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あなたは神を信じますか?  作者: 唸れ!爆殺号!
第7章 ミステリーオブラウンズ
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82話 会議は殴る、されど進まず

「皆の物、よく集まってくれた…………先日、マテリアから使いの者がやってきたときは、覚悟していたとはいえ腰を抜かしそうになったが…………この顔ぶれを見ると安心するのぉ」


全面を白で覆われた、ここ聖ケトラコル城の中でこの部屋は異質であった。廊下は白い大理石もどき、壁は一面真っ白の魔導白金で建造されているこの超巨大な城は、外装も内装も、そして客室の家具や調度品、よく見るとシャンデリアまでもが全て『白』で統一された、病的ともいえる白への執念の中、ともすれば俺たちですら白くなってしまうのでは、と危惧してしまうほどの白の中で。何度でも言おう、この部屋だけは、異質だった。


「マイルドン、今にも魔王が動き出すかもしれないというのにホッと一息ついてる場合か!?我らは今世界の危機に立ち会っているのだぞ!?」


これまで散々白を強調してきた癖に、と思わなくもないし、またこの対比が何か、引き込まれていくようなこの感覚に一助を加えているのかもしれないとも思うが………デザインに疎い俺ではよく分からない。ただこの部屋は、確実に何かがおかしい気がした。


「おおベン!久しいな、もう前回会った時から五年は経っただろう?まあ今は落ち着け。まずは私が音頭を取らねば。なにせこの会議の主催者だからなぁ」


聖ケトラコル城のど真ん中、いくつもの尖塔に囲まれ、いくつもの城壁に囲まれ、そして俺たちの宿舎にすら囲まれた、正真正銘のど真ん中の、超巨大ホール。そこには、視力が悪いと反対側の人間の顔がよく見えなくなるほどに巨大な…………計三百八十席を備えた、もはや会議どころか上に立ってサッカーできそうなほどの大きさの円卓が鎮座していた。そんなものもそんなものだが、そんなものが入ってしまうこの巨大ホールにも度肝を抜かれたものだ。最初は東京ドームと見間違えた。否、それ以上の可能性もあるな…………ちなみにここは先日食事をとった部屋ではない。あれだけの広さの部屋がサブの部屋というのも豪勢なものだ。


「うむ、それでは一つ、先日受けたモルフォエル神の神託でも…………」


しかし、それもまだ想像の範囲内ではあった。これだけデカい城に、これだけの人数がいるのだ、その人数が収容できるだけの会議場であることは分かっていた。だがしかし。


「おいマイルドン、また踊りの神髄とやらか?モルフォエル様はよくもまあそんなにお前にばかり踊りについて教えてくださるなぁ。俺も人生で一度くらいはかわいい妻と踊ってみてぇぜ」


なぜか威厳の欠片もないこの国の元首にしてモルフォエル教の教皇、マイルドン・スラスターが、綿あめもかくやというほどの白いひげをもふもふさせながら各国のお偉方に絡まれる、いつものお約束らしき茶番を無視し、天井を見上げる。


「おに……お姉様?先ほどから上ばかりご覧になられていますが、どうかなさったのですか?」


俺が何度も上を見上げるのを不審に思ったのだろう、隣の席に座るアリアが俺に声をかけてくる。別に「知らない天井だ…………」をリバイバル上映していたわけではない。だが、天井に描かれたあの()を見れば誰だって一度は突っ込まずにはいられないだろう。


「アリア、あれ、何だと思います?」


俺は小さく指を上に挙げて、天井を指さして見せた。


「………………?何って、壁画…………というより天井画ですが、それがどうかしたのですか?」


どうやらアリアには分からないらしい。それはそれでいいのかもしれない。そういえば、確かにこの世界に来てからは見たことがなかったな…………


「おっと、これもご所望ではなかったか?ならばもう前置きも気にせず始めるとしよう。諸君、王たる印を外したまえ!」


マイルドン・スラスターの宣言を聞いた各国の王たちが、頭に載せていた王冠や徽章のついた立派な服を脱ぎ、傍から見ればただのおっさんの集いにしか見えない姿になっているのも気にせず、俺は天井を眺めていた。


