53話 天権・模倣
(解析中……現在37%完了済みです……39%……42%……)
「えっと……リンさん……?本当にこれで大丈夫なんですか?」
いや俺だって分からない。そもそもスバルがこんなことをできるだなんて知りもしなかった。普段は俺にしか聞こえないはずの声が、レイ・クラウスにシステム上は搭載されている小型スピーカーから聞こえてくる中、ユーリが不安そうに見つめてきた。
「………大丈夫だろ」
「ちょっと!?目をそらさないで下さいよ!本当に大丈夫なんですか!?ねぇ!ねえってば!!」
「ちょ、やめ……」
肩を掴まれ激しく揺らされる。うっ、気持ち悪……
(マスター、ユーリ、解析が完了しました。これよりアップデートに移ります。アップデート中は一切の移動が不可能になります。ヤツの相手をお願いします)
「はぁ!?おいおいまじかよ、アイツ破壊スキルも魔法も通用しないんだぜ!?」
普通に考えて不可能だ。まさかアップデートにこんなデメリットがあるとは……
「スバルさん……僕も手伝います」
「ユーリ!?何言ってんだ、アップデートだぞ?俺たちが介入できるようなもんじゃ……」
「いえ、大丈夫です。僕がスバルさんの代わりにアップデート情報を入力します。レイのことは……僕が1番知り尽くしていますから!」
そうか、アップデートとは新たにプログラムを追加するだけの物だ。ユーリはこの道のプロ、ならばユーリに任せた方が早く終わる。
「スバル、ユーリにアップデート内容を伝えてくれ。足止めは俺たちで何とかする」
(命令を受諾。ユーリ、こちらへ)
突如としてホログラムが現れ、かなり複雑な魔導回路についての情報が羅列されていく。
ユーリはホログラムを見ながらスキル、『改造』とやらを発動しているようだ。鑑定スキルによると職業スキルであるようだが、ユニークスキルである。職業スキルでありながらユニークスキルであるものはかなり珍しい。やはりこいつも選ばれし者ということか……
「リンさん、お願いします!」
「ああ、任せろ!」
俺は友との約束を果たすため、再び闇夜へと飛び出した。
◇
「あっ!お師匠様!一体どういう状況なのか説明を……」
「悪い、時間が無いんだ!お前らも手伝ってくれ!」
現在近隣住民は既に避難を終えており、騎士団やその他もろもろの人々にもここには近づかないよう言っておいた。こいつらが暴れたとしても大丈夫だろう。…まぁそもそも既に街はボロボロなのだが。
「……はぁ、分かりましたよ!後からしっかり説明してくださいね!」
あまりに焦らしすぎたせいかユリアがキレ気味に返事をする。怖い。
「ヨミ!メリル!お前らも手伝ってくれ!結構ガチでヤバい!」
「わ、分かったが……一体何をすればいいのだ?」
「あの黒いのが見えるだろ!今からレイはアップデートに入る!その間動けないから守んなきゃならねぇ!その手伝いを頼む!」
俺たちは宵闇の暗殺者に向けて走り出した。
「なるほど、それなら私に任せてください!」
ふふんとメリルが走りながら胸を張る。張ったって無いものは無いが。
「……なんだか失礼なことを考えているようですが、まぁいいでしょう。実は私、魔道具についてもそこそこ知識がありまして。あの黒いやつを遠目に観察したところ、触れている物の透明化が可能なようですね」
「あぁ、そうなんだよ。あれが中々厄介でさぁ……」
見えないものに対処しようと思うと、その他の感覚に頼るしか無くなる。今は何とか聴覚で感知できているが、そこも対策されればおしまいだ。
「アレ、実際は透明になっているわけじゃないんですよ」
「は?」
メリルが訳の分からないことを言い出すので、今世紀最大の困惑が顔に出てしまった。
「ほ、本当ですよ?確かリンくんはあの機体がはるか昔の物だと言ってましたね?とある文献に、こんなことが記されていたのです。『世界への介入の方法』と銘打たれ、事細かにその方法が記載されていました。さすが太古の文献と言うべきか、私に読み取れることは数少なかったのですが、一つ分かったことがあるのです」
そういえばこいつ、結構な魔法マニアだったな。あの事件からは放浪生活を送っていたらしいし、その間にも魔法を研究していたのだろう。こいつの強さならダンジョン攻略も余裕だろうしな。
「それで?何が分かったんだよ。もったいぶらずに早く……」
「根源、そして規律の存在、これらへの介入により、我、この世界を支配する法則の超越者、『天権』へと至る」
根源、規律、天権………?
