67話 あなたは真実を話しますか?ー…………Y…Yes
「ここって………」
「ええ、ここが我らが太陽教の教会にして総本山………アーチェ・プロトス・パンテオンです!」
この小さな島にあるには少し……いや、かなり大きな教会を目の前に、俺は感嘆の溜息を吐いていた。
トーレンさんの屋敷には及ばないが、それでも俺の家は優に超える大きさを誇り、その壁面にはまるで世界の始まりのごとく美しき壁画が描かれていた。
世界を照らす陽光と、その光を背負う美しき女神、そして生まれたばかりの一糸まとわぬ姿の人々がその前に跪く様子が描かれていた。家の女神とはまるで似つかない美しさである。
「この絵は誰が……?」
「ああ、この絵ですね。この絵は教会建造当時、芸術の神アテトストラリスによって描かれたとされています。この教会は当時、ソルス様とその眷属達の暮らす家としての役割を果たしていたそうですよ」
先程出会った男性……ベレトさんが細かく説明してくれる。なるほど、道理ででかいわけだ。
「えっと、ベレトくん………本当に私も同行する必要があるのかい?」
俺がこうして着いていくことを決めた時、即座に逃げようとしたシロウさんが問いかける。今の所性癖以外にベレトさんにやべぇ所は見られないが、もしかして以前もっとやべぇのに出くわしているのだろうか?
「ええ、もちろんですとも!以前から貴方に伝えようとしていたことがあったのですが、事ある毎に避けられてしまい困っていまして……この機会にお話させて頂こうかと!」
「そういう訳ですから……シロウさん、もう諦めましょう?ね?」
「………分かったよ」
ついにシロウさんも折れてくれた所で、ベレトさんの後に従い教会の内部へと入って行く。
美しい外見に負けず劣らずの美しさに出迎えられ、思わず息を呑む。天井には柔らかな陽光をふんだんに取り入れるためだろうか、ステンドグラスがはめ込まれ、真下に色とりどりの光が踊っていた。
真っ白な材質で作られた壁が差し込む光を反射し、より一層神秘的な世界を際立たせていた。
「よく来たな。ベレト、こいつで間違いないのか?」
そして、その最奥に鎮座する豪奢な椅子の上に少女………らしき人物が腰かけていた。
「お前が破創の魔女か………ふーん」
なんだかかなり不躾に目線をくれるな………
「………あぁ、セクハラだなんだと訴えてくれるなよ?わた………俺は神の奇跡のすばらしさを再認識していただけだからな」
「鼻血出てますよ」
「え?あ………すまん、あまりにもどストライクだったから………」
ちょっと見直しつつあったのだが、やはり太陽教徒は太陽教徒らしい。
「ゴホン、改めて………ようこそ、太陽教が総本山、アーチェ・プロトス・パンテオンへ」
◇
「俺はネイファ、太陽教の教会長……まぁ、現最高責任者だ。間違ってもちゃん付けなんかで呼ぶんじゃねえぞ?」
先程の椅子から降り立ち、俺たちと同じ地を踏む少女。ソルス程とはいかないが、肩口辺りで切りそろえられた美しい赤髪と真紅の瞳が特徴的だ。神官服からは程遠い、まるで歴戦の男冒険者かのような格好をしているので、胸の膨らみさえなければ男だと言われても驚かない。だが、その膨らみは確かにそこに存在した。存在してしまっていた……
「今までの流れから来たら流石にもう分かるかと思いますが……」
「うん、産まれてくる性別を間違えたってやつだね」
「ご名答、俺は外面こそ女のそれだが、中身は男だ。こん中じゃお前に一番近い状況かもな」
少女……いや、ネイファはいつの間にか距離を詰めてきており、気づけば俺の眼前まで迫っていた。
「お前の中身は男なんだよな?正直見た目が好みすぎて理性を保てそうにないんだが……」
「人を見た目で判断しすぎだろ……俺の中身はれっきとした男だ!もし襲ってこようものなら返り討ちにして外に天日干しにしてやるからな!」
「ま、まぁスズキくん、落ち着きたまえ……」
暴れだした俺をシロウさんが宥める。
「天日干し……美少女に剥かれて天日干し…………えへ//」
あぁ、もうダメだコイツ。
「会長、正気に戻ってください!今は魔女様に欲情している場合ではありませんよ!」
「うへへ……ぐへ……はっ!そうだった!」
ベレトさんにぐわんぐわんと揺さぶられ、ネイファは何とか理性を取り戻したようだ。
「ゴホン、まぁ今回急に呼び立てたのはもちろんソルス様について事細かに聞かせてもらいたいのと……」
