42話 あなたは勘違いしているのでは無いですか?─……死にたい
この異世界において、俺たちが住まうマテリア王国は北の果てにある旧魔王領と隣接する唯一の国である。(とはいえほんの少し陸続きになっているだけであり、魔王領はほぼ島国である)
それゆえ、500年の周期という曖昧な言い伝えしか残らない魔王復活に備えて強大な軍事力を持つことを国際的に認められている。
その強大な軍事力として特に名高いものは、まとめてマテリア三大軍戦級戦力と呼ばれている。
最重要危険魔獣に認定されている三欲の魔女たち。
異世界より召喚されし、神の力を賜った三勇者。
そして、今や世界の最先端として研究を続けているマテリアの魔導兵器。
それもこれも、全ては魔王復活への備えとして保有を許されている戦力である。
だが、魔導兵器開発分野の発展はそのまま魔導機械の発展へと繋がり、人類の生活をより便利な物へと引き上げるため、魔王復活とは関係なく世界各国と共に研究を行っているそうだ。
こうして日々発展を続けている魔導機械であるが、各国開発陣が一堂に会し、互いの努力の成果を発表し合う場というのはあまりない。
魔導を更なる高みへと連れていってくれる彼らが互いに刺激し合い、共に次なるステージへと登っていく為にはそういった場が不可欠であると考えた我らが王子により、数年前から毎年、とある祭典が催されているらしい。
「その名を大魔導博覧会と冠されたその祭事が行われている間、魔導学者達へのアドバイス、そして同時進行で行われるとある魔導兵器らしき物の実験なども魔女殿に参加いただきたいのです。……もちろんロボだって見放題のいじり放題ですぞ」
団長さんは最後の一文を小声で呟くと、一口お茶を口に含んだ。
待ってくれ、非常に興味深い。マジで行きたい。だが……
俺はチラリと女子陣を見る。
「な、なるほど…流石は噂に名高き三欲が一角のメリル殿、まさかこんな方法で転移魔法の消費魔力を格段に抑えることができるだなんて……」
「ふっふーん、私だって今までずっと寝てた訳ではありませんからね!魔法分野は私の庭みたいな物です!」
「メリルさんメリルさん!私も転移魔法を使いたいです!」
「ユリアは……あぁっと、そういえば転移魔法にはとある応用もありまして!」
「ぜひ!ぜひお聞かせ願いたい!」
「ちょっと!せめて『あなたには無理です』って言ってくださいよ!無視されるのが1番傷つくんですよ!?」
ローブのフードを深く被っていたので気付かなかったが、転移魔法使いさんは女性だったらしく既に2人と仲良くなっていた。
今回の件は完全に俺の私情で動こうとしている。祭りと来たらやはり皆で行かねば楽しみも半減と言うもの、やはりあいつらは女の子だし、こういうのには気乗りしないだろう。非常に残念ではあるが、今回は断るとするか……
「すみませんウィスカーさん、申し訳ないんですが今回のお話はなかったことに……」
その時、家の玄関が勢いよく開いた。
「ただいまー!……あら、世界で最も尊き一なる神であるところのこの私が汗水垂らして働いていたって言うのに……随分楽しそうじゃない?」
「うぅ……ヒック、やだぁ……もうゴブリンはいやぁ……」
どうやら仕事を終わらせ、ヨミとソルスが帰宅したようだ。なにかの粘液でベッタベタのソルスと、そのソルスに引きずられた、刃物を持ったゴブリンに追っかけ回されたのであろう、泣きじゃくるヨミが姿を現した。
「あぁー……えっと……」
「とりあえず、お風呂に行かれては如何かな……?」
ウィスカーさんにちょっと引いた目で見られた。
俺が悪いのか!?
