37話 魔なる法
皆さんお久しぶりです。
はい、1ヶ月ぶりですね。
こちらを離れている間に作家人生1年の記念日を完璧に逃していました。
まぁ、気にせず本文へどうぞ!
いい感じに決め台詞を吐いた私は。
あれから一切描写されることもなく地に倒れ伏していた。
◇
(私の全力でも……駄目………か)
めちゃくちゃな感情に支配され、がむしゃらに詠唱し放った魔法。
それは、今までで一番の、私の人生で最高の魔法だった。
だが、それすらも虫の息であるとはいえ耐え切られてしまった。
(……無念……です)
確かに、あの師匠でさえも一瞬でやられてしまった相手に私程度が止めを刺せるなどと驕っていた訳では無い。届かない、敵わないと分かっていても、あれだけはやるべきだと思ったのだ。
倒せなかったことはやはり残念だったが、そこに悔いはなかった。例えこのまま我が身が滅びようとも、今の私ならなんの未練もなく逝けることだろう。
(そんな……縁起の悪いことばっかり考えるんじゃない……!まだ終わらない……終われない!せめてメリルさんを……!)
魔力切れでもはや微動だにしない体に無理矢理力を入れようとする。
だが。
「……ぅっ!?」
魔力の奔流。荒れ狂い、全てを飲みこまんと辺りを包み込む。
(なに………これ…体に力が……?)
よく見れば、私の体は微かに震えていた。
恐怖している。そう気付くのにさほど時間はかからなかった。当たり前だ。
今となっては本能だけでなく頭でも理解している。
これは……ヤバいと。
目を覚ました眠れる魔力……いや、この場合はこう言い換えよう。
眠りにつき、夢のような本来の魔力が顕現したのだと。
睡眠欲の魔女が目の前にいる。
◇
動けなかった。動こうとも思えなかった。
怖い、恐ろしい。あれが全人類……全生物に恐れられる三欲が一角、『睡眠欲の魔女』。
正直、少し漏らしかけた。この年にもなって漏らしそうになったとバレるのは恥ずかしいのでこれはオフレコでお願いします。
顔だけそっと上げて辺りを窺う。
ヨミさんは私と同じように恐怖に縛られているようだ。無理もない。
私達が動けない間に、メリルさん……否、『睡眠欲の魔女』は、おそらく今回の事件の中心になるはずだった『睡眠欲の魔砲』にポンポンと魔法を撃ち込みまくっている。
一瞬の隙もない魔法陣の構築、そして展開。それに特筆すべきは大量の魔力を消費する強大な魔法をああも簡単に放ち続ける体内魔力量。なるほど最重要危険魔獣と呼ばれてしまうのにも頷ける。
現状、お師匠様を失った時点で私達にほぼ道はなかったのだが、更に大変な事態に陥ってしまった。
この状況、状態、まさに………
「最……悪……ですね…………」
打つ手なし、問答無用のチェックメイトだ。
クイーンは既に取られ、歩兵も騎士も動けない。
完全封殺。
あの少女の姿を奪ったバケモノにそんな気は微塵もないのだろう。そうだったとしても、私達に救いはない。
これは……駄目ですね。
いつものように、いつものセリフで私は投了する。
だが、それでも……一縷の望みがない訳では無い。
私の師匠は不老不死。あの言葉が本当だったとすれば……
私が途轍もなく恥ずかしい思いをするだけで済む。
ふと、視線をヨミさんに向けた。
………ん?
何か話しているようだ。恐怖で気でも狂ったのだろうか?
………いや、違う。涙を流して微笑むあの顔のどこに狂気があると言うのだ。ということは………!
「あぁ、何でも言ってくれ!なにせ私は……主の忍びだからな!」
何らかの形で生きているのだ……!
世界最強。その名はやはり伊達ではなかったようだ。
尊敬する師匠の生存をうけて思わず涙が………
いや、待てよ?
私はさっき、お師匠様が殺されたと思って激情に駆られ魔法を放った。もう二度と会えないあの人に届きますように……とか願いながら。
つまり、私はお師匠様がまだ生きているのにも関わらず、あんな感動のワンシーンを演出していた訳で………
(ああああぁぁぁぁぁ!!!!お師匠様のバカぁぁぁっっっっっ!!!!!!!)
私はゴロゴロゴロゴロとのたうち回り続けた。
◇
通話は切れてしまった。
「夢を見せる装置と言われても………」
皆目見当もつかない。そもそも、夢を自分の思うがままにコントロール出来るなど、それ自体が夢物語のような話だ。
だが。
主に探してくれと言われた。それだけで十分実在する証拠だ。
どんな形なのか、どう使うのか、何もかも分からないが、それでも私は探しに行かなければならない。
もう、動ける。
私は二本の足で地面を踏みしめる。もう、恐怖はない。
「任せておけ……主!」
私は走り出す。どこにあるのかも、実在するかも分からない物を求めて。
◇
ん……?
俺が魂のみでふよふよ漂っていると、先程俺がミンチになった場所に光の粒子が発生していた。
体の復活が近いようだ。
前回死んだ時は、復活した体に突進することで中に入れた。今回も同じ方法でいけるだろう。
初めは微量だった光の粒子はさらにあちこちから集まり、徐々に人型を形成していく。
そしてその傍を飛び回る俺。
夏の虫になった気分だが、そんな事は気にしていられない。今はかなり不味い状況だ。早く打破せねば。
やがて光が収まり、元の体が見えてくる。
目をつぶり、感情も温度も無く、ただそこに存在するだけの体。
戻ることに逡巡してしまう。
だが、俺は戻らなければならない。
もう二度と、仲間を失わない為に。
俺は、冷たい人形に向けて突進を敢行した。
◇
全てを焦がす爆発。
暗い空間を切り裂く落雷。
離れていようと負荷を感じるほどの重力。
荒れ狂う水柱。
万物を貫く土槍。
その地は正に地獄であった。
魔法が魔法を魔法にし、魔法で魔法が魔法する。
混沌極まるこの空間に、正常を保てる物などない。
ハズだった。
世界の終わりもかくやという状況を演出していた少女は突如魔法の乱打を止め、後ろに振り向く。
「さーて、そろそろ俺も働かなくっちゃなぁ……これじゃあニートと何ら変わりねぇ」
悠然と、だが物憂げにこちらに歩み寄る少女に、魔女は初めて警戒……否、感情を示した。
「見つかるかどうかは二の次だ!今はとりあえず、お前を止める!」
魔女は魔法を放った。




