46話 お前何やってんだよォォォォォ!!!!─…………
「魔女殿、起きてください!もう昼ですぞ!魔女殿ー!」
ん……、騒がしいなぁ……
「ふぁーい、起きましたよぉ……」
団長さんがドアを破壊しかねないほどの勢いで開き、飛び込んでくる。
「寝ておるではないですか!魔女殿、早く起きてください!もう時間が……」
「ウィ、ウィスカーさん……そそそそんな荒っぽくしちゃダメですよ……もし機嫌を損ねたりなんかしたらこここここの国がぁ………」
「ハッハッハッ!魔女殿がまさかそんな事をするはずがないでしょう………ないですよね?」
「ないよないよ、なんでそんな恐れられてんだよ!というか君は誰!?」
俺は団長さんの後ろに隠れる、顔を真っ青にした白衣の青年に思いっきりツッコんだ。
◇
「そういえば魔女殿はまだ彼について知らんのでしたな。ほら、自己紹介を」
「はははひゃいっ!!ぼぼぼぼ僕はユーリ、ユー、ユリッ!?!?」
盛大に舌を噛んだようだ。
俺は今、王都アテリネ内最高峰と名高い宿に泊まっていた。俺が寝ていた部屋も、今俺たちがいるロビーもそうだが、右も左も豪華な装飾に包まれており、小市民な俺からしたら大層居心地が悪い。
そして無理やり起こされた為機嫌も悪い。
「ユーリ殿、緊張しすぎですぞ……ほら、深呼吸をしてみなさい」
「は、はひっ!すー……はー……すーー………はーーー………」
「いつまでやってんだ」
「あぶだびゃばびゃすしゅすすみません!!!!」
彼はかなり気弱なようで、俺の事を相当恐れているらしい。こんな美少女を前にして恐れを抱くとか馬鹿じゃないのか?男なら何時でも襲いかかれるくらいの気概で居なきゃな!
それが出来なかったから現在進行形で童貞である自分のことをさしおいて何言ってるんだと言う文句にはノーコメントで。
「んで?結局要件はなんなんだ?昨日結局カード全部没収されちまったからイライラしてんだ、早めに済ませてくれよ」
100:0で俺に非があるのだが、そういうことは気にしたら負けだ。
「カード……?いえ、気にしないでおきましょう。本日はですな、前々からお話していたあの事についてお伝えに参ったのですが……」
団長さんの視線が横を向く。追従して俺の視線も横を向き……
男は目を逸らした。
「先程からずっとこの調子でしてなぁ……ユーリ殿、自己紹介くらいなら出来ないのですかな?」
「………僕……の名前、は……ユーリ・エヴァン……です。魔導具師兼王国軍用魔導具研究員です……よ、よろしくお願いしまひゅ!」
ユーリさん……か。
黒に近い青色の頭髪はあまり綺麗にされているといった印象はなく、適当な長さで切りそろえられている。白衣を着ている人はほぼいないのでかなり目立つ。が、彼は見るだけで分かる内気オーラを醸し出しており、俗に言う陰キャなるものと言うとわかりやすいだろう。
伏せ目がちであるが、その瞳には海を写したかのような美しい青が鎮座している。
「と、言うわけで魔女殿。我らは、大魔導博覧会が明日から始まるに従って、旧神代の遺物の研究も明日から開始される旨を伝えに来たのです。そして、彼が今回の研究のリーダーを務めるので、まずは挨拶した方がいいだろうということで連れてきたのですが……」
団長さんが言葉を濁す。
ユーリはどうしても落ち着かないようで、顔面蒼白なまま、俯いて何かブツブツと呟いていた。
「あー、分かりました。えっと……ユーリさん、よろしくお願いします……ね?」
「へあっ!?……はっ、はい!よよよろしくお願いします!」
ユーリは差し出した俺の手を震えながらも何とか取ると、精一杯の笑みを見せた。
死ぬほど強ばってた事は言わないであげよう。
◇
「えっと……今日はとりあえずなんにもないんですよね?」
「ええ、今日は特に何もありませんぞ。自由に王都を見て回ってはどうですかな?」
「あー、そうしたいのは山々なんですが……家の仲間知りません?」
団長さんは1度硬直したかと思うとポンと手を打ち、
「そういえば魔女殿に伝言を預かっていたのでした」
今更かよ!
「本当に申し訳ない、完全に忘れておったのです!」
まぁ記憶力が死んでる俺がとやかく言えたことでもない。とりあえず伝言とやらを聞かせてもらおう。
「で、なんて残してったんですか?」
「それが……まずはソルス殿から『昨日お風呂からの帰りにすっごいいい感じのお酒屋さんを見つけたの!もらったお小遣いは使い切っちゃったし、あんた寝てたから財布は勝手に持っていかせてもらうわね!』と……ちょ、魔女殿!私がやったわけではないのですから首を絞めるのはやめてくだされ!」
うおおあいつまたやってくれやがった!あの財布には今回の旅費全額入ってんだぞ!
