌跡を描きながら射出された。

一定の規則をもって宙を舞うそれは、明らかに意思を感じられた。


__隊長の魔法みたいなのか?


クリフが真っ先に思い浮かべたのは、ニールの魔法だった。無数の剣を操り、擬似的な多対一を作り出す魔法。

少なくとも、彼の脳裏にはそれが思い浮かんでいた。


「さあどう攻める」


クリフは空を走り続けながら、周囲に散る光に意識を割く。

八つの光が、彼の周囲に散開した時、強く瞬いた。


クリフはその場から大きく跳躍し、高度をずらす。足下に無数の光線が通過し、その内の一本がふくらはぎを貫いた。


そのまま光は何度も瞬き、流星雨のような攻撃が、全方位から絶え間なくクリフを襲った。

空中で回転し、空を蹴りながら不規則に移動し続けて尚、光線はクリフの身体を少しずつ、しかし確実に貫き、身体を削り始めていた。


__鬱陶しいな、クソ!


激しい弾幕の中、クリフはレナートの方向に目線を向ける。

彼が構える長銃が再び強く発光し、極太の熱線が再び照射される。


クリフは再び空中を蹴って回避する。

しかし、大きく真横に回避した事で、レナートとの距離がより一層離れた。


__弾切れは……無さそうだな畜生!


八基の光は、刃の無い剣のような形状をしており、小型のサイズでありながら、高速戦闘に追従し、尚且つ体積を明らかに無視した量の光線を放ち続けていた。


クリフは手段を思案する。

しかし、ボルトガンは手元になく、ニールのように無尽蔵の飛び道具を用意出来る訳でも無かった。

速度で負けている以上、物理的に詰め寄る事は不可能で、クリフはただただ追い掛けるしか無かった。


__速度が落ちてる……アレの見た目からして、翼を切り離したからだろう……痛ってぇ!!


回避し損じたクリフの腹部に光線が通過し、バランスを崩す。その場で踏み止まり、複数の光線に身体を貫かれる。


傷を一瞬で治癒させ、クリフはその場から跳躍し、再び回避行動を再開する。

しかし、レナートの姿を見失っていた。


__アレも四つに減った……上か!!


クリフが上を見上げると、空からレナートが降って来た。

全身の放熱板をすでに展開し、青色の魔力を纏っており、四つの剣型の自律兵器を両腕に装備していた。

そして、今まさにその両腕を振り下ろして来ていた。


「見積もりが甘いぞ!!」


強化したクリフの感覚にとって、レナートの動きは静止しているに等しかった。

剣を振り上げ、彼を両断しようとしたその時、彼の両腕が瞬いた。


「甘いのはそっちだ」


レナートの両腕から青色の衝撃波が生じ、クリフは勢い良く吹き飛び、地面に叩き付けられる。


そしてレナートは、長銃を再び引き抜き、落下するクリフに向けて、最大出力で放った。

銃身を溶かしながら、青色の熱線が飛び出し、クリフを容易く飲み込んで地面へと着弾し、これまでとは比較にならない程の、巨大なドーム状の爆炎が発生した。


「……親父、俺は」


レナートがそう呟いたのも束の間、爆炎の中から一筋の光線が飛び出し、彼の肩を貫いた。


「便利なもんだな、俺の身体は……次は何が出るのやら」


爆炎が晴れ、溶解した地面からクリフが這い出した。

全身から放出されていた金色の魔力が消え、代わりに澄んだ空色の魔力が溢れ出していた。


そして、彼の右手には剣ではなく、一丁のリボルバー拳銃が握られていた。


「卑怯だろ?俺でも思うさ」


クリフは銃口をレナートに向け、ぎこちなく笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