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ラリマール  作者: 西埜水彩
【2】中学生と優しい人
9/18

【2-4】

 キウイさんの住むアパートから、夜雛さんの暮らすマンションまでの間は幸いなことにアパートやマンションが多い。


 ということで色々な人が歩いていて、みんな私達のことを気にしてくれる人はいない。


「ここが夜雛さん、真珠さんを探している人が住んでいる家です」


「かなりお洒落だな」


「そう。姫海村では高めのマンションのはずだけど、今夜雛さんが1人で住んでいるの」


「夜雛さんは今いくつ?」


「中学2年生」


「うわっ、普通の中学2年生は一人暮らししないだろう」


 楝くんはどんびきしている。そりゃそうか、一人暮らしと言えば高校生か大学生からのイメージがあって、中学生は普通無理だ。


「そうですね。私も中2の時は母と一緒に暮らしていました」


 楝くんから少し離れて歩く真珠さんもありえなさそうな顔をしている。それほど夜雛さんが1人暮らしをしているのは、ありえないみたいだ。


 今度は前と違って、すんなりとドアが開いた。ストロベリーブロンドの髪が特徴的な夜雛さんは、この前と違ってしっかりとした格好をしていた。


「おはようございます。今ご飯を食べているところです」


 今は7時で、普通なら夕ご飯の時間だ。でも夜雛さんにとっては、朝ご飯感覚なのかもしれない。


「この人が夜雛さんの探していた人だよ。中藤真珠さん」


「別にガッツリ探していたってわけじゃないよ。SNSで話題になっているスムージーを買いに姫海商店街へ行ったら、周りの人があたしを見てこそこそと話しているし。しかもどこにスムージーショップがあるか分からなくて困っていたら助けてくれたんだ。そのときにうまくお礼を言えなかったから、お礼を言いたかっただけ。ありがとうございます」


「お役に立てて幸いです」


 夜雛さんのざっくりとした発言に気を悪くせず、穏やかに真珠さんは答える。


「姫海商店街にSNSで話題のスムージーショップってあったっけ?」


 飴屋は大学で話題になっていたが、スムージーショップはない。引きこもっている中学生がわざわざ行こうとするほど、美味しいスムージーを売っているお店は私には分からない。


「今いちごのスムージーが話題らしいそうだけど、あたしが行ったときには柿がメインだったな。こういうスムージーはインターネットで買うよりもお店に行った方がいいから、行ったんだよ。疲れたから、もう二度と行かないけど」


「そのスムージー、俺も知っている。人文学部では大流行しているらしいぞ」


 楝くんもスムージーのことを知っているらしい。でも私は人文学部じゃないから、知らなくて当然だ。


「そうだよね、流行ってる。だからまた飲みたいなって思うけど、商店街へ行くのは無理。商店街の人はあたしのことを見るけど、関わろうとはしないから」


 田舎では茶髪はおろか、金とか色々な髪の色をうけいれてくれないから、ストロベリーブロンドの人は目立ってしまう。


 だから本当はストロベリーブロンドの人に関する話はしてはいけないことだったかもしれない。


 商店街で色々な人に話を聞いていないから、それが分からなかっただけで。


 このことを教えてくれたのは小学生で姫海図書館の常連、すなわち大人と関わりが薄い上に知人だった。もしそういう人と会えずに商店街の大人とだけ話していたら、一生分からないところだったかもしれない。


「それ私も思います。この服装だと目立ちますから」


 ワンピースにパーカーという12月の今だと頼りない服装の真珠さん。


 真珠さんはこのような女子のような格好が本当に似合う。でもそれは似合うだけで、本当は別の服を着た方が良いのだろう。そんな話、私はしたくないけど。


「あの商店街には可愛らしい格好をしているからという理由で、周囲から距離を取られている人はいますよ。その人と私は似ているらしいので、商店街行きたくないんですよね」


「大学じゃあ過激な格好の人も多いし、そんなに他人のことを気にする人はいません。でも田舎で人間関係が固定されているから、仕方ないかもしれません」


「そう。だからあたしはできるだけこの村を歩かないようにしているの。もともと村の住民じゃないし部外者だし仲良くしなくていいから、髪はストロベリーブロンドでいいや。それに外出しているときはもっとおしゃれしてるよ」


 夜雛さんは村となじまないことを決めたらしい、このまま夜雛さんが自分の生活を続けていくのだろう。昼夜逆転して周りと関わらない、そんな問題の大きい今の生活。


 でも私なんかじゃあこのことは変えることはできない。いや変える方法が思いつかない。


「じゃあこれからも気をつけて生活してね。これで失礼します」


 このまま話し続けても、名に変えられることはない。私達は、夜雛さんの家から離れる。


 引きこもりで他人に心を許していない、1人暮らしの中学2年生。そこには問題しかないし、何かしらの対処をした方が良い。


 それに真珠さんだってホームレスでキウイさんの家に居候中なのだから、問題はいっぱいある。


 問題を抱えた2人が出会った。そこに何かしらの意味がありそうで、こうやって出会うことで2人の生き方は変わるかもしれない。


「これからどうするんですか?」


 男性が苦手という真珠さんのためか、楝くんは私達から離れたところにいる。だから自然と話すのは私だけになる。


「実は私無戸籍なんです。とはいえ中学3年生のときまでは母親と暮らしていましたので、中学の生徒手帳は持っています。でも中3の時に母親に家から追い出されたので、中卒ですらないのです」


「それは大変でしたね。でも恐らく誰か支援してくれる人はいるはずです」


 無戸籍の問題は聞いたことがある。そこで真珠さんが生きやすくなれるように助けてくれる人もいるはずだ。


「そうですね。今までホームレスをしながら日本のあちこちをめぐり、ここにつきました。今までと違って、ここでは色々な人と出会うことができました。自宅に住まわせてくれているキウイさん、パンをくれた大学生もいましたし。でもこの村から離れようと思います。そこで頑張って今までとは違う生活をしたいです」


「閉鎖的な村ですから、それがいいかもしれません」


 山葵さんと出会ったこと、夜雛さんが真珠さんと関わった事情。それによって、いかにこの村が閉鎖的なのかを知った。


 こんな閉鎖的なところから出たい。その気持ちはよく分かる。


「そうですね。私は素性が分からないから、この村には受け入れてもらえないかもしれません。その時に優しくしてもらった人に迷惑をかけるのが嫌なんです。そこでこの村から出て、1人で何とかしていこうと思います」


「そうですね」


 優しくしてもらった人に迷惑をかけてしまう。それはあるかもしれない。


 自分だけが排除してればいいのに、知人にもそれを強要する。なんなら関わっている人も一緒に排除する。それは閉鎖的な場所ではよくあることだ。


 そこでこういう風に離れていく、一緒にいることができない。それが現状なのかもしれない。


 だから私も大学を卒業したら、この村からすぐに離れるべきなのだろう。一生この村で生き続ける、そのことが私には絶対想像できない。

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