26話 あなたは一体どこにいるのですか?ー……… 前編
なんか一つにまとめにくかったので、前後編に分けました。後編はいつか出ます。
「おっ、お師匠様……私…もうっ!」
「だっ、だめだ!まだ、もうちょっと待って………」
「無理ですっ!こ、これ以上は………!」
「待て、いっ…一回落ち着くんだ!こんなことしたら…!」
「おい主!ユリア!朝からうるさいぞ!一体何をしてるんだ!」
自室の窓を開け放ち、ヨミが叫ぶ。
それがトリガーになったのか………
「あっ、ヤバいです」
「「ちょっ!?」」
魔力の暴力。
とでも言えば良いのだろうか?
現在ユリアさんは体内で魔力を循環させるトレーニングの真っ最中だったのだが、何とかギリギリで保たれていたユリアの魔力が一気に放出されてしまう。
普段ユリアが行使している「スプリーム・ドラゴニア」の規模から考えれば、辺り一帯吹き飛ぶ。もちろんすぐそばの我が家も。
仕方ねぇ、俺の術式を開放する!
……場所を入れ替えてもなんの意味もないのだが。
俺は、普段は抑えている大量の魔力のその一部を開放する。
ゴオッ、と嫌な音がする。これが俺の体から放たれていると思うとより嫌だ。
あれ程の破壊力を持つスプリーム・ドラゴニアと同等の魔力を放出しているせいか、俺の周りには青白い電流が発生していた。
一切の形を持たない純粋な魔力。それがぶつかりあえば、起きるのは当然。
ちゅどーん
そう、爆発に変えてしまえば破壊スキルで壊せる。
「『破壊』『破壊』『破壊』っ!」
爆発という事象自体は破壊できないのだが、その後起こる爆風、つまり空気の移動であれば空間を断裂させる事で止めることが出来る。何度も破壊スキルを撃ち込みまくり、何とか止めることが出来た。
ふぅーっ、いっちょ上がり!
俺は、今日も今日とて魔力を使い切り地面に倒れ伏す元王女様を背負いに行った。
「ほーれ、ちゃんと掴まれよー」
脇を掴んで軽く投げ上げ、背中に背負う。
「………………」
……あれ、いつものユリアさんなら「ありがとうございます!」って嬉しそうに言ってくれるのに……
そんな些細な事にショックを覚える自分を感じて、メリルに言われる「ユリアに甘い」という事実を何とか飲み込もうとしていたその時。
「えい」
ムニッ
へ?
ムニムニッ
胸を揉まれた。
なにしてんのこの子?
「えっ?えっ、ちょっ…えっ?」
滅茶苦茶に困惑してしまい、自我を失いつつある俺は何とか首を後ろに向けた。
そこには少し不機嫌そうなユリアさんの顔があるのみで。
「お師匠様は自分を男だと言い張る割に、どうして私より胸があるんですか」
ムスッ、と効果音が出そうな表情をしたままそう告げるユリア。
俺の目の前はまっくらになった。
◇
またしても気絶してしまったので、今回は余ったこの時間を有効に使うため、誰にとも無くスキル講座をしていこうと思う。
前回教えたように、スキルには大きく2種類ある。
……そう、ノーマルスキルとユニークスキルだ。
だが、スキルにはもう一つ分け方がある。
それが、「魔法」と「職業スキル」だ。
魔法は名前の通り、魔法が使えるようになるスキルの総称である。
職業スキルもまた名前の通り、特定の職業に就いて手にしたり、その職業に適性があることで生まれつき保持しているものである。
そして、スキルは「属性」というものに大きく影響される。
属性には火、水、地、闇、風、無の6つがある。ドラゴニアの竜はこの属性毎に種分けされているので、迷ったら竜王達を思い出すといい。因みに無は聖竜王だ。
これ、テストに出るからな。ホントに出るからな!
大抵、生物には生まれつき得意な属性がある。殆どの生物は火、水、地、闇、風の内どれかに偏るのだが、一部例外がある。要するに、全ての属性が使える者がいる。そう、人間だ。
俺たち人間は本来、全ての属性が使えるはずなのだ。だが、そうなれる者はほんの一握りだ。周囲の環境や出自などで使う属性は限られていってしまう。
全てを操る、つまり不得意など「無」い。
人間は元は無属性なのである。
だが、一握りでも全ての属性を使いこなす人間は存在するのだ。
そう、俺!とメリル。
ユリアも無属性だ。竜族は世界の規則すら超越するらしい。正に強靭、無敵、最強!
と、言うわけで新たなスキルの分け方と属性について学べたな!
もう目覚めそうなので残りはまたいつか!
◇
「はい起きた!起きました!」
「ひゃわっ!?」
俺の上で居眠りしていたらしいメリルが飛び起きる。病人の上で寝るなよ………
前回のトラウマのおかげか、今回は大したダメージでもない。いや、違うな。これはあれだ、女扱いに慣れてきちまってるな。
いかんいかん、これは早急に手を打たねば………あと、俺の胸はそんなに大きくない。ユリアの成長が遅いだけである。
「よう、おはようメリル。そう言えば冷蔵庫の中身が大分減ってたし、買い物にでも行こうぜ」
「はぁ、分かりました。最近は寝てばっかりでしたし、久し振りの買い物です。今夜は何にしますか?」
「そうだな……チャーハンか……チャーハン、いやチャーハンも捨てがたい…………」
「分かりました、チャーハンですね」
何で分かったんだ!?
ちなみにチャーハンやカレーやなんやは俺が結界村にいる間に転生者が伝えたらしい。グッジョブ!
と、ひとしきり頭の悪い(主に俺の)会話を交わした後、俺たちは外へ出掛けた。
◇
ドラゴニアで貰ったお金も既に四分の一が食費に溶けている。そろそろ新しい仕事を始めねば………
「はい、人参一本70リアね」
「V○SAで」
メリルにもおっちゃんにも首をかしげられた。
何だよお前らタッチ決済も知らないのかよ。
普通に現金で払った。
これでチャーハンを作るのに必要な物は揃った。
「ちょっと休憩でもして行くか?」
「そうしましょうか」
俺たちは二人でベンチに腰かけた。
すると、どこからともなくいい匂いが。
おっ、あれは!
異世界屋台の定番、肉串さんである。
「なあおいメリル、肉串食わねぇ?」
「屋台のお肉は下処理が適当なので美味しくないらしいですよ?」
なるほど、そうなのか。異世界屋台の定番なのに。
やはりここは異世界。500年経ったとはいえ、俺がいた日本には追いつけないらしい。
肉串を諦めた俺はすることもないので、帰りたくなってきた。
「帰るか」
「あっ、いえ…私はもう少し残ります。リン君は先に帰っていてください」
メリルから予想外の返答が来たが、特に問題はない。
メリルは料理スキルなしでもめちゃめちゃ料理が上手いので、早目に帰ってきてくれると助かるが。
「おう、分かった。晩飯前には帰ってこいよ」
メリルはそれには答えず、ニッコリと微笑んだ。
それを了承と取った俺は、一人帰路についたのだった。
◇
だがその日、メリルが帰ってくることは無かった。