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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
3章.魔道の国
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102話「おはよう」

明日、本編との関連性が極めて薄いクリスマス短編を出します。

光に包まれ、(まぶた)の上を鮮やかな光が通過すると、背中が焼け焦げる感覚を覚えた。

骨に強烈な衝撃が伝わり、右腕の感覚が無くなった。


シルヴィアはミシェルを抱えたまま石畳を転がり、勢い良くその場から起き上がる。


「ミシェル……大丈夫……?」


シルヴィアは爆発で右腕が千切れ、片目が失明していた。

しかし彼女は、それを意に介することなく、彼女の肩を揺すり、友人の容体を確かめた。


「シルヴィア……?」


ミシェルの目の焦点が合っていなかった。

彼女の背中には誰かの骨片が貫通しており、胸の中心から切先が飛び出していた。


骨は、心臓を貫いていた。


「ミシェルっ!!動かないで……死んじゃうから」


「もう死んでるぞ」


上空に浮遊するオーヴェロンが苦笑しながら答えた。


「え……」


突然ミシェルの身体が動き始め、か細い腕でシルヴィアの首を掴んだ。


「……ミシェル……どうして」


シルヴィアは手を引き剥がそうと試みるも、明らかに彼女が出せる力を超えており、ミシェルの腕を握り潰し、引きちぎるかどうかの選択肢を迫られていた。


『シルヴィア!自分を守って!!!』


テレシアはネクロドールを稼働させ、シルヴィアに群がる操り人形を蹴散らし、叫んだ。


「……嫌だよ」


シルヴィアは目尻に涙を浮かべ、ミシェルを押し除けようと抵抗する。

人体の限界を超えて力を出し続けた事でミシェルの両腕の筋肉と皮膚が裂け、骨格が歪み始めた。


「……ころして」


ミシェルもまた、大粒の涙を流して呟いた。

次の瞬間、彼女の腹部が膨張し、他の操り人形のように爆発の兆候を見せた。


シルヴィアは、時間が止まったような感覚を覚えた。

僅かな猶予の中、彼女は足を振り上げ、ミシェルの胸を思い切り蹴り飛ばした。


シルヴィアの蹴りに少女の肉体が耐えられる筈もなく、彼女の身体が粉々に砕け散り、オーヴェロンの魔力が周囲に霧散した。


残骸となったミシェルの首が宙を舞い、シルヴィアは左手で受け止めた。


「せめて……あたしが殺すから」


残った左腕で彼女の頭を抱き締めると、オーヴェロンを見上げた。


「感傷的にならなくて良い、どうせ直ぐに死ぬんだからよ」


彼の揶揄うように話すその口調は、どこか楽しみさえ見出しているようだった。


「……殺してやる」


憎悪に染まり切った眼差しで彼を見上げ、シルヴィアは続けて姉に呼び掛けた。


「お姉ちゃん、(アイオーン)ってあたしにも使える?」


『駄目だよ、失敗したら身体が溶けて無くなっちゃう……!』


テレシアは焦った口調で引き止める。

しかし、今のシルヴィアにその想いは通じなかった。


「成功したら?」


尋常では無いほどの怒気を込めて、テレシアに言葉を返した。


『……今すぐ大人になれるよ。腕や、目だって治る……けど』


シルヴィアは返事を待つ事なく、ミシェルの首を置き、片腕に白色の魔力を纏わせた。


「じゃあやるしかないじゃん。手伝ってよ」


彼女が(アイオーン)の発動準備に入ると、ネクロドールは動きを止め、シルヴィアの眼前に姉の幻影が出現した。


彼女もまた、左手に白の魔力を纏わせ、シルヴィアの手を取った。


『絶対成功させるよ……!』


ネクロドールが停止した事で、堰き止めていた人形達が一斉にシルヴィアに向かって走り出した。


「うん……」


激しい怒りと憎悪の中で、彼女は冷静さを引き出そうと試みる。


『魔法が頭でイメージするものだとしたら、神の力は手足や尻尾みたいに備わってるもの。身体の、魂の奥にあるそれを引っ張り出して』


シルヴィアは瞑目し、心の奥底に眠ってあるであろう力を探す。

散らかった道具を押し除けるように、心の中を彷徨(さまよ)った。


「……多分、これだ」


先頭を走っていた操り人形がシルヴィアに飛び掛かり、眼前で爆裂した。

魔力の粉塵が迫る最中、彼女は両腕で何かを掴む仕草を取った。


『息を合わせて』


そして、それを握り潰した。


〈__(アイオーン)


次の瞬間、純白の光が掌から溢れ出し、周囲に存在していたすべての操り人形を飲み込んだ。

世界というキャンパスに、白い絵の具を垂らしたように、接触したもの全てを一瞬で朽ちさせ、消滅してまった。


光は次第に光柱へと変化し、雲を貫いた。


「超域魔法……?いや権能か!!」


オーヴェロンはその場から飛翔し、無数の蝶を召喚する。


「超域魔法解放……」


彼の翅に燻る炎が激しさを増し、黄金の光を放ち始める。

それを抑制するかのように蝶が翅へと群がり、眩い光を発した。


〈__相蝶(セパラティオ)


