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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
3章.魔道の国
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エピローグ

裏ジレーザにて、仕事を終えたメイシュガルは、自宅の扉を開けた。

いつも通り、母が手料理を作って待っている。だが玄関にはいつもの香りが漂っておらず、リビングの明かりすらも消えていた。


「……母さん?」


不安に駆られ、急ぎ足でリビングに飛び出した。


「お帰りなさい……」


母は神妙な面持ちで、リビングの椅子に腰掛けていた。

彼女は真剣な眼差しでこちらを見つめた。


__何か、怒らせるようなことをしてしまっただろうか?


「……どうしたの?」


尋ねるも、彼女は目を(つむ)って深呼吸をし、瞼を震わせた。


「今から言う事を、すぐに実行出来る?」


彼女は瞼を開き、目が合う。

動機はわからない。しかし、本気であることは窺えた。


「……うん、やれるよ」


迷う事は無かった。

むしろ、拒んで母に失望されることの方が、よほど恐ろしかった。


「クリフの元に転移して」


突拍子の無い発言に動揺する。

しかし、心の準備は出来ていた。

目を見開くと同時に、母の脇腹を抱え、眼前に転移門を形成した。


僅か1秒にも満たない逡巡(しゅんじゅう)の中、僕たちはジレーザを抜け出した。


浮遊感と光に見舞われ、勢い良く転移門から飛び出す。

木のフローリングを軋ませながら、母を抱えて室内に着地する。

そこは、マレーナの家だった。


「……ソフィヤと……メイシュガル、か?」


室内には丁度クリフが居合わせており、彼は犬型のネクロドールと共に荷物をまとめていた。


「クリフ。あなたに頼みたいんだ」


母は焦った様子で、クリフに詰め寄った。


「……どうしたんだ」


突然の出来事にも関わらず、クリフは柔和に返事をした。

母は深呼吸をし、気持ちを落ち着かせていた。


「メイシュガルを、ヴィリングに亡命させて欲しい」


頭が真っ白になった。

バベルによって作られた僕にとって、母の言葉の意味は理解できた。

息子だけはバベルから助けて欲しいと。


「お前もだ、ソフィヤ。片道切符なんだろ」


クリフはソフィヤに手を差し伸べた。

その光景に希望を見出し、僕もまた、一歩踏み出した。


「そうだよ母さん!母さんが居ないと……」


言葉を言い切る前に、身体が硬直してしまった。

それは、以前バベルに操られた時と同じ症状だった。


足がひとりでに動き出し、考えようともしていない事が頭の中をよぎる。

自ら転移門を呼び出し、そこへ踏み出してしまった。


「メイ君!??」


それと同じタイミングで、玄関からシルヴィアが入って来た。


「シルヴィア!お願い止めて!!バベル様に操られてる!!!」


彼女は躊躇いなく走り出し、僕に向かって突進した。

飛び込むような形で抱きつかれ、家の壁に勢い良く激突する。

後頭部に鈍い痛みが響き、崩れた漆喰と瓦礫が頭に直撃した。


シルヴィアは馬乗りになって、僕の手首を掴んで固定した。

かつて殴られて頭を潰されたトラウマが蘇ったが、今はこれが最善だった。


「どうするの!??」


シルヴィアがクリフの方向に振り向き叫ぶも、彼は母と何かを話していた。


「何やって……」


母はクリフに何かの端末を手渡す。

それと同時に転移門が動き出し、僕とシルヴィアの足元に巨大な円を形作った。


「やば……」


二人の身体が沈み始めた。


「手を離して!巻き込まれる!!」


彼女に逃げるように促すも、決して手を離さなかった。


「クリフっっ!!何やってるの!!!?」


シルヴィアが怒りを爆発させ、彼に向かって怒鳴った。

それに応えるかのように、母がこちらに振り向いた。


「愛してる」


彼女が屈託のない笑みを浮かべると、素早く拳銃を引き抜いた。

僕は、彼女が何をしようとしているのかを理解した。


母は側頭部に拳銃を擦り付け、目を瞑った。


「駄目__」


その言葉を、銃声が打ち抜いた。

銃声の余韻を断つように、頭から鮮血が噴き出し、彼女は糸が切れたように倒れた。

その瞬間、バベルからの影響が消え、転移門を操れるようになった。


彼女を生かすという誓約が崩れ、自由の身になった。

転移門から体を押し出し、シルヴィアを押し除けて母の元に走り出した。


「わっ、わああああっ!!!」


血の気が引き、母の身体を揺するも、既に事切れていた。

どうすれば良いか分からなかった。

どうすれば、母はもう一度起きてくれるのだろう。

夢であって欲しかった。


そんな状況で、僕の背後をシルヴィアが通り抜けた。


「なんで止めなかったの!?」


顔を上げると、シルヴィアがクリフを問い詰めていた。

しかし、母から何かを聞いた彼は、心ここに在らずといった様子だった。

そして彼は僕を見つめて言った。


「嘘だろ?」

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