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竜娘と行く世界旅行記  作者: 塩分
3章.魔道の国
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98話「行ってきます」

セジェス都心部に辿り着いたクリフとマレーナは、ウェールの元へと走っていた。

市街地にはエンプーサを始めとした魔物で溢れかえっており、セジェスの市民を次々と襲っていた。


二人はセジェス内を駆け抜け、道行く魔物を最低限狩りながら、突き進んでいた。


「……助けて」


その最中、通りでエンプーサに壁へ追いやられている男のエルフが二人の目に入った。

進路を逸れようとするマレーナを片手で制止し、オムニアントを拳銃へと変形させ、発砲した。


〈__塑性弾核(テュケス)


銃口から飛び出た光線がエンプーサの頭を貫き、弾が何度も旋回して胸と両膝を撃ち抜いた。


「……あ」


エンプーサは膝から崩れ落ち、男は唖然(あぜん)としていた。彼が礼を言おうとした時には、二人は既に遥か遠くへと移動していた。


「ウェールとグレゴは戦えるのか!?」


クリフはオムニアントを元の剣に戻し、ポチに乗るマレーナと並走しながら大声で尋ねる。


「グレゴはアレでも悪魔を部品に使ってる!少なくとも、超域魔法を覚える前の私より強かった!!」


クリフは歯軋りをし、不安感に駆られた。

超域魔法も使えないのか。と、無茶苦茶な要求を心の中で思ってしまった。

ソルクスの前例を鑑みた上で、アルバが関与しているように思えて仕方がなかった。


「急ぐぞ!シルヴィアも気がかりだ!」


マレーナが返事をしようとした瞬間、空が激しく瞬くと、一筋の光線が飛来した。

クリフは咄嗟に剣を振り抜き、それを弾くと光線が周囲に飛散した。

それは、純粋な熱エネルギーによるものであり、並ならぬ熱を周囲に散らした。


「熱っつ……!」


マレーナは咄嗟にポチを制止させようとするも、クリフが叫んだ。


「止まるな!ウェールの所に行け!!俺が受け持つ!」


「悪い!頼んだ!!」


ポチの走る速度が増し、一気に離れたことで、彼女は市街地の景色に溶けるかのように消えて行った。

その直後、クリフの眼前に一人の青年が降り立つ。

浅黒い肌に、白髪。

肩に布を掛けて全身を緩く縛った露出度の高い衣装は、クリフの知らない文化のものだった。


「いやぁ、如何に新人とはいえ、超域魔法持ちに加勢されてたら死んでたっス」


青年は朗らかに笑うと、腰に差していたククリナイフを引き抜いた。


「悪いっスけど、止められるように言われたんで、邪魔させて貰うっスよ」


「いきなり質を上げて来るじゃないか」


クリフは義父達の修練を経て、ある種の審美眼が備わっていた。

思えば、以前送られて来た吸血鬼とは、生物としても、戦士としても格が違う存在に見えた。

彼の見立てでは、この世界全体で見ても明らかに上澄みだった。

こそい

「そう言って貰えると光栄っスよ。みんな俺に冷たくって」


彼は頭を掻きながら、照れ笑いをした。

次の瞬間、空が瞬き、無数の光線がクリフの頭上に降り注いだ。

着弾したそれらは石畳を軽々と溶かし、大気が急速に温められたことで、熱波が周囲に吹き荒れる。


「……ホント、殺し合いたくないんスけどね」


青年は即座に振り向き、ククリナイフを振り払った。

澄んだ金属音が響き、その軌道の先では、クリフが剣を持って鍔迫(つばぜり)り合っていた、


「随分と行儀が悪いな!」


クリフが力を込め、互いの刃から火花が散る。

しかし、青年はその華奢な身体でクリフの力と真正面から拮抗していた。


「いやいや、行儀良く、誰にでも敬意を持つのが俺のモットーっスよ」


次の瞬間、青年の右肘に亀裂が生じ、分断された。

彼は二度の斬撃が生じたその光景に動じる事なく、真っ直ぐクリフを見つめた。

次の瞬間、またも空から光線が降り注いだ。

クリフは咄嗟に飛び退き、距離が開く。


「ああ、けど殺し合うなら今言ったことは全部忘れて欲しいっス」


「よく喋るな!なら名前くらい名乗れよ!」


青年の右肘から、昆虫の前肢が飛び出し、落ちたククリナイフを拾い上げる。


「自分は、アドリシュタ・パラ。四分の一は魔神っスよ」


アドリシュタは自身の額に親指を突き刺し、そこから光が溢れ出した。


〈__ダーネーナ・アダーナム


彼の周囲に、浮遊する無数の円盤が出現し、それらが昆虫のように忙しなく動いていた。

表面は鏡のような光沢を持ち、陽の光を強く弾いていた。

円盤は羽虫のように群れとなって空を舞い、雲の上へと消えて行った。


「あんまり死にたくないんで、戦えなくなったら互いに止める感じでどうっスか?クリフさんに負けたら、メメントモリも抜けるっス。どうせ旅路がてらによっただけっスから」


クリフは顔を顰めた。

アドリシュタの発言に、まるで信用がならなかったからだ。


「余裕があればな、幸運を祈っとけよ。超域魔法開廷」


クリフは片手の指で、両目に指を突き刺し、潰した。

空色の液体が頬を流れ、血化粧のように一筋の線を描いて固着する。


〈__仮想性弾核(クロノテュケス)


