32話 悪夢
ちゃんと出せましたね。どうぞ楽しんで来てください!楽しめるようなお話ではありませんが!
俺はDr.マッド・マッド・マッドソン。人呼んで『切り拓く者』。
俺は小さな頃から夢を見ていた。全てを下に付け、この世界の王となることを。
◇
俺が生まれたのはマテリア王国の海を挟んだ隣国、グラビー帝国だった。
グラビー帝国では多種多様な民族、人々が住んでいた。奴らは知らなかった。
この国がいまや崩壊寸前であったことなど。
もちろん、貧民街に住む多くの人間の内の一人であった俺にも、気づくきっかけすらなかった。
俺は、貧しく厳しいながらも、優しく温かい両親と共に暮らしていた。そのままがずっと続いていけば俺だって、こんな思想に染まることはなかっただろう。
俺が少年から青年へと変わっていく大切な時期に、その事件は起きた。遂にグラビー帝国は崩壊した。
後から聞いた話によると、グラビー帝国は、ある種族に対して激しい弾圧を行っていたらしい。そんな日々に耐えかねたその種族が、全種族統合を目指す平和主義とは名ばかりの殺人者たちと手を組み、内部からグラビー帝国は崩壊した。
帝王の首が斬られることで。
だが、目的を達成した彼らは余りに呆気ない終わりに満足できず、城の周囲を襲い始めた。もちろん城下町の貧民街に住んでいた俺たちも戦火に巻き込まれた。
その日はちょうど、帝国建国の記念日の前夜であったので父も母も家にいた。俺は家で父と母と共に眠っていた。
騒音に目を覚ましたのは真夜中だった。
だが、真夜中には似合わない程に明るく家の中は照らされていた。
俺とともに父と母も目を覚まし、3人で逃げ出した。
「父さん、これは一体………」
「すまん、俺にも分からない……だが、ここに留まるのは危険だ。今すぐ市外へ出ねば……!」
「お父さん、駄目よ!街は人でごった返してる、馬車を使うお金もないし海を渡るのもリスクが大きすぎるわ!やっぱりここにいたほうがいいんじゃないかしら!」
テレポート屋なんて手も届かない金額が必要だし、走って逃げてもすぐに見つかってしまう。もはや八方塞がりであった。
「おい、あそこに人間がいるぞ!」
「俺に殺させろ!」
「いやぁ、俺様だ!」
頭部に動物の耳を生やし、人間にあるはずのない尻尾を生やした悪魔が俺たちに襲いかかる。
「クソッ、逃げろお前たち!3人くらいなんとかなる、後で行く!」
「嫌だ!父さん!」
「お父さん、ありがとう!ごめんなさい……何も出来なくて」
「何を言ってるんだ。お前には散々世話になった、これからも……な」
「父さん!父さん!」
父は悪魔が振り下ろした剣を、手が切れるのも構わず掴んで奪い取る。
そして、悪魔たちに向かって雄叫びを上げ突っ込んでいった。
一人、二人と切り倒し、その後を俺の視界に捉えることは出来なかった。
◇
「…………嫌な夢だ」
俺は目を覚ました。
小さな時の夢を見た。今までに何度見たことだろうか。
もう今となっては涙すら流れてこないが、どうであろうと俺の原点であることに変わりはない。
俺はあの日、あの時からそう決めたのだ。
「とーーーーーーさーーーーーーーん」
相変わらず間延びした声が部屋に響く。
部屋とは言っても、一つの山脈をまるごと切り抜き作り出した空間だ。場所によって差こそあるが、高さはおよそ300m。そして、俺を呼ぶ声の主にとってはその部屋が通常サイズなのだ。
「てーーーーーーーーーきーーーーーーーーーーーきーーーーーーーーーたーーーーーーーーーー」
何故こんな喋り方なのかはこの天才の頭をもってしても解明しきれなかった。この俺に思考するという活動で精神的疲労を与えた、数少ない難題である。
「おぉ、我が息子よ。敵襲か、ならばお前が出よ。マテリア王国が三勇者の実力、この目で確かめるとしよう」
「わーーーーーーーーかーーーーーーーったーー…」
「クフフっ、フハハハハハハハ!!どんな戦力を投入しようと我らには敵わん!この世界の王となるのはこの俺だ!」
と、その前に。
「我が息子よ、俺は少し用事が出来た。先に奴らのもとへ向かえ。俺は後から向かう」
「うーーーーーーーーんーーーーーーーーー」
俺は、我が息子とは呼称ばかりの哀れな俺の操り人形が部屋から出るのを見届けると、ある場所に向けて歩いた。
◇
「ここだよ、睡眠欲の魔砲があるのは」
俺たちは勇者やおっちゃんと共に現場へと急行した。そこにあるのは………
「なんぞこれ」
「扉………だな」
ヨミが返してくれるが、それくらい見れば分かる。
問題はそっちじゃない。
「ふぇー、でっかいです………」
そう、なんかもう規模が違った。
「ああ、そうだろう。俺たちも最初見たときは驚いたもんだぜ。なぁ、隼人」
「うん、最初は風珠で見たんだけどね。ドアノブすら可視範囲に入らなかったよ」
アハハ、と笑う隼人。まずなんでこの巨大な扉にドアノブがあるんだとツッコみたい。
「それに、驚くのはまだ早いよ」
マジかよ、まだなんかあるのか…?
