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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
4章.武豪の国
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プロローグ

手足が砕け散り、肉体が灰となって霧散した。

俺を構成するものが消えて無くなり、真っ黒な世界で身体が浮かび始めた。


瞬きをすると、俺は星空の瞬く草原の上に立っていた。

そして目の前には、お母様が立っていた。


「お疲れ様、アルテス」


彼女が俺の名を呼ぶと、急に涙が込み上げて来た。


「ああ……俺は、消えるんだよな?」


神にとっても死は例外ではなかった。

魂という器を変換し、記憶は世界を維持するための燃料としてお母様に還元される。


つまりこれから、正真正銘の死を迎えるのだ。


「ああ、最後の見送りに来たよ」


涙を流して答えるお母様に、息を呑んだ。

とても、恐ろしかった。けれど、最期に聞きたい事があった。


「姉さんは、上手く行かなかったのか?」


お母様は首を振った。


「否、あの子は上手くやり直して見せたよ。ただ、貴方の魂は向こうへ運ばれても、貴方の記憶はここに取り残されてしまうんだ」


その言葉に、肝が冷えた。

父さんと母さんも死んだ。そして俺もこれから消える。

だとしたら、姉さんは一人になってしまう。

そうなれば、何をしだすか分からなかった。


「……っ!お母様!!俺を姉さんの所に連れて行ってくれよ!!ひと言伝えるだけでも良い!!!お願いだから、姉さんを__」


前に踏み出し、お母様に抗議した時、彼女の横で黒い粘性状の物体が現れた。


「誰だ……?」


その異様な存在に、意識を向けざるを得なかった。

弱々しい光を発するそれは、人型の形に変形し、お母様を凝視していた。


「ルナにすべてを教えるのは不公平だったかな?仕方ない、貴方も行っていいよ」


彼女はそう答えると、黒い塊に触れ、瞬く間に消滅させた。


「ならっ、俺も良いだろ?」


矢継ぎ早に尋ねる。

あの黒い塊は、間違いなく俺たちを殺した「あいつ」だった。

しかしお母様は手で制すと、俺の手を握り締めた。


「残念だけれど、貴方にはできない」


「……お願いだよ」


再び涙がこぼれ落ちる。

今となっては、自分の死よりも姉の事が不安だった。

そんな俺を、お母様は優しく抱き締めた。


「クリフには伝えるさ、貴方の足跡を、その想いをね」


彼女がそう答えた瞬間、アルテスと俺の意識が剥離した。そこでやっと、俺はアルテスの記憶を覗いていたのだと気付かされた。

アルテスの背後に立っていた俺は、お母様と目が合った。


「再び邂逅(かいこう)するまで続きは(こらえ)えていて欲しい、良い旅を。クリフ」


彼女が微笑むと、視界が光に覆われた。


「っ……!?」


目を刺す光が焚き火の光に変わる。そこで初めて、寝ていた事に気が付いた。

今は切り株に腰掛け、街道外れの森で野営をしているのだった。


「お母様……?あいつがシルヴィアの言ってた奴か」


以前列車で見た時と同じように、意図の掴めない夢だった。

辛うじて分かった事は、夢を見せて来た相手がルナブラムではない事と、アルテスが死んだ事だった。


「皆は……問題ないな」


焚き火の側にある木陰では、ヴィオラとメイシュガル、シルヴィアが毛布を敷き、肩を寄せ合って眠っていた。

0〜3歳児の集まりだが、ヴィオラ以外が大人の肉体を持っている事もあって、親子のようで微笑ましかった。


二人の側では、テレシアが操っているであろう黒のネクロドールが待機し、周囲を見渡していた。

ヴィオラの上にも、赤いトカゲが乗っており、周囲を警戒してくれていた。


そして俺の側にはポチの躯体を操るマレーナが待機していた。


「なあ、マレーナ」


彼女の躯体には、発声器官が備わっていなかった為、俺の言葉には答えてくれなかった。

しかし、言葉は届いていたようで、振り返って俺の足元まで来てくれた。


「少し、弱音を吐いて良いか?」


そう尋ねると、彼女は前脚を俺の膝に乗せた。

そことなく意図を掴んだ俺は、彼女を強く抱き締めた。

仮にも生命活動を続けるネクロドールからは、確かな温もりを感じられた。


「……怖いんだ。朝起きたら誰かが殺されてるんじゃないかって。俺だけが残されて、また一人ぼっちになるんじゃないかって……」


まだ子供で居たいの?と、エルウェクトに言われた事を思い出す。

しかし今は、それで良かった。

守るべき人の前では、大人になれていたのなら。


「お前が残っててくれて、本当に嬉しかった。アキムだけじゃなくて、お前も助からなかったら……俺は多分、前に進めなかった」


彼女は答えられなかったが、真剣に聞き入ってくれているように思えた。


「シルヴィアには話すって言ったんだけどな……大人ぶるのはやめれないみたいだ」


手を離し、マレーナと目を合わせると、互いの額を押し当てた。


「愛してるよ、マレーナ。生きてくれてありがとう」


そう離していると、突然テレシアのネクロドールが動き出し、手で焚き火を崩して火を消していた。


「消灯時間だ。惚気(のろけ)も良いが寝るんだな」


ネクロドールに乗ったトカゲが妙に渋い声で呟くと、テレシアと共に木陰の側に移動して行った。


俺は、マレーナと目を合わせて苦笑した。


「ああ、そうするよ」

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