表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
4章.武豪の国
131/159

121話「何を目指す?」

俺達は、セジェスの東端に辿り着いていた。

オーディアル大砂漠と呼ばれるその地は、セジェスとハースを隔てる、世界最大の砂漠とされている。


その手前にある都市で買い出しを済ませ、全員で街を出ようとしていた。

人でごった返した通りは、露天の客引きの声と通行人達の声や歩く音によって、非常に騒がしかった。


「なんとかスられずに済んだ……」


メイシュガルが人混みを避けながら呟く。


「シルヴィア以外からスれたら大したもんだよ。なぁ?」


俺はそう言って彼女に話を振ると、シルヴィアは項垂れていた。


「あっっつい……」


シルヴィアが愚痴をこぼす。

普段のドレープを脱ぎ、今は砂を防ぐ為、薄手のケープを組み合わせた巻き衣装で全身を固めていた。


「似合ってるぞ」


彼女は不満がっていたが、女神らしいあの衣装は、そこそこの露出に、体のラインがハッキリと出る事もあって、保護者としては不安で堪らなかった。


「……可愛くないよ。折角せくしーな身体になったのに……」


彼女は不満げに呟き、成長して大きくなった胸を触っていた。

そんな彼女を見て、メイシュガルは気まずそうに目を逸らした。


「やめろ、みっともない」


彼女を諌めていると、ヴィオラが一歩前に出た。


「どうやって移動するです?」


彼女は、怪しい露店で購入したスラカベの揚げ物を手にしていた。

ボウルいっぱいに詰められたそれを、彼女はポップコーンのように掴み取り、口の中に放り込んでいた。


「結構デカい行商隊があるんだ……そう、ここを曲がった先に」


そう言って東を指差しながら、通りを曲がる。

街の外の駐留場に、ラクダを引き連れた大商隊が滞在している筈だった。

しかし、そんな人々は何処にも居らず、だだっ広い空き地に、杖を持った男が眠たげに立っているだけだった。


「商隊は何処に行った?」


男に尋ねると、気怠げに答えた。


「早朝に出て行ったよ。どうして昼間っから出れると思ったんだい」


男は不思議そうに呟いた。


「クソ……やられた」


移動賃だけ取られて逃げられていた。


「ははっ!おまえさん先払いしたのか!!こいつは傑作だ!」


男は目を覚ました様子で、笑い転げていた。

だが、対する俺の心境は最悪だった。

懐から飴を取り出し、勢い良く噛み砕いた。


「ねぇクリフ。追いかける?」


シルヴィアは笑顔を浮かべ、額に青筋を浮かべていた。


「ああ。メイシュガル、転移門を……」


そう言いながら振り向いた時、白髪の青年が曲がり角から飛び出して来た。


「あっ、クリフさん!!見つけたッスよ!!」


アドリシュタが、人当たりの良い笑みを浮かべ、手を振ってこちらに走って来ていた。

渡りに船という言葉が、これ程似合う状況は無かった。


「ああ、アドリ。ちょっと手伝って欲しい事があるんだ」


俺は、満面の笑みを浮かべて彼を呼んだ。



クリフから金を騙し取った行商隊は、日照りの止んだ夕方の砂漠を、ラクダを引き連れながら横断していた。


「しかし、儲けましたね」


先頭を走る若い男が、後方に続く隊長に声を掛けた。


「ああ、全くだ。先払いだとゴネてやったら、あっさり譲歩しやがった」


隊長は、懐から金貨の入った袋を取り出した。


「ハースに着いたら一杯やろう、俺の奢りだ!」


商隊は湧き上がり、体調への歓声が響いた。


「よっ、男前!」


「あんたに着いて来て良かったぜ!!」


「愛してるぜボス!!」


隊長は照れた様子で鼻を擦った。


「へへ、よせやい」


彼がそう呟いた時、遠方から異音が鳴り始めた。

隊の人間もそれに気が付き、口を噤んだ。


「魔物か……!?」


先頭を走る若い男が振り向くと、二匹のトカゲが高速回転していた。


大型のトカゲが自身の尻尾を咥え、そのまま車輪のように転がっていたのだ。

