71話 あなたが星獣なのですか?ー…………
青く、どこまでも続く海。今日も穏やかな風に吹かれ、優しく波打つ大魔海は、遥かな先で空の青と入交じり、やがてあいまいに溶けてつながっているかのように見える。
だが、一つだけ。
この平和な青空を切り裂く流れ星が、猛烈な水しぶきを立ててこの地、太陽の上る島アーチェ島へと迫っていた。まあ流れ星と形容するにはあまりにも近く、あまりにも物騒な見た目で、あまりにも巨大ではあるが。
「シロウさん、あいつが…………」
俺のすぐそばで水しぶきを眺めるシロウが頷く。
「ああ、間違いない。あの巨大な図体、そしてこの圧力…………上位の星獣、『黄道十二使』が一角、アクエリアスだ!」
設定盛りすぎでは?星獣ってだけで面倒なのに、上位だの黄道十二使だのついてると余計強そうなんだが…………
(肯定、黄道十二使はブイシファクに次ぐ実力を持った星獣たちです。マスター、ご用心ください)
ほーらね。
なんて言ってる間にも水しぶきは接近を続ける。
かつて半分食らった島を食らいつくすため…………って今更だけどデカすぎでは?
既に水しぶきは数百メートル先まで迫っているが、その高さは優に数十メートルは超えており、まるで水上竜巻と見間違うほどだ。それだけで十分奴のデカさが分かるが、更にヤバいのがその長さ。水しぶきは奥のほうまでどこまでも立ち上がっており、メートル単位で済むデカさではない。
そして、ついに目前に到達し、奴が水中に会ったその姿を見せる…………
………………ああ、なるほど。こりゃ島も食えるわ。
黄道十二使が一角、アクエリアスは。
顔だけでアーチェ島よりデカかった。
◇
毎度の如く美味い昼飯を二人でいただいているとき、その知らせは届いた。
「おい!リン、シロウ、いるか!?」
バァン!とすごい音を立てて扉を開いたのはネイファだった。そのとても少年には見えないかわいらしい顔に焦燥を浮かばせ、血走った目で俺たちを見やる。
「ふぉおれいふぁ、ろうひたんら?ひふぁおれふぁひめふぃふっへへ…………」
「うっ!?リン!今日もお前は俺の心に巨大な矢を突き立てて………………じゃなくて!」
「鼻血が出ているよ…………」
「うおっと、ほんとだ」
袖で鼻血を拭い、ネイファが続ける。
「お前らに知らせがある。これはついさっき入った情報なんだが……奴が、来た」
その瞬間、家内に緊張が走る。
奴って言うとつまり……
「シロウさんの仇敵、星獣……ですか」
口内の咀嚼物をゴックンと嚥下し、雰囲気に合わせて呟いてみる。
「ああ、そうだ。予想じゃもう少し先だったんだが、思いのほか早く来やがった……奴がここに来るとすればもうあと数時間もない。唐突だが……覚悟は、できてるか?」
俺としてはもう少し先の予定だったしちょっと待ってほしい感じなのだが、来てしまったものは来てしまったのだし、そんなことを言える雰囲気でもない。俺の雰囲気感知センサーは間違っていなかったようで、箸を置いたシロウが立ち上がると、一言。
「行こう」
と、呟いた。
ネイファにも落ち着きが戻り、覚悟を決めたシロウを見て安心したかのように頷いた。
「ああ、俺が案内するからついてきてくれ。…………シロウ、リン、俺は戦いに向いてねえから、お前たちの戦闘の手助けをしてやることはできねえ。だが、お前たちの無事を一番に願ってる。…………アーチェ島を、この島を、頼んだ」
「ああ、任せとけ。星獣だろうが何だろうが、この俺が消し飛ばしてやんよ!」
腕を組み、ふんすっとどやって見せる。
「流石だぜリン、惚れ直しちまいそうだ!」
「はは…………」
戦いの前だというのに緊張感の欠片もない俺たちを見て、シロウが苦笑をこぼす。だが、俺はこれくらいがちょうどいいと思う。たとえ世界を救う聖戦の前だとしても、俺はこんな風に軽口を言い合って笑いあっていたい。
そんな明日が、必ず来るとは限らないのだから。
◇
そして、冒頭に戻る。
あの後しっかり昼飯を平らげ、元気もりもりってな具合で星獣が現れるという海岸に歩を進めたのだが、まさかこれほどまでの大きさとは思ってもみなかった。蜷局を巻いたような姿勢で浅瀬に鎮座し、俺たちに向けて咆哮する星獣アクエリアスの姿は、体の半分以上を巻いたにもかかわらずこの世界のサイズ間ですら異常な大きさだった。
「スズキくん、来るよ。先に言っておくが、奴らに魔法は通じない。魔法は言ってしまえば彼らの力の下位互換だからね」
それって結構重要な情報では?今更が過ぎると思うんですけど?
