24話 あなたは眠ることができますか?ーNo
初めましての皆様、初めまして。お久しぶりの皆様、お久しぶりです。しっかりブレることなく新章に入ることが出来ました。第四章は、眠りに関するあの子のお話です。いつものことながら、このまま超不定期更新は変えられないと思うので、そこはどうかお許しを……!前置きが長くなりました。それでは皆様!ゆる~っと行ってらっしゃい!
『果報は寝て待て』
どちらかというと世間一般に広く知られている部類に入ることわざだろう。
突然ことわざなんて持ち出したら、この頭の悪いお話にこんな出来た奴がいるわけないと思い読む作品を間違えたと思い違ってしまう人が出てくる可能性があるし、一応述べておこう。そこの君。どうかこのまま読んで頂きたい。
主人公が変わってしまうなんて暴挙はいくらなんでもしはしない。
ただ、語り部役を奪っているだけだ。今のところは。
さて、話を戻そう。
果報というのは元は仏教用語で、良い報せという意味らしい。別に詳しく知っている訳ではない。大抵の人間は、詳しい意味を知らず雰囲気で言葉を使う。
知らないのではない。知ろうとしない、極めようとしない、心の底から求めない。たとえそれがなんの変鉄もない言葉であろうとただそれのみに全てを捧げば、それは力を持つというのに。カリスマなどなくとも人を操れたりね。
失礼、取り乱した。今のは聞かなかったことにしてもらおう。
……うん、話が分かる相手で助かった。私は平和主義者なのでね。
何度も話を逸らしてしまって申し訳ない。今の私は君たちへの謝意でいっぱいだ。
お詫びといってはなんだが、この先は話を逸らさないと約束しよう。
要するに、運命は自分の手では変えられないから眠って時を過ごし、良い結果を待とう。という意味である。
うーん、これだけ聞くとタチの悪いニートの言い訳みたいだね。
……いや、今のは逸れていない。私が感想を述べただけだ。
……そして今から始まるのは、眠りに関するお話だ。切り替え方が強引だとは言わせないよ。
周囲に望まぬ眠りを振り撒く自分を終わらせるため、永遠を求めた少女の物語。愛する想いが悲劇を起こし、燃え盛る怒りが奇跡を起こす。
それじゃあ私は行くとしよう。……あんたは誰だって?そんなことは気にしなくていい。今君たちがするべきなのは、自分の事の片手間に彼ら彼女らの行く末を見届けてあげることだ。
これはちょっと変わった、楽しい悲しいお話の序章である。
◇
「「明けましておめでとう!」」
本日、1月1日。元旦である。
俺たちは、大晦日に行われた紅白………もとい結界村歌合戦を見事大成功させた後、我が家にて打ち上げを行っていた。
ブチブチッ!ブチブチブチブチッ!
うーん、いいねぇ。
最初はふざけた名前だと思っていたものだが、やっぱり食って見なければ分からないものだ。
皆さんお察しの通り、水の都ベルネチアから送られてきた特産品、ブチブチイクラである。
舌に触れるだけで弾けるこの柔らかさ、その瞬間口の中に広がる濃厚すぎる味。これはヨミが食べたがる訳だ……。
「ねぇリン、何か忘れてない?ほらほら、早く早く!」
「やめろやめろ!世にも珍しい、ゴブリンロードのみが作ることができるという名酒、『ゴブ王』が溢れるだろ!」
今、家の中で俺以外に唯一起きているソルスが俺の肩を掴み、揺さぶってくる。
「ちょっと、何よそれ?私聞いてないんですけど。私にも一口飲ませなさいな」
「やるかバカ。お前この間一口くれって言った暴れん坊小麦のハンバーガー全部喰いやがったじゃねぇか」
「なによ、一口だったんだからいいじゃない」
ぐぅっ!
確かにそこを突かれるとぐぅの音も出ない。いや出ているのだが。
だってこいつ、ホントに一口で食いやがったんだもん。横幅十五センチはある巨大なハンバーガーを、まるまる一口で平らげたのだ。
「お前の口は四次元ポッケかよ!」
と言ったら、
「何言ってるの?スペアポケットよ?」
と返された。
あれはスペアなだけで、四次元ポッケであることに変わりはないと思うのは俺だけだろうか?
しかも本体は猫型(もといタヌキ型)ロボットより性能が劣るというおまけ付きだ。
………やっぱり返品しようかな?
「ねぇねぇ、何考えてるのか知らないけど沈黙は了承として受け取らせてもらうからね?」
ちょっ!?
叫ぶ間もなく飲み干されてしまったゴブ王。
ちくしょう、高かったのに!
飲み干されてしまったゴブ王の空き瓶を抱きしめ、部屋の隅でメソメソしていると。
「そうよ、この美味しすぎるお酒のせいで忘れてたけど、今日は私の誕生日なのよ?ほら、さっさと用意してあるプレゼントを渡しなさいな」
用意してあるプレゼント?
