表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧れと結婚〜田舎令嬢エマの幸福な事情〜  作者: 帆々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/45

33、逃げ出した心の先



 ワーグスビューでのレオとの邂逅をダイアナに話したのは、その夜更けになった。


 スタイルズの館のように一方の寝室を訪れ、話し合う。


 夜衣に着替え、寛いだ姿だ。姉はベッドの淵に腰掛け、エマは一人掛けの椅子に膝を抱いて座った。


 あったことを告げると、ダイアナは真剣な表情で問う。


「何も話さなかったの?」


「ええ。驚いて、反射的に逃げ出しちゃったの。追いかけて来てくれて、転びかけたところを助けてくれたわ」


 彼女の腕をつかみ、支えてくれた。


「急に走り出すと危ない」。


 その声は、今も耳に容易によみがえる。


「どうして? せっかく会えたのに、惜しい気がするわ」


「ご用でいらしたようだし。何を言っていいのかもわからなかった。相手は婚約している方だし…。怖くなったのよ」


「婚約は本当かしら? オリヴィアの言うことはあまり当てにならないわ」


 エマは首を振る。


「…レオだって、何も言わなかった。それが全てよ」


 彼女への思いがあるなり、伝えたいものがあれば言葉にしたはずだ。


(なのに、それがなかった)


 ショックが遠のき、心の整理は出来た。しかし、思いは複雑だった。


 再会したことで、過去の記憶がより鮮明となった。彼への思いが強く自分の中に根付いているのを感じてしまう。


(どうにもならないのに)


 再び彼を見てしまったことで、忘れ難くなった。


(会えなければ良かった)


 そうであれば、時間薬で薄らぎ、その内過去の思い出として封じ込めるだろうと考えていた。時間はかかっても。いつか、きっと。


 葬らなくてはならない恋心が、不意の再会でまた大きくなった。まるで、彼と別れたばかりの振り出しに戻ったようだ。これが薄らいで消えるまで、どれほど耐えればいいのか。


(嫌になる)


 ため息に似た吐息だ。


「ごめんなさい。暗い話になって。だから、黙っていたの。ダイアナは幸せの最中なのに、気の滅入るようなことを言って」


「そんな。もっと早く言って欲しかったわ。あなた一人で抱えるのには重過ぎるもの」


 ダイアナも長く吐息した。


「そんなことがあれば、新しく男性と親しくなろうなんて、簡単に考えられないわ。当然ね。こっちこそ、知らずにごめんなさい」


「二人の思いは嬉しいの。ありがたいの。ただ…、すぐには、切り替えが出来そうになくて…」


「レオは、どうしてワーグスビューにいらしたの? ご用って、何かしら? あんな時期、特別な事情でもなければ、足の向かない場所のはずよ。あなたの知り合ったマシューさんは、何かおっしゃっていなかった?」


「マシューさんのお連れの方に来客があったそうよ。それで彼は席を外したと。きっとその来客がレオのことだと思うわ」


 マシューの言葉を辿れば、そろそろ滞在を切り上げることになりそうだと言っていた。彼自身は静かなあの土地を気に入っていたのに。


「それは、レオがいらしたからではない? レオは季節外れのワーグスビューに、彼らを迎えに来たのではないかしら?」


 以前あったように、ダイアナは事実から物事を推理している。前は、なぜレオが急に消えたかを彼女のために考えてくれた。今は、レオがワーグスビューに現れた理由を探っている。


 姉が指すように、彼はマシューたちを迎えに訪れたのかもしれない。それ以外に、あの地に彼が来る理由は見つけにくい。


 マシューのことは「コックス君」と呼び、その連れの男性を「ジェラルド」と呼び捨てていた。


(親しいご友人かも)


「では、彼が迎えに来たのはそのジェラルドさんの方だと思うわ。ねえ、エマ、お二人がどうしてワーグスビューを選んだのか、お聞きしていない?」


「いいえ。ジェラルドさんが美術にお詳しいそうよ。それで、彫刻の豊富なあの地を訪れたのかも…。マシューさんは、お連れさん任せのように感じたわ。行き先も滞在期間も、ご自分で選んでいないような口ぶりだった」


「お若い方よね。なら、ジェラルドさんはお歳上でしょうし、旅の費用も持っているのかも。だから、選択権は譲っているのかもしれないわ」


 事実に妥当な想像を混ぜ、状況を読み解いていく。ダイアナの分析は、確かにそうであろうと納得がいくものだった。


 レオがあの場にいた理由は、おぼろげながら浮かんで来た。


 けれど、それがわかったとしても何にもならない。


 エマは自分と彼を、はまらないパズルのピースのように思った。もうそれぞれ形が違い、組み合わせてもきれいにつながることはない。


(それはいつから?)


 別れてすぐだったのか、元々がそうだったのかもしれない。


 レオに関することは、考えても答えが出ない。彼はそれをくれないし、たとえもらったとて、今更、彼女にも意味がないと思ってしまっているから。


 胸の奥に重く居座ったままのしこりは恋の残滓だ。


(溶けていくのを待つのも辛い)


 初めて、彼への恋を後悔した。


(レオと出会わなければよかった)



お読み下さりまことにありがとうございます。

「続きが気になる」など思われましたら、↓の☆☆☆☆☆から作品への応援をお願いいたします。

ブックマークもいただけましたらとってもうれしいです。

更新の励みになります。何卒、よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