翅を起点に黄金に燃え盛る蝶が大量に出現し、それらが宙を舞い、次々と燃え尽きていた。

オーヴェロンは、その光景を忌々しげに眺めていた。


そんな折、光の柱が消滅すると、その中心部にはシルヴィアが立っていた。


背丈は僅かに伸び、耳の裏から伸びていた角が更に成長し、屈曲して前方に突き出していた。

顔立ちも大人びており、幼い印象が抜け、成人した女性としての魅力を放っていた。


「……あいつの趣味なのかな」


シルヴィアは身体を確かめると、ソルクスが纏っていたような純白のドレープが彼女の身に付いていた。


『魂がお父さん寄りだからかな?シルヴィには複雑かもしれないけど』


「ちょっとだけ。でも良かった、裸でアイツと殺し合わずに済んで」


シルヴィアは両腕を伸ばし、指先の骨を鳴らす。

そして次の瞬間、彼女の腰部が変形し、皮膚を破って巨大な竜の翼が生えた。


〈__白加(アルブス)


シルヴィアが白い光に包まれ、一筋の流星となって彼の真横を通過する。


「来たか!!」


オーヴェロンは振り向きざまに燃える蝶を展開した。

しかし、そこにシルヴィアの姿は無く、更に背後へと回っていた。


「背後は発生源なんだよ!!」


オーヴェロンの翅が勢い良く燃え盛り、シルヴィアに迫る。


しかし、加速中のシルヴィアの右手は、漆黒の魔力で覆われていた。


〈__黒減(ニグリ)


黒の波動が彼の魔法を跡形もなく掻き消し、蝶を散らした。


「何発撃っても疲れないからさぁ!!」


続けてシルヴィアの左腕に銀色の魔力が生じた。


〈__銀弾(シルヴァーバレット)


鎮火したオーヴェロンの背に、螺旋状に突き出された銀の奔流が激突し、オーヴェロンの肉体を削りながら、地面へと降下し始めた。


「死ねよ!!」


彼女の胸部が赤色に瞬き、口部から高温の熱線を放った。

奔流と共に地面に向かって降下する彼を貫き、地面に炎と銀の魔力を混ぜた火球を生じさせた。


〈__白加(アルブス)


彼女の内には、煮え滾るような殺意に溢れていた。自身の身体を槍に見立て、火球に向かって急降下を行った。


その肉体を焦がしながら、火球の内側に居たオーヴェロンの背に着地し、蹴り砕いた。


「報いを受けろ……」


彼女はオーヴェロンの首を掴むと、雑巾のように地面に擦り付けながら振り回した。

叩き付ける度に身体の部品が千切れ飛び、黄色の体液が飛び散った。


「……離し、やがれ!!」


彼の背中から飛び出した蝶がシルヴィアの頭に直撃し、爆裂する。

クリフが扱うものと同質の炎が彼女に纏わり付き、その皮膚を焼き、頭蓋骨を溶かすも、白色の魔力がそれを覆い、瞬く間に鎮火してみせた。


「……マジかよ」


シルヴィアはオーヴェロンを地面に叩き付け、背中を踏み付けた。

地面に大きな亀裂が入り、焼けた石片が周囲に飛び散る。


「子供ってさ……良くやるよね、虫を捕まえて……」


シルヴィアは、彼の翅を掴んだ。


「やめ__」


オーヴェロンは、彼女が取るであろう行動に恐怖するも、既に手遅れだった。

焦げた蝶の翅は根本から千切れ、続けざまにもう一つも抜き取った。

臓腑から絞り出したような絶叫が市街地に響き渡り、シルヴィアはそれを満足げに聞き入っていた。


「あたしさ、虫を潰すのにも抵抗があるタイプだったんだ」


彼女はオーヴェロンの頭を繰り返し踏み付け、叩き割った。

生命活動を止めていないのを把握した彼女は、手足や頭が再生する度に蹴り壊し続けた。


「例え小さくても、命なんだよ?それって、とっても良くないことだなぁって……」


彼女はオーヴェロンを仰向けにし、馬乗りになって拳を振り下ろし始めた。


「お前みたいな奴だったら、気兼ねなく……ブッ殺せるのにね!!」


シルヴィアが何度も拳を振り下ろし、彼の肉体を徹底的に破壊し続けた。

その光景は、肉屋が届いた肉を解体している様に似ていた。

そんな時、彼の再生した右腕には一枚のチケットが握られていた。


「何……?」


シルヴィアが身構えた一瞬の隙に、彼はチケットを指で破いた。

次の瞬間、強烈な光が周囲を包み込み、シルヴィアは咄嗟に飛び退いた。

しかし、彼女もまたそれから逃れる事が出来ず、光に飲み込まれてしまった。


光が晴れると、二人の姿は何処にもなく、燃えた大地とネクロドールだけが取り残されてしまった。

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