何が何だかさっぱりだ。
旧神代だのなんだの、最近はこんなのばっかりだが、ラノベではこういうのは後々大きな意味を持ってきたりするしそういう重要そうなワードを出すのはやめて欲しいのだが………
「で、結局どういうことなんだ?あいつがその『天権』とやらを持ってるってことか?」
「十中八九、そうであるとみて間違いありません。物の透明化は魔法でもできますから。ですが、あれからは魔力の放出が感じられません。古代遺物は三欲の魔砲のように魔力を別のエネルギーに変換することができるものがあります。おそらくその類で天権を模倣しているのでしょう。能力は世界への干渉ですから、実際は存在するものを世界から抹消しているのではないでしょうか?」
……うーん、わからん。
「簡単に言うと?」
「あるのにない、ないのにある。私たちから見たら、あの黒いのの武器はまさにそんな感じってことですよ!『ヘルグラウンド』!」
メリルの魔法により地面が陥没する。動かなくなったレイ・クラウスに向けて歩を進めていた暗殺者の右足が地中に飲み込まれていく。
「良くわからんが、魔法が通じないのだろう?ならば私の出番だ!忍キャラ被りなんてそうそうない珍事はさっさと終わらせるに限る!」
自慢の筋力を遺憾なく発揮するヨミの渾身の蹴りにより、暗殺者の外装が大きくゆがむ。あのレイですら傷一つ付けられなかった相手になんちゅう威力だ……これは負けていられない。
「ヨミ!一応支援魔法やるよ!『バーニングアクセル』」
ただでさえ高いヨミの脚力がさらに強化され、ありえない速度で攻め立て始める。これだけで当面の間足止めできそうだ。だが、それでは足りない。少しでも多くのダメージを与えておかねば……
実をいうと、倒そうと思えば倒せるのだ。だが、今回は奴の創造主とユーリとの戦いだ。勝つのは俺ではなくユーリでなくてはならない。そのためには、いい感じに手を抜く必要がある。
「ユリア!絶対に魔法は……」
撃つなよ、と……つなげようと思ったのだ。いくら魔法が通じないとはいえ、『スプリーム・ドラゴニア』は威力が高すぎる。たいていの魔法はレジストできる俺の魔法抵抗力をもってしても消し飛ばされかねない威力なのだ。
「…………あんのバカ弟子っ……!」
俺の視線の先には。
「フハハハハハッ!!!すでに準備は整った!ここのところは平和続きで飽き飽きしておったのだ、せいぜいわが究極にして最終の奥義の前に散るがいい!」
この間完璧になった魔力制御のおかげでさらに効果が倍増したドラゴンフォースを纏い、準備万端なユリアの姿があった。
「闇夜に咲く一輪の花……」
「ちょ、まっ……!」
やめてええええええええ!!!!!!!!
「ただひたすらに、美しくあれ!『スプリーム・ドラゴニア』ァァァァァッ!!!!!」
闇に舞い、闇と踊る俺たちを、美しき破壊の花が明るく照らした。
もはや恒例になりつつある謝罪から……先週は忙しく、更新できませんでした。ほんとすみません。
でもでもっ、忙しかったのには理由がありまして……なんと新作連載「月と異世界と銃火器と」が今週木曜より連載開始いたします!いぇい!まぁ誰も楽しみになんてしてないでしょうけどね。今回は前作の二の舞にならないよう、ストーリーの概要についてはしっかり考えてあります!ご安心を!というわけで、私の新作連載「月と異世界と銃火器と」をよろしくお願いします!毎週木曜更新を目標に頑張ります!
もちろんこちらの「あなたは神を信じますか?」もしっかり連載していきますので!これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。




