45話 あなたはここで何をしますか?─魂が震える……決闘を!
道中、色々あった。
優しい風が吹き抜ける草原を駆け、川と共に歩み、湖畔を通り抜け。
好戦的なモンスターに襲われ、撃退したり、小さな村に立ち寄り、子供たちと少し遊んだり。
そんな平和な時間を過ごしながら、俺たちはマテリア王国王都、アテリネへの道を行き、そしてついに……
「皆様、あちらを見てください!アテリネが見えてきましたよ!」
さすがに風景を見るだけでは手持ち無沙汰になってきた俺たちは、ソルスが持ってきていたティーセットを使ってアフタヌーンティーと洒落こんでいたのだが、どうやら王都が見えてきたらしい。
窓から身を乗り出し、外を見る。
「おぉ……でか…ってうわぁ!?風強!?」
「魔女殿、お気を付けを!外は魔法の範囲外ですのでとてつもなく揺れますぞ!」
言うの遅くない!?
身を乗り出してしまった俺は、上半身が海藻になったかのように激しい風に揉まれていた。
「あばばばばばばばば……」
「ちょっとリン!何して……ってあんたゲロ吐いてんじゃないわよ!」
そう、俺は気持ち悪さに耐えきれず、肥料を激しくばらまいていた。
「お師匠様!?何が起きているのですか!ヨミさん、手を離してください!何も見えません!」
「ユリア、見なくていい。お前だけはせめて主のまともな場面だけ見ていてくれ……」
「その願いはとうの昔に散ってますよ!はやく助けなくては!」
そのまま王都付近まで進んでしまい、『ギャーギャーうるさいゲロ馬車伝説』として、この惨状は王都で数十年にわたって語り継がれることとなった。
◇
王都に着いた、が……
「「広すぎるな」」
「広すぎるわね」
「「広すぎますね」」
あまりに広すぎる。王都に入ったと言うのに城も見えない。ドラゴニアの数倍、10倍以上あるのではなかろうか。
「まあここ、マテリア王国は世界最大の国ですからね。王都もこれくらい大きいのですよ」
ふふーんと胸を張るセリナさん。ローブで目立たなかったが、思った以上に大きいな……
いや、王都の話ね?
さて、このマテリア王国王都、アテリネに着いて第1の感想は「でかい」であったが、2つ目を上げるとするならば「近未来」である。
もちろんこの世界の視点から、である。
並び立つ家々には日本の住居に近しいものが多々あり、日本生まれ日本育ちの俺としては懐かしさに駆られる風景である。流石に地面はコンクリートではなかったが、綺麗にタイルで整備されており、歩きやすい。
いやなんでこんな日本的なんだよ。
まぁ明日聞いてみよう。
「さて、こうして王都にも着いたことですし、皆様一度休まれては如何かな?宿は用意してありますが……」
「うーん、どうする?俺は胃の中身が全部なくなっちまったから飯を食いに行こうかと思うんだが」
「私はパスするわ。セリナちゃんの持ってきてくれたお茶菓子が美味しくてつい食べすぎちゃったの」
「何それ俺聞いてな…」
「それじゃあ皆、私はお風呂に行ってくるわね。誰か一緒に行く?」
「それでは私も着いて行こう。モンスターの返り血を浴びてしまったからな…早く流したいのだ」
お茶菓子……お茶菓子なんてあったの……?
項垂れる俺を置いて、ヨミとソルスは行ってしまった。
「私は少し街を散策してきます。日没には戻りますから!」
「あっ、それなら私も行きたいです!確かマテリアは魔導産業が盛んだったはずですし、色々と学べるかもしれません!」
ユリアとメリルは街の散策に行くようだ。
あれ、俺ぼっち……?
