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小説 報徳大学明星寮 ~楽しい寮生活編~

作者: ytaka

高林義之 (たかばやしよしゆき):主人公。第一三三期明星寮委員長。

斉藤博和 (さいとうひろかず):高林と同級生。第一三三期明星寮副委員長。

相澤直樹 (あいざわなおき):高林と同級生。第一三三騎期明星寮委員会文化部。

小板橋孝弘 (こいたばしたかひろ):明風寮生で酒ぐせが非常に悪い。

上村聡 (かみむらさとし):学生運動の活動家で高林の先輩。二回留年している。

鈴木隆光 (すずきたかみつ):学生運動の活動家で高林の先輩。第一三二期明星寮委員長。

近藤達彦 (こんどうたつひこ):学生運動の活動家で高林の先輩。第一三二期明星寮副委員長。とても威圧的。


明星寮 (めいせいりょう):報徳大学の学生寮で本作品の主要な舞台。一、二年生専用の男子寮。規格は新々寮。

明風寮 (めいふうりょう):大学三年生以上が入寮する男子寮。明星寮の隣に建っている。規格は新々寮。

追い出しコンパがはじまった


一九九四年二月某日

その日は、来月の三月三一日にめでたく明星寮を退寮する人たちのための「追いコン」を開催したというのに、この場に来た退寮生の数は十人にも満たなかった。

ちなみに、明星寮は一、二年生が入る寮で、現在一五〇名ほどが暮らしているので、普通に考えれば七五名は退寮生がいるはずである。

まあその中の十数名は留年するので、実際退寮するのは六〇名ほどかもしれないが、いずれにせよ全退寮生の十分の一程度しかこの場に来なかったわけである。

第一三三期明星寮委員会文化部で、高林と同じ理学部地学科に属している相澤直樹あいざわなおきは、

「せっかく退寮する皆さんのために「明星とっくり」を用意したのに、残念だなあ」

などと言っていた。

ちなみに、この「明星とっくり」はとても大きく、普通のとっくりの三倍は酒が入るしろものである。

高林は今でもこの「明星とっくり」を持っているが、これを見るたび、明星寮と酒の結びつきがいかに強かったかを思い出すのであった。


さて、今回の追いコンは、退寮生の皆さんに一年生の手本となるような芸をやってもらい、先輩としての威信を示してもらおうというのが目的である。

しかし、退寮生の数がぜんぜん足りないので、結局出席している寮生全員が芸をすることになった。

それでも二〇名ほどでしかないのだが、たまたま通りかかった元明星寮生で現在は隣の明風寮に住んでいる小板橋孝弘こいたばしたかひろが乱入することで、追いコンはやたらと騒がしくなった。

酒とにぎやかなことが大好きな小板橋は、飲み会などの場では盛り上げ役として非常に重宝するのだが、酒に酔って店の看板を盗んできたり、暴れて物を壊すなどやたらとトラブルをおこす面もあった。

この後出てくる「ストーム」も、小板橋のせいでずいぶんひどくなった(大量の酒を強引に飲ませるようになった)そうである。なお、ストームについては後で説明をする。

今回の小板橋は芸に点数をつけたり野次を飛ばして楽しんでいる程度だったので、高林もすっかり油断しており、数時間後にとんでもないことになるとは予想だにしなかったのだった。

以下で、この時に行われた芸について数例示したいと思う。


一 養老の滝

二人で行う芸。まず、一人が下で口をあけて待ち、もう一人が上から口に含んだ酒を吐き出して下の人の口に入れる。それを上と下の人が入れ替わりながら続ける。


二 タイムマシン

博士と助手の2人で行う芸。セリフは、

①助手「博士、ついにタイムマシンが完成しました」

②博士「よし乾杯だ」

③ここで、二人で酒を飲む。

④博士「じゃあ一分前にタイムスリップするぞ」

⑤二人で「タイムマシーン」と言いながらぐるぐる回る。

①に戻る。


三 ジャングルファイヤー

毛を燃やす。どこの毛を燃やすかは秘密。


その他、「歌を歌う」、「カルピス(原液)などの飲み物を一気飲みする」、「ひたすら酒を飲む」といった芸を行う者が多かった。


「ボスもやれ」

と、出席している皆さんからリクエストがあったので、明星寮のボス(委員長)である高林も芸をすることになった。

演目は『手相占い』である。

そこで、高林は何人か前に呼んで手相を見ると、生命線の二〇代前半の部分に小さな丸い輪(島)がある人が数名いた。これはあまりよくない手相である。

(二〇代前半で人生が停滞するとはどういうことであろうか。留年?就職浪人?やはり、寮生は留年や就職浪人することが多いのかなあ。うーん、本人に都合の悪いことを言うのはやめておくか)