「私への話、と言うやつだね」
「あぁ、そういうこった。それじゃベレト、そっちは頼んだぞ」
「ええ会長、お任せ下さい!それでは魔女様、こちらへ……」
ベレトさんに促され、また別の部屋へと向かう。もしかしてネイファと二人きりにされるのではないかと思ったが、流石にそんなことは無かった。
辿り着いたのは講堂のような部屋だった。何故か俺は壇上に案内される。
人、人、人……既に席にはかなりの量の人が着席しており、皆期待を込めた目でこちらを見ていた。
あれ、これって…………
「さぁさぁ皆さん、静粛に!今から破創の魔女様による、ソルス様についてのご講談が始まりますよ!」
…………正直に話したら殺されたりしない?いや、死なないんだけどさ。
壇上の俺を見てなのか、観客の喧騒が止まない。
「あれが破創の魔女……?可愛らしいお嬢ちゃんね」
「いや、実はあいつ男らしいぞ」
「へぇー、じゃあ彼も太陽教徒なのかい?」
「それが違うらしいんだなぁ……まぁ世の中色んな奴がいるってこった」
「いいね、そのセリフ。まさに僕らが発するのにぴったりじゃないか」
…………なんかこの世界に来て初めてマトモに受け入れられた気がする。性癖はエグいが、その分集団としての偏見がなく、個を受け入れるのに最適……そりゃ異端者が集まるわけだ。
そして、その集団は傍から見れば地獄も地獄、地獄絵図を煮詰めて凝縮したかのように見えることだろう。
…………仕方ない。悪い奴らではないし、わざわざ本当の事を話して絶望させるのも可哀想だ。少しだけ誇張を交えて話すとしよう。
「……あー、えっと、話してもいいか?」
俺が声を発した途端、講堂内は静まり返った。
うっ、コミュ障スキルが……
「えー、ソルスについて……だったか?仲間にいるってのは本当だぜ」
何とかコミュ障スキルを押さえつけて声を発した直後、また観客達がザワザワと話し始める。
「本当だったんだ……!ソルス様、私は貴方様を信じておりました……!!」
「いや待て、確かにソルス様はいらっしゃるが、あんなやつの仲間になると思うか?そこだけは疑問だぜ」
「おいおい、お前あの魔力が感じとれねぇのか?こりゃ世界すら滅ぼせるレベルの使い手だぜ……」
なんか俺の話題に移りつつあるな……
「えっと、俺から一方的に話すってのもアレだし、皆に聞きたいことを順番に聞いてもらうって形にしたいんだけど……いい?」
「「「「「「「こちらこそいいんですか!?!?」」」」」」」
「うおっ!?」
こんな時だけ団結すな!鼓膜破れるかと思ったわ!
「あ、あぁ……何でも聞いてくれ、出来るだけ答えるから」
こうして、破創の魔女への聴聞会が始まるのだった。
◇
「ねえユリアちゃん、そろそろ御屋敷でお酒を飲むだけの生活にも飽きてきたんですけど。せっかくこんなに晴れてるんだからお外で遊んでこない?」
「はぁ……まぁ、いいんじゃないですかね」
素っ気なく返事を返したユリアちゃんは、視線を床へと戻し、また黙りこくってしまった。
既にリンが失踪してから一週間が経過している。ヨミちゃんが共鳴石で連絡を取ろうと何度も試みているけれど、何度やっても繋がらない。あの子の事だし存在すら忘れてポケットの中にでも放置しているだけだと思うけど…………
「あれ、ソルスさんもお出かけですか?先程メリルさんが出ていかれましたが……」
ちょうど玄関を掃除していたこの屋敷のメイドに話しかけられる。
どうやらメリルちゃんに先を越されていたみたいね。
「ええ、お腹が空いたら帰ってくるから美味しいご飯を沢山用意しておいてね!」
「は、はぁ……厨房にお伝えしておきます……」
なんだかあんまり気持ちのいい印象を持たれていない気がするのは気のせいかしら。
屋敷の扉を開き、外に出る。雲ひとつない快晴だ。
久しぶりに何物にも隔たれない生の陽光を浴び、くっ、と伸びをする。
「さーて、何をしようかしら?」
災いが……動く!
という訳で、ここからが今章の佳境です。ちょこちょこ初出の設定が今後出てきますので、作品内で説明しきれていないな……と感じた時は後書きや活動報告などで補足する場合があると思います。なので!いつも後書き飛ばしてるなーって方は偶に読んでくださると、より楽しく本作品を読んでいただけると思います。まぁ今回の後書きが読まれてないとなんの意味もないんですけどね!てなわけで、今話もご読了頂きありがとうございました!また次話でお会いしましょう!