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ラリマール  作者: 西埜水彩
【2】中学生と優しい人
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【2-1】

 名古屋で考えるならショボいかもしれないけど、姫海村で考えるなら立派。そんなマンションの前に私はいる。


 気が進まないけど仕方ない。今までお世話になって、学費を出してくれる養母の頼みだから断れるわけがなかった。


「すみません」


 マンションの一階にある住民と連絡することができる機械の前。私はそこで部屋番号を入力して、会う予定の人を呼び出しているけど、何もない。機械的な呼び出し音が延々と流れているだけ。


 仕方ない。私は機械の前から離れて少し待つ。そうすると別の人が自動ドアを通っていくので、私もついていく。このマンションはよその人が簡単にマンションの中へ入れないように自動ドアが設置されているので、こうするしかなかった。


 そして目当ての部屋で、インターホンを押してみる。だけど何もない。


『ごめんなさい。妹の子で、あなたの従妹である田嶋夜雛(たじま よひな)。この子今ちょっと引きこもっているから様子を見てくれない? 夜雛はわらびと同じ姫海村に住んでいるから、行きやすいよ』


 確かに夜雛さんの住んでいるマンションへはすんなりと行けた。でも夜雛さんと会うのは簡単じゃないみたいだ。


「すみませーん」


 もう一度インターホンを鳴らす。何もない。それじゃあもう一度インターホンを押すしかない。


「どうしたの? 何か用?」


 150㎝よりも遥かに小さそうで、ストロベリーブロンドの髪が浮いている。恐らく安っぽいから、このストロベリーブロンドの髪はウィッグみたいだ。そんな女の子がドアを開けた。


「私は夜雛さんの母の妹の子で、従姉みたいなもんです。夜雛さんは今まで寝ていたの?」


 あきらかにねまきっぽい、同じ色のTシャツとスカートで現れたので、かまをかけてみた。


「そうそう。今起きたばかり」


 今は時計を見なくても分かるけど、夕方の5時だ。今から寝るのは早すぎるけど、今起きたら確実に遅い。


 夜雛さんは昼夜逆転生活を送っていると聞いたので、別に驚くべきことじゃない。でも私よりも年下の子が昼夜逆転生活を送っているのは、普通に考えたらおかしい。


「へーじゃあいつ寝たんですか?」


「朝の10時。10時に寝て、5時に起きることが多いから」


 これが夜10時に寝て朝5時に起きたら良い子なのだろうけど、夜雛さんはそうじゃない。朝の10時に寝て夜の5時に起きる、普通とは12時間ずれた生活だ。


「もういい? 私今人探しをしていて、話している暇ないの」


「人探しなら、私は得意です。この前を探していた人を見つけました」


 部屋へ戻ろうとする夜雛さんを引き止めるため、ちょっと持ったことを言う。この前私がドッペルゲンガーを探したときに、実の兄を見つけた。それで人探しが得意かどうかともかく、嘘にはならないはずだ。いや(れん)くんがほとんど探したようなものだから、嘘かもしれないけど。


「あたしは今姫海商店街で会った人を探しているの。こんなストロベリーブロンドのウィッグに驚かず、優しく接してくれた人。ワンピースを着ていたから、女性かもしれないけど、私にはよく分からない」


 ストロベリーブロンドのウィッグをつけた人に、姫海村の住人が積極的に関わるとは思えない。そこで思ったよりも、見つけやすいかもしれない。


「分かった。探してみる」


 私は素早くそう答えた。


「じゃあよろしく。見つかるまで来ないで」


 夜雛さんはその言葉を残して、ばたんとドアを閉めた。どうやら私と話をしたくないらしい。


 仕方ない。私は姫海商店街へと向かう。先月ひょんなことがあって姫海商店街へ行ったとき、あまりいい感じはなかった。そこで今回も姫海商店街で楽しいことにはならないだろうなってことは分かる。


 それでも養母に頼まれたのだ、夜雛さんと会うことを。会ってあんまり話ができなかったのでしゃーない。夜雛さんが探している人を見つけて、養母に報告できるくらいの会話をするように頑張ろう。


「あめ屋のアルバイトかしら?」


「いや違うらしいわよ」


「でもそっくりだわ」


「本当だわ」


 買い物中の主婦が、私の方を見てこそこそと話しているけど気にしない。私はマンションを出て、まっすぐ姫海商店街へやってきた。


 とりあえず実の兄である山葵(わさび)さんがいるはずのお店へ行こう。そこでなら何か話を聞けるはず。


「お疲れ様です」


「お疲れ様です。今12月でインフルやコロナが流行っていますから、大根飴を売っています。大根を使った、喉をうるおす効果のある飴ですよ」


 腰から下が膨らんだワンピースにフリフリが特徴的なエプロンを合わせた、カラフルなメイドさんみたいな格好の山葵さんがそこにはいた。


 山葵さんは私とそっくりで、実の両親が同じらしい。でもそうとは思えないほど、フリフリなメイドさんみたいなファッションは私とは違いすぎた。


「ストロベリーブロンドのウィッグをつけた子、要するピンクっぽい髪色をした子に話しかけたとか、話しかけた人とか見かけましたか?」


「いや知らないです。ストロベリーブロンドとかピンクっぽい髪って姫海村で見かけたら忘れないと思うんですが、覚えてないってことからすると、見かけたり会ったりしたことないかもしれません」


「そうですか。確かに目立ちますもんね・・・・・・」


 女装している人なら髪色が変わったくらいで他人を遠ざけない印象があったので、山葵さんである可能性もあったのだ。でもそうじゃなかったので、少しがっかりする。ならば私が知らない人かな。


「こういう閉鎖的な空間で生きる人が、ストロベリーブロンドの髪を持つ子に優しいとは思えません。そこでこそこそと悪口を言うのならともかく、話しかける人はいないかもしれません」


「それはそうですね」


 思わず苦笑いをする。


 たかが髪色されど髪色だ。でもこーいう田舎だと黒髪なのがふつうで、そうじゃない人を排除するはず。


 それならば夜雛さんが会いたいと願っている、人物は存在しないかもしれない。


「まあまあこの飴屋には村の外から人が来るし、ストロベリーブロンドの髪を気にしない人だってそのなかにはいるかもしれません」


「そうですかね?」


 確かにこの飴屋は大学では話題だけど、それだけでたくさんの人がくるってわけではなさそう。買い物ならスーパーとかの方がいいから、あんまり信じられない。

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