そこで、高林は

「きっと、普通の人では体験できないような波乱万丈な人生を送ることでしょう。特に、二〇代前半に一波乱ありそうです」

と、軽めに言っておいた。

ちなみに、その直後、

「どうやって二〇代前半って割り出すのか?」

という質問があったので、流年法を使って割り出したことを告げると、

「なに、留年法?」

と突っ込まれ、少しドキッとする場面もあったが、これは余談である。

なお、文化部の相澤は一本背負いで投げ飛ばされ、サブ(副委員長)の斉藤は、

「ボス、じゃなくてサブ飲む(缶コーヒーのCMのパロディー)」

などと言って、酒を飲みまくっていた。

そんな風に皆で芸をやったのだが、人数が少ないため、あっという間に終わってしまった。

すると、小板橋が

「こうなったら、みんなで野球拳大会をやるぞ」

と言い出し、なぜか五人一組でチームを組んで野球拳大会をやることになってしまった。

ルールはトーナメント方式で、それぞれじゃんけんをして先に五人負かした方が勝ちとなる。負けた方は酒を飲んで素っ裸になるわけである。

そんな感じで野球拳大会が始まったのであるが、男を素っ裸にしても面白いわけがなく、皆のフラストレーションはたまる一方であった。

「おりゃ、ストームに行くぞ」

小板橋が叫び、皆は委員会室に結集した。

(あーあ、結局やることになるのか)

高林も、仕方なく立ち上がった。


恐怖のストーム(前編)


さて、先ほどから「ストーム」という言葉がたびたび出てきているので、このあたりでストームについて説明することにしよう。

「ストーム」とは、真夜中に酒に酔った寮生が最大ボリュームの全館放送を行い、全寮生をたたき起こして一人ひとりに酒を飲ませるという、とんでもないイベントである。

ストームは、ある意味明星寮の象徴でもあるのだが、これに対応できない寮生にとっては恐怖でしかなく、ストームがいやで明星寮を退寮する寮生も多かった。

実際、ストームが好きな寮生などほんの一握りしかいないのだが、ストームは明星寮の伝統として完全に定着してしまっている。

おそらく、この寮があるかぎり永遠に続けられるのであろう。

(伝統という名の強制、か)

高林はそう思った。

 

「ストーム!!」

「いえーい、ヒューヒュー」

「これからストーム行くから、お前ら逃げんじゃねーぞ」

小板橋たちは全館放送で思い思いに叫んだ後、委員会室を出発した。

酒は飲めないが、一応明星寮の「ボス」である高林が先頭に立ち、周囲を副委員長の斉藤、文化部の相澤が固め、小板橋がバックアップをするという形になった。

他にも五、六名の寮生が後ろについてきた。

こうして、ストームは開始した。これから、高林たちは九つある明星寮のサークル全てを回り、そこで待ち構える寮生たちと酒を飲みあうことになるのである。並み居る寮生たちの返杯をものともせず、全サークルを制覇すれば、高林たちの勝ちである。

「よーし、まず『風林火山』を潰しに行くぜ」

高林たちは、一階東側のサークル『風林火山』へと向かった。

 

「すまんが早めに終わらせてくれ」

高林たちを出迎えた『風林火山』の鈴木隆光(第一三二期明星寮委員長)は、こんなことを言いながらどんぶりを差し出した。これは、抵抗する気はないので早く酒を注いで先に進んでくれ、という意味である。

「今誰もいなくてさー。一人でみんなの相手するのは大変だから、頼むよ」

と、少々引き気味の鈴木であったが、小板橋がそれを許すはずもなく

「よお鈴木、何景気の悪いこと言ってんだよ。もっとパーッと行こうぜ」

などと言って、鈴木をはがいじめにしてしまった。

「ちょっと小板橋さん。かんべんしてくださいよ」

としり込みする鈴木であったが、結局酒を何杯も飲まされてしまった。

(鈴木さん、見殺しにしてしまい申し訳ない)

