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あなたは神を信じますか?  作者: 唸れ!爆殺号!
第6章 夏空に煌めくは星々の魁光
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69話 あなたはフラグを信じますか?ー出来れば信じたくなかった

『昔は良かった』などという文言は、無意識的な記憶の美化によって生じる虚構の過去に思いを馳せる人間の言葉だとされている。だが、時には例外も生じる。世界には絶対的良と絶対的悪が存在し、かつて存在した絶対的良が絶対的悪に塗りつぶされるだなんてのは日常茶飯事だ。

要するに、頭の中のお花畑ではなく、現実に存在した花畑に思いを馳せることは、果たしてそれが合理的で理性的で人間的だと、そう言えるのか、ということである。


我々人類は、この厳しい世界で生き抜き、生存本能以外に現を抜かせるほどの安寧を得た。そうして手に入れたのは、飽くなき欲求と、それを制御するための高度な理性だ。こうして起源のみを見れば対極に位置するといえる理性と欲求………私でいえば過去への憧憬だが………これらは同時に存在しうるのか。


理性、欲求、そして欲求に味方する感情。これらすべてをまとめて、それでもなお過去を振り返ってしまう私は、愚かな人間なのだろうか。こんな時、もし神が存在するのなら、彼ら彼女らは私をなんと形容するのだろうと考えることがある。………決して、彼のように包み込むことはしないだろう。だが、ただゴミだと言われることも、またないだろうと思う。


………彼らの信奉する、創世の女神。彼女なら、あるいは私の求めるものを提示してくれるかもしれない。何と言ったって、あの奇人変人たちに救いを与えるほどのお人よしだ。きっと、彼らは今日も、幸せに生きていることだろう。


さて、そろそろ本題に入ろうか。


今からおよそ十年前。


私の………いや、()()()の、話をしよう。



「あなた」


信頼が。


「お父さん!」


親愛が。


呼びかけてくる。


懐かしいあの日々。もう、あれから十年も経った。あっという間、だったのだろうか。いや、そんなことは無い。皆で過ごしたあの日々の方が、あっという間に過ぎ去って行った。


いつものように家を出て、いつものように()()を終え、島に帰りついた時、私は、全てを失っていた。


ほんの数日、離れただけだった。


息子に、「行ってくる」と伝え。

「行ってらっしゃい!」と送り出され。

妻を抱きしめて島を出た。


目的地に到達し、やるべき仕事をこなし、報酬を受け取って帰路に着いた。


何一つ変わらぬいつもの日々を、これからも変わらないはずだったいつもの日々を過ごしただけだったのに。


諸行無常、とはよく言ったものだ。絶対的良は瞬く間に絶対的悪に呑まれる。常在不変も有り得ようが、少なくとも私の理想の世界はそうではなかったようだ。


だが、考えてもみたまえ。


アーチェ島が。神の産まれしこの島が。


よもや『食われた』だなんて、誰が想像できただろう?



「なるほど……つまり、仕事に出て、帰ってきた時には既に島は半分消滅してて、その謎現象にシロウさんの家族は巻き込まれてしまったと、そういう事ですね?」


「あぁ、そんな所だよ。そんな摩訶不思議な現象に行きあった時、この島に住んでいたら何を考えると思う?」


「十中八九、太陽教徒がやらかしたって考えますね」


残り少なくなった料理を搔き込み、咀嚼する。


今日も今日とて呆れるほど飯が美味いが、些かこの状況での対応にしては間違っているような気がする。だが、美味いのだから仕方がない。山盛りにあった豪華絢爛な料理たちも、既に俺の胃袋に収まった。三大欲求の内の一つが度を越した美味さという快楽と共に満たされ歓喜の悲鳴をあげる。


「まぁ、それが誤解であったことが今日証明されたんだけどね」


「んー、ほれひゃあひまほははいひたはんひんっへ……」


「スズキくん、飲み込んでからでいいよ……」


溢れる唾液とともに食物を嚥下する。あー美味かった。


「ご馳走様でした。さっきの話に戻るんですけど………結局島を破壊したのがアイツらじゃないってなら、一体どこのバカがそんな事をやらかしたんですか?」


「それなんだが、一つ心当たりがあってね……」


茶碗を手に取ると、既に冷めてしまった味噌汁をすすり、大きくため息をついた。


「スズキくん、君は『星獣』を、知っているかい?」


星獣……どこかで聞いた名前だな。


(マスターは相も変わらぬ貧相な記憶力をお持ちですね)


ここ数日静かだったと思ったら随分な言い草だなおい。


(最近あまり私を被ってくれませんからね。たまには構ってください)


お、おう……なんかごめん。


(……そんなことより、星獣についてです。私と話していて、なにか思い出しませんか?)


うーん、そうは言われても……あっ、そういえば。


「はい、まぁ名前を聞いた程度ですけどね……」


確かスバルと初めて話した時、そんなような名前を聞いた記憶がある。確か、星獣ブイシファクの毛皮を七日七晩流星で撃ち続けて作られた……みたいな感じの話だったはず!スバルさん、合ってますか!


(マスターにしては上出来です。偉いですよ)


そんなに褒めても何も出ねえぞコノヤロウ……べっ、別に照れてなんかないんだからねっ!ほんとだからねっ!