水有が巨大な扉を押し開ける。ギィィィッッと重低音を響かせながら扉が開ききった。すると………
鮮やかな光が網膜へと飛び込んでくる。
眩しさに目を細めるが、次第に目も慣れていき、ようやく全貌を把握した。
そこには都市があった。
我らが東京の繁華街を越えるほどの電飾と、近未来的な建物の数々。
思わず言葉を失った。
「流石に空飛ぶ車はなかったけどな。それでも十分スゲぇだろ!」
なんでお前が得意気なんだと興奮する紅助に言うこともできないほど、俺は。いや、俺たちは興奮していた。
「「………うわぁーーーーーーー!!!!!!!」」
お目々をキラッキラさせながら街を眺めるユリアとヨミ。
俺もきっとそんな顔をしていただろう。
「あぁ、皆。言っておくけど、この街は大分入り組んでるから迷子にならないように………って、リンたちは?」
「『これはアレだな、ロボットが出てきてでっかいバケモンと戦うために造られたNE○V本部の上の街だな!お前ら、第一種戦闘配置だ!』って叫んで走っていったよ?」
「興奮するのも無理はないが、流石にそこまでは行かないだろ」
そう言って呆れる勇者達の言葉は俺の耳には届いていなかった。
◇
とりあえず進むとしよう。
リンたちが気にならないと言えば嘘になるが、仮にも破創の魔女。そう簡単にやられるとも思えない。
仲間の二人も中々キワモノのようだったし、放っておいても問題ないだろう。
「それじゃあ俺たちは前来た時の道順で進んでいくとするか」
「そうだね。あの3人なら何とかなる気がするしね」
そう話しながら進んでいた時だった。
遠い彼方から爆発音のような音が聞こえてきた。次いで女の子の悲鳴。
「………ねぇ、僕たちさ、さっきここには一切の防衛手段がないみたいな事言ったけどさ。ちょっと気になって鑑定スキルで辺りを調べてみたんだよね」
「流石にそこまでは言ってなかったと思うが………で、結果は?」
「そこら中罠だらけだよ。守衛がいないのは、ここが突破される訳が無かったからだったんだよ」
「ってことは、さっきのはやっぱり………」
皆で頷きあう。
あれ?そういえば………
「ウィスカーさんは?」
「「あ」」
あ。じゃないだろ、と言いたくても言えないこのモヤモヤ感。だって俺も忘れてたし。
「はぁ、皆してどっか行っちまいやがって………まあいい、さっさと進むぞ!」
「そうだね、メリルちゃんを救い出さなきゃ!」
不意に視界が暗くなる。
「まーーーーーーーーーーーてーーーーーーーーーーー…………」
巨体が、俺達が歩いていた周囲を根こそぎ吹き飛ばす。
「あっぶねぇ!あいつどっから出て来た!?」
攻撃だと理解するのに若干時間を要したが、全力で前にダッシュし、何とか避けた俺たち。
周囲を見渡してみると、一面だけ開いた直方体のようなものが地面から生えていた。
「おい、もしかしてあれから出てきたんじゃないか?」
2人に問いかけてみる。
すると2人はうんうん頷くとこう言った。
「「パロディにも程がある」」
俺にはなんのことか、一切分からなかった。
「ちょーーーーーーーーこーーーーーーーーまーーーーーーー………」
「仕方ない、会敵したからには対戦ヨロシク!小手調べ程度にチョッカイかけてくる!」
「分かった!だけどあまり相手を甘く見るなよ!仮にもこの世界で3本の指に入る大国のマテリア王国に喧嘩を売ったんだ、ノロマに見えるけどそいつ滅茶苦茶強いかも……」
「駄目だ紅助、下がって!」
注意を促す俺のセリフを遮って隼人が叫ぶ。
「隼人、どうしたんだ?」
いつもはおちゃらけている隼人の顔が真っ青になっていた。例えるなら、まるで………
ブルブルベリーのような青さだった。
「………コイツのレベルが、」
「かーーーーーーとーーーーーーーーー」
「ぐはぁぁっっ!??!!?!?!」
俺たちの中でも卓越した剣技を誇るはずの紅助が、巨人の巨腕になぎ払われる。
紅助の体はいくつもの建物を突き破り、止まる。そこから紅助の威勢のいい声が聞こえてくることはなかった。
「なっ………!?」
あまりの出来事に、俺は一歩も動けなかった。この国で一番の怪物と呼ばれた、太古のダンジョン最奥にいたエルダーガーディアンを相手にした時だって紅助は最後まで戦い抜いていた。
それがたった一撃で?
「は………はちじゅう………」
「は、やと………?」
「87………なんだよ」
俺たちはようやく理解した。
なぜ巨大な兵力を持つマテリア王国についてよく知る、Dr.マッド・マッド・マッドソンがこの国に脅迫状なんて送ってきたのか。
古代兵器を使えるから………なんて甘っちょろい悪ではなかった。
もはや悪夢。こいつこそが最初から悪夢だったのだ。
「しーーーーーーーーんーーーーーーーーだーーーーーーーーーかーーーーーーーー??」
奴の長いセリフを聞き終えてもまだ、俺たちは動けなかった。
恐怖、ただそれのみが俺たちを支配していた。だがそんな中でも、ただ一つだけを俺たちは理解した。
「みーーーーーーーんーーーーーーなーーーーーーーこーーーーーーろーーーーーーしーーーーーーーてーーーーーーーやーーーーーーーるーーーーーーぞーーーーーーーー!!!」
俺たちは死ぬだろうということを。
今章はあと4、5話程度で終了する予定です。