その速度は圧倒的で、豆粒のように小さく、遠かったそれが、明確なシルエットが分かるほどまで近付いていた。


「何だありゃ!!?」


「アンフィスバエナだ!!散れ!轢き潰されるぞ!!」


困惑する隊員達を、隊長が声を張って指示を飛ばした。

しかし、整然と並んで走行する二匹のトカゲを凝視した隊長は、信じれられないものを見た。


「冗談だろ」


アンフィスバエナが、巨大なそりを引いていたのだ。

そしてそりの上には、見知った男が腕を組んで立っていた。

彼は、鬼の形相でこちらを睨んでいた。


「見つけたぞxxカス野郎!!俺の銭金を返しやがれ!!!」


クリフは下劣な言葉で罵倒すると、そりの上で巨大な木樽を持ち上げた。


「天罰を……受けやがれ!!」


クリフは怪力に任せて樽を投擲すると、続けてオムニアントを銃に変形させ、銃口を弾いた。


商隊の頭上に樽が通過したその瞬間遅れてやって来た弾丸が、樽の天板を打ち砕いた。


次の瞬間、樽の中から黒い粉末が飛び出した。

火薬。その考えがよぎった隊長だったが、実際は遥かにタチが悪いものだった。


耳に残る振動音と共に降り注いできたそれは、大きな(はさみ)を持った羽虫の群れだった。


「うおおおおぉっっ!!??」


隊商は、大混乱に陥った。

羽虫の群れが、彼らに纏わり付き、ラクダに積載していた食料や商品、果てには彼らの衣服を食い荒らし始めたからだ。


「荷物をっ!荷物を守れっ!!」


護衛や隊長が携帯していた曲刀を必死に振り回すも、圧倒的な物量の前には無意味だった。


「俺の金が……」


仕事そのものが無くなっていくさまを目にした隊長は、顔を青くしていた。

しかし懐に残った金貨を思い出し、それを手に取って頬を緩ませた。


「この金があれば……」


彼がそう呟いた瞬間、眼前に白い光が通過し、手に持っていた金貨袋を奪い取られた。


「えっ」


男は間の抜けた声を上げ、白い光の軌跡を目で追うと、少し離れた位置で竜人の女性が舌を出していた。


「やーい、馬鹿!アホ!!えっと……間抜け!!!」


シルヴィアは、貧相な語彙を絞り出して罵倒すると、再び光のような速度で移動し、アンフィスバエナのそりの上へと戻った。


「……」


そりの上で、クリフは無言で彼女を見ていた。

彼女は金貨袋をクリフに投げ渡すと、彼は無言で受け取り、彼女に拳を突き出した。


シルヴィアもまた、拳を彼に突き合わせると、何度かリズムよく拳をぶつけ合い、フィストバンプをした。


「よくやった!!」


二人は上機嫌な様子で、熱い抱擁を交わした。

そんな光景を前に、アドリシュタ、ヴィオラ、メイシュガルの三人は少し距離を置いて眺めていた。


「仲良しッスね……」


アドリは苦笑していた。


「親子……だからかな」


メイシュガルが寂しそうに呟くと、ヴィオラの肩に乗っていたトカゲが彼女の頭に登った。


「お前もそうだろうに」


彼は威厳のある声で答えると、アドリは目を見開いた。


「あれ、ウシュムガルさんッスか?てっきり死んだのかと」


その言葉にメイシュガルは驚き、身じろぎした。


「誰のせいだと思っている」


ウシュムガルは低く唸った。


「はは、それは恨みっこなしって事で」


「……実際、良縁ではあったがな。アルバに使い潰されるよりは、この小娘と共に旅を続ける方が遥かに良いことだ」


彼は感慨深く呟いていると、抱擁を終えた二人がアドリの側まで来ていた。


「そろそろ虫を帰してやってくれないか?」


クリフが隊商の方向を親指で指すと、彼らは飛び回りながら必死に羽虫と戦っていた。

一部の者は衣服を全て剥ぎ取られている始末であり、あまりに可哀想な光景となっていた。


「あー……そうッスね。今戻すッス」


アドリは笑みを引き()らせ、指を弾いた。

すると、羽虫達は方向を変え、ひとつの塊となってこちらに戻って来た。


「タオルくらいは投げ入れてやるか……」


クリフは少し冷静になって呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