「そうか、やはり君もまた、こちら側の人間のようだね……」


こちら側……とは、また嫌な表現だ。別にあちらでもこちらでも大した違いはないだろうに。……ただ、少し、何かが違うだけだ。


「その星獣なんだが……実は私は、星獣を狩るのを生業にしていてね」


「星獣を……狩る?」


「うん、本来獣神の使徒である彼らがこの星にやってくることはほとんど無いんだが、ごく稀に迷い込んでくる個体がいるんだ。そこはやはり旧神代(ビフォー)の化け物だけあって、魔法や武具はマトモなダメージも与えられない」


「ちょ、ちょっと待ってください!獣神とか旧神代とか、それってお偉いさんしか知らない情報のはずじゃ……」


あの結界村にいた俺でさえもソルスに言われるまで知りもしなかった情報が、まさかこんな辺境の島でわんさか出てくるとは思わなかった。

……いや、ここがソルスの実家的な場所であることを鑑みれば想像することは出来ないこともなかった。ただ、それを頑なに避けていただけで……


ソルスの話から考えると、あの昔話は実話であり、そしてこの世界が産まれる前に起きた出来事である。そして、確か獣神は獣を狩る人間に怒り、他の神々に戦争を仕掛けた後に封印されたとか何とか……


(私の話は覚えていない癖に……)


ごめんって!


「ふむ、最近は上層部の人間くらいなら知っているものなのか。まぁかなりの時が経っているし、調査もかなり進んでいるだろう。おかしいことでは無いな。……先程述べたように、私は星獣を狩ることを生業にする『星狩』と呼ばれる一族の者だ。元は旧神代に存在した一族であり、私たちは勝手にその能力や武具を後継しているだけらしいけどね」


星獣、獣神、星狩。ここまで星を猛プッシュしてくるとは………

それより、この展開ってもしかしなくてもあれだよね。どう考えてもああなるよね。


(………………)


おいスバル、何とか言えよおい。俺言ったよな?そういう話すると絶対後から戦う羽目になるんだって。なぁ、言ったよな?


(…………………………スリープモード、起動)


あっ!ずるいぞ、逃げんな!おい!


……くそ、逃がした。


「えっと、大丈夫かい?」


「あっ、大丈夫ですよ……」


そういえばスバルの声は周りには聞こえないんだったな。シロウさんには俺が一人で漫才でも始めたように見えていたことだろう。


うんともすんとも言わなくなったスバルを、胡座をかいた膝の上に下ろし、息を吐く。


「まぁ、シロウさんが星獣を狩る人だってのは分かりました。それもいずれ、話したいと思ってたんですよね?」


「ああ、こうして私の話を聞いてくれる唯一の人だからね」


唯一ってのは言い過ぎ………いや、そういえばこの島やべぇ奴しかいないんだったな。


「俺が今考えていること、分かりますか?」


「いいや、全く」


「その話を、『今』、した理由について……です」


そう、さっきからずっと考えていた。


もしかしたらこれ、また面倒事に巻き込まれるフラグではないか、というか、それでほぼ確定では無いか、と。


「……君には、選択の余地があるとだけ先に言っておくよ」


「これまた、嫌なセリフですね………」


「ふふっ、私も申し訳ないと思っているよ。ただ、あまりにもタイミングが悪かっただけなんだ。………私の話をした、そのきっかけについてだったね。端的に言うと、仇討ちの機会が近い事が理由だよ」


「仇討ちの機会……?」


「あぁ、十年前、この島の半分を消滅させた……いや、()()()()のは星獣だ。そして今、まさにその星獣がここに向かっている可能性が浮上した」


………そうか、あの時のネイファとの話がきっかけだったわけだ。そこで真実を知ったシロウは、残りの人生を仇討ちに費やす気だ。そして、その仇張本人がこの島に来てるって?


「先程も言ったが、君には選択の余地がある。あくまで君は私の話し相手だ。君なら今すぐここを離れることが出来るだろう?」


無論、可能だ。


だが………


「前に言いましたよね?シロウさんが話したい時、話し相手がそばにいなきゃ意味が無いでしょう………もちろん、一緒に戦いますよ」


「………正直、君を巻き込みたくないと言ったら?」


「あんだけ話しといて何を言ってるんですか!もう既に引き返せない所まで来てるんですよ!」


「え?う、うん……そう、なのか………?」


「そうですよ!どうせやるなら早めの方が良いでしょうが!」


「すまない、やっぱり何が言いたいのか分からないよ………」


おっと、ヒートアップしすぎたか。


「こっちの話なので気にしないでください。つまるところ……俺は逃げませんよ」


そうつぶやくと、シロウは嬉しそうに、そして悲しそうに、笑って見せた。


「ああ、ありがとう」


こうして、アーチェ島での生活は着実に終わりへと向かっていた。



皆様、お久しぶりです。今月は忙しく、中々更新出来ませんでしたが、ちょこちょこと執筆を進めております。

今章を描き始めた頃はまだ夏真っ盛りでしたが、ここ最近は既にとてつもない寒さになりましたね……皆様、健康に気を付けてお過ごしください。それでは、また次回の更新でお会いしましょう………

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