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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
4章.武豪の国
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エピローグ

クリフの魂。

その最奥にある世界には、ヴィリング様式の一軒家が存在していた。


そこへ繋がる砂利道を、エルウェクトとアードラクトが並んで歩いていた。

既に日は沈んでいたが、二人にとって暗所は問題にならなかった。


「オネスタの件、やっぱり許せないの?」


エルウェクトが心配そうに尋ねた。

事実、アードラクトからは隠しきれない程の殺気が滲み出ていた。


「問う必要がありますか」


彼女がオリジナルではないからか、或いは主従関係すらに亀裂を入れる程の怒りが、彼を支配していた。


「……そうだね、その通りだよ」


エルウェクトは両手を広げ、彼に向き直った。


「なら、私も殺す?繕いはしないよ。あの子をスクタイに戻すのは、私も同意した」


アードラクトは戸惑い、歯軋りをした。


「止めなかっただけでしょう……!」


「同意と何が違うの?」


エルウェクトは冷淡に答えた。

据わったその眼差しは、確固たる決意を放っていた。


「貴女は……何を望んでおられるのですか」


「前から言ってる通りだよ。ルナブラムは死にたいだけ。兄さんを殺し、クリフを神にしてね。私はそれを見守ってるだけ」


彼女は一軒家の前に立つと、ドアノブに手を掛けた。


「では何故、あそこまでクリフに執着していながら、自らを滅ぼそうとするのですか」


エルウェクトは、一軒家を見上げた。


「ここが全てだよ。二度と戻らないこの家が、ルナとアルテスを繋ぐ最後の標だから」


そう言って彼女は扉を開けた。


「過去に何が、アルテスとは何なのです」


「アルテスは、遠い未来に生きてたクリフだよ。誰よりも優しい、黄の竜神……ルナの大切な弟」


彼女は話しながら、家の玄関を通り抜けた。


「……彼女は未来から来たので?」


少ない情報を整理し、アードラクトが尋ねた時、エルウェクトが手でそれを静止した。


「後でね」


二人は、そのままリビングへと立ち入った。

アードラクトは、彼女の姿を見て言葉を失った。


「具合、悪そうね」


ルナブラムは暖炉の前に座っていた。

彼女の面持ちは暗く、薪は燃え尽きようとしていた。


「……別に?」


ルナブラムは、クリフを抱き締めていた。

クリフは深く眠っており、意識は無いようだった。


「生きたら?まだ踏み止まれるよ」


エルウェクトは微笑み、宥めるように話しかけた。


「なんで?」


ルナブラムは、上体を捻りながら振り向いた。


「クリフが悲しむよ。アルテスもね」


「……何を知ってるの?」


彼女は真っ黒に濁った瞳で、エルウェクトを凝視した。


「少なくとも、思い詰めたあなたよりは、彼を理解しようとしてる」


「……アルテスは死んだの。クリフを素敵な神様にしたら、あたしはあの子の所に行かなくちゃ」


「アルテスは消えたよ。今はもう、あなたとお母様しか記憶していない」


エルウェクトは片膝をつき、彼女と目線を合わせた。


「死者に引っ張られないで。あなただけじゃない。クリフの幸せの為にも、生きて」


優しい言葉をかけられたにも関わらず、ルナの顔は暗いままだった。


「もう引き下がれないんだよ……!いまさら、どうやって生きろって言うの?」


彼女は大粒の涙を流す。

そして震える手で、眠るクリフを強く抱き締めた。


「こんなお姉ちゃんでごめんね……クリフ……ごめん、ごめんね……」


感情を吐露し、慈悲を乞うように囁く。

そんな彼女を、エルウェクトは優しく抱き締めた。


「……」


アードラクトはその光景を見て、言葉に出来ない複雑な感情を抱いていた。

少なくとも、煮えた殺気は抱けなくなっていた。

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