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あなたは神を信じますか?  作者: 唸れ!爆殺号!
第7章 ミステリーオブラウンズ
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エイプリルフール特別編 ウィッチ・イン・ザ・ミラー

「んぅ………………うん………………」


開かれたカーテンからはさんさんと陽光が照り付け、朝の訪れを知らせてくれる。ここ最近夜遅くまで起きて昼間で寝るという自堕落ここに極まれりといった感じの生活をしていたので、朝日を見るのは久しぶりである。


ヨミやメリルに無理やり起こされることもなく、かといってユリアの爆音で目を覚ますでもない、至極マイペースな朝に言いようのない充実感を覚えながら階下へと向かった。


「ふぁー………おはよー」


最近涼しくはなってきたがまだまだ夏の暑さは抜けきっておらず、今の俺の姿はダボダボのシャツとパンツのみだ。男が見れば朝の起立どころでは済まない大事態になるような格好であるが、あいにく今、俺はその格好をする側である。ちくしょう。


と、長々と俺の性癖について語っている間に気づいたのだが、この家から全く物音がしない。皆はどこに行ったのだろう。ソルスやメリルはともかく、早起きのヨミやユリアすら階下にいないというのは珍しい。まだ寝ているのだろうか?


寝起きであまり働かない体に鞭打ち、ふらふらと洗面台へと向かう。


顔を洗ってさっぱりしたところで、やはり今の状況に何らかの違和感を感じた。誰も起きていないだけならともかく、誰かの存在すら感じ取れないのだ。長年磨いてきた俺の感覚は、既に獣すら凌駕する域に達している。ベッドの上で身じろぎでもしようものならすぐに気付けるのだが、それが全くない。


………………一応見に行くか。


二階に位置するみんなの部屋を見に行くために階段へと戻る。すると、そこに鏡があることに気が付いた。


「鏡………………?」


こんなところに鏡など、昨晩までは確かになかった。だとすればなぜここに……………


先ほどからよく分からないことだらけだ。


一旦鏡は置いておき、先に一度仲間たちの部屋を確認しに行く。しかし、案の定というべきか、常日頃から喧しい彼女たちの姿があるはずもなく、部屋はもぬけの殻だった。残された家具だけをぼーっと数秒眺め、また次の部屋へ………………と四度繰り返し、四回とも同じ結果だ。明らかにおかしい。


「そうだ、スバルは……………?」


急いで自室に戻り、ほかの皆とは違い、俺の部屋の衣服掛け(九十四代目)のてっぺんにかかっているスバルを深くかぶった。


おい、スバル!聞こえてるか!?聞こえてないなら聞こえてないって返事しろーー!!!


返事はなかった。


もちろん、聞こえているという返事も。


つまるところ、だ。


今この家にいるのは、俺ただ一人………………


と、謎の鏡だけである、ということになる。


さて、それじゃあ早速あの鏡を調べに行こうか。


階段下に戻り、改めて鏡を見つめる。学校にありがちな壁に引っ付いてるタイプではなく、床に置くタイプのでっかい鏡である。全身鏡というやつだ。俺の体が頭からつま先までまるっと映っている。周りには紫の、あまり見たことのない、どちらかというとあまり好む人間の少なそうな装飾が施されていた。甲羅のない亀、爪と歯を抜かれた虎、杭に穿たれた龍、そして羽を奪われた鳥………………うーん、不快。


しかし、装飾以外に特段不可解な点はない。裏に何か仕掛けがあるわけでもなく、持ち上げても何も起きなかった。


「はてさて。いったいどうしたものかね………………」


鏡の前に座り込み、この後について思案する。


ふと鏡を見やると、鏡に映る俺と目が合う。当たり前のことだが、何か少し、違和感がある。なんというか、こう………………ズレている。何がと問われると難しいが、何となくズレている。そんな気がするのだ。立ち上がり、もしや鏡面に何かあるのではないか、と手を伸ばす。


鏡面に触れるか触れないかの位置まで来たとき、()()()()()()


「は?」


鏡の中から伸びるその手は、間違いなく、ただし微妙なズレを伴いながらも俺の手だった。強く掴まれた腕を引こうにももう遅い。そのまま引っ張られた俺は、鏡の中へと引きずり込まれてしまった。



「うぅ…………ここは………………」


俺が目を覚ましたのは、謎の空間だった。紫の壁に紫の床の部屋で、紫のソファに紫のクッションが置かれている。しかし、その中でひときわ異彩を放つのが、周囲に無数にある白い靄のようなものである。見渡す限りどこまでも、いくつでもあるこれは、一体何なのだろうか。


「よぉ、やっとお目覚めか、(破創の魔女)。随分とのんきだなぁ」


先ほどまで空席だったハズのソファから声が響く。俺の………………今の声ではない、かつて男だった時の俺の声だ。変声期が来てもあまり声が低くならず、微妙な高さで地味に聞き取りにくい、懐かしい声だ。しかし、俺の前でソファに腰かけるかつての俺の声を発する存在は、今の俺の姿をしていた。


