52話 あなたは友を信じますか?─YES
「おい、ユーリ!早く起きろ!ユーリ!!」
頭を振られているのだろうか、視界がぐわんぐわんと蠢いている。
あまりに手荒い起こし方ではあるが、そこからベル姉に起こされているのだと分かる。そんな特徴的な起こし方をするのはやめて欲しい。
「ちょ、やめ、もう起きて…………」
(うわぁぁぁ!頭がおかしくなっちゃうよぉー!!)
脳内で叫ぶのは辞めて……うぅ、気持ち悪い……
「あ、すまん」
パッ、と手を離され落下する。痛い。
「うぅ……頭が……」
(うへぇ……気持ち悪ぅ……)
というか当然のように脳内に声が響くようになったのだが……
(さっき言ったでしょ……君の中にお邪魔させてもらうって…………おえぇ……)
人の頭の中でゲロを吐くのはやめてもらいたい。
(私は君と感覚を共有してるから……それにしてもよく君は耐えられ……おえぇ……)
「おいユーリ、お前が寝てる間に黒いのが本格的に動き始めたぞ。白い方は防戦一方……いや、タコ殴りにされてるぜありゃあ……」
咄嗟に視線をあげる。
そこでは見えない武器に翻弄されるレイ・クラウスの姿があった。
リンさんは何とか操作には慣れたようだが、いかんせん無手だ。武装した相手と互角に戦うのは難しいだろう。
(うーん、やっぱりこうなるかぁ……)
本当に先程ラルフが言った通りになってしまっている。この状況を打開するには……
(ユーリくん、君に神様からのお告げを授けてあげよう)
この状況を打開できるならなんでもいい、教えてくれ……!
(魔女の仲間を追い出してあそこに乗り込むんだ。彼の作った共鳴石があれば意思疎通も可能だし、テレポートを使わせて乗り込むんだ。そして中からレイを改造させ、彼の帽子の力を借りるんだ)
「……帽子?」
(今は意味がわからなくてもいい、急ぐんだ!奴はまだ気づいていないが、近いうちに真実を理解し、私たちの所へ来るだろう……そうなったら、この世界も……他の世界も全部おしまいだ)
なんだかものすごくスケールの大きな話のようだが……仕方ない、僕らの世界を守るためにはそうするしかないか……!
「分かったよ……やればいいんだろ!」
「な、どうしたんだよ!?急に叫ぶなよな……」
驚くベル姉を尻目に僕は共鳴石に取り付けられたダイヤルを回し、リンさんの物へと繋げる。
さぁ、やってやるぞ……
はるか昔の天才よ、全力の僕と……僕たちと勝負だ!
◇
「うわぁぁぁ!」
宵闇の暗殺者が腕を振り回す度、まるで見えない何かに殴打されたかのような衝撃を受ける。
ここまで戦って気づかないほど俺は馬鹿では無い。奴には武器を透明にする何かしらがあると見て間違いない。
横倒しにされ、民家に突っ込んだ機体を何とか起き上がらせて距離をとる。
(マスター、助けが必要でしょうか?)
帽子が手助けを申し出てくれる。
出来れば頼みたいところだが……やれるのか?
(ふん、当たり前です)
お前なんかどんどん人間臭くなってない?
そろそろ名前でも付けようかな。
(期待せず待つとします)
なんだよ不満でもあんのかよ……
「ってうおぉ!?」
立ち尽くしていたレイ・クラウスに向けて放たれた右ストレートを間一髪で避け、何とか姿勢を立て直す。
「うぅ、主……吐きそうだ……」
「お師匠様……さすがに私も気持ち悪く……」
「もうお前らは降りたらどうなんだよ!何の役にもたってねぇじゃねぇか!」
普段ダメな乗り物もハイになっていることで大丈夫そうな俺は心からの気持ちを込めて叫んだ。
すると急に、頭の中に声が響いた。
『リンさん、聞こえてますか!?』
「この声は……ユーリか!?どうした?今ちょっとヤバ……ぬおおっ!?」
投げつけられた透明の武器を音だけで察知し回避する。まずいな……相手の武器は見えないし、先程から破壊スキルでの解体を試みているが全く効いている様子がない。このまま行けば確実にやられる。
『(いいから聞いて!時間が無いんだってば!)』
!?だ、誰の声だ……?聞いた事のない、かなり高めの、子供のような声だ。
『(今は私の事はいいから!さっさと君の仲間たちをテレポートで連れ出して、ユーリくんを乗せるんだ!)』
分かったからちょっと静かにしてくれ!
またしても投擲を敢行してきた暗殺者の武器を勘のみで発見し引っこ抜き、全力で投げつける。
今なら奴も無手、受けるという選択肢は取りようもないし、必ず隙が生まれる。
そこを狙って……!
