55話 あなたは今燃えていますか?ーYES
「『テレポート』!」
皆をそれぞれの場所へと飛ばす。これで最終決戦の準備は整った。ヨミとメリルによる足止め、そしてアップデートされたレイに俺が乗り、奴、宵闇の暗殺者を打ち倒す時が遂に来たのだ。ユーリの技術の結晶にスバル(帽子)の能力、そして極めつけに知恵の神・ラルフの助力を得、そこにこの世界最強たる俺が乗り込み超古代の技術に打ち勝つ……
「燃えてくるぜ……熱い展開が全部詰まってんじゃねえか!」
よし、俺も行くとしよう。
この世界、いや全宇宙一熱い戦いの舞台へ!
「『テレポート』!」
◇
「あっ、リンさん!来ましたね!」
『マスター、お帰りなさいませ。いつでも出撃可能です』
「よし、とりあえず何をアップデートしたんだ?そこだけは聞いておかないとな。一応パイロットなわけだし」
操作するのは俺なのだから、ある程度何ができるようになったのかは知っておかねば……
「はい!しっかり聞いててくださいね?まず1つ目に、奴に魔法が通るようになりました」
……ん?
「おいおい待て待て、さっき奴に魔法は効かなかっただろ?それが一体どうしてそんなことになってんだよ」
「まぁまぁ落ち着いて。今からそこを説明しますから。先程のアップデートで、本来実装予定だった『魔力を別の力に変換する能力』を搭載しました。他の誰でもないあなたなら、よく知っているはずです」
魔力を別の力に変換…………どこかで聞いたような話だ。あれ、なんだっけ?
『記憶力薄弱なマスターでは覚えているかどうか怪しいので私が説明を。今回のアップデートで実装した能力は、ついこの間、メリルを助けた際発見した古代兵器、三欲の魔砲から取り入れています。睡眠欲の魔砲をマテリアで押収したそうで、ユーリが聞かせてくれました』
「スバルさんのお陰でようやく仕組みが理解出来ましたよ!……まぁ仕組みだけですが」
なるほど、つまりこいつらは古代の世界を滅ぼしたと伝わる兵器の力をこの機体に取り入れちまったのか……
「この機体、後で壊されたりしないよね?」
「さ、さぁ……でも、今回ばかりは仕方ありません。それにレイは僕がいる限り何度でも作り直せますから!」
それなら良かった。この全世界の男の子の夢が壊されるだなんて世界の損失だからな。というか壊せるのかどうかという話だが。
「つまりなんだ、今のレイは俺の魔力を別の力に変換してくれるから、それであいつをぶっ飛ばせばいいんだな?」
「はい、そういうことです!ただ、武器まで制作している時間はなかったので、創造スキルでいい感じの武器を出しちゃってください。そして力を纏わせて奴にぶつければ……」
本当にこの短時間で奴への対抗策を生み出してしまうとは……まぁ俺の親友だ、それくらいできてくれなきゃ困る。
「ふふん、これで終わりでは無いのですよ!そこに増設されたボタンを押してみてください」
操作パネルの方を見やると、確かに先程まではなかった赤いボタンが増えている。これを押すことで2つ目の新機能が発動するのだろうか?
よーし、リンさん押しちゃうぞー!
「ポチッとな」
俺がボタンを押すと同時に、ごっそりと魔力が持っていかれる。
「うおっ、なんじゃこりゃ!?」
そして、何やらガチャガチャと駆動音が聞こえる。
「リンさん、外装を見てみてください!」
「お、おう。『シルフアイ』」
俺は風属性の初級魔法、『シルフアイ』を発動する。この魔法は、魔力で構成され、人には見ることの出来ない自分の分身体を飛ばし、その分身体と感覚を共有出来るという使い勝手のいい魔法である。だが、分身体は風に流されゆらゆらと飛んでいくので長い間一部を見続けるのは困難を極める。風珠と能力的にはほとんど変わらないが、風珠は視点を固定出来るためそちらの方が重宝されている。
そして、俺の分身体が目に捉えた映像が俺の脳内に送られてきた。
「こ、これはっ!?!?」
レイの美しき純白の外装が開き、内部から金色のプレートが現れる。それは一箇所にとどまらず、右腕、左腕、右足、左足、そして胸部、更には顔の部分にも現れる。
そう、第二形態ってやつだ!!
「おいおい、これはアツすぎるだろ!!最高かよユーリ様ぁ!!」
「えへ、えへへへ……」
『ユーリの異常興奮を感知』
これはヤバい。ロボ好きならば誰もが喜ぶ最高のシーンだ。夜の闇、そして純白の中でも一際美しく輝く金色のプレート。かっこいいのはいいが、あれは一体なんなのだろうか?
「あ、説明しますとですね、あれが魔力を魔力ならざるものに変換する装置です。あそこ狙われると思いますが、いい感じに防いでください!」
「任された!よし、これで新機能の把握も終わったな。あとは武器か……」
武器……武器……あ。
「そういえばいいもんがあるんだった。『物置部屋』」
異空間への扉を開き、お目当てのものを求めて体ごと入り込む。
「えっちょ、何してるんですか!?」
「武器の発掘~。おっ、あった」
うねうねと体をくねらせて何とか脱出する。俺の手に握られていたのは一振りの日本刀だ。
「それはたしか、刀と呼ばれる武器……でしたっけ?とある種族が好んで使っていると聞いたことがありますが……リンさんも持ってたんですね」
とある種族……?
