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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
2章.鋼の国
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20話「本国へ」

雪原の上を蒸気機関車が、線路の上に降り積もった雪を散らしながら走行する。

クリフとシルヴィア、アキムは、機関車が牽引する寝台車両の中で寛いでいた。


「シルフは大丈夫だと良いんだがな」


ロングテーブルに向かい合うように配置されたソファにもたれ、憂うように車窓の景色を眺める。


「確かに、今頃暴れてても不思議じゃないかも」


向かい側の席に座るアキムは笑みをこぼす。


「やめてくれ、アイツは鶏くらいなら食い殺すんだ。部屋の壁を蹴破ってないと良いが」


シルフは、家畜用の車輌に詰められている。

それはもうひどく抵抗した。檻を蹴り曲げ、職員まで蹴ろうとした時、こちらが発したひと声でようやく静止した。


「乗せ直すのは勘弁して欲しいな」


と、アキムはひきつった笑みを浮かべる。


「全くだ、少しくらい自重して__」


「見て!クリフっ!!あれっ!!」


隣に座っていたシルヴィアは興奮した様子で窓から顔を出していた。


「どうした?」


彼女の肩を掴み、遅れて窓から乗り出す。しかし、何も居なかった。殺風景な雪原が広がるばかりだ。


「シルフみたいな馬がさっき外を走ってた!!」


その情報に目を逸らし、眉を下ろす。


「あー……見なかった事にしとけ。この地域に馬は居ない。本当にもし居たならヤバい奴らだ。グラシュティン、ケルピー、ペイルライダー、シャンタク、バンシー……まぁ、馬の魔物ってのは不思議とヤバいのしか居ない。もし遭遇してみろ、俺達なんて一瞬で死ぬぞ?」