白と踊りと豊穣の国、ルーセリア聖王国。そしてそんなルーセリア聖王国が誇る超巨大建造物聖ケトラコル城の超巨大ホールの天井に描かれていたのは。


「…………ゴキ〇リにしか見えないですわ」


あれほど白を前面に押し出しておきながら真っ黒な壁と床、そして天井でモルフォエルらしき女神と舞い踊る黒い光沢を見て、俺はまたしてもこの世界に愛想を尽かそうとしている。


「これより、世界会議を開始する!」


「「「「「「おう!」」」」」


まるで応援団だとでもいうかのような豪快な開始宣言をする王たちがこの事実に気づくのはいつなのか、それとも永遠に気づけないのだろうかと思案にふける俺を置いて、世界会議の始まりの火蓋が切って落とされた。



時は戻って会議開催当日の朝。


俺は昨晩の出来事を思い出して苛立っていた。


「あの男性、次見つけた暁には生身で銀河横断旅行をさせてやりますわ!アリア、会議さえ終わってしまえば消してもいいですわよね!?」


「お兄様が怖いです!」


「落ち着け魔女殿…………確かにあの男は許せんが、ほかの参加者から聞くにあの男はああして相手を怒らせて攻撃させ、それを口実に従わせるような男だというではないか。ならば我々からは手出ししないのが得策だ。手を出されなかった上に魔女殿のあれほどの魔力を眼前で浴びたのだ、数日は恐怖で魔女殿の姿すら視界に入れられまい。その間に会議を終わらせ我々は帰るとしよう。…………殺るのはそれからでも遅くはあるまい!」


「お父様も怖いです!!」


「アリア様、落ち着いてください。でもお二方はアリア様のためを思ってこうしてお怒りになられておられるのですよ?かくいう私も、今でもここで怒りが煮えたぎっておりますよ!あの御仁、わた…………アリア様を古く…………まるでダメだなどと!!!」


「マイルは………もう少し隠すことを覚えましょうか」


と言ってメイド長…………もといマイルさんが自分に言われたことにしかキレていないとバレバレの言葉に対して笑いながらそう呟くアリアが一番怖かった。


現在俺たちは、昨日提供してもらった水の中の部屋でメイデルさんに髪を整えてもらっていた。水の中だというのに息もできるししゃべりやすいし、歩くのも泳ぐのも楽なこの空間は、言うなれば都合のいい宇宙ステーションのようだった。髪もなぜか綺麗に下に流れて揺らめいたりはしないし、誰かが動くことによる波も発生しない。しかしそれでも少し飛び上がれば浮遊できる、まるで夢のような部屋だった。そんな部屋の中で過ごした一晩だったが、泳ぎ回る魚たちが俺の魔力に中てられたのか俺のほうばかりによってきてかゆかったのであまり眠れなかったことは内緒だ。ちなみに今魚たちはグレイのやる餌にくぎ付けなのでこっちには来ない。安心して髪のセットもしてもらえるというものだ。


「そういえばお兄様、先ほどお姉様たちのお部屋に行ってきたのですが、何やらヨミ様が伝えたいことがあるそうで…………あとで聞きに行ってあげてください」


「ええ、分かりました。それではついでに昨日の男性についてリサーチでもしてくることにしますわ。うふふ、さて、どんな目に合わせて差し上げるのが最も効果的かしら…………メイデル、会議まではあとどれくらいの時間がありますの?」