少し気になるがおいておこう。
「そう、これは刀だ。これを巨大化させて使うと思うんだけどどう思う?」
「巨大化って……どうやってやるつもりですか?そんな魔法、聞いたことがありませんが……」
「いや、創造スキルでさ、外側におんなじ成分を創造してコーティングしていけば大きくなるかなあって」
でっかいロボにはでっかい武器はつきものだ。偶然作ってきていてよかった。
(ね、ねえ魔女君……?なんだかその刀から神気を感じるんだけど……)
唐突にラルフから念話が来た。やはりこの刀には何かあるらしい。
「お、お前もか?この間ソルスの奴にも見せたんだが、その時もおんなじこと言われてさぁ。なんか原因とかわかったりしない?」
(いや、私にもわからない。すまないね……)
「いいよ、気にすんな」
まぁ気になりはするが後回しだ。今は奴を倒すのが先決。
刀をレイの手部分にテレポートさせ、創造でコーティングを始める。
創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造…………………………
何度も繰り返すことにより、刀はどんどん巨大化していき、適正サイズにまで達した。
「これで準備は整った!それじゃあ早速突っ込むぞ!ユリアにかっこいいところを見せるんだぁ!!!」
『マスター、目的がすり変わっています』
うるさい!
◇
「『ストーンフォール』!」
メリルさんの声に合わせて空中に超巨大な石塊が出現し、慣性にならって落下していく。その超質量の前には暗殺者も手も足も出せず……
武器を出した。
またしても目に見えない武器により石塊が粉砕される。何度観ても不思議な光景だ。
「ベル姉さん、あの武器面白いですよね。私も透明な武器が欲しいです。今度お師匠様におねだりしてみるとしましょう」
「お、おう。そうか……」
なんだかベル姉さんは引いている様子だ。私は何かおかしなことを言っただろうか?
「なぁ……お前、あいつの弟子なんだろ?」
「え、はい。そうですけど……何かありましたか?あ、お師匠様の愚痴は勘弁してくださいね。あの人といると疲れるのはわかりますが……」
ヨミさんが自慢の剛力を遺憾なく発揮し、黒鉄の外装に着実にダメージを与えるのを見ながらそう答える。あの人は良くも悪くも周りのことを考えているが、ハイになるとダメだ。延々とくだを巻いてくるのを相手するのも楽ではないのだが……
ところがベル姉さんは苦笑するのみだった。
「あぁ、いやそういうことじゃなくてだな……やっぱ、似てるなぁと思ってさ。お前が似てるのかあいつが似てるのかはわからねえが、お前らきっと相性抜群だろ?」
相性……抜群?
「あ……ぇ……?わ、私は……その……」
「おいおい、顔が真っ赤だぜ?」
ベル姉さんに豪快に笑われてしまった。
だ、だって急にそんなこと言うから……
私だってもう、子供じゃない。自分の抱えている気持ちにくらい気づいている。でも、どうすればいいのかわからない。
まだ、口に出せる勇気は……ない。
「悪いな、悩んでたのか。だが、悩んでられるのも今の内だけだぜ?アタシぐらいになると、悩んでる時間なんてありゃしねぇ」
そう語るベル姉さんの横顔はひどく優しくて。
そして、ひどく悲しげだった。
◇
『マスター、魔力の供給を要求します』
「よしきた!どんだけでも持ってきやがれ!」
今までにないほどの大量の魔力が俺の体から放出され、レイ・クラウスの糧となっていく。いくら吸収しても一向に魔力切れを起こさない俺を見てユーリが若干引いていた。
「も、もう人間なら数千人死んでてもおかしくない魔力量を吸収してるのに……前からすごいのは知ってましたが、ちょっと規格外すぎませんか?」
ほんの十数年で巨大ロボを作り上げたやつに言われたくないんだが……俺はこれだけの力を得るのに500年もの歳月をかけている。明らかに力量不足だろう。『破壊』や『創造』のスキルとこの無尽蔵の魔力がなければ、俺なんてただの固い壁だ。
「俺が変なのは周知の事実だろ!いいから行くぞ!あいつ倒すんだろ!」
「ええ、頼みますよ」
「おう!任せときな!」
『マスター、必要魔力を達成しました。レイ・クラウスver2.0いつでも出撃可能です』
さぁ、ついに最終決戦だ。
ユーリとの約束のため、ユリアにかっこいいところを見せるため、今も前線で頑張っているヨミとメリルのため、ついでに暗殺者の中のソルスのため…………
「レイ・クラウス、スズキリン、行きます!!!」
某ロボット作品の掛け声とともに、戦いへと身を投じるのであった。
今週の「月と異世界と銃火器と」、そして来週の「あなたは神を信じますか?」の更新は行いません。誠に申し訳ありません。




