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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
3章.魔道の国
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108話「神の雷」

クリフは自分の世界に浸っていた。

一気に進化した肉体が(もたら)す全能感が、快楽中枢を絶えず刺激し続けた。

いつになく頭は冴えて、全てが見渡す事が出来た。世界が全て掌の上にある感覚があった。


だがしかし、全てがしっかりと見えなかった。

マレーナを殺した相手に全くと言って良いほど興味が湧かなくなった。

所詮彼女は器を壊されただけに過ぎない。

魂を留める為の肉人形のことなど、興味すら湧かなかった。


ただ、魂を上手く扱える生き物はその存在自体が目障りだった。

特に目の前に立つ木偶の坊は本当に不愉快極まりない。

デカくて眩しい癖に、中々死なない。

ゴキブリの方がまだ愛嬌があるだろう。


「さて……次のレシピはどうしようか」


上空に浮遊し、テュポンと魔獣達を見下ろした。地上を埋め尽くす程産み落とされたされた魔獣を前に、引き出すべき″力″を選ぶ。


義父の「皇金白々明(フレイリオス)」と、ニールの「晴天神立(ソーデウル)」を混合させ、存在しない魔法を生み出す。


曇天の空に向けて腕を振り上げた。

次の瞬間、鉛のようにくすんだ雲が薪のように燃え盛り、黄金の火を宿した。


「これがぁっ!俺の神罰だ!!!」


全能感から来る笑みを浮かべ、腕を振り下ろしたその時、空が瞬いた。

金色の雷が雨のように降り注ぎ、それら全てに、「仮想性弾核(クロノテュケス)」の効果が付与された。


魔獣達の頭部が一瞬の内に弾け飛び、続けて胴体が金色に燃え盛った。

燃え殻となった死骸を払い退け、テュポンが咆哮した。


「アードラクトの力も取り込んだか……エルウェクト!!!」


数多の魔獣を即死させた死の落雷も、山岳を越す体躯のテュポンには微々たる損傷でしかなかった。

恒久的に燃え盛る炎も、彼の角質を僅かに剥離させる程度だった。


「キンキン喚くんじゃねぇよ!!」


落雷の雨を全自動で発動したまま、空千代(そちよ)の業を起こす。


〈__天命裁断〉


オムニアントを刀に変形させて放つその一撃はテュポンの巨躯を縦に割り、大地に巨大な亀裂を産み出した。


しかし、テュポンは身体を割られた状態で胸の砲口を開き、熱線を放った。

クリフは刀を振い、竹を割るように熱線を切り裂いた。

大気すらも焼き尽くす火炎が(あぎと)を開くように裂け、雲を貫いて霧散した。


落雷よりも早い速度で魔獣が産み落とされ、同胞を盾にする形でクリフに迫った。


「うげぇ……気持ち悪ぃ……」


クリフは顔を(ひそ)め、再び力を選択した。

今の彼には、多種多様な姿をした魔獣も、等しく同じ羽虫に見えていた。


「超域魔法開廷、三番」


掌に付いた虫を払うように、掌から破壊をこぼした。


〈__鉄轍払塵(カーテナ)