「ええと、会議は十時ごろの予定ですので、あと二時間はありますね。ですが準備もありますし二十分前には戻ってこられるようお願いいたします」


と、そうメイデルが答えたのに合わせて俺の髪のセットが終わったようだ。


「魔女殿、もしあやつを見つけたとしても手を出してはならんぞ?魔女殿はそういうところは変に子供っぽいので心配なのだが…………」


魚に餌をやり終わったのか、少しほくほくした顔で俺をたしなめてくれるグレイ。しかし俺も流石にそこまで馬鹿じゃない。アリアがああして止めてくれた、その思いを踏みにじれるほどの屑でもない。


「分かっていますわ、グレイ様。…………それでは、私行ってきますわ!」


「はい、お気をつけて!」


かわいい妹が手を振ってくれるのに手を振り返しながら扉を抜けて外へ出た俺は、綺麗なドレスをはためかせ、しかし落ち着きと上品さを忘れず、ヨミのいる部屋へと向かった。



事前に聞いていたヨミの部屋と番号が合致することを確認してから、俺たちの部屋と比べればいくらか質素な扉をノックする。


「ヨミー!私ですわ!」


もちろんあまり大きな声を出すのははしたないので、ギリギリ聞こえるくらいの声量でヨミを呼び出す。


「主か?今出よう」


扉一枚を隔てているからだろうか、少しくぐもって聞こえるヨミの返事を聞き、少し扉から距離をとる。ほどなくしてヨミが出てくると。


「待たせたな…………主、やはり今後はこういった格好を控えてくれると助かるのだが…………」


何がそう不満なのだろうか?俺のパーティーメンバーからはすこぶる不評な俺のお嬢様の姿だが、俺はもうあまり気にならなくなってきているというか、ユリアに扮するというこの状況をかなり楽しんでしまっているのでしばらく抜けなさそうだ。


「というわけで、慣れていただくしかありませんわね」


「………………そうか」


なぜかため息を吐くヨミに部屋の中へと招かれ、言われるがままに椅子に腰かける。軽く見渡してみると、それほどの広さではないものの、お高い宿の一室だと言われても信じられるくらいのクオリティではあった。ベッドと椅子と机、全身鏡やクローゼットなど、必要なものはあらかたそろっているし、ソルスたちの部屋と同様絵画が飾られていた。あれは雪山だろうか?暗い空から降りつける白い雪の中、一人瞳を閉じ、地面に座り込む老人の絵画だった。この絵が何を表しているのか、それとも特に何かあるわけでもないのか俺には分からないしそもそも興味もないので視線をほかに移す。なにより気になるのは机の上に置かれた謎の水晶玉だが…………まだ口を出す時ではないだろう。


俺が部屋に一脚しかない椅子を占領しているので、ヨミはベッドへと腰かけ、口を開いた。


「主、単刀直入に言うが…………今この状況、既に何かがおかしいぞ」


「私の現状を除いてもなお?」


「ああ、なお、だ。明らかに何かが動いている。痕跡こそ隠してはいるが、いくつか違和感のある点を見つけた。それに加えて今のドラゴニアの状況は、下手をすれば足元をすくわれかねないぞ」


まあそんなことだろうと思ってたが。


「そこら辺については、あまり私を舐めてもらっては困りますわ。昨夜のあの男性、言動におかしなところがありましたものね。彼の名前はギルフォード・テスタロッサ、ここルーセリア聖王国に隣接するメドゥラ帝国内で公爵として強い権限を持つギルフォード家で、領民から一番支持されていない領地継承候補者…………そしてつい最近、ギルフォード家の現当主が亡くなり、今は継承権を賭けて兄弟姉妹で大戦争中らしいですわ」


「…………なるほど、そちらについては調べがついているというわけだな。だが主、私の抱いた違和感は、そこじゃない。私たちがこの城へ入るとき、妙に検査が甘くなかったか?」


「まあ言われてみればかなり簡単な検査でしたわね…………ですけれど、それがどうかしましたの?一応今の私たちはVIPなのですし、聖王国川としてもそう疑ってかかることもできないというだけでは?」