「あー、困惑してるな?してるよな?ったく、他人が焦ってる姿ほど面白いものはないって言うが、自分が焦ってる様も傑作だな!だはははは!!!!」


………………少なくとも性格までは俺ではないようだ。俺こんな性悪じゃないよ。ほんとだよ。


「さてと、それじゃあ説明してやろう。さっきお前は鏡の中に引っ張り込まれたわけだが………………もちろん俺が連れてきた。理由は単純、お前に見せたいもんがあるからだ」


見せたいもん?この一面紫の世界ですでに十分非日常だが、この口ぶりからするとどうやらこの白い靄のほうが関係しているようだ。


「流石俺………………いや、()()()()()()()()()()というべきか?ご明察の通り、この白いのが今回の本題だ。これに関しては見たほうが早え」


いつの間に移動したのか、先ほどまでソファに腰かけていたはずの俺(偽)の体がすぐそばまで来ていた。


「それじゃあ早速………………行ってきやがれ!」


「ちょっ!?まだ心の準備が………………」


無理やり押し込まれ、白い靄の中に全身が収まってしまう。出ようと歩くが、歩けど歩けど先ほどの部屋にたどり着かない。視界は依然真っ白である。


そのまま歩き続けて一分ほどたったときだろうか。ふと、前方に光が見えた。出口だろうか?


この際何でもいい。俺は光に向かって駆け出した。





「こ、ここって………………」


靄を出てすぐ、俺は先ほどの光の正体に気づいた。


眩いばかりの電飾、夜だというのに、暗さをどこかに忘れてきたかのような景色を見て、この場所がどこか一瞬で理解した。


「東京だ………………」



少し歩き回ってみた結果、今はちょうど異世界で過ごした分の時間がたっているようだった。それにどうやら俺の姿は誰にも見えていないようだった。今ならあんなことやそんなこともできてしまうわけだが、流石に自重した。


歩いているうちに、いつの間にか俺の家の前まで来ていた。俺の家は東京の繁華街から外れた、とても東京とは思えない自然の豊かな地域にある。閑静な住宅街の中の一つに、五百年前までは何度も見た家が、五百年前と変わらず残っていた。


この姿だとなぜか浮遊できるので、俺の部屋のある二階に向けて飛んだ。それに加えて壁も貫通できるので、しっかり貫通させてもらう。


「だぁーっ!何なんだこのクソゲーは!明らか調整ミスだろ!勝たせる気ねえじゃねえかよぉぉ!!」


スマホゲームにブチギレている俺がいた。あぁ、なつかしいな。そういえばあんなゲームもやってたっけ。


「ちくしょう、二度とやるかこんなクソゲー!サ終しろ!」


という割にはまたやり始める俺。ツンデレだねえ。


いや誰がツンデレだよ。


「よぉ、中々楽しんでるみたいじゃねえか」


「うお!?お前どっから出てきてんだよ!」


なぜか俺の真後ろに現れた俺(偽)。ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら俺の肩に手を置いてくる。


「もういいだろ?次行こうぜ次」


「急だなおい。まあ確かに特に何の変哲もないけどさ」


「よーし、そんじゃ決まりだな。ほら、手掴めよ」


強引に話を進める俺(偽)。どちらにせよ従うほかないので腕を掴む。強く引っ張られたかと思えば、次の瞬間には紫の部屋に戻ってきていた。


「さて、まあ見せたいもんについてはなんとなくわかってきたんじゃねえのか?」


「まあな………………」


先ほどの感じから行くと、どうやらこいつの見せたいものというのは『何かあった世界線の俺』であるようだ。つまり今の俺が別の選択をした世界線、ということだ。


「で、どうすれば俺は元の世界に帰れるんだ?さっさと教えろ」


「おいおい、急に不機嫌になってどうしたんだよ・カルシウムが足りてねえんじゃねえのか?」


最初から浮かべている嫌らしい微笑を崩さぬまま、なれなれしい態度で俺に近づく俺(偽)。


「もう、分かってんだろ?ここは俺の世界だ。俺が許可するまで出られねえし、出す気もねえ。お前には全部を知ってもらうぜ、オリジナル(最善の未来)。よーし、そんじゃ次、行ってこい!」


俺(偽)が指を鳴らした途端、白い靄に包まれる。魔法も破壊スキルも創造スキルも効果がないことを確かめ、俺は全てを諦めることにした。



「スズキリンさん、あなたは長い闘病生活の末、亡くなられました。この先、何不自由ない健康な体とともに異世界で生きるか、それとも天国と地獄の審判を受け、そのどちらかに向かうかを選択できます。さあ、選びなさい」



「何で!何で俺が!どうして!どうして俺が!こんな目に遭わなきゃならねえんだよ!」



「リン、くん………………生きて、いたのですね………………よかった。………………でも、私はそれ以上に、たくさんの………………大切なものを、壊してしまった。………………あなたの、せい、です………………」