掌から多量の砂鉄が溢れ出す。

絶えずそれを散布しながら飛翔し、極大の熱線を避け続けた。


「手を改めよう!!」


テュポンがそう叫ぶと熱線の形状が変化し、無数の光となって拡散した。

檻のように放たれたそれは、クリフの行動を阻害し、減速した一瞬の隙を魔獣達が取り囲んだ。

雷の雨に焼かれながらやって来る彼らに対し、クリフは掌から出し続けていた砂鉄を魔獣に纏わせた。


(みなごろし)だ……!」


砂鉄の粒一つ一つが鋭利な刃物と化し、魔獣達の体を切り裂き体内に侵入し、臓腑すらもペースト状になるまで刻み続けた。


回避中に散布された全ての砂鉄が意思を持ち、雷から逃れた魔獣を殲滅し始めた。


「二度までも貴様に敗れるものか!!」


死にゆく魔物達の死骸を吹き飛ばし、テュポンの掌がクリフに迫った。


「精々喚けよ!!!」


クリフはそれを避ける事なく掌に捕まり、包み込まれてしまった。

彼の表情に焦りは無かった。


テュポンは渾身の力で拳を固め、彼を握り潰す。

そして、拳を胸の開口部に押し込もうとしたその時、彼の指の隙間から黒い砂が溢れ出した。


「おのれ……!」


瞬間、テュポンの掌から爆炎が漏れ出し、爆風が彼の腕を粉々に粉砕してみせた。


しかし、爆心地にクリフの姿はなかった。

潜光(ファイエントス)」によって、クリフは彼の体内を泳いでいた。

肉を、血管を、骨をすり抜け、彼の中枢へと到達していた。

巨城のような威容を誇る心臓は、何かの炉心のように輝き、心音を鳴らす度に落雷のような炸裂音が響かせていた。


「デブは鼓動もうるせえな」


クリフは苦笑した。

武器を剣へと切り替え、持ちうる最強の技を用意した。


〈__薔薇散(アガーテ)


〈__天命裁断〉


〈__昇旭(スキールニル)


手にした剣が太陽の如き輝きを放ち始め、三つの魔法を内部で融合させてみせた。

魂を打ち砕く防御不可の斬撃を、絶対的な熱量を以て放つ。


「今生の別れは済んだか!!!!!?」


抜刀の過程は無かった。

一瞬の内に剣は既に振り切られていた。

極光を放つ切り口が巨城のような心臓に生じた。瞬きの間に熱が全面に伝播し、彼の心臓が太陽のように輝いた。


「お前の死を以って終幕としようか!」


クリフは笑いながらテュポンの体をすり抜け、体外へと飛び出した。膨張した太陽がテュポンの体内を突き抜け、瞬く間に全身を焼き尽くした。


その一撃によって彼の魂は既に、取り返しのつかないレベルで損傷してしまった。

制御を失った巨躯が、内側から溢れる炎によって内側から破裂し始めた。


「貴様ぁぁぁ!!!」


火山の噴火のように火を噴き、テュポンの身体が崩壊する最中、頭部から一体の人影が飛び出した。

音速で飛来したそれは、オレンジ色の残光を描きながら突進し、クリフに激突した。


「まだやるかぁ!!」


(いわお)のような皮膚に覆われた大柄な男が、クリフの身体を殴打しながら世界樹へと激突した。

地盤の崩壊によって揺らいでいたそれが、外部から致命的な力を受けた事で、傾き始めていた。


「ほら頑張れよ、もうちょっと力を込めれば、俺を殺せるぞ」


世界樹の壁面に埋もれたクリフは、涼しげに答えた。

超域魔法「流風極地(ヘルメリウス)」は、陸海空を問わず高速で走る事ができ、更には物理的な損傷を全て無視するものだった。


つまりクリフはウァサゴに殴られた時も、テュポンの巨拳を受けた時でさえ、摩擦熱以外でダメージを受けていなかった。


「言わせておけば__」


クリフは壁面から起き上がり、テュポンの頭を掴み、空気を蹴って壁面に叩き付けた。

そして、彼の頭の周囲で魔力が筒状に纏わりつく。


「発射ぁ……!」


クリフが笑いながら呟いた瞬間、炸裂音と共にテュポンの頭が発射され、壁面に深い亀裂を(もたら)した。


それが、致命的な一撃だった。

世界樹は根本が抜け、成層圏の果てまで届いていた建造物が、悲鳴のような異音を立てて倒れ始めた。


倒れ始めた世界樹の上で、クリフはテュポンの頭を踏み付けた。


「お前を殺すのに何が良いかと考えてたんだ」


右手を振り上げると、降り頻る雷雨の中から、ひときわ巨大なものが掌に落ちた。


雷はクリフの掌で更に激しさを増し、瞬いた。

黄金期アウレアに存在した大英雄ニール。

ケテウスによってその記録を抹消された彼が放った渾身の魔法。その名を。


〈__霹靂(ケラトル)


