4話 あなたは銀髪ロリがお好きですか?ーお、俺はロリコンじゃないっ!多分…
「なぁソルス。この世界では500年経ったけど地球ではどんだけ経ったんだ?」
俺たちはあの古すぎる今にもぶっ壊れそうな教会から出て、帰り道を歩いていた。
「ねえ、あんたに教えなかった?この世界の一年はあっちではどんだけかって。500年前に」
「聞いてねぇよそんなもん。いいから教えろっての」
「この世界での一年はあっちでは1ヶ月よ。つまり、えーっと…」
「500ヶ月経ってる訳か。計算すると………41年と8ヶ月か」
「へぇー、あんた頭よかったのね。計算速いじゃない」
いや十秒くらいかけてるから…これ一般的なスピードだから…
「まぁ嘘なんだけどね。この世界での一年はあっちでは1日よ。だから500日しか経ってないわ。安心しなさい、あなたの大好きなポケ◯ンはちゃんと残ってるわ」
何でわかった?!確かにポケ◯ンは好きだしポケ◯ンが残ってるなら巨神兵が復活しようがどうでもいい。
だが、顔にでるほどだったか?!というかしれっと嘘だったとか言ってやがる!
「ほら、着くわよ。あれでしょ?あんたの住んでる村」
「そうだけど…」
なんか腑に落ちない………
「あれ?結界残ってるじゃないの。割ったって言ってたじゃない」
「あぁこれのことか。これは俺が張り直した。結界がないとモンスターが入ってくるからな」
もちろん人間は通行可能だ。こいつが阻むのはモンスター、もとい『魔獣』のみだ。
この世界にはモンスターと呼ばれる生き物がいる。
こいつらは数えきれないほどの種類がいるが大きく2つに分けることができる。
一つ目は『魔物』。こいつらの詳しい定義は…
モンスターの中でも知能が高く、人間とコミュニケーションがとれる者。となっている。
2つ目は『魔獣』。こいつらの詳しい定義は…
モンスターの中でも知能が低く、人間とコミュニケーションがとれない者。例外として、コミュニケーションをとることは出来るが、明確に人類と敵対しているもの等も含まれる。とあった。
主に人々に敵対してくるのは魔獣たちなので、魔物対策はほぼいらないというわけだ。
ん?今結界の所に何か見えた気が………
よし、気にしない方針でいこう。ああいうフラグくさいのには関わらないのが一番だ。
「ねえ、リン。結界の下で女の子が倒れてるわよ?ちょっと助けて来るわね」
「ちょっ、待っ!」
待て!お前はあの子から漂うフラグ臭に気がつかないのか!
「何よ、ほっとこうって言うの?!あんたはやっぱり人の心をどっかに落っことして来ちゃったんだわ!あんたもう二度と人と名乗らないで頂戴!」
「落っことしてないわ!あの子どう考えても何かがヤバいだろ!そういう面倒なのはお前だけで十分なんだよ!」
「もういいわよ!私一人で運ぶから!よっ…と、あれ?結界に弾かれる………」
結界に弾かれる?そんなことはないはずだ。しっかり調整したし………
「ねぇリン、弾かれてるのはこの子っぽいわよ!あんたの嫌な予感は大当たりだったみたいね」
は?どういうことだ?あの子が何かヤバいのは見た瞬間に分かったが嫌な予感が大当たりというのは………
「いいからここだけ結界を解きなさい。まずはこの子の看病が最優先よ!」
「ほい」
結界を一部だけ解くとソルスはありがとーと言って中に入って行った。
もう面倒事は勘弁してくれ………
◇
「ねぇリン、あの子いつになったら起きるのかしら?」
んなもん知るか、と言いたいところだったが…
「もう起きてるらしいぞ、結構な魔力量だ。下まで放出してる」
大量の魔力が放出されている。それはすべてあの少女のものだ。溜まりすぎた魔力を放出することで魔力詰まりを防いでいるのだろう。ちなみに俺は、魔力詰まりを起こしても無理やり魔力を押し出す事が出来るので魔力の放出は不要である。
「見に行って来てもいいかしら?私、あの子もパーティーに入れたいんですけど」
さすがに無理がある、だってお金ないもん。
「無理だろ…金ないし。部屋ぐらいなら貸せるけど、お前の面倒見るのも結構な苦行なんだぞ?これ以上面倒を増やしてどうすん…だ…」
いねぇ…あいつ一言も聞いちゃいなかったのか………
仕方なく俺も上に向かう。女の子は二回の俺のベッドに眠らせといた。ベッドはひとつしかないから、そこは我慢していただくと言う形で…
ドアを開ける。
「よぉ、目が覚めたみたいだな。おはよう」
「はい、えーっと…おはようございます…」
少女は腰までありそうな長い銀髪をソルスに撫でられながら、困惑しているのかその緑色の瞳をパチパチさせている。
「ねぇあなた、名前は何て言うの?歳は?性別は?!」
「性別は見りゃわかるだろ。え?女の子でしょ?!」
「はっ、はい!正真正銘女の子ですよ?私はメリルと言います。歳は今年で16になります」
今年で、と言うことは15歳なのだろう。そうは見えないなぁ………この子どう見ても…
「小学生にしか見えない」
6年生…いや5年生くらいか…?