だなんて言ってる場合でもない。
「分かりました、素手で何とかしてみます!」
正直何とかなるだなんて微塵も思っちゃいない。ここまでくるとあてにできるのはシロウの剣技だが、それも未知数なところがあり、火力面を完全に任せきるのは得策とは思えない。どうするか…………
「スズキくん!」
シロウの言葉で我に返り、視線を戻すと、俺の目の前にはバカみたいな威力のビームが………………
「っぶね!?シロウさん、ありがとうございます!」
「気を付けたまえ!奴の攻撃はほぼすべてが致命傷だと思いなさい!」
シロウの言葉に何ら間違いはない。今放たれた攻撃は、たとえ俺が受けていても一撃で消し飛ばされていただろう。そう、皆さんお察しの通り…………
「魔力にあらざる何か………黒いロボットが持ってたあれか」
まさかこんなところで再びお目にかかることになるとは思ってもみなかった。奴が行使していたあの力に似たものをこいつからは感じる。それすなわち、俺には防御できないものである。
「魔法も効かない即死攻撃持ち………………もうだいぶチートじゃね?」
再び放たれたビームを今度は危なげなく回避し、お返しとばかりに創造スキルで物量攻撃を叩き込む。奴の頭上に魔方陣が現れ、巨大な岩をいくつも落としてみる、が。
「まぁ効かないわな…………」
文字通りの化け物じみた大きさの前には、俺たちが感じる大きいなんて質量は屁でもないらしく、まるで雨か何かのように気にも留めずに浴び続けている。
「いや、スズキくん、私が活用させてもらうよ」
今まであまり動きを見せなかったシロウがついに動く。俺が生み出した岩たちを足場に、どんどん中空へと駆け上がっていく。瞬く間に奴の顔面近くまで到達し、腰に差した刀に手を掛ける。きらりと鞘から覗く刀身は薄く磨き上げられ、まるで夜空に輝く星々のように、鈍く、美しい光を放って見せた。刀身には奴らが放つのと同じ力が漲り、刃先から世界へ零れ出している。
「アクエリアスよ、お初にお目にかかる。我が名はムラマサ・シロウ、聞いた覚えはないだろうし、この先聞くこともないだろう………………お前はここで死ぬからな」
一閃。
速い、速すぎる。俺の眼であっても一瞬反応が遅れた。瞬きの間もなく振り抜かれた刃からは赤い液体が……
「ギャオオオォォォォォッッ!!!!!!」
先の俺の攻撃では一切傷のつくこともなかった奴の肌が切り裂かれ、血液が溢れ出している。
「スズキくん、まだやれるかい?」
薄く微笑みながら問いかけるシロウ。
そんな彼に、俺はもちろん……
「ええ!」
全力の笑顔を持って返したのだった。
皆様お久しぶりです。唸れ!爆殺号!と申す者です。前回の更新からひと月ほど空いてしまいましたが、こうしてまた無事に更新出来ました。この章も来月中には終わらせたいところです。
話は変わって、現在、本作品と「月と異世界と銃火器と」の情報を垂れ流すTwitterアカウントを作成しようと考えています。今のTwitterアカウントから飛んできてくださった方には申し訳ありませんが、新規アカウントとして作り、他のアカウントとは切り離して運用していこうと思います。(明日には作ります)行き当たりばったりですが、これからもどうぞお付き合いのほどよろしくお願い致します。
またまた話は変わって、ブクマを一件いただくことが出来ました。本当にありがとうございます。これからも本作品をよろしくお願い致します。
それでは、また明日、Twitterでお会いしましょう。リンクを活動報告等に貼る予定ですので、そちらからどうぞお訪ねください。