そう言って席に戻り、鞄の奥から本と酒瓶を取り出す。暇潰しの為に書店から喜劇ものの本を一冊だけ買っていた。


「ま、奴らは人間に興味なんて無いさ」


ウォッカを、まるで水のように瓶で飲みながら、本を開く。


「ねぇ、話し相手になってよ。昔の話でもして」


シルヴィアに揺すられる。

活字を読むのが嫌いな彼女にとって、今は暇で仕方ないのだろう。


「ちょっと良いところなんだ、待ってくれ」


だが今は本を読みたかった。その内容は稚拙で、くだらないにも程があったが、何故か読むことをやめられず、その内容に引き込まれてしまっていた。

そんな対応に、シルヴィアは頬をむくれさせていた。


「外行ってくるから!」


「変なとこに行くなよー」


ぶっきらぼうにあしらい、ウォッカをぐいと飲みながら、ページをめくる。


「アキムは!?」


「俺もちょっと休んでたい……というか、昨日あれだけ人に揉まれて、よくそんな元気あるな」


「行ってきます!」


シルヴィアは勢いよく客室のドアを閉めた。



シルヴィアは外套を深く被り、尻尾をお腹に巻き付け、鱗で覆われた両手を肘まで伸びた手袋で覆う。

竜人であると分かってしまうと、面倒ごとを招いてしまうからだ。


「よしっ」


一人でガッツポーズをし、自信に満ちた表情で後部車輌へと歩いて行った。

尤も、彼女が持つ長い白髪は、ドワーフどころか、全種族を探したとしても、生まれつき持つ者は居なかった。

異常体質や老人、或いは凄まじい力を持った種族だけだったからだ。


そんなことをつゆ知らず、シルヴィアは完璧に素性を隠していると確信し、後方の車輌へと進んだ。重いスライド扉を軽々と開け、車輌へ入る。


「お邪魔します」


小さな声で呟く。

床に固定されたソファ型の座席が中央を避けてずらりと並んでおり、天井には魔石で作られたランプと荷物置きの鉄柵が取り付けられていた。

大半の乗客は暇そうに外の景色を眺めたり、本や新聞を読んでおり、振り向くこそすれど、シルヴィアが客室にやって来たことに気を留める者は居なかった。

通路をゆったりと歩いては、人々の様子を観察する。しかし、特別面白いものは無く、突き当たりに着いてはドアの窓越しに奥の車輌を覗く。

変わり映えしない風景が続いていたため、シルヴィアはため息を吐き、踵を返す。


「ねぇ、あなた」


すぐ隣の席から声を掛けられる。


「はいっ」


シルヴィアは振り返ると、紺色の女性が手を招いていた。それは、絵画から切り出したかのような美しい女性で、旅慣れした皮と布製の衣服は、どこか不似合いに思えた。

隣と向かいの席には誰も居らず、彼女だけが一人ぽつんと座っていた。


「おいで、暇でしょ?」


彼女はにっと笑い、手を招く。


「うんっ」


シルヴィアは彼女の隣に座り、仕舞っていた尻尾を服の中で動かし、邪魔にならない位置に動かした。


「私はオネスタ、旅人だ。今はジレーザの首都を目指してる」


「えと、私はシルヴィアです。私もジレーザの首都を目指してます」


「そう、じゃあ同じ旅路だ……なぁシルヴィア、あなたの旅の目的を聞かせてくれないか?」


シルヴィアは言葉に困る、自分の正体は明かしたく無かったからだ。


「……うーん」


「心配無いよ。ドラゴノイドだろ?」


「えっ」


シルヴィアは手袋や外套を確認する。しかし、それらに異常はなく、竜人の特徴はしっかりと隠せていた。


「どうして……?」


「あなたの魔力は竜神が持つ魔力にソックリなんだ。それに総量も桁違い」


「竜神に会ったことあるんですか!?」


シルヴィアは食い気味に言い寄る。


「あるよ」


彼女は不敵に微笑み、それでいて真剣な眼差しでシルヴィアを見つめる。


「教えて下さい、あたしが何者なのか知りたいんです」


「良いよ。けど、期待しないで。きっと彼らはあなたの助けにはなってくれないから」


オネスタは足を組んで、シルヴィアに顔を寄せる。


「今は亡き第一の竜神、陰竜ルナブラムは突き詰めた利己主義者、赤の他人がどうなろうと全く興味がない」


「第二の竜神、陽竜ソルクスは利他主義者、自分の行動の先に破滅が待っていても突き進むどうしようも無い男だ。彼も多分死んだんじゃないかな?」


「第三の竜神、火竜イニスグラヴァは厭世主義者だ、他人との干渉を徹底して取ろうとしない。今は暁の国に居る」


「第四の竜神、水竜レアマキュアは、かなりの博愛主義者だ、彼女は優しいと言うよりは甘い人物で、自身が触れ合ったもの全てを守ろうとする我が儘な女さ。まあ、そんな所が好きなのだけれど……彼女は海辺なら何処にでも居るよ」


「第五の竜神、木竜アイゾーンは偏愛主義者だ。我が儘で、強い欲求を持ち合わせてる。あまりに気まぐれなものだから、正直あまり好きじゃない。彼女はオーガの国で大きな城を作ってる、すぐに分かるよ」


「第六の竜神、地竜ティロソレアは不労主義者だ。彼女は、ルナブラムからの指示が無ければ世界の終わりまで怠けてるだろうね。ジレーザで姿を消して以来、彼女の居場所は分からないな」


「第七の竜神、金竜アルミスは会ったことが無い。聞けば宇宙の果てで機械の神と共存しているのだとか」


シルヴィアは説明を聞いて、暫し考える。


「竜神って、みんな悪いひとばかり?」


オネスタは難しそうな顔を浮かべる。


「どうだろう。彼らは基本的に世界に干渉しない神として創られているそうだ。それが原因だと思うかな」


「つまり?」


「たとえあなたでも竜神たちは相手にしてくれないと思う。というより、会うのは勧めない」


シルヴィアは俯き、顔を上げる。


「それでも、会ってみたいんです」


真っ直ぐな瞳を向けられ、オネスタは笑みをこぼす。


「うん、それを決めるのはあなただ。何度でもぶつかっておいで」


「はいっ!」


少しの間が空き、オネスタはシルヴィアの頭を撫でる。彼女はびくっと震えるも、あとはされるがままになっていた。


「シルヴィア」


「はい?」


「クリフのことは好き?」


彼女は、青色の瞳で見下ろす。

表情からはその意図が汲み取れず、海のように青い瞳に、シルヴィアは目を奪われた。


「うん……大好き!」


屈託のない笑みを浮かべた。


「うん、良かった。クリフを、あの子をよろしくね」


彼女が微笑んだその直後、激しい音と共に、列車に強い衝撃が走った。


「わっ!?何っ!」


車輌内がざわめき、シルヴィアは窓を覗く。

列車の側に3台の馬車が取り付いていた。

しかし、それは馬車というにはあまりにも速く、最大の特徴とも言える馬が牽引していなかった。


「オネスタさんっ!」


シルヴィアは不安げにオネスタの方を振り向く。しかし、彼女は最初から居なかったかのように、その場から消えていた。

その直後に、車両の至る所から銃声が響き渡った。


「全員、両手を頭の上に置いて伏せろ!!不用意な真似をすれば殺す!!」


自動小銃を持ったドワーフの男が二人、ドアの奥から現れた。

乗客たちは怯えながらも男の指示に従った。


「あなたは、誰?」


シルヴィアを除いて。


不幸にも彼女は、ハイジャックというものを知らなかった。


「丁度いい、金の無いガキは見せしめになる」


他の乗客達は目を瞑り、神に祈った。


__どうかこの不幸な少女が助かりますように。


ハイジャッカーの一人がシルヴィアに銃口を向ける。類似した外見を持つ武器であったボルトガンを間近で見ていたシルヴィアは、それが殺傷兵器であるとすぐに理解した。


「嫌っ!」


シルヴィアは窓側に飛び退く。そしてその時、彼女が被っていた外套が頭から離れた。

隠していた角が露わになり、ハイジャッカーは動揺する。


「……ドラゴノイド?」


それが、彼の最期の言葉となった。

ハイジャッカーの頭部に矢が突き刺さり、遅れてやって来た衝撃で頭が弾ける。

首から血を散らしながら、彼は力なく倒れる。

仲間を殺されたもう一人のハイジャッカーは、奥のドアから現れた黒髪の男を見て、引きつった悲鳴をこぼした。


「……はぁっ?あ……このクソ野郎っ!!」


怯えきった眼差しを向け、銃を乱射する。


「誰に手を出してる」


黒髪の男、クリフは短く呟き、悪魔のような形相を浮かべ、乱雑に放たれた弾丸を掻い潜った。

復讐心を滾らせた瞳で相手を凝視し、斑鉄の剣を閃かせた。


そして、澄んだ鉄の音が銃声を掻き消し、壁に鮮血が飛び散った。

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