高林はそう思ったが、ストームはまだ始まったばかりである。

鈴木を庇って、高林に矛先が向かうのだけは避けねばならない。

一応、ストームの総大将である高林が真っ先に潰れるわけには行かないのである。

心苦しくはあるが、すっかり潰れてしまった鈴木を残し、高林たちは二階へと進んだ。

次に目指すサークルは『山紫』である。


「やあ高林じゃないか。ちょっとこっちに来てくれ」 

こう言って出迎えたのは、『山紫』の斎藤(第一三三期明星寮議長)ほか数名であった。

「まあ、これでも飲みながら話をしようじゃないか」

そう言って、斎藤が差し出したのは、実家から持ってきたワインであった。

高林は、普段酒は全く飲めないのだが、なぜか高級なワインだけは飲むことができた。

今回のワインは、安物にありがちな酸味が全くなく、とてものど越しの良いものであった。

「へー、このワインすごくおいしいよ。実に複雑な味をしているね。酸っぱいだけの安物とは大違いだ」

と高林が言うと、斎藤は、

「そうだろう。俺のとっておきのワインだからな」

と自慢した。

高林(理学部地学科)と斎藤(理学部物理科)は、所属する科は違うものの、関心を持つ分野が同じ気象学であったため、会えば会話の弾む仲であった。

ちなみに、今回はワインを片手に気候変動や地球温暖化について語りあった。そして、これからの気象学は、精密なモデルを作って未来予測をする手法以外では、とにかく事例研究を積み重ねるという方法でしか研究を続けられないのではないかという結論に達した。

ふと、高林が辺りを見回すと、周囲には斎藤のほか誰もいなくなっていた。

話があまりに長いので、高林は置いていかれたのであった。

高林は斎藤に別れを告げ、次のサークル『エルニーニョ』に急いだ。


「よくきたな、高林君。せっかくだから、エルニーニョ伝統のもてなしを君にしてあげよう」 

こう言って高林たちを出迎えたのは、青葉大学の学生運動の中心人物としておなじみの上村聡であった。

上村は、戸棚から直径一メートルはあろうかという大盃を持ち出し、そこに酒をなみなみと注ぎ始めた。瞬く間に、二本の一升瓶が空になった。

「・・・・・・・マジっすか?」

困惑の表情を浮かべながら高林がこう尋ねると、上村は

「マジっす」

と答え、高林に大盃を勧めた。

(こんなもんどうしろというんだ。でも、運命とあきらめて飲めるとこまで飲むしかないのかな)

半ばあきらめの境地で高林が大盃を持ち上げようとしたその時、

「ちょいと待つがいい」

そう言って、高林の行為を制止する者がいた。

副委員長の斉藤であった。

「俺が男を見せてやる」

そう言うと、斉藤は高林から大杯を奪い、いきなり酒を飲み始めた。

皆が見守る中、斉藤は何度も吐きそうになりながらも、なんとか酒を飲みきった。

そして、そのまま倒れ、動けなくなった。

「うむ、素晴らしい。久々に男を見たよ」

これは、斉藤を潰した張本人である上村の感想である。

一方、高林は自責の念に駆られていた。今回は、高林も斉藤から大杯を奪いとり、皆で酒を回し飲みすべきであった。しかし、もともと心臓病で体があまり丈夫でないことが原因なのかもしれないが、高林は酒が大嫌いである。金を出してまであんなまずいものを飲みたがる人がいるなんて信じられない、と常に思っている。その思いが、高林に大杯を取らせることを躊躇させた。結局、高林は斉藤が潰されるのを、ただ黙って見ている事しかできなかったのである。

(斉藤君、すまん。君の犠牲は決して無駄にしない)

高林はその決意を胸に、三階へと向かった。


恐怖のストーム(後編)


多くの犠牲を払いながらも、高林たち一行は、何とか四番目のサークル『新大陸』まで辿り着くことができた。

皆、何杯もの返杯を受けヘロヘロになっていたので、さっさとストームを終わらせたかったのだが、そううまく事は運ばなかった。

お騒がせ人間の小板橋が、さっそくやってくれたのである。

これまでも、寮生に酒を無理強いしたり、鍵のかかったドアを破壊して、無理やり部屋に侵入するなどやりたい放題で、そのうちトラブルが発生するのではないかと危惧していたのだが、ついにここ『新大陸』でけんかを始めてしまったのであった。

