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ーーこうして勇者ドランはドラゴンを封印しました。ドラゴンによってすっかり荒れ果てた地を開拓し、国を創りました。それが、このドラン王国です。


クラリスはおしまい、といいながらパタリと本を閉じる。これはこの国の建国史が絵とともに描かれた本だ。

目の前には5人の子供たち。ほう、と余韻に浸っている。


「僕も剣を持ってみたいな。」


「オレ、騎士様に触らせてもらったことあるぜ。」


そんな子供たちの声を聞きながら教会の棚に本を片付けると、聞き慣れた声がした。


「クラリスさん、今日もいらっしゃっていたんですね。」


振り向くとそこにはレイリー様がいらっしゃった。


「あら、レイリー様。ごきげんよう。今日もお祈りですか?熱心ですね。」


「クラリスさんは今日も子供たちに読み聞かせを?」


「ええ。子供たちとお話ししてると、とても元気がもらえます」


レイリー様は信心深い方で、こうして週に2度は必ず教会にいらっしゃっている。私も週に2度ほど通って子供たちに読み書きを教えたりしているので、彼とは時折顔を合わせることがある。一見黒にも見えるほど濃く深い緑の髪の毛を後ろでひとつに括り、メガネをかけた彼は、このドラン王都の学園に通っているそうだ。


ちょうど礼拝堂で祈りを捧げたあとらしく、私は紅茶を2杯分用意した。


「ありがとう。クラリスさん。」


そういって微笑む顔には親しみを感じる。おそらくこうして何度もお茶を飲んだことがあるからだろう


「いつもお茶をいただいているので、今日はお菓子を買ってきたんです。」


そういってレイリー様は白い包みを取り出した。開くと中には、クッキーだ。


「うれしい。クッキーは大好きなんです。」


自分と、レイリー様の分を1枚ずついただき、残りはシスターへ持っていく。子供たちにも食べてもらえるだろう。


「そういえばレイリー様。もうすぐ建国祭ですね。社交シーズンが始まりに向けて、街がだんだん賑わうのを感じます。」


「そうですね。今年は王女様のデビューがあるので、外国からも社交界に参加する方が多いでしょうね。」


「あら。そうなんですか?わたし、王女様はてっきり国内の方と婚姻されるのかと思ってましたわ。」


「もちろん、王女の御心はわかりませんがね。」


そういって、レイリー様は肩をすくめると紅茶を飲み干した。では、ごきげんよう。ごちそうさま。という挨拶を交わし、自身も自宅に戻ることにした。


さきほどレイリー様は王女のデビューとおっしゃっていたが、実は今年の社交界には私もデビューする予定である。あまり裕福ではない子爵家の私にとって、社交界ではやく結婚相手を見つけることは義務に近い。


ほんのりとしたレイリー様への憧れは封印する覚悟はできているのだ。


そもそもレイリー様はいったいどなたなのか。王都の名門であるイプス学園に通っていることから、おうちはおそらく貴族か、そうでなくとも裕福で由緒正しいお家柄だろう。


私は、彼のような方とご縁があればいいのに、と願う気持ちを止めることはできない。


そんな浮ついた気持ちも、自宅に戻ると現実に引き戻される。


「クラリス、デビュタントの衣装ができたみたいよ。」


母に呼ばれて顔を出すと、懇意にしている仕立て屋の姿があった。


さっそく、それを着せられてサイズの確認が入る。その間に母が熱心に話しかけていた。


「クラリス、良いご縁をつかまえるには第一印象が大事よ。」


「ええ。お母様。」


「今年は王女のシェリル様もデビューされる予定だから目立たないかもしれないけれど大丈夫。あまり高位の貴族を狙おうなんて思わないで。」


「わかってるわ。お母様。」


「子爵、いえ、男爵でも騎士でもいいわ。自分を大切にしてくれる人を探すのよ。」


「わかってます。お母様、心配しないで。」


ああ、心配だわ。と呟く母親を横目で見ながら採寸は恙無く終えた。


この国では早い子は12歳、遅くとも20歳ごろまでに貴族の娘は社交界にデビューする。今年、シェリル王女は15歳、クラリスは今年16歳でデビューの予定だ。子爵令嬢のクラリスはシェリル王女と顔を合わせたことはないが、デビューの場となる舞踏会で顔を拝見できるのでは、と密かに楽しみにしていた。


シェリル王女といえば雪のような白い肌に、白銀のふわふわとした美しく豊かな髪の毛を持ち、そして何よりこの国でも1番を争うほどの実力をもつ魔法使いだそうだ。クラリス自身は魔法などてんでダメだが、本で読む魔法の世界には夢中だった。そのためシェリル王女への憧れも強い。


デビューとなる舞踏会は普通の夜会や舞踏会とは違ってデビュタントとエスコートをする者以外は基本的に招待されないため、もしかしてお会いできるのでは、と心を躍らせている。


「お声をかけることはできなくとも、一目見るくらいはできるかしら。」


クラリスはまだ見ぬ貴い方に思いを馳せた。



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