そう楽観的な返事を返す俺に対して、ヨミの表情は真剣そのものだった。


「主…………これは私の勘にすぎないが、もしかしたらあの時、検査などしていないのではないか?一応彼らの動きには気を払っていたし、その際不審な動きをしている様子はなかったが、もしあれが検査という名の品定めなのだとしたらどうだ?」


「品定め…………ってまさか」


俺はこの時、アリアに聞いたあの言葉を思い出していた。


『世界の全てが集まりし時、欲望と混沌渦巻く地に世界で最も美しいお宝を頂きに参上します』とだけ書かれた予告上、世界を股にかける、神出鬼没の大怪盗…………


「ああ、あそこにいたのは、イレーヌ・ペルンなのではないか…………ということだ」



「しかしマイルドン、お前はまた一段と髭の量が増えたな。まあ髪を犠牲にしているのだから差し引きマイナスといったところだがな。わはははは!!」


「何度も言わせるな、私は髪は自ら剃っておるのだ!」


「それはそうとしてクロノ、魔王ってのはどんな感じだったんだよ?やっぱりでっけえ化け物なのか?」


「いやいや、そこはやはり王として気品ある姿でいてもらわねば、魔王とはいえど我々と同じ王を名乗るものとして捨ててはいけぬ矜持というものがあるからな」


「人間の常識で図るのはどうかと思うけどねぇ。でも僕も直に見たわけじゃないから何とも言えないなあ」


「私は一応ちらっと見たけど、人型ではあったわね。二足歩行だったし顔っぽいのもあったわ」


会議は難航していた。


ほかの何によるものでもなく、王たち自身の緩さのせいで。


「お父様、半分以上関係ない話な気がするのですが……………」


「うむ、こいつらは基本バカであるからな。まじめな話は苦手なのだろう。我もいつも早く本題に入らないかとイライラしながら待っておるぞ」


「おいグレイ!今バカって言ったろ!?お前こそ単純筋肉バカのくせに!」


かなり離れた席から耳ざとくグレイの言葉を聞きつけた、マイルドンの近くに座る男が、昨日出会ったクソ野郎と同じ言葉でグレイを罵倒する。もちろんあのクソ野郎とは別人である。当のクソ野郎はこの会議に出席していないようで、いくつかの空席が目立つ円卓に座る人々の中にあの憎い顔は見つからなかった。おおかた怯えて欠席しているのであろう。


「ベイタル!貴様よくもあの男と全く同じ言葉を口走ったな!貴様の愚弄したこの筋肉で、その両腕引きちぎってくれる!」


「ちょ、待て本気かグレイ!?ちょっとからかっただけで………………」


「落ち着けグレイ!ここでは暴力はきんぶふっ!?!?」


グレイを止めに入った勇敢な男性はグレイの筋肉を前にあっけなく敗北した。そしてそれを見たほかの王たちにも火がついてしまったようで……………


「やったな貴様!我が盟友リプシルをよくも!」


「行け行け―!やっちまえ!」


「お前たち、いい加減にしないか!ここは神聖なる弁論のばふぉっ………………」


理知的そうな眼鏡の男性が止めに入るも吹き飛ばされる。それと同時に、彼の中で何かがキレる音がした。気がした。


「………………殴る、殴る殴る殴る殴る殴るぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


こうして止めに入るものもいなくなり、俺たち含む女性陣(我らがマテリア王国王妃マテリア・ルージュ・オリアナを除く)とクロノ、そして老体のマイルドンを除いた大乱闘に発展した。


「おに……お姉様、男性というのは皆こういうものなのですか?」


「そんなことありませんわ。ここに集ったほぼすべての男性がバカだっただけですから」


俺とアリアは同時にため息を吐いた。


世界会議初日、終了。


どうも皆さまお久しぶりです。唸れ!爆殺号!と申す者です。特に話すこともありませんが、初見さんに向けて説明しておくと、このお話は基本この空気感で進みます。時たまシリアスになるくらいです。次話も『まだ』こんな感じです。

それでは、また次回の更新でお会いしましょう…………

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