「『テレポート』ぉ!!」
俺は仲間たちを抱きしめ、白銀の機体から、漆黒の暗闇へと飛び出した。
◇
「あ、主!?急に何を……!?」
「すぴー…………うーん…………」
こんなに慌ただしい中寝ていられるメリルは、きっと将来大物になるのだろう。いや、そんなことはどうでも良くて……
「行くぞ、ユーリ!」
「……はいっ!」
勢いよく差し出されたユーリの手を掴み、俺は機内へと帰還する。
「『テレポート』!」
「なんの説明もなしですかぁぁぁぁ!?!?」
何かユリアが叫んでいるようだったが、気にしないのが得策というものだろう。
◇
「よし、何とか成功したな……」
リンさんたちが抜け出している隙に機体がめっちゃくちゃ……なんてことはなく、その美しいフォルムも外装もそのままに、レイはその場に留まっていた。
「えーっと、とりあえずリンさん、まずは僕の話を聞いてくれますか?」
「おう、あたりめぇだろ?ほら、早く話してみな!」
「実は僕……さっき、神にあったんです!」
こんな大事な局面で告げるにしてはあまりに荒唐無稽な話だ。信じられない話なのは理解している。だが、それでも僕は、彼に……友達に隠すことなく全てを告げ、共に奴を打ち倒したいと思った。
例え、彼が信じてくれなかったとしても……僕はきっと後悔しない。
「へぇー、どんな神?やっぱりアイツ以外は基本マトモなのか?」
あぁ、やっぱりこのような信じ難い話、にわかに信じてくれと言われても困今なんて?
「あの……驚いたりしないんですか……?お前何言ってるんだとか……」
「え?いやまぁ家にも変な奴がいっぱいいるしなぁ。正直神とか今更新しく出てきてもおかしくないからな!」
レイをガチャガチャと操縦しながら、豪快に笑う。
この人が変な人なのは知っているつもりだったが……
僕はほっとしたような、それでいて呆れるような、今まで感じたことの無い奇妙な心地良さを感じていた。ここが奴との対決の場ではなく、奴が今にもレイを落とさんとまたしても透明化した長柄武器らしきものを振りかぶっていなければ、僕は彼女を……彼を、抱きしめていたかもしれない。
それくらい、僕はありのままを受け入れてくれる彼の存在が心強かった。
「さ、色々説明してくれ!正直このままだと負けそうだからな!」
そんなに自信満々に言うことでは無いと思うのだが……まぁいい。
彼はきっと、こんな人なんだ。彼が僕を信じてくれたように、僕も彼を信じたい。
「分かりました。全てお話します」
◇
知恵の神、ラルフとの邂逅。
レイ・クラウスの敗北を予言されたこと。
この戦いは、ひいては全世界を守ることに繋がるということ。
そして、この状況を打破するにはユーリ、俺、そして帽子の強力が必要なこと。
ユーリの話をまとめると、だいたいこのような感じだった。
「なるほどね、つまり戦闘をこなしながらユーリの指示通りにレイを改造、更に武器も作り上げ、帽子でレイをアップグレードして奴を落とす……ってなわけだな?」
「ええ、大まかに言えばそういうことです。ですが……」
なぜだか不安の籠った目でこちらをチラチラと見てくるユーリ。
「なんだよ、俺のこと疑ってんのか?俺はやると言ったらやる男だ、奴は絶対に落とすぜ!」
グッと親指を立て、にこぱーっと笑ってみせる。
「はぁ……」
ため息つきながら苦笑されたんですけど。
「いえ、分かりました。僕はあなたを信じますよ。ですから……絶対に勝ってください」
「おう、任せとけ!」
互いの拳をコツンとぶつける。
暗殺者は依然として透明な武器をブンブン振り回し、俺たちを落とさんと躍起になっている。ラルフの話によると、奴が真実に気付く時、奴はエデンに向かってしまうとのようなことを言っていたらしいが……真実とは一体なんのことだろうか?
気にしていても仕方ない……か。
よし、帽子……いや、今日からお前の名前は……スバルだ!
(命名を受諾……今日から私はスバルです。よろしくお願いします、マスター)
確か以前の名は「星降る夜の終わらぬ悪夢」……だったし星要素を取り入れてみた。スバルと言えば日本の巨大望遠鏡の名前にも採用されているし、俺が日本を思い出すのにも一役買ってくれるだろう。
「さぁ、頼んだぜスバル……そして暗殺者!今から俺、本気だすから!」
俺はレバーを倒し、レイ・クラウスを前進させる。そして今ここに、ついに数億年もの因縁にケリをつけるための戦いの火蓋が、今度こそしっかり落とされるのだった。
さて、今章も佳境ですねぇ……え、前言っていた新作はいつかって?……さて、いつでしょうねぇ?
まぁ本当のことを言うと話が全くまとまっていなかったので辞めることになりました。そして、ついに何故か私の短編、『過去と師匠と試練と』が100PVに到達してしまいました。代わりと言ってはなんですが、このお話の連載が始まるやもしれません……(なんにも決まってなくてすみません……)