【2-3】
「姫海神社って今まで行ったことあるか?」
「ない」
どこの町にもありそうな一戸建てから古びた一戸建てまで多様な家のある住宅地を歩いて、姫海神社へと向かう。
「ここだって」
「そうみたい」
スマートフォンの地図を見ている楝くんに、神社の鳥居を見た私が同意する。
「村の神社ってこういう感じなのかな?」
「テレビでよく見るような神社は立派だからさ、そういう感じではないかもしれない」
と言いつつ、ここより寂れている神社は少ないかもしれない。
石で作られた鳥居はまともだけど、それ以外はあきらかに古びている。というよりも手入れとかあまりされていなさそうで、ホラーにぴったりな神社だ。
「参拝しとこうか」
「そうだね」
楝くんにうながされて、本殿らしきところにお参りをする。そしてあちこち歩くと、おまもりを売っているところを発見した。しかもそこに巫女さんがいる。
「すみません。川口キウイさんですか?」
「はい、そうです。何かごようですか?」
ラッキーなのか、そこにいたのは探していた川口キウイさんだ。
その人はいかにも巫女さんっぽい服を来て、後ろにまとめている髪はうわさ通りに長い。
「実は私達ストロベリーブロンドの髪をした人に話しかけた人を探しているのです。でその探し人が、キウイさんと一緒にいたことを見かけたって人がいるんです」
「そんなことあるわけないなのです。きっと見かけた人の勘違いなのです」
キウイさんが慌てて否定をする。
これは怪しいぞ。誰のことか具体的には言っていないから、ぼかすことだってできたはず。それなのにあえてそうしないということは、何かやましいことを抱えている。
「そういえばかなり年上の彼氏がキウイさんにはいるんでしょう。そんな彼氏に黙って、ホームレスの男と同棲ですか?」
楝くんの一言で、その場の雰囲気が凍る。ホームレスが男である可能性はないし、なんなら夜雛さんは『ワンピースを着た人』って言っていたから女である可能性の方が高いのに。こいつ、かまをかけたな。
「……そっそんなことないなのです」
巫女さんは慌てだした。なるほど、彼氏がいるのに、事情があっても他の男と一緒に暮らしていたらまずいよな。
「私は巫女なのです。処女に決まっているなのです。誰とも不埒な関係は持っていないなのです」
わたわたと手を振りつつ、キウイさんは急いで話す。
処女であることを誰が聞いているか分からない場所でいうなんて、よっぽどテンパることだったのだろう。それならば、このことは事実ってことだ。
「ただその人にちょっと確認したいことがあるので、会わせてくれませんか? キウイさんの純粋なルームメイトであること、私はわかっています」
ゆっくりと丁寧に話し、微笑む私。今はキウイさんに頼まないと何ともならない。これでキウイさんが、私達のことを探している人と会わせてくれたらいいのだけど。
「分かったなのです。6時で仕事が終わるので、それまで待ってください」
6時まであと30分くらい、これなら待てそうだ。
「ありがとうございます。あっこれを買います」
近くにあるおまもりを適当に買う楝くん。どうやら楝くんはここにあるおまもりが気に入ったらしい。ここよりも素敵なおまもりがあちこちにありそうな雰囲気の、ショボいデザインだけど。
「おまもりは何に使うの?」
古びているけど、小綺麗な長椅子に私達は座る。
「いやわからない。なんとなくこれがあるならとおもって」
寒い中どうでもいい話をしているうちに、6時となった。暗いし寒くなったから、これで待つのが終わりと知ってほっとする。
「すみません。おまたせしたなのです」
白い星がちりばめられたブルーグレーの着物に、淡いピンクの袴に着替えたキウイさんが私達に近づいてきた。
「私服も着物なんですね」
さっきいつも着物を着ているという話は聞いていたけど、こんなにもしっかりとした着物姿で袴もはいているとは思わなかった。
「実は和裁が得意で、この着物と袴は手作りなのです」
「手作りですか?」
着物を着る人が身近にいない上に、服を作る人も知らない。そこで着物を自分で作って着る人がいるなんて、私は思いもしなかった。
「実は半衿、重ね衿なども手作りなのです。将来は和裁の専門学校に行きたいので、日々頑張っているなのです」
「へーそうなんですが。きっとうまくいきますよ」
暗いからよく分からないけど、着物の完成度は高いように見えた。そこで和裁の専門学校へ行っても、上手く出来るでしょう。
「早く行きましょうか。とりあえず人と会いたいですので」
キウイさんと私の着物に関する話は、楝くんによって強制的に終わらされる。どうやら楝くんは着物の話に興味は無いらしい。
「ここの『かとうアパート』に私は住んでいるなのです」
姫海神社から30分ほど歩いて、少しボロ目のアパート。そこの1階でキウイさん達は住んでいるらしい。私達は案内されるままに、部屋の前に行く。
「帰りましたなのです」
「「失礼します」」
玄関で靴を脱いで、キウイさんに続いておそるおそる中へ入る。ラリマール寮よりも少し狭そうな雰囲気のある室内を歩き、リビングらしき部屋に到着する。
「この人が皆さんの探している、中藤真珠様なのです」
「中藤真珠です。よろしくお願いします」
ワンピースにパーカー、何よりも背中をおおうほどのシナモン色の髪が特徴的な人。この人が私達の今探している人なのだそう。
「中藤様は男性が苦手らしいので、皆さんと話しづらいかもなのです」
「いや私は男性じゃありませんから。大丈夫ですよ」
一緒にいる楝くんは女装が似合うけど男性だが、私は女子だ。例え今着ているコートとパンツが黒くても、ボーイッシュな女子だから。
「真珠さん、すみません。姫海商店街でストロベリーブロンド、ピンクっぽい髪の子に話しかけたことはありませんか?」
「あります。スムージーショップを探していたので、案内しました」
スムージーショップのことを私はよく知らないけど、この話からするとこの人だ。この人がストロベリーブロンドの人、すなわち私の従妹である夜雛さんに話しかけた人だ。
「この人がわらび先輩の探していた人ね。じゃあそのストロベリーブロンドの人にそうなのか確認してもらった方がいいかもしれない」
「それもそうだね。すみません、一緒に来ていただけませんか?」
夜雛さんの探し人だ。となれば、見つかったら夜雛さんに会わせた方がいいはず。
「分かりました。行きましょう」
真珠さんは断ることなく、あっさりと受けてくれた。その事実に、私はほっとした。




