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ラリマール  作者: 西埜水彩
【4】俺の思い人
14/18

【4-1】

「3月だね。来月から大学2年生」


 (れん)くんが愚痴りだした、しかも私の家で。まあ私は暇だからいいんだけどね。


「私は3年生だよ。あー就活どうしよう」


「3年生の時から就活を心配しているなんて、ちょっと早いかもしれない」


「いや準備とかしなきゃいけないから」


 一応私は新人賞を受賞して本を出しているから小説家なのだが、それで生活をしていける自信はない。


 そこで何かしらの仕事についたほうがいい。でも何の仕事がいいのか分からない。


「とゆうことは樹利(きり)先輩、今大変ってことになるのかな」


「そうじゃない? 最近会っていないから、よく分からないけど」


 同じ寮に住んでいるというつながりだけなので、実は樹利先輩とはそこまで関わりがあるわけじゃない。


 どっちかというと今一緒に食事している楝くんとの仲がいいのがおかしいかもしれない。普通はそんなに寮が同じでも仲良くはならない。


「今の4年生も忙しいのかな? 卒業式とかもあるし」


「そうかもね。卒業式の準備や新生活の準備で忙しいはずだよ」


 今この寮に4年生がいないから、実感はできないけど、そのはずだ。なんだって大抵の人は大学を卒業したら、就職するのだ。きっとそれで忙しいはず。


「でもさ恋人とコミュニケーションがとれないくらい、4年生になると忙しかったり心の余裕が無くなったりするもん?」


「そこは私には分からないや」


 私は大学4年生になったことも、恋人がいたこともない。そこで楝くんの質問には答えられない。


「実は彼氏が神戸の大学に通っている4年生なんだけどさ、最近既読スルーばっかりなんだぜ。これはもう忙しいからじゃなくって、浮気してるってことだな」


「恋愛のことは私にはよく分からない。でも楝くん、恋人いたの? しかも関西に?」


 楝くんが関西に恋人がいるってこと、私は今まで知らなかった。それに楝くんは男なのに彼氏がいる、すなわちこれはカミングアウトなんじゃないだろうか? 世の中で同性と付き合っているってことは今のところセンシティブな話題になりやすい。


 カミングアウトは深刻なものってイメージがあるから、このようにさらっとされるのもちょっと驚きだ。いやでも楝くんっぽさがあるから、こっちの方がいいかもしれない。


「そうそう。去年の4月から交際していたんだぜ。SNSで出会ったんだ」


「ああだから女装していたの? もしかして彼氏と一緒にいたときは女の子になっていたわけ?」


 SNSでは楝くんは秘密主義なので、性別のことは誰にも伝えていない。そこで楝くんなら女装することにより、女性として彼氏と付き合うこともできてしまう。


 まあ単に女装が趣味って可能性もあるけど、私は楝くんが女装しているのを大学や寮で見たわけじゃないので、そんな気がした。


「そうだよ。俺は恋人の前では女性設定。恋人にカミングアウトできないまま、時間が経った」


「楝くんの事情からするとこの恋はうまくいかなさそうだけど、それでも浮気しているかどうか気になるの?」


「そうだよ。だって好きなんだもん、愛しているんだもん。例え性別を偽ったって、俺は一生一緒にいたい」


 楝くんは真剣そうな顔で、力説している。


 でも客観的に考えると難しい。性別を偽って同性愛である状態を今はごまかせても、いつかはそんなことできなくなる。


 そもそも性別を偽って恋愛なんて、普通は厳しい。小学生のような純粋なお付き合いはともかく、成人している大人の交際だよ。2人で一緒にどこかで泊まってとか休憩してとかあるんだよ。だとしても楝くんだから大丈夫なのかな? 少なくとも私には分からない。


「だから浮気していることが気になるんだって。遠距離だし、きっと近くの可愛い女の子と付き合っているに違いない」


 そりゃあ遠くにいる女装した男よりも、近くにいる可愛いシスジェンダーの女の子の方が恋人にとっていいはず。


 でもそんなこと言えない。言ったらめっちゃ楝くんを怒らせてしまいそうだ。


「それでその恋人が浮気していたら」


「どうしようかな……」


 楝くんは落ち着いた表情で考え始めた。


 恋人が浮気、そうしたらすることは大抵決まっているような気がする。例えば恋人と別れる、浮気相手を脅して別れさせる。


「じゃあさとりあえず楝くんの恋人について調べたらいいんじゃないかな? 私のドッペルゲンガー、夜雛(よひな)さんが一瞬で会った人、リーキくんが好きになった人。みんなみんな楝くんが見つけてきたじゃない。ということで楝くんなら、恋人に浮気相手がいるかどうかも分かるかもよ」


「今まで探してきたのは赤の他人だって。赤の他人の事情は冷静に考えられるからいいけどさ、今回は恋人だぜ、恋人。冷静になんて考えられないって」


「それはそうかもしれない」


 私だってドッペルゲンガーがいるかどうかを調べるときは冷静でいられなかった。


 性別を偽ってでも愛する相手なのだったら、そりゃあ冷静に浮気しているかどうかを考えるのは難しいかもしれない。浮気していないと現実逃避するか、浮気していると自分を追いつめてしまうか、このどっちでもないにしろ、冷静に考えることは難しそうだ。


「じゃあ私が調べてみるよ」


「えっわらび先輩にできるの?」


 楝くんが驚いたように私のことを見る。


 確かに私は今まで人探しを1人でできたことはなくて、全部楝くんと一緒にしてきた。なんなら人探しは全部楝くんに頼り切りと言っても過言ではない。


「今まで人探しを楝くんに手伝ってもらってばかりだから、たまにはお返ししないといけないし。何よりも楝くんにとっての恋人は私にとっての知らない人だから。知らない人から見たら、何か分かることはあるはず」


 自信を持って断言する。


 本当は私に4年生の男子大学生が考えることなんて、分かるはずがない。でも恋人のような特別な関係じゃなくて、赤の他人しか分からないことだってあるはずだ。


「それじゃあお願い。どうか恋人が浮気しているのか、ずっと既読スルーなのか調べてきてみて」


 楝くんが両手をあわせてお願いする。うーんこれは楝くん、かなり参っているみたいだ。



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