発端は、翌日に試験を控えた寮生が小板橋の酒を拒んだことである。

「てめえ、俺の酒が飲めないとはどういうことだ」

小板橋が迫ると、相手の寮生(1年留年しているので小板橋とは同じ年齢)はもともと彼に反感を持っていたらしく

「少しぐらい相手の事情も考えろ」

そう言い残して、ドアを閉じた。

小板橋は激怒した。

こうなると誰も小板橋を止めることができず、ドアは破壊するわ、相手の寮生に無理やり酒を飲ませるわ、周りの物を壊しまくるわでとんでもない騒ぎになってしまった。

酒に弱い高林は、今もなんとかストームについてきている状態なので、騒ぎを止めるどころの話ではなかった。

この騒動は、小板橋と親しい間柄の相澤がなだめることで、何とか収めることができた(小板橋は相澤が属するサークル『酒呑童子』のOBである。小板橋は、明星寮を退寮しても酒呑童子に頻繁に顔を出しているので、酒呑童子の連中とは顔なじみの関係である)。

ただ、この騒動は後日再燃した。

相手の寮生が、小板橋を連れて委員長室に押しかけ、ストームのルール作りと謝罪を求めて議論になったのである。

その際、高林も論争に巻き込まれ、

「委員長なら、行き過ぎたストームは抑えなければだめだ」

と、散々叱られてしまった。

しかし、このことでストームが抑えられるようになったかというと、そうでもなかった。

(ひとたび伝統が作られれば、それはエスカレートするだけで、秩序あるものには戻らないんだろうな)

などと高林は思った。

 

さて、これ以上この場にとどまって再び場が険悪になっても困るので、高林たちは先を急ぐことにした。

高林と相澤が先頭に立ち、

「さっさと終わらせるんで、これだけは飲んで下さい」

と言いながら寝ぼける寮生に酒を勧めまくり、『五丈原』、『わらび』の二サークルを速やかに終わらせた。

次に控えるのは、かつて小板橋が所属していたサークル『酒呑童子』である。

(また、ひどい騒ぎになるのであろうか)

高林はため息をついた。


「皆さん、よくいらっしゃいました。小板橋さんも、ささ、こちらへ」 

『酒呑童子』の人たちの丁寧なあいさつを受けた高林たち一行は、彼らの手荒い祝福(酒を飲まされること)を受けることになった。明星寮の中でも特に酒の強い連中が結集しているサークルだけあって、酒類の充実ぶりは凄まじかった。

この大量の酒でもって迎え撃たれたら、高林たちはひとたまりもなかったのであろうが、運よく小板橋が酒呑童子の連中と酒飲み競争を始めたため、それ以上矛先がこちらに向くことはなかった。高林たちは、ようやく一息入れることができた。

しかし、酒呑童子のメンバーである相澤だけは逃げることができず、結局彼はこの酒飲み競争に巻き込まれて潰されてしまったのであった。斉藤がリタイヤした後、高林が最も信頼していた相澤までダウンしてしまったことは、高林にとって大きな痛手となった。ただ、同時に小板橋も酔いつぶれてトラブルの元が排除されたことは、唯一の朗報であった。

「高林君、あとはまかせた・・・」

そういい残し、相澤はその場に倒れた。

(相澤君、ありがとう。俺は必ずストームを貫徹してみせる)

高林はその思いを胸に、八番目のサークル『自然科学研究会』に向かった。

 

(あと二つ)

最後の力を振り絞り、高林たちは『自然科学研究会』にやってきた。しかし、自然科学研究会の連中は全員逃げていたので、ここはすんなり通過することができた。もともとまとまりのないサークルであったが、今回はそれが幸いしたようだ。

そして、ついに最後のサークルである『人文科学研究会』に到着した。

ここで待ち構えていたのは近藤達彦(第一三二期明星寮副委員長)であった。

「いいかげん待ちくたびれたぜ」

近藤は言った。

実際、ストームが開始してから、既に三時間あまり経過していた。

その間、鈴木・斉藤・相澤・小板橋など多くの人々が倒れていった。

(ここを乗り切れば、ついにストーム貫徹となる。彼らの犠牲を無駄にしないためにも、俺が頑張らねば)

と、高林は思った。

「さて高林君。君にはこれを飲んでもらおう」

そう言って近藤が取り出したのは、ウォッカであった。

グラスに注がれたウォッカのにおいは強烈だった。

(何だこれは。ただのアルコールではないのか?)

