50話 レイ・クラウス
僕には夢があった。
後ろ向きな性格故、ただ1人、いつまでも、誰と関わることもしようとしなかった僕には、夢があった。
小さな夢だった。
まだ誰も知らない、誰も到達し得ない場所にたどり着きたかった。たったそれだけの、小さな夢だ。
僕は憧れた。
魔導具職人だった祖父は、家族の誰にも家業を継がせようとはせず、好きな道を歩めと言った。だが、僕は世界の根幹に届きうる魔導具に、それを作り出す祖父に、憧れた。
僕は足掻いた。
祖父は天才だった。この国1番の魔導具職人として名高い、紛うことなき選ばれし人間だった。対する僕には何も無かった。魔法との相性はとてつもなく悪く、通常の魔導具を起動させることすら困難を極めた。だが、僕は諦めなかった。ただ、あの日の小さな夢を胸に、僕は足掻いた。
僕は夢を叶えた。
これまで誰もが夢見た、巨大ロボ、特殊軍事用魔導モデルを完成させた。人類未踏、その言葉は僕を舞い上がらせた。今、この瞬間、僕は人類に勝利したのだと確信した。僕は、夢を叶えた。
僕は絶望した。
あるダンジョンから特殊軍事用魔導モデルに酷似した旧神代の遺物が発掘された。当然僕の研究成果は心無い中傷によって無きものとされかけた。僕は、絶望した。
僕は対峙した。
絶望の原因、『宵闇の暗殺者』と。
「君は……誰に作られたんだい?君の性能は、僕が作り出したレイに勝るとも劣らない程の物だ。ならば一体、誰が作った?僕の人生をかけたあの機体と同等のスペックを持つ、超古代の化け物は……」
僕は思考を諦めることにした。この思考に意味は無い。やるべきことは既に見つけたから。
「だったら、勝負だ。………どこの誰かも知らないが、僕が否定してやる。絶対に……負けてやらないからな!」
◇
突然の俺の申し出に、ユーリは少し戸惑ったように見えた。
だが、小さく、そして力強く頷いた。
「………頼みます、リンさん」
「あぁ、任せてくれ」
「「「ちょーっと待てーーー!!!」」」
「うおおおおおおおおおっ!?!?」
かっこよく歩き出そうとしたところにものすごい勢いで突進された。あまりの勢いに俺の体は宙に浮き、派手に墜落した。痛い。
「お師匠様!あれは一体なんですか!?急に出てきましたが……めちゃくちゃかっこいいですね!!」
どうやら厨二病の琴線を酷く刺激されたようでユリアが興奮しながら俺を起き上がらせる。
「ユリア、あれはヤバいですよ!もし近づいたりなんかしたらいくら竜族とはいえ消し飛ばされますからね!?」
「わ、分かってますよ……」
一緒に走ってきたメリルに窘められるが不満そうだ。まぁその気持ちはよく分かるが……
「で、主。あれはなんなのだ?爆発音を聞いて飛び出してきたが……なんだか私とキャラが被っているようなのだが」
「確かに黒くて暗殺者ってほぼ忍びだよな」
「やはりそうか!早急に落とさねば……!!」
別の方角からやってきたヨミはキャラが被っていることに憤慨しているようだ。
「え……っとこいつらはお前の仲間たち……か?」
状況を呑み込めないベル姉が遠慮がちに声をかけてくる。
「ああ、そうだ。あそこに乗ってる可能性があるやつより数億倍マトモだからぜひ仲良くしてやってくれ」
「ああ、それは構わないんだが………」
おや、仲間のことを聞きたかった訳では無いのだろうか?
「ちょっとリンくん、今なんと言いました!?もしかしなくともあれにソルスが乗っていると言うのですか!?」
「……多分な」
「………ソルスはどこに行っても変わらないな」
ヨミが小さくため息をついた。いや、お前も大概だぜ?