「リン!ダメよそういうこと言っちゃ!心のなかにとどめておきなさい!」
「あのー………ショウガク…セイって何ですか?」
「何でもないのよ!メリルちゃん!今このお姉さ………」
「お姉さん言うな」
「お兄さんがスープ作ってくるからね!」
「お兄さん…?」
あー………どうしようすごく説明がめんどくさい…
「あのっ!」
突然メリルが大声をあげる。
「あっ、すみませんうるさかったですよね…」
まぁ声は大きかったがうるさいと言うわけにはいかない。隣でビクビクしながら耳を塞ぐソルスの頭を叩くと俺は言った。
「大丈夫大丈夫、俺の家の周りに他の家はないし。それよりどうした?なんか聞きたかったんだろ?」
「はい、その…私は破創の魔女と言う方を探してここまで来たんです。そうしたらこの村に張ってある結界にやられてしまいまして…」
なるほど、この子は俺を探してやって来たのか。
「破創の魔女?」
あぁ、そういえば俺、こいつにその話してねぇや。今の機会にしておくか…
「破創の魔女を探しにきたんだろ?実はそれは俺の事なんだが………」
「えっ!あなただったんですか?!」
あとその結界張ったのも俺です。ごめんね?
でもあの結界、どこにも不備は見当たらなかった。なぜこの子は引っ掛かったのだろうか?気になったし聞いてみよっと。
「なぁ、聞きたいことがあるんだが…いいか?」
「はい、なんでしょうか?」
返事と共にコテンと首をかしげて見せる。くっ!俺は、俺はロリコンじゃないはずなのに!どうしてこうも可愛く見えるんだ!
「そっ…その、結界の話なんだけどな?なんで引っ掛かったのかなーとか思った訳。あれ、魔獣専用なんだわ。できれば詳しく話してくれるか?」
「あぁ、それですか。それは…」
そこにソルスが割り込んできた。
「なぁに?あんたそんなことも知らないの?ほんと常識知らずのアンポンタンねー」
常識知らず?つまり彼女は世間では知っているのが常識なくらいの存在って訳か?あとアンポンタン言うな。
「いいこと?人間には色々な欲求があるでしょ?その中でも人間の三大欲求と呼ばれる大きな欲求があるの。さすがにこれは知ってるわよね?」
そりゃそうだ。日本で何度か聞いたことがある。確か………
「その三大欲求って言うのは、食欲、性欲、睡眠欲の三つなの!」
おいおい全部知ってる話じゃねぇか…
「それがどうしたってんだ。この子が結界に引っ掛かったのとどう関係してくんだよ」
「まったく、人の話を最後まで聞きなさいよ…で!この世界には『三欲の魔女』と呼ばれる女の子達がいるの。その子達は先祖代々魔女の血を受け継いでるのよ。でもね?たまにその血が暴走しちゃうことがあるらしくて………」
「それが原因で、私たちは魔獣認定を受けているんです」
なるほどねぇー、暴走する可能性のある魔女の血を継いだ女の子か………これまた面倒なのが来たもんだ。
「で?あれだろ?食欲、性欲、睡眠欲…だったか?メリルはそのうちのどれに当たるんだ?」
「あっ、はい。私はですね、睡眠よ………スゥー………」
うん睡眠欲だね。わかりやすい。
「で?この子どうする?また寝ちゃったけど」
そうだな…彼女が何故俺を訪ねて来たのかと言う話が聞けてない以上、起きたらさようならー、と言うわけにはいかない。
「まぁ起きてから決めよう」
「それもそうね。うーん、この子見てたら私も眠くなって来ちゃった。ベッドはどこ?私のベッドくらい用意してあるわよね?」
「あるわけねーだろ。部屋は空いてるとこ自由に使え。掃除はしてある。ほぼ」
「ねぇ!私の扱い雑じゃない?!ねぇ!ねぇってばー!」
「部屋決まったら呼べよー」
「待ちなさいよー!!」
◇
「リーン!私の部屋!ここに決めたわー!太陽がずっと当たってて、この私にピッタリの部屋だと思わない?!」
「うるさいうるさい!まだメリルは寝てんだぞ静かにしろ!」
うーん見事に掃除してない部屋を選びやがった。