逃しようのない怒りが団長さんに向いてしまい、思わず首を絞めていた。とりあえず手を離そう。
「今すぐ駆け出したいので残りの伝言は手短にお願いします」
「は、はい。それではメリル殿から……『お小遣いうちに忘れて来たのでギルドでバイトしてきます』と。そしてユリア殿も着いていかれたようです。ヨミ殿からは特に預かっておりません」
「そうですか、ありがとうございますそれではまた明日!うおおおおおおお!!!!ソルスぅぅぅぅぅぅ!!!!」
俺は呆然と立ち尽くす2人を置いて、全速力で駆け出した!!!
◇
共鳴石に着けたダイヤルを回し、ある番号に合わせる。
ヨミ、ヨミ!聞こえるか!?
『あっ!?ちょっ、主!?急に何をするのだ、今は少し忙しいから切らせて貰うぞ!』
悪いけどちょっと待ってくれ!ソルスが旅費全部もっていきやがった!捜索を手伝ってくれ!
『なっ!?わ、分かった!少し遅れるが私も捜索に参加しよう!それでは切るぞ!』
通信が切れた。ヨミは特に伝言を残していかなかったが、一体何をしているのだろうか。
一応ヨミの協力は取り付けたが、ユリアとメリルの参加は難しいだろう。依頼を受けているとなると王都からは出ているはずだ。
ちくしょう、こんな事なら共鳴石を早めに全員分完成させておけば良かった!
遅まきながらも悔やみつつ、俺は人でごった返している王都を駆ける。
あの野郎どこにいやがる!?必死に王都を駆けずり回るが、ソルスが居そうな酒屋は見つからない。
(マスター、スキル『魔力感知』の使用を提案します)
それだ!
「『魔力感知』」
王都全体を範囲に、正確な魔力探知が行われる。そうして、一際大きな魔力反応を3つ見つけた。
3つともかなりの高魔力だが、2つはかなり近くにあるようだ。
ソルスの事だ、また勝手に何かとんでもないものを持ち出しているかもしれないし、一応2つある方へ向かうことにした。
◇
道を辿るのを諦め、屋根の上をひた走る内に、俺は魔力反応が王城から発されていることに気がついた。
王城……?酒屋なんかが王城内にあるはずもないが……
いや、考えても見ろソルスの事だ。何かとんでもないことをやらかして王城に囚われているかも……
「まずいまずい、急がねぇと!!」
チラチラと雪が降り始める中、俺は王城に向けて屋根を伝い駆ける。
ようやく着いた頃には、既に雪が軽く積もっている状態だった。
王城の門には守衛が居たが、もしソルスが捕まっていれば俺が捕まる可能性も高いため、バレないよう忍び込んだ。かなり高い城壁であったが俺の前には無力である。
「さてと、こっちの方だな」
大きな魔力を感じる方へと向かっていく。幸い王城内には人がかなり少なく、見つかることなく目的地へと辿り着いた。
扉がある。この扉の先から魔力を感じる。感覚を研ぎ澄ますと、さらにこの隣の部屋にもう1つの高魔力を感じることが分かった。
「おじゃましまーす……ってあれ、牢屋じゃねぇな……?」
その部屋は牢屋なんぞではなく、かなり、いやとてつもなく広い部屋の様だった。照明等は付いておらず、暗くて中がよく見えない。
「『ファイア』」
点火魔法で明かりを作る。
広いので大きめに作ろうと、そんな事を考え、前を見る。
「ん……?」
目を擦り、もう一度見る。
「うーん……?」
あれ、幻覚ではないようだ。ならばなぜこんなものがここにあるのか……
「きょ………」
「巨大ロボだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は叫んだ!今自分が何をしに来たのかも忘れて!ただこの胸の高鳴りに身を任せて!男の子の本能に身を任せて!
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
興奮で涙が止まらない。これまで何度夢見た事だろう。『こんなに大きなロボがあったらなぁ』と!そしてそれは今、現実となった!
「おい貴様!こんな所で何をしている!」
ドアの外で誰かが何か言っているような気がするが、俺の耳には届かない。
何故かと言えば俺の頭の中はロボのことでいっぱいだから。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
俺の叫びに負けず劣らず、誰かが叫んだ気がした。
「不法侵入で逮捕だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その後数人の男たちに手足の自由を封じられ連行されたが、あまりに興奮していたのでよく覚えていない。
はい、また週跨ぎました。ごめんなさい。今週は頑張ります。