58話 あんた何やってんのよぉぉぉぉぉぉ!!!!!ー………すみませんでした
「あ゛っづ…………」
時刻は早朝。夜闇を切り裂いて太陽が上り、森のセミたちはこれでもかと鳴き喚き、熱風が俺を包み込まんと優しく吹いていく。本日は快晴である。太陽を遮る物など何一つなく、直射日光が玉の肌を襲う。湿度もかなり高く、身体中から汗が吹き出してベタベタだ。
(マスター……溶けます、溶けてしまいます………)
スバルがあまりの暑さに液状化し始めるほどだ。
………液状化?
「うおお、お前マジで液状化してんじゃねえか!?『フロスト』!『フロスト』!」
氷属性の初級魔法、フロストをスバルに放つ。何とか液状化を食い止めなければ!
(あ、仕様なので気にしないでください)
仕様ってなんだよ!なんで液状化する機能が元から付いてんだ!
液状化していた帽子が瞬く間に元の姿に戻り、一命を取り留める。本当になんでこんな機能付けたんだ?
「それにしたって暑すぎだろ……日本でもここまで気温が上がったことはねえぞ………」
それもそのはず、現在の気温は摂氏四十八度。確か日本の最高気温は四十二、三度だったはずなので、それすら大きく上回る気温だ。これは俺も液状化しそうだ………
一応レベルカンスト勢から言わせてもらうと、どれだけレベルを上げて色々な物への耐性を上げたとしても、暑いものは暑いのだ。マグマに入ったって溶けるどころか焼けないし、炎をぶつけられても怪我一つないが、熱いし暑い。元々持っている感覚という物は消えてくれないのである。
冬場寒いのも同じ事である。氷に触れば冷たいし、かき氷を食べるとキーンとするし、ブリザードの中にいれば寒いのである。
「はぁ、こんな世界で生きてるなんて、お前たちも大変だなぁ……」
周囲に生い茂った雑草と、育てている野菜たちを見る。毎日忘れず水をやっているのだが、それでも半ば枯れかけている野菜たち。これはもうダメかもなぁ………
この野菜が育たなくとも、一応何とかやっていけるだけの食料の確保は出来た。
……先日、ウィスカーさんから受けた大魔導博覧会での仕事では、結局家や職場や公共施設を破壊した分の補填として給料が丸ごと持っていかれてしまった。
まぁユーリだけでもトマトの木のお陰で賠償をさせられずに済んで良かったと思う。
そうしてついに今後の生活のアテも無くなっていたところ、ある日家に王都から大量の郵便が届いた。送り主の欄は『アテリネの民一同』となっていた。もしや抗議文の束だったりしないよなと、恐る恐る箱を開いてみたら………
そこには大量の新鮮な食料や生活必需品などが入っていた。同封されていた手紙には、『私たちの街を救ってくれてありがとう』と。そして『恩知らずが申し訳ない』と、書かれていた。
俺たちはその食料のおかげで何とか今日まで生きている。
それくらい家計がピンチなのだ。
一応仕事は受けているのだが、この近辺には強力なモンスターもいないし、高額な報酬が今すぐ手に入る仕事なんてのはそうそう無い。逆に今までが順調すぎたのだ。そこそこの金を持ち、仲間となった四人を養いながらたまに仕事に行って誰かがやらかしてはそれを賠償し、高額報酬の仕事を受けてはまた誰かがやらかしては賠償をし、借金持ちになり、それを返すための次の仕事でもまた誰かがやらかして………
あれ、全然順調じゃないな。
まぁここ最近は異常な暑さが続いており、食欲もあまりないので食料が長持ちしそうでよかった。
その暑さと言えばついこの間、あまりの暑さに部屋に氷を少量出して昼寝をしたのだが、それすら寝ている間に溶けてしまい暑さで目覚める羽目になってしまった程だ。
「きゃあああああああああ!!!!!」
突如、家の中から叫び声が聞こえた。
この声はソルスだろうか?ともかく俺は家の中へと走った。それはもう全速力で。
◇
「あ………あぁ…………」
そこに待っていたのは地獄絵図だった。
ここは普段、魔法で出した氷を用いて冷やしている部屋。部屋の四隅に巨大な氷柱を配置し、キンキンに冷やされている部屋………なはずだった。
だが今は、そこには鼻につく不快な匂いの、ぐちゃぐちゃで見るに堪えない無惨な姿となった食料たちの姿のみがあった。
俺は膝から崩れ落ちた。
終わった………完全に終わった………
この暑さで氷が溶け、締め切られている冷蔵部屋は外の暑さによってサウナ並の室温となっていた。そんな室温に食料たちがもちろん耐えられるはずもなく、既に腐敗しきり、食す事が困難な状態となってしまっている。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!私のお酒とおつまみがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
こんな時でもぶれないソルス。その芯の強さは見習いたいがそれは間違いなく今ではないだろう。
そんな一大事を前に、ユリアは苦笑し、ヨミは絶望して死んだ魚のように床に突っ伏していた。
………この部屋の管理は俺に一任されていた。
氷の生成はメリルでもできるが、基本朝が遅いメリルより俺の方が高い頻度で朝食を担当しているため俺が行っていたのだ。
だが、結果こうなってしまった。
「………リン、あんた昨日、昼寝してる時に氷を出して部屋を冷やしてみたけど溶けちゃって暑くて目が覚めたって………言ってたわよね」
「………はい」
「じゃあこの部屋の氷も溶けてるに決まってるじゃない!あんたはそんな事にも気づかないアンポンタンだったの!?これから私たちどうして行けばいいのよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「………………すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は頭を床に何度も叩きつけながら土下座した。それはもう全力で。
本作品の総PV数が5000を突破いたしました!本当にありがとうございます!こうして皆様に見ていただけることが活動の励みになっております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
下の☆☆☆☆☆マークで作品の評価をすることが出来ます。ブックマーク、感想と共に評価していただけると作者が狂喜乱舞します。御協力お願いいたします。