「ハイハイ、ホコリまるけで駄目神にピッタリの部屋だな」
「ねぇまた駄目神って呼んだ?そろそろ本気で天罰おとすわよ?」
この体はレベルMAXなのだ、こいつのおとす天罰くらいなら多分余裕で耐える。というかあくびしながらでも避けられる気がする。
「ほら、どけよ。ベッド出してやるから。『創造』」
このスキルは『創造』スキル。なぜか俺が最初から『不老不死』、『破壊』と共に持っていた謎スキルだ。性能は至って単純。思い浮かべた物を具現化する能力だ。製作系スキルを使うときに一緒に使うと、完成度が上がるという補助的効果もあるらしい。だが、どんな便利なスキルでも欠点があるらしく、このスキルで生み出したものは、24時間経つと消えてしまうのだ。
「このスキルで出した物は明日消えちまうから明日また買いに行くぞ」
「すごいわ、最高級シルク製じゃない!あんた見直したわ!」
ハイハイ、と適当にあしらい部屋を出る。背後からありがとーと聞こえてくる。
あいつ、普段から口聞かなければかわいいのにな…
廊下を歩き、俺の部屋へ向かう。もちろんメリルの様子を見に行くためだ。
ガチャリという音と共にドアが開く。
「どうだー、メリル。目が覚めたかー?」
「んっ…うーん………お、おはようございます…」
「あぁおはよう。どうだ?良く眠れたか?」
「良く眠れましたけど!良く眠れましたけど!眠ってちゃ意味ないんですよ、私はやることがあってここまで来たんですから…」
「まぁそのやることについて聞きに来たんだ。ゆっくりでもいいから話してくれ」
「はい、実は…私、魔女さんに会いに来て…あぁ、それはさっき話しましたっけ…」
「あぁ、そして俺がその魔女だ」
「えっ!あなただったんですか?!」
おぉ!分かりきったことに驚けてる!
「俺は君を尊敬するよ」
「なんでですか?!」
いやそれはどうでもいいんだった。俺は続きを促す。
「えーっと…私、魔女さんに………」
「………殺して貰いたいんです」
うん?今とんでもない事が聞こえた気がする。えーっと…
「いやいや、俺そんなこと出来ないよ。モンスターならまだしも………」
「モンスターですよ?さっき言ったはずです。私は睡眠欲の魔女、最重要危険魔獣の一人ですから」
「待て待て待て!それでも、俺に人殺しなんて出来ないよ!」
殺せるのは言葉とモンスターだけ(人型はムリ!特に女性型)だよ!
「あの、魔女さん?気になってたんですけど、どうして一人称が『俺』何ですか?まさか太陽教徒………」
「太陽教徒…?」
「ご存知ないですか?太陽教徒と言うのは太陽の神、女神ソルスを信仰している………」
「違う違う絶対に違う!あんな奴を信仰するわけないだろ!」
「そ、そうですか…すみません、てっきりそうかと…」
あんな奴信仰する宗教に入るくらいなら、日本の怪しい新興宗教に入った方がまだましだ。
「まぁ俺の一人称が『俺』なのには深ーい理由があるんだが…聞いてくれるか?」
「は、はぁ…」
◇
「うっ…ううっ…そんなの………あんまりですっ…」
「それでも俺は今日まで500年、頑張って生きて来たんだ。どうだ?ちょっとでも生きてみようと思ったなら、部屋使ってもいいし。食費とかはちょっと払えないけど…」
最後の一言を小声で言うと彼女は大きく頷いた。
「はい、私頑張ります!もうちょっと希望を探してみます!」
はぁ良かった…人殺しするはめにならなくて…
メリルがなぜ泣いているのかというと…
「まぁ俺が死んだ時の話を聞いたらみんな泣いちゃうよね…」
500年前の話をしたからである。酷い死に方をした挙げ句、駄目神に女の子の体にされてしまうという悲しいストーリーだ。それでも俺は頑張った!頑張ったんだ!ううっ、目から汗が…
彼女は泣き止むと俺に尋ねてきた。
「あのー、魔女さん。その…お部屋貸していただけるんですよね?」
「おう、いいよ?」
「となると一緒に暮らすことになるわけですし、呼び方を変えても良いですか?」
