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ラリマール  作者: 西埜水彩
【1】私のドッペルゲンガー
2/18

【1-1】

「えっと確かあのホームだ」


 帰省時や大学へ戻るときしか使用しない駅、それもあってかどうしても迷ってしまう。


 この駅があるのは静岡県なのだろうか。どこの県にあるのかはっきり分からないほどあやふやで、私はこの駅のことに詳しくない。


 とゆうことで早くこの駅から出て、寮へ戻って休もう。そのために私は乗り換える電車がくるホームへと向かう。


「あっ」


 目的のホームについた時、ある人に目がいった。


 別にホームの中ががらがらで、2人以外は誰もいないってわけではない。何よりもある人は私とは別のホーム、私が今行きたい方向とは別の方面へ向かう電車がくるホームにいて、近くにいるわけでもない。


 ある人の見た目だってプラチナブロンドのロングヘアーが印象的な上に、白いTシャツにVネックのワンピースが印象的な女子っぽい服装だ。


 そんな人、私は今まで見たことない。そもそもプラチナブロンドの人と今まで出会っていたら、そんな人忘れないはずだ。こんな髪色の人がたくさんいるわけじゃないから。


「あっもしかして藤木楝(ふじきれん)くん?」


 思わず声に出してしまった。


 楝くんは私と寮が同じで、今は大学1年生だから、私の後輩だ。


 とはいえ楝くんは男だ、男のはずなのだ。髪だって黒のショートだし、ワンピースを着ているところだって見たことがない。


 これは恐らく人間違いだろう。そう、楝くんが女装している、そんなわけじゃない。


 と思いつつも気になってしまった私は、見かけた人のことを写真に撮ってしまう。そしてやってきた電車に慌てて乗り込んだ。


「うーん、やっぱり楝くんに似てるんだよな」


 何ならこの人が楝くんじゃなかったらおかしいレベルだ。


 さっき隠し撮りをした写真を何度見ても楝くんにしか見えない。何よりもこのプラチナブロンド、ウィッグっぽい。人の髪という感じではなく、化学繊維っぽさがあるんだよな。


 まあ楝くんが女装していようが女装していまいが、私には関係ないこと。これ以上このことを考えるのは辞めよう。


 そう考えて楝くんの写真を閉じて、私は違う物をスマートフォンで見始める。スマートフォンをいじっている間に電車は大学の最寄り駅に到着する。そこで乗り換えをして、寮の最寄り駅へと向かう。


 通学するなら、大学の近くに住んだ方が良い。それでも訳があって、私は大学から少し離れた場所にある寮で生活している。


 寮の最寄り駅に着いた時、空は暗くなっていた。ここから寮までは徒歩15分、街灯や店の明かりが少ない中を1人で歩く。


 今私が住んでいる寮があるところは、姫海村(ひめうみむら)ってところだ。村がついているから人が少なくて、コンビニやチェーン店はない。そのかわりに商店街に行けば、個人商店がいっぱいあるらしくて、買い物には困らないらしい。でも私は行ったことがないから、よく分からない。


山岡(やまおか)さん、こんばんはですの」


 寮のすぐ近くで、樹利(きり)先輩が話しかけてきた。淡いピンクのタートルネックに灰色のジャンパースカートに、薄い黒色のコートというシンプルな格好は、お嬢様言葉っぽい言葉とはいつも通りあっていない。


「こんばんはです。樹利先輩は買い物帰りですか?」


 樹利先輩は大きめの保冷バックを持っているので、スーパー帰りかもしれない。姫海村にはスーパーはないけど、大学がある隣の市にはいっぱいスーパーがあるので、そのうちのどれかに行ってたんだろう。


「そうですわ。今日は休日ですもの、買い物するにはぴったりですので、行ってきましたの。山岡さんはどこかお出かけしてきましたの?」


「実家に帰省していました。ついさっき姫海村に戻ってきたところです」


「そうでしたの」


 不思議そうに樹利先輩は私を見る。私はあんまり帰省しないので、長期休みでもない日に帰省したのをおかしいと考えたのかもしれない。まあ特に今日は意味ない帰省だったから、どう答えたらいいのか分からない。


「今日は午前に姫海図書館で私はアルバイトをしましたの。休みの日ですが、利用者はそんなに多くなかったですわ。人気の本がいっぱい置いていますのに、もったいないですわ」


「それもそうかもしれません。特に最近は少し高いインターネットで連載されている小説が書籍化された物とかもありますから、もったいないです」


 変わった話にほっとしつつ、私は樹利先輩と一緒に歩く。樹利先輩も寮生なので、帰り道は一緒で大丈夫。


「午前中のアルバイトが終わった後に、午後から大学に行きましたの。それで昼間、12時くらいに山岡さんが駅にいるのを見かけたのです。でも山岡さんは昼間姫海駅にはいらっしゃらなかったのですわよね?」


 姫海駅は寮の最寄り駅、さっきまで私がいたところだ。


「いないです。昼はまだ実家にいました」


 いきなり樹利先輩がしてきた話にびっくりする。当然のことながら昼間に姫海駅でいるわけがない。その時は確か実家でお昼ご飯を食べたり両親と話していたりしていたはずだ。そこで樹利先輩が私を姫海駅で見かけるのは不可能だ。


「私が見かけた人、かなり山岡さんに似ていらしゃったの。ただ私が見かけた方は小さい花柄が特徴的なベージュのワンピースにスカートの裾の長さまであるグリーンのカーディガンを合わせて、白のタイツとリボンがついた厚底の靴を履いていらっしゃいましたし、髪も山岡さんよりも長くてポニーテールにしていましたわ。それでもどこからどう見ても。山岡さんでしたの」


「いやいや私はワンピースや長い丈のカーディガンは持っていませんし、何よりも白いタイツやリボンのついた靴とは無縁の生活をしています」


 そう、こうだとすれば樹利先輩が見かけた人と私は別人ってことになる。私は樹利先輩が見かけたような人の格好、絶対にしないから。


「まさかドッペルゲンガーかもしれませんわよ。それで見た目をごまかすために、山岡さんとは別のテイストのファッションをしていらっしゃるのかもしれませんわ」


「ドッペルゲンガーですか?」


 それは恐い。


 だってドッペルゲンガーに出会ってしまうと、死んでしまうかもしれない。そんな命を取るような存在が、寮の最寄り駅でいた。


 それが恐くならないわけがない。


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