「スズキリン………………お前には失望した。僕の仲間を傷つけ、そしてこの世界すらも葬ろうとしていたのは、魔王じゃなくて、お前だったんだな」



「すみ…………ません、お師匠様……私が、我儘なばっかりに………………」


「お姉様!いや!お姉様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



「主。私はどうすればいい?何をすればいい?いつすればいい?どこですればいい?どちらを選べばいい?何を基準に、何を求めて、何をすればいい?」



「スズキくん。君に、全てを託すよ。あの化け物を………………私たちの敵を、殺してくれ」



「魔女様、私なんかでよかったのですか?あなたにはきっと、私より素敵な女性がたくさん………………そうですか。ふふっ、まさか私がそんなことを言われる日が来るだなんて………………」


「魔女様、愛しています。この世界の、誰よりも!」









「………………………………………………………………………………………………………………………………おぇ」



「よぉ、俺。随分こたえたみたいだなぁ。いい顔してるぜ、お前。カメラがあれば容量の限り連写してやりてえぜ」


俺の笑い声が響く。いや、俺(偽)の笑い声かもしれない。はたまた五百年に耐え切れず壊れた俺だろうか。それともソルスと平和に対話できた俺なのか。もしかしたらドラゴニアを守れなかった俺か、転生初日で死んだ俺という可能性もある。


「おーい、聞こえてるか?………………あー、ダメか。こりゃ壊れちまったな」


「………………………………んで」


「お?なんだなんだ?」


「………………なんで………………()()を見せた」


俺の言葉を聞いた俺(偽)が、今まで以上にいやらしく、満面の笑みを浮かべた。


「もちろん、お前の反応を見て楽しむためさ。俺はもう、こっから出られねえからな。ただ、それだけじゃねえ」


一拍置いて。


()()()()()()()()()()()()()()()()ってことを伝えたかったのさ。オリジナル………………いや、違うな。お前はもうここに来ちまった。全部を知った世界線の俺?って訳でもねえし………………ああ、分かった」


一人でぶつぶつとつぶやき続ける俺(偽)。その顔には、もはや狂気の産物としか思えない、醜い笑顔が張り付いていた。


「………………ひっ」


「お前は、捻じ曲げられた世界線、だ」


捻じ曲げ………………られ、た。


「………………ま、さか」


「ああ、ああ、そういうことだよなあ!そういうことだろうなあ!そういうことしかありえねえよなあ!なんて面白い!なんて素晴らしい!なんてタイミングだ!信じられない!これだけが俺の生きる理由だ!………………帰りたかったんだろ?帰してやるよ。今すぐにな」


俺(偽)が指を鳴らすと、つい先ほど………………と言っても既に数百年ではきかない年月を過ごした気がするが、その前に見た不気味な紫の縁の鏡が現れた。


「やめろ、いやだ!もう、殺してくれ!」


「やーだね。それにお前、死んでも死なねえじゃん」


実に楽しそうに笑う俺(偽)。その笑顔と対照的に、鏡に映る俺の顔は吐しゃ物と涙に塗れた地獄のような形相だった。


「じゃ、楽しめよ。正規ルートから外れちまった、お前の世界線をよ」


鏡がひとりでに動く。それとも誰かが動かしているのかもしれなかったが、この際関係ない。砕けた腰に力を入れて逃げようとするが、俺の体は動かない。そうこうしている間に、鏡は眼前に迫っていた。その鏡面は美しく磨かれ、世の全てを虚像として映し出す。どこまでも続く虚構の世界が、真実だったはずの俺を喰らう。鏡面に全身を吸い込まれ、俺の意識はそこで途絶えた。



「………………様、………………起きて………………()()()!」


ハッと目を覚ます。


「あ!よかった………………目を覚ましたんですね。何度呼んでも起きないから心配したんですよ」


開いているはずの眼に映ったのは、長い金髪で碧眼に不安を浮かべるユリアの姿だった。


先ほどのは、夢だったのだろうか。


ベッドの上に寝転んでいる状態だったので、体を起こし、あたりを見渡す。俺の部屋だ。まごうことなき俺の部屋。


とりあえず一安心できる………………と思ったが、何かおかしい気がする。


一旦階下に降りてみることにした。


何故か少しユリアと距離を感じる。気のせいだろうか。


「あぁ、主か。全く、最近少し寝すぎなのではないか?もう少し早く起きてくれないと………ど、どうした?」


「あ、すまん。なんでもないんだ」


先程の地獄を抜け出した喜びに浸っているのを何とか誤魔化す。


「おはようございます。と言ってももう昼ですが………これではリンくんも私を寝坊助だのと言えませんね!」


何故か嬉しそうなメリル。どうやら不審に感じているようなヨミ。そして今日も可愛いユリア。




………………………


「ソルスは?どこ行ったんだ?」



「ソルスって誰ですか?」


「存じ上げないお名前ですが………お知り合いですか?」


「主………実は寝不足だったのか?ならそう責めはしないから、ちゃんと寝た方がいいぞ」









と、言うわけでエイプリルフール特別編 ウィッチ・イン・ザ・ミラーでした。いつもとは作風を変えて、微ホラーといった感じにしてみました。

というかエイプリルフールは午前までって本当ですか?執筆に時間がかかってしまって午後になってしまいましたので本来のエイプリルフールの趣旨とは外れてしまうかもしれませんが、どうかお許しください………それでは、次は本編の更新にてお会いしましょう。

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