掌に収めた雷を、テュポンに振り下ろす。


「エルウェクトッ!!!」


彼は雄叫びを上げ、拳を振り上げた。

だが彼は、クリフの動きに追従することすら出来なかった。


雷が接触した瞬間、緋色の光が弾けた。

生じた光はこれまでの攻撃に反し、範囲は狭く、人一人分の光球を生じさせる程度だった。


しかし、殺傷力のレベルが違った。

金色の光が膨張し、テュポンを包み込んだ。

その瞬間、都市全体を覆う程の閃光が生じ、雷という概念、(おそ)れそのものが形となって、彼の肉体を消滅させた。

残されたのは、球状に残された焼け跡だけだった。


「そいつは俺じゃねぇ!!そうだな……俺は」


クリフは倒れる世界樹の側面に立ち、呟いた。

古代人の技術によって構築されたそれは、途中でへし折れることなく真っ直ぐ倒れ、軸線上にある全てを踏み潰して行った。


「__アルテスと名乗ろうか」


クリフは、以前列車で見た不可解な夢を思い出していた。

テュポンの亡骸は、依然として激しく燃え盛り、黄金の炎を纏った火山弾として周囲に降り注ぎ続けていた。

雷は依然として止む事はなく、残存する生物を次々と焼き払っていた。


「そう、こんなので良いんだよ……羽虫共も目減りして、あぁ……気分が良い」


世界樹が完全に倒れ、轟音と共に土煙を撒き散らす中、アルテスはその場に腰を下ろした。

目下では巨大な亀裂と溶岩で溢れており、頬杖を突いて微笑むその様は、地獄の主のようだった。


彼が本来持ち合わせていた人間性は深く沈み、暴虐にして気まぐれな()()が溢れ出していた。

彼は瞑目し、(こらえ)えるように笑っていたその時、彼の口元から笑みが消えた。


「また煩わしいのが増えたな。それも、二つか?」


アルテスは空を見上げると、白色の流星が彼に向かって落ちて来た。


「クリフ!!」


流星の正体は、シルヴィアだった。

彼女は焦った様子でクリフに近付き、息を呑んだ。

シルヴィアは、龍の特徴を得た彼から異質な雰囲気を感じ取っていた。

まるで、彼ではないような.……


「何やってるの!?こんな事したら、魔物だけじゃなくて、街の人だって__」


話の途中で眉間を寄せたアルテスに、シルヴィアは言葉を失った。


「眩しい……さっきのよりも目障りだ」


アルテスは剣を振り上げ、シルヴィアへと振り下ろした。


「えっ……」


彼女は起こっている事が理解出来なかった。

兄であり、父のようでもあった彼が、私を殺そうとしている。

彼から曇りない愛情を受け続けて育ったからこそ、今の状況が理解出来なかった。

理解を、拒んでいた。


「どうして?」


彼女は弱々しく呟く。

刃が喉元に迫った時、起こせた行動はそれだけだった。


切先が触れるその瞬間、遠方から飛来した金槌がアルテスの側頭部に直撃した。


「あ……?」


ガラスの砕ける音と共に、アルテスの頭が砕け散り、爆散した。


「何……っ……?」


シルヴィアは、悲痛な声を漏らした。

多過ぎる情報を前に顔を歪ませ、立ち尽くしてしまった。


金槌は主の方向へと戻り、世界樹の残骸にニールが降り立った。

アルテスは欠損した頭部を再生させ、割って入った彼を睨んだ。

対して、ニールは大きく息を吸った。


「クリフ!!!お前何してやがる!!!!」


絶叫にも似た怒声と共に、彼は周囲から無数の剣を呼び出した。

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