【3-1】
年末年始が終わると成人式、そして大学のテストやレポート。
そんな慌ただしい日々が終わると、春休みになった。まだ2月で寒いのに春の休みってことになっているのはおかしいかもしれないけど、スケジュールの都合上仕方ない。
とゆうことで大学に行かなくて良くなった分、姫海図書館でアルバイトをしている。本当は小説の賞をとった新人作家に私はなるので、何か小説を書いた方がいいかもしれない。でも何を書けばいいのか分からないので、私はそうしていない。
そこで今はアルバイト中心の、つまらない生活を送っている。樹利先輩は就活の準備でバタバタしているし、楝くんはSNSで繋がっている人と会ったりアルバイトしたりと忙しそうだ。すなわち私だけが、アルバイト以外することのない、暇人ってわけ。
「山葵さん、こんにちは」
でもそんなつまらない日は今日で終わるかもしれない、そう寮の入り口でいる山葵さんの姿を見て思った。
山葵さんは私とよく似ているけど、戸籍をぱっと見ただけでは赤の他人となっている、私の双子の兄だ。
「こんにちは。どうしたのですか?」
「わらびさんに会うためにここへ来ました。わらびさんはラリマール寮に住んでいるので、ここで待っていれば会えるのかなと思ったのです。あっこの子は原松リーキさんです。リーキさんは僕の異父弟なんです」
山葵さんは近くにいる、知らない男の子を私に紹介してくれた。
その男の子、リーキくんは平凡なジェンダーレス顔の私や山葵さんとは違って、美しい顔をしている。クール系のイケメン、そんな言葉が似合う。
いや顔のことよりも、異父弟ってどういうことだろうか? 山葵さんの異父弟ってことは、私にとっても異父弟ってことになるのだけど。
「よろしくお願いします。異父姉ですかね? 山岡わらびです」
「ラリマール寮の人ですよね。僕は姫海園で暮らしているので見かけたことがあります。よろしくお願いします」
姫海園は児童養護施設だ。山葵さんと名字が違う上に児童養護施設での生活。これは私とは違ったややこしい事情が、リーキくんにはあるのだろう。
「ところで今時間は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。あっ話があるなら、部屋でしましょう。外は寒いですし」
外は2月なのでかなり寒い。そこで二人を自室に誘った。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
山葵さんとリーキくんも了承してくれたので、自室に案内する。
ここ最近暇なことが多くて掃除をよくしていたのもあって、部屋は片付いている。
「インスタントコーヒーとインスタントのココアはどっちがいいですか?」
楝くんからもらった奈良土産だという鹿のゆるキャラのクッキーを机の上に並べてから聞く。
「コーヒーをお願いします。これはわらびさんが奈良で買ってきたものですか?」
「いいえ、楝くん、寮の後輩からもらった奈良土産です」
「そうですか。ちなみにはとこは奈良でケーキ屋をしているらしので、親近感があります」
そのはとこって洋菓子店の店員さんと同じ高校だった、谷田春帆さんのことだろう。私はその人のことを全く知らないけど、山葵さんのはとこは私のはとこでもあるから、私は奈良と関係があるってことになる。それ、今初めて知った。別に知らなくても問題無いけど。
「僕もコーヒーをお願いします。ところでわらび姉さんはこの前商店街で人探しをしていたそうですが、他人のことを見つけるのは得意ですか?」
姉さんよばわりと人探しが得意というイメージ。この2つがいきなり過ぎて、一瞬脳がフリーズする。
「人探しは得意じゃないよ。確かに商店街で人探しをしていたことはあったけど」
去年に私のドッペルゲンガーを探したり夜雛さんに話しかけた人を探したりしていたことがあった。でも今年になってからはそんなことをしていないので、会ったことがないリーキくんがそのことを知っていたのが意外だった。
「リーキさんは商店街にあるうどん屋でアルバイトしているのです。それで商店街のうわさとか、僕よりも詳しいですよ」
山葵さんも商店街で働いているはずだが、人間関係から外されているからかうわさには詳しくないみたいだ。
いやそれよりも私と楝くん、人探しをしていることがうわさになっているんだ。自分の知らないところでそんな私達が人探しをしているって話がされているの、ちょっと嫌だな。
「あっコーヒーです。ミルクと砂糖もありますよ」
「「ありがとうございます」」
二人ともミルクや砂糖をいれずに、コーヒーを飲みはじめた。私もコーヒーをそのまま飲む。うん、インスタントだから苦すぎずに美味しい。
「それじゃあうどん屋にきた若い女性のことも分からないですよね。ふわふわとした茶色のショートボブで、かわいらしいお姉さんを僕は探しているのです。わらび姉さんはそんな人知りませんか?」
「姫海商店街のお店によく行く人のこと私知らないから。山葵さんの働いているあめ屋はおしゃれなこともあって大学で話題だから私も知っているけど、それ以外のお店は知らないし」
「そうですか。それでは僕の探している人のこと、知ってるわけないですよね」
しょんぼりとするリーキくん。うどん屋に一度来たなら、また来る可能性がある。それに何よりも関わりがあまりない人のことなんて、ほっとけばいいのに。
「もしかしてその人、リーキくんの好きな人ですか?」
「いえそんなわけではないのです。ただ少し気になるだけです」
山葵さんの発言をリーキくんはばっさり否定したが、この様子だとリーキくんは好きになった人を探しているような気がする。
いやそうじゃなければ、赤の他人を探さないか。
「リーキさんは色々な事情があって姫海園で暮らしていて、戸籍上は親がいないことになっています。そこで僕はリーキさんのために何かしてあげたいのですが、人探しが苦手な上に仕事がありまして、難しいのです。そこでできたらわらびさんにお願いしたいのです。よろしくお願いします」
山葵さんは小さなラッピングされた袋を私に渡す。その袋の中を確認すると、中にはチョコチップのクッキーが入っていた。これは山葵さんが作ったのかな? 飴じゃないから、誰が作ったのか分からないや。
「春休みで暇だから、大丈夫です。その人を探してみましょう」
リーキさんの事情は重いってこと以外はよく分からないけど、姫海園で生活しているってことは特別養子縁組の私よりも苦労しているってことだ。同じ母から産まれて生き方が違うのは不平等なこともありそうだし、少しは手伝ってもいいか。
「それに私も弟の好きな人は気になる」
今まで兄弟とは無縁な生活を送ってきただけに、兄弟の好きな人に関わるなんて夢にも思わなかった。
そんな想定外のことが起きるのだから、これは関わることによって私の人生に何かいい出来事が起こるのかもしれない。