一口飲むと、のどが焼けた。

(むちゃくちゃのどが痛いではないか。こんなもの飲めるか)

高林はそう思ったが、ここであきらめたら今までの苦労がすべて水の泡となってしまう。

(ちくしょう、飲んでやる)

高林は、ウォッカを一気に飲み干した。

近藤が何かしゃべっているようだが、よく聞こえない。

周りが突然静かになり、ジジジジという耳鳴りがするようになった。

目の前にホワイトノイズが走ったかと思うと、突然周囲が真っ暗になった。

(ああ、気を失うってこういう事なんだな)

薄れゆく意識の中、高林はそんなことを考えていた。

そして、床に倒れ込もうとするまさにその時、何者かが高林の体を支えた。

斉藤と相澤であった。

二人はなんとか復活し、高林を追いかけてきたのであった。

その後ろから、議長の斎藤も現れた。

「高林は体が弱いんだから、あまり無理する事ないさ」

「そうそう」 

と、三人は言った。

「すまん・・・」

高林は、それ以上の言葉を口にすることができなかった。

「ストーム貫徹おめでとう」

近藤は拍手した。

それにつられて、周りの者も拍手を始めた。

拍手の音は、明星寮中に響き渡った。

その間、高林は、

(ものすごく問題はあるけれど、こういった達成感はストームでしか味わえないんだろうな)

というようなことを考えていた。

(もちろん、無いに越したことはないんだけどね)

と、一言付け加えることも忘れなかったが・・・。

高林たちは一階の委員会室に戻り、ストーム貫徹の全館放送を行った。

「ストーム貫徹!!」

「いえーい」

高林たちは思い思いに叫んだ。

「夜分遅く申し訳ありませんでした。これでストームを終了させていただきま、せん」

「!?」

高林たちが振り向くと、そこには復活した小板橋が立っていた。

「これで終わると思ったら大間違いだ。今夜はとことん俺に付き合ってもらうぜ」

小板橋は不敵な笑みを浮かべた。


小板橋名作劇場 いけない修学旅行


「さて、今夜も小板橋名作劇場の時間がやって参りました。司会は私、小板橋孝弘がやらせていただきます」

プルルルル

委員会室の内線が鳴った。

ガチャ(小板橋が受話器を取る音)

「はい、委員会室。なに、うるさいだと。だまれ、でございます。では、『第一話 いけない修学旅行』を始めたいと思います」


はーい、私エリ。今日は修学旅行で京都に来ているの。

親友のミカってば、この機会に幼なじみの雄一君に告白するんだって意気込んでいたのに、今日になったら

「やっぱりできないよォ」

なんて、しり込みするの。

「雄一君は女子の間で人気があるから、早く告白しないと他の子に取られちゃうよ」

なんて言ったら、ミカも覚悟を決めたらしく、結局告白することになったの。

「でもやっぱりはずかしいよー」

などと、ミカはまだ煮え切らない様子を見せるので、

「あんたはこの部屋で待ってるのよ。雄一君は、私とユキとさおりで連れて来るから。はずかしいなら部屋を暗くしておきなさい。なんならそのまま既成事実を作っちゃったっていいのよ」

なんて言ったら、ミカもその気になっちゃったみたい

こうして気分も盛り上がったところで、私たちは雄一君を呼びに行ったんだけど、そんな私たちの会話を物陰で盗み聞きしている男の子がいたのでした。


(本当におっぱじめやがった) 

高林はいいかげん休みたかったのだが、部屋に戻ったところでうるさくて眠れないだろうし、なにより吐き気と頭痛が酷くて歩くのも困難だったので、このまま委員会室で横になっていることにした。

いよいよ、小板橋のテンションも上がってきた。


さて、物陰で盗み聞きしていた拓郎君は、まんまと雄一君と入れ替わることに成功し、ミカが待つ部屋にやってきたのでした。

暗闇の中で二人きり・・・

そんな中、パニックに陥ったミカは、告白もそこそこに拓郎君に抱きついたのでした。

一方、拓郎君は慣れた手付きでミカの服を次々と脱がしていきました。

そして、拓郎君はミカの体に舌を這わせたのでした。

 

以下省略


突然、不安に駆られた私たち三人は、ミカの部屋へと急ぎました。

ドアを開け、電気を点けると、そこにはミカと拓郎君の姿がありました。

私たちは逃げまどう拓郎君を取り押さえ、彼にこう言ってやりました。

「よくも私たちを騙してくれたわね。こうなったら、私たち全員を満足させるまで絶対帰さないんだから」


プルルルル

委員会室の内線が鳴った。

ガチャ

「はい、委員会室。なに、さっきの面白かったから早く続きを聞かせろだと。では、引き続き『第二話 いけない家庭教師、今日パパとママがいないの』をお送りします。おりゃ、行くぜ」

(もういいかげんにしてくれー)

明星寮の夜はまだまだ続く。


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