◇
「ぷっはー!やっぱりお風呂上がりに飲む牛乳は格別よね!」
身体中に張り付きベタベタしていた粘液をお風呂で綺麗さっぱり洗い落としたソルスは、グビグビと牛乳をイッキしていた。
「そんなに一気に飲むと腹壊すぞー」
「なぁに言ってるのよ、仮にも女神なこの私が腹痛なんかになる訳ないでしょ?というかおじさん久しぶりね。おじさんも飲む?あとはスーパーシュガー牛乳とボルケーノ牛乳しかないけど」
スーパーシュガー牛乳ってなんだ。ボルケーノ牛乳ってなんだ。いつの間にそんなものを買って来てたんだ。
ツッコミたい事が沢山あるが、自他共に認める甘党としてはスーパーシュガー牛乳は聞き逃さなかった。後でどこに売ってるか聞いてみよう。
「わ、私は遠慮しておきます……いやはや、本当にお久しぶりですな。そういえばソルス殿はこの間の騒動の時はいらっしゃいませんでしたが……」
「うっ……それは、その……あれよ!私は世界でも数少ない高位神職だし?世界を巡ってたみたいな……その、みたいな………」
「う、うむ。なにか事情があったのでしょう。深くは聞かないでおきます……」
ただの家出をそれほど誇張できる精神の強さには感服せざるを得ないが、団長さんに憐れみの目を向けられてるぞ。
「と、ともかくそれは置いといて……おじさんはなんの用で来たのかしら?さっきもリンと面白そうな話をしてたし、是非聞かせて欲しいところね」
「うむ、そうだぞ主。私たちだけ除け者だなんてそんなことはさせないからな」
ふんすっと腕を組み、抗議の目を向けてくるヨミ。
あのそのお胸がすんごい事に………
「はっ!そうでした団長、あの件についての説明を………」
「済ませましたぞ」
「魔女殿への依頼は……」
「先程お話しましたぞ」
「す、すみません……ついメリル殿のお話に熱中してしまい……」
「まぁよい、それでお主の魔法への理解は深まったのですかな?」
「は、はい!それはもう……」
ふふーんと尊大にふんぞり返るメリル。胸がないのでどれだけ張ってもまな板である。
「それなら良いのです。この先も精進するのですぞ」
「すみま……え、はい!」
……良い上司を持ったものだ。
「ねぇねぇおじさん、イチャイチャするのは後にしてくれない?私たちにも話を聞かせなさいよ」
「い、イチャイチャ等は!決してイチャイチャ等は!」
「そうですぞソルス殿、冗談も程々にしておいて頂きたい」
魔法使いさんは顔を真っ赤にして否定しているが、団長さんは大して気にしていないようだ。
これはあれだな。禁断の恋ってやつだ。
魔法使いさんが可哀想なのであんまり触れないようにしてあげよう。
「あー、えーっとな……俺の口から説明するよ。実は今団長さんは俺たちに依頼を持ってきてくれたんだ。それが魔導機械に関するもので……」
「「「「魔導機械!!!」」」」
「今度王都で祭りをやるからって……」
「「「「祭り!!!」」」」
なんだよ興味津々じゃねぇか!
「でもロボットとかお前ら興味無いだろ?どうせ行くなら皆で行きたいからさ、今回は断ろうかと……」
「ちょ、どうしてですか!?私は行きたいです!行かせてくださいお師匠様!」
ユリアが激しく反応する。なに、中二病モード入っちゃったの?
「そうだぞ主!魔導機械には明るくないが、王都で祭りと来たら美味いものが沢山あるに決まっている!行くしかないだろう!」
お前ほんとに食いしん坊キャラが板に付いてきたな。
「私は……みんなと行けるなら、どこへだって行ってみたいです!」
生きる希望を取り戻したメリルが可愛いことを言う。
「リン、見て頂戴。ここに王都に行くことに反対している人はいる?いないでしょう?あんたが勝手に断ろうとしていた事こそあんたの私情で動いてたのよ」
そうか、俺はこいつらを誤解していた。女の子だから興味無いと、勝手に割り切っていたのだ。そうして面倒を避けるための口実に使った……
「ごめん、皆……俺、皆のことちゃんと考えてなかった……」
「ふん、分かればいいのよ分かれば。さぁ、それじゃあ準備をしましょう!でっかいお祭りが待ってるわよー!!」
そうだ、俺は最低だ……性別主義のクソ野郎だったんだ……
「やっぱり皆、ロボが大好きな俺のブラザーだったんだな!!!」
「「「いや、それは無い」」」
ユリア以外の全員に否定された俺は、その夜準備も手につかず、布団に閉じこもって恥ずかしさに悶え続けた。
これからは週1投稿(日曜夜)でできる限り行こうと思います。
日曜夜に思い出したら覗いてやってください。