彼の瞼は閉じ、代わりに彼の後頭部付近に、一つの球体が浮遊した。

球体には目のエンブレムが刻まれており、潰れた彼の目の代わりとして、忙しなく回転していた。


「じゃ、やろうか」


クリフが拳銃を振り上げ、銃声が響いた。

それと同時に二人は動き出し、それが開戦の合図となった。



シルヴィアはネクロドールにしがみ付きながら、セジェス上空を飛翔していた。

目下の市街地は無数の魔物で溢れていたが、シルヴィアの優先すべき事は魔物の駆除ではなく、友人の救助だった。


「お姉ちゃん!もっと飛ばして!!」


『舌噛まないでよ!!』


ネクロドールの下半身から、強烈な光と熱が生じ、急激に加速が始まる。

シルヴィアの血液が一方向に偏り始め、意識が飛びそうになるも、心臓の鼓動を早め、無理矢理血液を流し始めた。


風を切り、多量の水蒸気を撒き散らしながら飛翔し、一気にミシェルの居る場所へと到達する。


『落ちるよ、筋肉締めて!』


テレシアの声に反応し、シルヴィアは首を始めとした箇所ににを込める。

次の瞬間、ネクロドールはその場から急降下し、格納した脚を開き、地面に無理矢理着地した。


「……あれ?」


違和感を感じ、シルヴィアは周囲を見渡す。

魔物達による大規模の襲撃があった筈の市街地には人気がなく、閑散としていた。


「ああ、探す手間が省けたな」


そんな中、緑色の髪を持つ少しくたびれた様子の男が、通りの中心に立っていた。

彼の腰部には、一対の蝶の翅が生えていた。

しかし、翅の殆どは焼損し、断面は今も燻り、金色の燃え滓を落としていた。


「あなたは……誰?」


「俺か?俺はオーヴェロン。テメーをぶっ殺しに来たんだ」


オーヴェロンがそう呟くと、建物の影から幾人もののエルフが姿を見せた。


「……何?」


エルフ達の顔からは生気が失せており、瞳孔が開き、目の焦点が合っておらず、まるで死人だった。


その異様な光景を前に、シルヴィアは僅かに判断を鈍らせた。

死人のようなエルフが彼女の前に歩いて来たその時、ネクロドールが突然動き、彼を殴り飛ばした。

体が浮く程の力で殴られた市民の頭は大きく屈曲し、近くの建物に勢い良く激突した。


「お姉ちゃん!?何やって__」


シルヴィアの言葉をかき消す形で、市民が激突した建物が勢い良く爆発し、倒壊させた。


『アレは……もう死んでる』


テレシアは鋭く尖った語気でそう呟いた。


「おー、容赦ねーな」


オーヴェロンは半笑いでそう呟いた。


「お前っ……!」


シルヴィアは胸から白色の魔力を放出し、一気に加速する。


操られた人々の間を抜け、オーヴェロンの側面に回り、拳を振り抜いたその時、彼女の眼前に巨大な蝶が光と共に出現した。


シルヴィアは咄嗟に蝶を殴るも、クッションのように柔らかな音だけが鳴った。


「掛かったな。舞え」


蝶はガラスの割れるような音と共に砕け散り、衝撃波を発した。

シルヴィアの身体が浮き、勢い良く吹き飛ばされる。

