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ラリマール  作者: 西埜水彩
【4】俺の思い人
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【4-2】

 佐藤紫苑(さとうしおん)、大学4年生。神戸にある大学の人文学部英語コミュニケーション学科。


 今日は大学の卒業式。だということは確実に紫苑先輩は大学にいるはず。そう考えた私は今、神戸にある大学の仲にいる。


「すみません。人文学部英語コミュニケーション学科4年生の佐藤紫苑さんと私の友達が連絡が取れなくて困っているみたいなのです。佐藤さんのことを知りませんか?」


 そう視界に入る人全員に聞いて回る。


 だけど大半の人は紫苑先輩のことを知らないみたいで、今のところは成果なし。


 卒業式ということもあってか、袴姿でウキウキしている人がいて、そうじゃない人もスーツを着てかっちりと決めている。そう考えると私は浮いてしまう。だって私は正式なスーツじゃなくて、いつもの黒ずくめの服装だから。


「佐藤さんのことを探しているの?」


 パステルカラーの袴にポップなデザインの着物を着ている、可愛らしい人が私に話しかけてきた。


 どうやら色々な人に声をかけているところを、この人に見られたらしい。


「探しています。実は友達が紫苑先輩に既読スルーばっかりされているらしく落ち込んでいまして。私がこっそりと様子を見に来ました」


「そうなんだ。佐藤さんならこっちにいるよ」


 そのお友達は、私を紫苑先輩と会わせてくれるらしい。


「ありがとうございます。助かります」


「それにしてもお友達は来ないんだね。お友達は忙しいのかな?」


「用事があるそうです」


 私が1人で探しているのだから、楝くんは連れてこられない。でもそこら辺の事情を説明するのはめんどくさいので、ごまかしておく。


「英語コミュニケーション学科はここから少し離れたところで固まっているんだよ。ほらあそこら辺に佐藤さんがいる」


 そう言ってお友達はある人達をしめした。


 そこにはショートカットでパンツスーツの人、矢絣の着物に紺の袴で髪を結い上げているといういかにも女学生っぽい人、着物と袴に花の絵が描かれている金髪の西洋系の人、たてじまの着物とピンクの袴が似合うおさげ頭の人。みんな私や楝くんよりも背が高そうな、素敵なお姉様達。


 いやおかしい。これは何かの間違いとか、同姓同名の別人だ。


 だって楝くんの彼氏なのだ。楝くんによると淡い金っぽい茶色のショートカットで、色気と影のある美しい男の人。その人が楝くんの恋人で、決してお姉様ではない。


「うーん私が聞いていた人とイメージが違うかもしれません。いえ私は紫苑先輩と会ったことがありませんので、どういう人か知っているわけではありませんが」


「そうなんだ。もしかして何か訳あり?」


「この状況からするとわけありかもしれません? 所詮友達の交友関係で、私には関係ないですから」


 だって紫苑先輩は楝くんの恋人であって、私とは本来なら無関係なはずだ。


「友達思いなんだね。友達のためにわざわざ知らない人のところにくるなんて」


「そうかもしれません。私にとっては仲の良い友達ですから。その人のためなら、多少は頑張ります」


 私と楝くんは仲の良い友達かもしれない? 私は楝くんのことを信用できるからこそ、人探しを今までお願いしてきた。もしそうじゃなければい、私は楝くんと距離を置いて、そこまで関わっていないはず。


「それにしてもうちの大学の学生じゃないよね。どこの大学?」


「私は雪木大学です。ここからは遠いですよ、だって関東にありますし」


「関東からわざわざ来たってこと?」


「そうです。だからなんとかして紫苑先輩のことを調べたいわけです。友達は既読スルーされていることをかなり気にしていますし」


「それなら佐藤さんと会った方がいいよ。あのピンクの袴の人が佐藤さんだよ」


 お友達は私を連れて集まりに合流して、紫苑先輩を紹介してくれた。


 黒い髪をおさげにして、たてじまの着物とピンクの袴がよく似合おう。明るくはなさそうだけど、闇が似合いそうな美人さんだ。


「えっと私は藤木(ふじき)楝の友達です。紫苑先輩はじめてお目にかかります。卒業おめでとうございます」


「あっ楝さんのお友達かしら。どうしたの」


 紫苑先輩はおっとりと話す。ますます楝くんの彼氏というイメージとはかけ離れていて、私は戸惑う。


「えっと最近既読スルーばっかりだそうで、楝が紫苑先輩が浮気しているかどうか心配って言ったので、様子を見に来ました」


「えっ佐藤さんは恋人がいるうえに愛人もいるの?」


「二股? 意外」


「彼氏なんていないって言っていたのに」


 紫苑先輩の周りにいる人がそう話す。


 特に最後の人が言った『彼氏』という言葉にひっかかる。楝くんは女性として彼氏と付き合っていると言っていたのだ、そこで『彼氏』がいないと紫苑先輩は思っていてもおかしくはない。でも実際楝くんは男なのだ、そこで紫苑先輩は彼氏がいるってことになっている。


「私に彼氏はいないわ。楝さんは女の子だもの」


「それじゃあ彼女がいるの?」


「そうなるかもしれない。ここ最近忙しくて既読スルーが多かったの、それでなんか心配をかけてごめんなさい。でも浮気はしていないから、安心して」


 緊張を隠すように、ゆっくりと話す紫苑先輩。


「紫苑先輩は女性で、楝は彼女なんですか? すみません実は楝の交友関係をよく知らなくて、状況が私にはよく分かりません」


 私の発言を聞いて、紫苑先輩はほっとしたような顔になった。


「あっそうなの。だから私達は同性カップルということになるかもしれないわ。友達が同性とお付き合いされていることを知って、驚いた?」


「いえそこは事前に聞いていたから気にしていないです」


 楝くんは紫苑先輩のことを男だと思っていて、それで同性カップルだと私は思っていた。


 だけど紫苑先輩は楝くんのことを女性だと思っていて、女性同士のカップルってことになっている。同性カップルであることはあっているけど、それ以外は私の想像とは違うみたい。


 薔薇だと思っていたのが百合でもあったってとこだろうか? でも本当は葡萄や桜であるかもしれない? いや本当のところなんて、私には分からないけど。


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