38話 強欲
ウルトラ久しぶりですね。やっと書き終わりました。とは言ってもここ2日でドカッと一気に書いたものでちょっとグダってます。
あと2話でこの章を終わらせようと思っておりますので、何卒お付き合いよろしくお願いします。
それでは皆さん、過度な期待はせず、ゆるーっと行ってらっしゃい!
走る、走る、ひたすらに走る。
たとえそれが間違っていようと、今の私に出来ることはそれしかないのだから。
「クッ……しかし夢を見せる魔道具とは……これまた厄介なものだな……!」
およそ山の中とは思えない明るい電飾の中を駆け抜け、私は職務を全うする。
見つかるか、では無い。見つけなければならないのだ。
あの主がメリルを殺せるとはとても思えない(私にだってできないが)。それゆえ、他に唯一の手立てであるこの方法が実現されなければ世界は滅ぶ。否、主を残して崩れゆくだろう。
つまりこれは聖戦、世界の存亡をかけた大決戦であるのだ。
「その一描写に私も加われるとは恐悦至極……っと、部屋があるな」
扉を開き、中を覗くが特に何もないようだ。中はとても質素で、机と椅子、開け放たれたタンスと机の上に筆記用具があるのみだ。
「ハズレ……だな」
私は部屋を出て再び走り出した。
あの質素な部屋に込められた、ある1人の人間の人生を置き去りにして。
◇
魔法とは何か?
それは人類への永遠の問いであり、また既に何度も証明されたことでもある。
魔法とは魔力を体内で練り上げ、それに色を付けるフィルターを通して体外に放出することで発動する、と言うと1番分かりやすいだろう。
元は、神々によって編み出された技であり、1部の人間のみ使えるものであった。彼らは魔法を得た時、どんな思いを抱いたのか。
『なぜ、私が……』
と、思ったのではないだろうか。
少数派が弾圧されるのはどの世界でも変わらぬ悪習であるようで、やはりこの世界でも過去に激しい弾圧があったとの記録が残っている。
どうしてこんな目にあわなければならないのか、なぜ私たちだけが……と、悲しみと怒りに明け暮れたことは想像にかたくない。
ここで、魔法とはなにかという問いに新たな仮説を打ち立てた者がいた。
彼は言う。
『魔法とは、人の欲だ。人々はあれがしたい、これがしたいと願ったことを自らの手で叶える力を持っている。それが具現化したものが魔法であり、魔法とは全てを叶える力なのだ』
と。
『魔力とは思い…もとい願いの強さに比例する。大きな願いを抱くものはそれゆえ強い。強さに自信を持ち、願いを叶えるために恐怖を打ち払い、戦い続けられる。英雄とはそうして生まれるのだ』
正しさと理想論を行き来するこの仮説は、一笑にふせるほど幼稚な理論ではない。だが、それゆえ凝り固まった考えは誤って見える。
結局、何が正しいのかなんて誰も知らない。いや、知る必要はないのだ。魔法は魔法で魔法なのであって、それ以上の何でもない。
君が、君以外にはなれないように。
◇
「『破壊』!『破壊』!『破壊』ッ!!ちくしょう、埒があかねぇ!!」
魔法を扱う上での全てを血が心得ている魔女だ、やはり基本スペックが違う。レベル自体が格上であったとしても、詠唱速度、精度、魔力の練度、どこをとっても俺に匹敵する。
(世界最強だなんて自惚れていたが、まだこのステージには戦えるやつがいたのか……)
今は間断なく撃ち込まれる魔法を散らすので精一杯だ。
炎が踊り氷が舞い、水は荒れ狂い風は吹き荒ぶ。土塊が対象を押し潰さんと迫るが破壊スキルの前に散っていく。
息もつかせぬ魔法の応酬。
何十年か振りに、俺は熱い高揚感を味わっていた。
連続する魔法の行使により、周辺にはマナサークルと呼ばれる異常結界が展開している。
マナサークルは、途方もない量の魔法を撃ち終わった後に残る魔力の残滓によって出来るものだ。特に何かしらの影響を及ぼすわけではないが、激闘を物語る確たる証拠にはなる。
メリルはただ眠っている。目も閉じているし、呼吸も安らかだ。胸の上下から見て取れる心拍数も大分低い。
完全に睡眠欲の魔女に取り込まれているのか……
その瞬間、永遠とも思えた魔法の乱打が止まる。
(なんだ……?)
ここまで唐突な変化が起これば俺だって警戒する。
………………………………………静寂は破られなかった。
音もなく、メリルの閉じられた瞳から涙が零れる。
その雫は頬を伝い、地へと還った。
それだけ……ではなかった。
メリルは膝から崩れ落ちると滂沱のごとく涙を流した。
「メリルが……抵抗してるのか………?」
手や足は、目の前に佇む俺を破壊せんと動こうとするが、小さく震えるだけで行動にならない。
「あいつも……戦ってるって訳だ」
それならば、やはり俺が折れる訳にはいかない。
よし、行ける。
「かかってこいよ、睡眠欲の魔女。そろそろ本気で相手してやる」
破創の魔女が、動く。
◇
「……ごめんなさい」
そんな言葉で片付くとでも思っているのだろうか。
「本当に……ごめんなさい……」
彼女は一体誰なのか。
「全て……全て私のせいなの………」
この告白になんの意味があるのか。
「私が、彼を愛したばっかりに………」
そんな惚気に興味は無い。
「あなたにも………こんな運命を歩ませて………」
同情では何も変わらない。
「私は、もう体無き死人だけど………」
あなたの事なんてどうでも良い。
「心だけはここにあるから……」
心なんて知らない。
「だから、せめて……」
もう、何も………
「この思いを伝えて……最後の悪あがきをしたいの」
一体何が出来ると言うのか。
「彼によれば、魔法とは欲求を満たすための力なの」
私の想いは満たされなかったというのに。
「あなたの願いは悪い方向に向いてしまった」
何が悪いというのか。
「あなたが消えて、喜ぶ人なんていると思う?」
逆だ。喜ばない人はいない。
「あなたの死は次の災厄を引き起こすだけ。人の欲は……消えないから」
何が……言いたい。
「あなたには生きてもらわなければならない。彼女……彼?彼らのために」
………………
「生きてるって……楽しかったでしょ?」
……っ!
「もっと一緒にいたいって、思ったでしょ?」
……………っ!!でもっ!!
「それで……それでいいのよ……魔法は何時でもあなたのためにあるんだから」
っ………………………………私は……
「ええ、言ってご覧なさい。あなたの願いを、あなたの最上の欲求を!」
あの人と……あの子とあの人とあの人とあの人とあの人と……一緒にいたかった………!あの人とあの人とあの子とあの人と……ずっと一緒にいたい!!!
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
対照的に私の頬には暖かな物が伝った。
「うん、そうよね!ほら、行きなさい。欲求を自覚した以上、こんな所でグズグズしてられないはずよ。なんてったって魔女は……」
何より強欲なのだから。
◇
頑張りなさい。あなたは私たちの希望………
私たちを終わらせられる。
だって自慢の………
私の子孫だもの!