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ラリマール  作者: 西埜水彩
【1】私のドッペルゲンガー
5/18

【1-4】

「ここがわらび先輩とそっくりの人がアルバイトをしているあめ屋さん」


 他のお店と違って昭和レトロや平成レトロを意識して、あえて古い感じにしましったってお店。何よりも『ぎやまんあめ屋』という名前が古い感じなのか新しいお洒落なのか分からず、全体的に格好いいのかダサいのかも分からない。


「大学で話題になっていて、るるひ先輩が行ったのも分かる。映えそうなお店だ」


 楝くんは楽しそうにお店を見ている。


 私はこのお店の中へ入る勇気はない。ここに私のドッペルゲンガーがいるのだ、私とそっくりで、それでいてかわいらしい格好をしていて、何よりも男性だから私じゃない存在。


 そんな人がこの中にいる。


「じゃあ行くか。迷っていてもしゃーない」


 楝くんは迷わず、お店のドアを開けた。


「わあ、きれい」


 ガラスの瓶に入ったあめ。あめが宝石のように、照明の光で輝いている。


「かわったりんご飴が売っている」


「本当だ」


 恐る恐る楝くんの後ろから、ショーケースの中を見る。


 皮がむかれた上に小さく切られて、様々な色のついた飴にからめられたりんご飴。綺麗だし食べやすそうだし、何よりもこういう丸くないりんご飴ははじめて見た。


「いらっしゃいませ。はじめてですか?」


 赤いチェックのワンピースは太ももまでの長さしかないけど、薄い緑のタイツを履いているおかげで色っぽさが少ない。店内だからか足下はヒールのないスリッポンで、どこからどうみても女子っぽい格好の人だ。


「はじめてきました。この店はあめ屋なんですね。こののあめはあなたが作っているんですか?」


 私は楝くんの後ろから動けない。でも楝くんは堂々と話を続ける。


「そうです。ここはあめ屋です。私はアルバイトですが、一部のあめをつくっています」


 楝くんの質問に対して、はきはきと答える店員さん。


 平凡で特徴がなく、特に可愛らしかったり美しかったり格好良かったりしない顔、そんな私の顔とそっくりなのだ。


 だから今楝くんと話している人が、ドッペルゲンガーさんなのだ。


「すごいです。俺料理できないので尊敬します。ところで名前、山と葵で何と読むのでしょうか?」


 楝くんはさりげなく、店員がつけている名札に話を帰る。山葵(わさび)、これはかなり変わっている名前だ。私とは違って、漢字が使われている。


「山と葵でわさびです。僕は宇本山葵(うもとわさび)と言います」


 わさび。私の名前はわらびだから、めちゃ似ている。


「山葵さんですか、良い名前ですね。わさびさん、このお店でおすすめのあめはありませんか?」


「やっぱりりんご飴です。食べやすいようにカットしてありますし、何よりも鮮度が落ちないようにカットしてすぐにあめでコーティングをしているところがおすすめです」


「じゃあそのりんごあめ2つ下さい。俺とわらび先輩の分、2つです」


 楝くんはそう言うと、私の前からさっと離れる。あまりにとっさのこと過ぎて、楝くんの後ろにすぐ隠れることが出来なかった。


「そういえば山葵さんはわらび先輩とそっくりですね。わらび先輩はいつもボーイッシュな服装をしていて、男っぽく見えてしまうことが多いです。そこでわらび先輩がかわいらしい格好をしたら、女装した男性のイメージに近いかもしれません。そういうこともあってか男性である山葵さんが女装しているのを、わらび先輩だって樹利先輩やるるひ先輩は思ったかもしれません」


 楝くんの発言が、はっきり言って邪魔だった。


 だって分かっているもん。山葵さんと私が似ているってことくらい。身体的な性別、表現したい性別。そのどれもが私達は違う。だけどその違いをぶっ壊してしまうほど、私達は似ている。


「名前も似ていますし。わさびさんとわらび先輩ですから。山葵やわらびや人名にあまり使わないイメージがありますし、顔も似ているのなら何かあるでしょう。何もないってことはないはずです・・・・・・」


 楝くんの発言が本当にいらない。でもその言葉があるから、気まずい雰囲気がましになったかもしれない。


 なぜなら店員さんは私を見て固まってしまったし、私も楝くんに隠れることを忘れてぽかんとしているから。


「実は僕双子の妹がいたんです。妹は生まれてすぐに特別養子へ出されてしまったので、戸籍上は僕1人ですが」


「そうだったのですが。私は特別養子縁組をしているので、そこはあっているかもしれません・・・・・・」


 山葵さんには特別養子に出された妹がいたらしい。そして私は特別養子縁組で、元の家族が分からない。名前だって似ているし。


 顔も性別無関係なほど、そっくりだ。これはひょっとして、目の前にいるのは私の実の家族なんだろうか? 私に実の家族がいるなんて、今まで考えたことも無かったのに。


「わらび先輩が妹なんですね。わらび先輩が姉って感じはしますが」


「一応僕が兄と母は言っていました」


「兄といえば女装のクオリティは高いです。わらび先輩よりも女性らしく見えます」


 楝くんはさりげなく失礼なことを言い、山葵さんを見つめる。確かに女性として産まれて生活している私よりも、男である山葵さんの方がかわいらしく見えてしまう。


「専修学校卒業後、18歳になるまで女装喫茶で働いていて、女装が得意になったんです。実は僕製菓専門で接客はあんまりしなかったのですが、どーでしょうか?」


「へーすごいですね。ケーキ屋とかで働けるんですか?」


「資格があるので大丈夫ですが、今のところはあめ屋で大丈夫です。はとこがケーキ屋を運営しているらしいので、別のことがしたいです」


 楽しそうに話しているわさびさんと楝くんを見つめつつ、納得できないもやもやがたまっていく。だってドッペルゲンガーだと思えば、予想外の実の家族。そんなのありえる?


 本当の本当に、私には血の繋がった家族はいないと思っていた。その考えだけは、本当だったんだ。


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