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ラリマール  作者: 西埜水彩
【1】私のドッペルゲンガー
3/18

【1-2】

「おはよう」


 るるひ(るるい)が近寄ってくる。


 デコラファッションと呼ばれているらしい、遠くから見てもすぐに分かる服装のるるひ。今日のるるひはゆめかわいい色のカチューシャと同じ色のセーラーワンピースで、子供のおもちゃっぽいヘアアクセサリーが印象的で、いつもと同じく可愛い。


「おはよう。今日は講義ある?」


「私は2限から。山岡さんは?」


「私も2限から」


「そうなんだ、じゃあ当分ゆっくりできるね。そうそう昨日、姫海商店街に行ってきたの。ほら最近大学で話題になっているあめ屋がそこにあって、つい私も行ってきたってわけ」


 ここ最近大学で話題になっているあめ屋が、私の今住んでいる姫海村の商店街にあるのは知っていた。それでも姫海商店街に行きづらいのもあってか、私は行ったことがなかった。


 別に姫海村に住んでいるわけじゃないるるひがあめ屋へ行くなんて意外だ。それほどあめ屋がいいのかな。田舎の村にあるしょぼそうなあめ屋のイメージしか私にはないけど。


「そのあめ屋、りんごあめやわたあめが売っていて、みんなカラフルだったの。それでねこんな可愛らしいこんぺいとうも売っていたし、のどあめもあったのよ」


 るるひはかわいらしい絵の描かれた小箱を出す。その小箱に書かれたイラストはゆるキャラのように可愛らしくて、るるひが好きそうな感じだった。


「へー、私は商店街へ行ったことがないから、いつか行ってみたい」


 あめや商店街にあまり興味がない私は、こうやって話を終わりにしようとする。


「えー山岡さん、商店街に行ったことないの? 昨日山岡さん、商店街にいたじゃん。ベージュのワンピースや厚底のリボンつきの靴とかは山岡さんっぽくなかったけど、それ以外は完全に山岡さんだった」


「でも昨日は実家に帰っていて、商店街には行っていないし。そもそも姫海商店街に行ったことすらないって」


 言い訳するように、話をまとめて伝える。


 私は昨日帰省していて、商店街へは行っていない。これは事実だ。


 だけど樹利先輩が私を昨日の昼間に姫海駅で見かけたと言っていた。この樹利先輩が見かけた人が、姫海商店街へ行った可能性はある。姫海商店街は姫海駅に隣接していて、遠いわけじゃないし。


 これはもしや。


「私にドッペルゲンガーがいるとかありえないって。そうじゃないと2カ所で同時に姿を見せることはできない」


「それもそうだね。でもよく考えたら私が見かけた人は山岡さんっぽくない雰囲気もあってさ、似ているだけの別人かもしれない」


「そうかもね。私は商店街へ行っていないから、絶対。じゃあ遅れたらまずいから、教室に行くね」


 私はさらりとるるひと距離を取る。そしてそのまま歩いて、2限の講義がある教室へと向かう。


「おはよう」


 教室の目の前で話しかけてきたのが、楝くんだ。先輩である私に対してタメ口なのは前からと変わらない。


 青チェックのシャツにだぼっとしたパーカーを羽織って、大きめのチノパンというゆったりとしたファッションをいつもの通りしている。


「おはよう。ところで昨日静岡の駅にいなかった?」


「昨日は自室にいたから、どこにも出かけていないよ」


 楝くんはバッサリと否定する。


「じゃあこの人は楝くんじゃないってこと?」


「そうだよ。そもそも俺、女装しないもん」


 昨日撮った写真を見せても強気の姿勢を崩さない楝くん。


 そりゃそうか。プラチナブロンドでワンピースだもん。今の楝くんとは雰囲気が全く違う。


「それじゃあこの人は楝くんのドッペルゲンガーなわけで。樹利先輩にもこの写真を見せて良いってことだね」


「えっ樹利先輩にも見せるの?」


 いきなり楝くんは動揺し始める。


 この人が楝くんと同じでないのなら別に問題ない。ただ似ている人がいる、それだけで終わるのに。


「そう。実は私にドッペルゲンガーがいるみたいなの。そこで楝くんにもいるかもしれないし、私以外にドッペルゲンガーがいる人がいたら信用してもらいやすいでしょ」


「いやいやドッペルゲンガーなんていないって。そんなのフィクションの存在だって」


 話しながら楝くんは近くにある教室へと入った。偶然というか当たり前かもしれないけど、そこは2限に私と楝くんは授業を受ける予定の教室だ。


 幸いなことにここでは1限の授業はなかったらしくがらんとしている上に、1限を受けているのか遅く来るつもりなのか分からないけど私達以外は誰もいない。


「いやいや実際に私のドッペルゲンガーはいるんだって。樹利先輩とるるひが見たって言ってるの。私昨日は実家に帰省していたいのに、樹利先輩は姫海駅でるるひは姫海商店街で姿を見たって」


「そんなの。2人の見間違いじゃない? それにドッペルゲンガーって本当にいないから、まじで」


「じゃあこの写真を樹利先輩に見せて良いよね。問題ないよね」


 昨日撮った写真を表示しているスマートフォンの画面を見せて、私は楝くんに詰め寄る。


 本当に他人ならこの写真を誰が見ても関係ないはず。そこで楝くんは特別なリアクションなんて取らないはずだ。


「分かった、分かった、これは俺。昨日変装して出かけただけ。それじゃあわらび先輩のドッペルゲンガー探そう。恐らくただの見間違えだって」


「授業が終わってから? 私今日4限まであるけど」


「まずはわらび先輩のドッペルゲンガーを見たと言いはっている人に話を聞いてからだから、もう少し後だな。絶対姫海村にわらび先輩とそっくりな人がいるんだよ。ドッペルゲンガーなんているはずがない」


 ドッペルゲンガーなんているはずがない、そう楝くんは信じ込んでいるみたい。でも私はそうは思えない。


 だって樹利先輩とるるひ、2人が見たんだよ。接点のあまりない2人が見たってことは、私のドッペルゲンガーがいるってことじゃない。私に似ている人っていうつまらないオチは、ありえないような気がする。


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