その先には、オーヴェロンが操っていた市民達が居た。


「バァン!!」


彼は上機嫌に指を弾くと、市民達の胴体が風船のように膨張し、爆発した。

色とりどりの魔力によって構成された粉塵が、シルヴィアに迫る最中、ネクロドールがその間に割って入り、シルヴィアと爆発の両方を受け止めた。


『頭を冷やして!!』


テレシアはシルヴィアに怒鳴りながら口腔を開け、そこからオーヴェロンに向けて熱線を放った。


再びオーヴェロンの前に蝶が出現し、全ての熱線を受け止めた後、周囲に熱を放出しながら砕け散った。

気温が急上昇し、じりつくような暑さが訪れた。


「ありがと……」


シルヴィアは遅れて姉に礼を告げるも、彼女の意識がオーヴェロンから離れることは無かった。


『やっぱり……アイツ二つ魔法を使ってる』


「えっ?」


『一つは操って爆弾にする奴。今は大丈夫だけど、私達にも効くかも。そして二つ目は何でも吸収して、反射する蝶を出してくる。ただ、指向性は持たされない筈』


テレシアはつらつらと情報を伝えると、再びネクロドールの口腔を開き、オーヴェロンに向けて放った。


「バレたか?……めんどくせえ、楽にやるか」


彼はそう呟くと無数の蝶を展開して、熱線を防ぎ切った。

再び熱が放出され、温度差によって周囲が蒸気に包まれたその時、蒸気を突き破って無数のエルフ達がシルヴィアに飛び掛かって来た。


「ごめんっ!!」


シルヴィアは僅かに躊躇うも、先頭を走る男を掴み、後続の男達に向けて投擲した。

ボウリングのピンのように人々が薙ぎ倒され、次々と爆発した。

そして巻き上がった魔力の粉塵を隠れ蓑に、また多くの市民が飛び出し、彼女に飛び付こうとして来た。

ネクロドールがシルヴィアを抱えて交代するも、周囲の家屋全てからエルフ達が飛び出しており、二人を完全に包囲していた。


「弾が切れるまで観察してやるよ」


オーヴェロンは、エルフ達の背後で二人を揶揄った。


「オーヴェロンっ!!お前人の命を何だと思ってるんだ!!!」


シルヴィアはネクロドールと連携し、市民達を蹴散らす。


「お前ら基準で蟻ぐらいだ。耳障りなんだよ、ご高説は」


オーヴェロンは市民の一人を掴み、シルヴィア達の真上へと飛翔する。


彼女もまた、寄って来た市民を蹴り飛ばし、その内の一人を掴んで彼に投げ付けようとした時、彼女の動きに致命的なノイズが入った。


オーヴェロンが片手で持っていたのは、ミシェルだった。


「ほら、抱きしめてやれよ」


オーヴェロンはそう呟いて、ミシェルを地面に向けて落とした。


「駄目っっ!!」


シルヴィアは市民達を踏み台にし、その場から跳躍して、ミシェルを受け止めた。


しかしその落下した先には、無数の市民が待っており、彼女を待つかのように、体を膨張させ、爆発した。


シルヴィアはミシェルを庇うように、背中から爆風の中に飛び込んだ。

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