36話 あなたたちはこの窮地を脱せますか?ーイエス……多分
ちょっと予想外だったので流石にビックリしたが、今はもう冷静だ。
それにしても久しぶりに死んだなー。
久しぶりとは言っても三度目だが。そう何回も死にたい訳ではないのだが、やはり日本にいた頃一切鍛えていなかったのが原因だろう。俺はとにかく防御力が低い。物理防御と言うやつが。
なんて呑気に思考してはいるが、現在の俺は魂のみで存在している状態である。何故か五感は正常に作動しているが体がないため意思疎通が出来ない。前にも一度経験しているので特に驚きはない。
やはり全身が吹き飛ぶ程のダメージだと再生が遅いようだ。あと数分はかかるだろう。因みに、時間が経つと死んだ場所に体が再生するので、体に向かって突っ込むと中に戻れる。
さて、その間どうしようか………
魂のみでふよふよ飛び回っていると、ぐちゃぐちゃで滅茶苦茶なのに、やけに静かな魔力を感じた。
霊体というのは魔力で構成されているため、普段より魔力に鋭敏に反応してしまう。
魔力は静けさを保ちながらも徐々に増幅していき………
これはあれだな、ユリアさんだな。
だが、いつにもまして魔法の完成度が高い。
体内で魔力がめっちゃめちゃになってはいるが、いつも体外に漏れてしまっていた魔力が全て魔法に注ぎ込まれている。
故に、火力も相当上がっている。
俺でも楽に数回死ねそうだ。
もしやこれは、弟子が師匠の敵を打つ感動のシーンなのでは?もっと泣き叫んだ方がいい気がしてきたがこの状態では涙も出せない。
心の中で泣いておいた。
「体内での循環……ようやく成功しました。お師匠様にも見せたかったのですが」
お、やはり成功していたようだ。家の弟子は優秀だねぇ。
「『スプリーム・ドラゴニア』」
ユリアが生み出した、普段より数倍も多い魔法陣から光が放たれる。
「我が師よ、手向けの花にはちと汚いが……」
…………
「生憎、私にはこれしかないんですよ」
…………カ、カッコイイーーーーーー!!!
何あれ超カッコイイ!いつか俺もあんなセリフ言ってみたい!
これって、俺こんなところで聞いてちゃいけないセリフだったんじゃないの!?もっとお空の上の方で微笑みながら、『ありがとう、ユリア……』とか言いながら聞いてなきゃいけないセリフなんじゃないの!?
なんか自分がスゴい場違いな場所にいるんじゃないかと思ってしまったが、それは思い過ごしだったようだ。
ユリアの魔法が放たれたにも関わらず、まだ感じる。
ユリアの魔力とは違い、荒れ狂っている。静寂などとはかけ離れすぎている。雑音、騒音全部入り混じって、魔力がどんどん増大していく。
とても嫌な予感がするが、気のせいだと思いたい。
いや、思いたかった、と言った方が正しい。
俺は既に確信を持っていた。
「な、なんだ……?まさか、こんなタイミングで……!?」
男が叫ぶ。
男の小脇に抱えられていたはずのメリルが、地に降り立ち、魔力を開放する。それだけで側にいた男が消し飛んだ。
……なんちゅう魔力だ、今までの敵とは格が違う。
これが、世界に恐れられる三欲の魔女。
睡眠欲の魔女が目覚めた。
◇
さて、この状況を打破する方法は2つある。
一つはメリルを殺すこと。
もう一つは血の暴走を止めること。
……俺は魔女の血の暴走を止める方法を知らない。
となると、必然的にメリルを殺さなければ事態は解決へと向かわない。だが………
俺にはそれを行動に移す勇気がない。覚悟もない。
ならばどうするか。
そもそも、俺の中にメリルを殺すという選択肢を取る気はかけらもない。
そうなれば血の暴走を止めねばならなくなる。
俺は、血の暴走を止める方法は知らない。それでも、メリルに押し負けることもない。ならば、時間はいくらでもあるはずだ。
メリルを止めている間に考えるしかない。
そんな結論に至った俺は、この時点であることに気づいた。今まで散々止める事を考えてきたが、発送の転換をして事の発端について考えるのも必要なのではないか?
事の発端。メリルの中の魔女の血が暴走するに至った理由。
考えろ、何があった?
俺たちが落ちてきた時にはメリルは椅子のような機械に縛り付けられていた。縛るのに使われていたのが魔力を無理矢理吸い出し、他の物に流すのに用いられる『魔流筒』であったことから、そこに繋いだ魔導具があの男、Dr.マッド・マッド・マッドソンの切り札であったことに間違いはないだろう。
つまり今、メリルが攻撃を加え続けているあの国家施設級の天体観測アンテナみたいな物が、古代兵器、『睡眠欲の魔砲』なのだ。
見る限りあれにメリルが放った魔法は吸収されていないようなので、誤って発動することはないだろう。
それに今、メリルがあれを悪用するとも思えない。あれは気にしなくていいだろう。
Dr.マッド・マッド・マッドソンは、何を用いてメリルの血を暴走させたのか。
魔女の血………睡眠欲の魔女………睡眠欲の魔砲………
………眠っているから夢、というのは流石に安直すぎるだろうか?
いやいや流石にないわー
とか思ったが、よくよく考えてみれば奴はドラゴニアを襲った『生物の心を操る竜』を、創り出したのだ。夢くらい自由に見させられるんじゃないか?確か現代の日本にもそんな話があったし。
となればそれはどこにある?
活用出来ればこの状況、打破できなくもない……!
メリルは飽きることもなく魔砲に魔法をブチ込みまくっている。
そちらに視線を向けようとした際、ふと、気づいた。
そこには、さっき殺られた時に落としたのだろう、共鳴石が落ちていた。
……あれって確か、思念も届くんだったよな…………?
よし、ダメ元だがやってみるか!
◇
聞きたかった声が、確かに響いていた。
いつもどんな時も、主は私に道をくれた。今この瞬間に、何より欲した物が私の胸に届いた。
「……っ!聞こえる、聞こえるぞ主!」
やはり姿はない。
となればこれは思念。『共鳴石』で届けられているものだ。
『よし、ダメ元だったが上手くいったみたいだな!』
いつものように、主は喋る。
『悪いが、早速仕事を頼みたい』
「あぁ、何でも言ってくれ!なにせ私は……主の忍びだからな!」
思わず涙が溢れてしまう。あれほど抱いていた恐怖も今ではなんともない。途方もない安心感。最強とは、やはりあの人のことを言うのだろう。
主がくれる道は、いつでも茨の道だ。だが、それでも私は駆け抜ける。例え、私が崩れようとも。だから、安心してくれ、主。この私が、あなたの忍びが……
『探してほしいものがある。夢を見せる装置……みたいなのを!』
必ず………え?
なんだそれは?
すみました、全然早く投稿できませんでした。それに4章最終回ももっと先になりそうです(あと3,4話くらいでしょうか……)。
話は変わりますが、実は私初めての短編を結構前に出しました。今度はしっかり賞にも応募しているので是非見ていってください。
次こそは早めの投稿を……!