「なんだ、そんなことか。俺としては魔女さん呼びを変えてくれるのは嬉しいが…」
「そうですね…何が良いでしょうか?リンさん…とか?でもなんか遠い感じがしますし…あっ」
「どうした?」
「リン君…で、どうでしょう!」
おぉこれはいいかも…なんか年下のいとこっぽい…
「じゃあそれで決定ってことで」
「はい!魔…リン君」
ちょっと恥ずかしいな…
「そろそろ晩飯にしようか。今日の分は家にあるやつで作っちゃうからいいけど、明日からご飯代徴収するからな」
「はい、分かりました!頑張って働きます!…でもどこで働けば良いでしょうか…?」
「せっかく大量の魔力を持ってるんだから、冒険者やれば良いんじゃない?ソルスも働かせるし、俺も働いてるし。そういやお前らの冒険者登録しなきゃなー」
と呟きながら部屋を出て、俺は一階のキッチンに向かう。さーて、冷蔵庫には何があるかなーっと。
冷蔵庫というのは現代日本で見られる電動の超便利なあいつではなく、空き部屋に水属性から派生した氷魔法を放って作った寒い部屋。というのが正しい解釈だ。
この部屋に食料を保存しておくと、やっぱり長く持つのである。
牛肉と、牛乳。パンや小麦粉などいろいろあるので、毎日何を作ろうか悩む。そういえば、この前チーズをたくさん貰ったな………
さんざん悩んだ末、今日の晩御飯はチーズフォンデュに決定だ。
作るものを決めれば、後は行動あるのみ!さぁ作るぞチーズフォンデュ!
この世界のキッチンには、コンロもIHもないため加熱するには火を使うしかない。というわけで魔法で火をつけていく。
薪を入れてっと………
「『ファイア』」
ファイアは火属性の初級魔法に相当する。通常は焚き火を起こせる程度の火なのだが、俺が魔力を抑えず使うとこの村が消し飛んでしまうので、全力で魔力を抑える。
よし、着火は完了!フライパンを取り出し、火の上になるように空いた穴におく。チーズを三種類ほどぶちこみ、後は溶けるのを待つだけだ。
チーズにつけるのは、パン、後で焼くステーキのみだ。
この村には野菜がない。人参、ピーマン、ゴボウに玉ねぎ。じゃがいも、ホウレン草。みーんなこの村にはない。地球での野菜に相当する物も、良く見れば野菜に見えてきそうな物もない。ちくしょう、なんて村だ!
というわけで野菜をつけることは出来ない。
ちょっと足りない気がするので残り少ない果物を解禁し、ちょっとしたデザートを作ることにした。
砂糖もないのでたいしたものは作れないが、この世界に来て6番目に取った料理スキルと、創造スキルの補正に任せれば何とかなるさ!
ミカンにしか見えない果物をジャムにしたものと、スイカとメロンを足して2で割ったような果物を切ってパンに挟む。
スキルいらねぇ…
パンは白パンだ、黒パンなんぞ固くて食えるか!
………米食いたい。
そんな欲求を抑え込み、ソルスとメリルを呼ぼうとすると、既にメリルは下に降りて来ていた。
「あっ、すみません。お料理終わってしまいましたか?お手伝いしようと思って下りてきたんですけど、遅かったですね…」
何この子超良い子何ですけど?!それにひきかえ駄目神は………
「悪いメリル。ちょっとソルス起こしてくるわ。先に食ってても良いぞ?」
「いえ、私も着いていきます。…ご飯は皆で食べた方が美味しいですから」
メリルの表情が沈む。なに?!どうしたの?!
「だ…大丈夫か?」
「へっ…?っはい!何でもないです」
「ならいいんだが…」
ソルスの部屋の前にたどり着く。
「おーい、ソルスー!ご飯だぞー」
「ソルスさーん、ご飯ですよー。早くしないと全部食べちゃいますよー」
「わぁぁぁー!!!ダメよそんなの許されるわけないじゃない!」
うるさいうるさい!
「全部食ったりしないから早く行くぞー」
「ねぇ、私晩御飯抜きなんじゃ無かったっけ?」
あっ
こうして、破創の魔女のパーティーに睡眠欲の魔女が加入した。