「にしても……とんでもねぇメンバーだな。そこの真っ黒の嬢ちゃん以外は魔力量がとんでもねぇぜ……」
「おい、今のは私に対する侮辱か?そうだな?そうなのだな?」
「えっ?あっいや違くてだな……」
ヤクザもびっくりするレベルの因縁を付け始めたヨミはさておき、実はかっこよく去ることに重点を置きすぎてあのロボの操作の仕方を聞いていなかった。
トワイライト・キリングは、未だ微動だにせず固まっている。中身があのアホであり、その上酔っぱらっている可能性が高い以上、この後どう動くかも皆目見当がつかないので、できる限り早めに行動を起こした方がいいだろう。
「ユーリ、完全に忘れてたが操作方法を教えてくれ!」
「あっ、すいません。このマニュアルに!」
ユーリはポケットをガサガサと漁り、1冊のマニュアルを取りだした。……巨大ロボを操縦するためのものとは思えないほど薄いが。
「リンくん、今のなんですか?と言うか操縦する方法って……」
「お師匠様!?もしかして……やるんですか!?!?」
「おう、そういうこった。お前らも……乗る?」
「「「当たり前だぁ!!!」」」
わぁ、皆とっても元気でリンさんは嬉しいよ。
◇
一方その頃、少しづつ日も下がり始め世界が茜色に染まる中、一足先に夜を迎えた漆黒が動き出そうとしていた。
「ねぇちょっとあんた!一体どういうことなのよぉー!!説明しなさいよ!」
女性は未だ酔っぱらっていた。
既にこの中に入れられてからも4、5本空けているようで、コックピット内は酒気で充満していた。
(操縦者に警告。当機内では飲酒はお控えください)
「はぁー!?なぁにふざけたことぬかしちゃってんのよ!お酒がなきゃやってらんらいわよ……んっ、んっ……ぷはぁーー!!!」
女性はなおも飲酒を止めることはなく、むしろ飲むスピードはどんどん上がって行った。
それに従い、口に入り切らない酒たちがドバドバと溢れ出していた。
(魔導回路へのアルコールの侵入を確認、排除を開始します)
「あっはっはっ!!!アルコールを排除するらんて勿体ないわ!特別に1本分けたげる!ほーら、じゃんじゃん飲みなさーい!!あははははっ!!!」
(ちょ、やめ……やめて……壊れる………緊急態勢に移行、魔導知能による自動運転モードにきりかえます!!)
……彼女が神だと言った所で信じる者は誰一人居ないだろう。
◇
「ちょっ、主っ、狭いぞ!?もう少しそっちに……」
「ちょっ、まっ、ヨミ!痛いです!狭いんですから大人しくしてください!」
「私が悪いのか!?」
ええーい、うるさぁぁぁい!!!
「静かにしてくれ!ただでさえ狭いってのに暴れるんじゃねぇ!!」
俺たちは白銀の装甲を身に纏う、美しき天使の中で醜い争いを繰り広げていた。
元々1人か2人乗りなのだろう、コックピット内はもはや身動きを取ることすら困難な状況にあった。
「いっ!?今その……おし……触ったのは誰ですか!?場合によっては消し飛ばしますよ!?」
「ご、ごめんって!!狭くてそれどころじゃねぇんだよ!」
いやホントに。狭すぎてしょうがない。
「全くもう………っ!?お師匠様!動いてます!黒いのが動いてますよ!?」
「ちっ、やべぇ出遅れた!マジで一旦誰か降りてくれよ!」
「「「嫌だ!」」」
ちくしょう!
仕方ない、このまま突撃するしかないようだ。
「よし、お前ら行くぞ!準備はいいか!?」
「「「うおー!!!」」」
3人の威勢のいい返事を聞いたところで俺はレバーを倒す。
特殊軍事用魔導モデル、レイ・クラウス!発進!!!!
ついにこのお話も50話にまで到達してしまいましたね……いつも見に来てくださる皆様、ありがとうございます。皆様に見ていただけることが作者のやる気につながっております。
次は100話到達目指して頑張るぞー!