「それではリンくん、行ってきますね」
「お師匠様、行ってきます!」
ユリアとメリルも俺を置いて行ってしまった。
まぁいいや。
本当は夜こっそり行こうと思ってたんだが、ついでにあそこに行くとするか。
王都に着いたら行きたかった場所がある。そう………
◇
いい感じのお店で晩飯を済ませた俺は扉を開け、中に入る。
「いらっしゃいませ〜!」
会計カウンターらしい場所に立つお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。
奥に部屋が続いているようで、暖簾で仕切られているが、何やら声が聞こえてくる。
俺がどうしたらいいか戸惑っていると、お姉さんが話しかけてくれた。
「お客様、こういったお店に来るのは初めてですか?」
「あー、はい。田舎から出てきたもので……」
親父からは、『あそこは大人のためのお店だからな。ガキは入れねぇんだよ』とよく言われており、興味だけはあったのだが……
なにか勘違いしている人が画面の前にいる気がしてきたので先に言っておくと、ここはカードショップである。
断じていかがわしいお店では無い。
実はこの世界にも、地球で言うTCG、もといトレーディングカードゲームが存在するのだ。
この間結界村紅白歌合戦をやった時に知ったのだが、どうやらルールもかなり酷似しているようだ。
王都では盛んで、カードショップも多数あると露店を出していたおっちゃんに聞いたので、今日こうしてやってきたわけである。
「初めてでしたらこちらのスタートデッキの購入をおすすめします。基本的なカードはこれで全部揃いますので……あとあとっ、今なら拡張パックを10パックご購入毎に、自分で好きなカードを作れる魔法のカードを1枚、プレゼントしております!」
へぇー色々あるん今なんて?
「魔法のカードって……そんなの使用禁止にならないんですか?大会とかで使えちゃったら……」
「いえ、その心配は無用です!カードには特殊な魔法が施されており、ある一定以上の性能には出来ないように制限がかかっているんです」
なるほどねぇ……いやちょっと待て。
魔法で制限……好きな様にいじれる……
ヤバい、俺、とんでもないこと思いついたかもしれん。
◇
『さぁーて始まりますよ、MCB!今回の対戦カードは……なんと!あの噂に名高き破創の魔女!スズキリンの参戦だァ!!しかしいくらリアルで強いと言っても、カードの世界ではまだまだひよっこ!破創の魔女にこの世界の洗礼を与えるのは………?剛鉄のカリヨン!!』
「あんたが破創の魔女か……ふっ、あんたに初めての敗北をプレゼントしてやるよ」
剛鉄のカリヨンってなんだよ。
どうやらこの世界では、強プレイヤーには2つ名が付くようだ。そういえば俺はリアルで付いてたわ。
『さぁーてさぁーて、挨拶は済んだかな?それではデッキセット!レディ!ファイッ!!!』
コイントスを行い、俺が先攻となった。
「俺のターン、ドロー!」
山札からカードを1枚引き、手札に加える。
「カリヨンさんよぉ……悪いけど、実験台になってもらうぜぇ?」
「あ?何を言って……」
俺はすかさず手札からあるカードを場に出した。
「『俺』を召喚!」
「はぁぁ!?」
意味不明な状況に、カリヨンは奇声を発する。
「あれって魔法のカードか?」
「そうだろうが……あいつどれだけ自分が好きなんだよ」
違うもん!別にナルシな訳じゃないもん!強いキャラにしようと思ったらこの世界で俺が最強だっただけだもん!
ごめん重度のナルシだったわ。
っと、ゲームに戻ろう。
「俺の効果発動!次のターンが俺のターンになる!」
「おいなんだよそのチート効果は!そんなカードが許されるわけないだろう!?」
「よーく見ろよ、このカードは確かに存在してるぜ…?」
カードには正式な名前が刻まれ、俺の肖像画的なのが描かれている。効果だってちゃんと書いてあるのだ。
そう、俺は魔法のカードにかけられた魔法を破壊スキルで破壊し、最強無敵のチートカードを作りあげたのだ!
「俺のターン、俺のターン!ずーっとずーっと俺のターン!」
「「「「「最低だコイツ!!!」」」」」
「カードゲーマーならカードで語れ!勝者こそが正義なんだよ!フハハハハ!!!」
「はーい、改造カードは没収ね」
受付のお姉さんに没収されてしまった。
1枚しか持っていかなかったが、実はデッキが全部チートカードであることは内緒にしておこう。
毎度の如く遅刻で申し訳ありませんm(_ _)m
来週は頑張ります定期
ブクマ1件いただいておりました。ありがとうございます!(こういうところだけはしっかりみております)