「一体何の話だ?」
「あらあら、とぼけちゃって。隠しても無駄よ、というかどうせ渡すのに隠す必要ないじゃない」
「全国のサンタクロースという名のお父さんお母さんに謝れ。だから何の話だよ、俺はお前の誕生日なんか知らねぇよ。俺が用意してたのはお年玉代わりのプレゼントだよ」
きっとコイツが言っているのは、俺が夜な夜な寝る間も惜しんで(大嘘)完成させたあの着物達のことだろう。何分、疲れた子供組(ユリア、メリル)と酔い潰れたヨミと村長は眠ってしまったので渡すタイミングを逃していたのだが、隠してたのに何勝手に見てんだ。
「えっ?じゃあ何?私の誕生日は誰も祝ってくれないってこと?」
「そうだな。しかも元旦に被ってるならお年玉がプレゼントで良いよな」
日本でよくあるやつだ。誕生日がクリスマスや、お正月など、イベントに被っているとプレゼントが減るという可哀想な人たちである。ちなみに俺は2月22日が誕生日なので、ちゃんとプレゼントがもらえる。
「ちょ、ちょっと……はっ!」
まるで天啓でも降りてきたかのように、硬直した後、不気味に笑い出すソルス。本来は天啓を降ろす側のはずなのだが………
「そんなこと言うんなら、私天界に帰っちゃうから!天使の子たちとか、他の神たちに祝ってもらって来ちゃうから!それでもいいの!?」
「どうぞどうぞ」
「ええっ!?」
どうやら本気でショックを受けたようで、さっきよりも長い間硬直している。
「えっ!?ちょっ、嘘よね!?ねぇ、嘘って言いなさいよ!」
俺はもう一度、一言一句、音程まで間違えずに言ってやった。
「どうぞどうぞ」
「うわあぁぁぁあぁぁっっっ!!!!ホントに家出してやるーーーっっっ!!!」
◇
「というわけで、ソルスは家出したから家事当番を決め直すぞ。どうせ一週間も経てば忘れて帰ってくるだろうし、仮決めで良いだろ」
「というわけで、じゃないですよ!魔女様は何を考えておいでなのですか!」
世話に疲れたペットを少しの間知人に預かって貰う程度に考えているのだが。
「そうだぞ、主。ソルスは例えるなら狂犬だ。どこで何をやらかすか分からないぞ?」
刃物を見ると発狂する猫人にこんなことを言われるソルスは、もう救えないのだろうか?
「それなら大丈夫だ。俺とソルスしか知らないある秘密により、アイツがやらかさないことは確信できる」
アイツがやらかさないというより、周りがなんとかしてくれるだろう。だって本当の神様だよ?天使様だよ?
「それならいいのだが………」
ヨミが、俺が狙って視線を外して気付かない振りをしていた方向に顔を向ける。
「ユリアは許してくれなさそうだぞ?」
「最低最低お師匠様最低最低最低お師匠様最低お師匠様最低最低最低最低最低お師匠様最低最低最低…………」
こうかはばつぐんだ!
きゅうしょにきまった。
はそうのまじょはこころがおれた。
はそうのまじょはたおれた!
めのまえがまっくらになった。
◇
「あっ、やっと目を覚ましましたね。リン君、大丈夫ですか?」
ううっ、頭が痛い………ここはどこだ?
「ああ、ここは私の部屋ですよ。リン君の部屋は……その……」
「分かった、何も言わなくていい。いや、分かりたくない。だから何も言わなくていい」
そうそう、思い出した。俺は確か、遥か遠い彼方でお花摘みをしなければならないんだった。
「……リン君?どこへ行くんですか?」
「アハハハ………遠い遠いお花畑でお花摘み………楽しそうだなー」
「…よほど酷いダメージを受けたようですね………まあ、そうなる気持ちも分からなくはないですけど」
メリルが、お花を摘みに行こうとする俺を引き止め、もう一度ベッドに寝かせ直す。
「ほら、辛いときは寝るのが一番です。起きたら呼んでくださいね。温かいスープを作っておきますから」
うう、目を閉じようとするたびあの光景が思い出される……あまりに酷い精神的ダメージから、俺はガクガクと震えていた。
それは、ドアに手をかけ今にも出ていこうとしていたメリルにも届いたようで。
「……はぁ。全く、仕方のない人ですね。それじゃあ、あまりしたくはないですけど私がお話をしてあげましょう」
そう言うと、メリルはベッド横に置かれていた椅子に腰掛けた。
「それじゃあ始めますよ?昔々、あるところに………」
古臭いはじめ方で、メリルは話しだした。
それは、厳しくも温かい父と共に暮らす、二人の姉弟の話だった。
………メリルが途中で寝てしまったのは言うまでもないだろう。
冒頭の彼?さぁ、誰でしょうね?




