23話 あなたは年末何をしますか?ーもちろんこれ
皆様、すみませんでした。とんでもなく遅れましたが、年末回です。バカみたいに遅れてしまったのは全て私の責任です。そのお詫びと言ってはなんですが、今回のお話は多分過去最長でございます。内容も色々詰め込みましたので、是非楽しんでください。それでは皆さん、重ね重ねお詫び申し上げます。すみませんでした。では、今日もユルーっと、行ってらっしゃい!
ピンポーン、ピンポーン、ピンポピンポピンポガシューン………
「オウラアッ!」
「フゲッ!?」
俺はドアの中から、インターホンを破壊しやがったバカに飛び蹴りを食らわせた。
もちろん衝撃でドアは木っ端微塵になるが、そんなことは気にしない。
「何しさらしとるんじゃボケェ!インターホン壊されたの、今年に入って二回目やぞ!」
そこには。
白目を剥いて死にかけている村長と。
「ブクブク………」
泡を吹いて気絶しているヒナタの姿があった。
◇
「『死者蘇生』、『死者蘇生』、っと。フーッ、全く。あんたはいつになったら力加減というものを覚える訳?人殺しは嫌がるくせにすぐ暴力に訴えすぎなのよ」
「すまん、つい………ってそれはお前もだろ」
「魔女様、そんなことはどうでも良いのです!このままでは祭りが!」
「あんたもたいがいよね」
さっきまで死にかけていた村長が飛び起きる。
ん?祭り?
そういえばそんな話もあったような。
「魔女様、このままでは祭りが執り行えないのです!」
「詳しく」
「出演者が足りません」
は?
ちょっと待て、出演者?
「お前一体どんな祭りを開くつもりなんだ?」
もしかしなくともあれしかないのだが。
この時期に行う祭り。といえば、毎年年末に放送される………
「なるほど、笑っちゃいけないのね!」
それはもう終わっただろうが。面白かったのになぁ。
「もちろん、ヒナタさんを呼んだことからも分かるとおり………」
「帰らせろ、帰らせろ!おいお前ら!あいつの歌を聞きたくないなら手伝え!」
「分かったわ!私もできる限り頑張って見たけど、あれは神々の域をも超えた力よ!災厄と呼ばれるだけはあるわ!ほら、ヨミちゃんも!」
「わ、私もか?というかそんなことをしなくとも、ヒナタには楽器だけ弾かせて主やソルスが歌えばいいじゃないか」
ヨミの言葉に村長の目が輝く。
「おぉっ!それは素晴らしい!ヨミ様、私はあなたの事を誤解していたようです。魔女様の後ろで何もせず突っ立っているだけと思っていましたが………」
「おい、今なんて言った」
ヨミに追いかけ回されているのに、何故か捕まらない村長を放っておくことにする。
「で?どうするの?私は気高くも麗しいこのソルスさんの美声を聞きたくなっちゃうのはしょうがないと思うから、別に歌ってあげてもいいんだけど。あの子、楽器は上手いし」
「楽器だけは」と強調するように続けるソルス。
うーん、俺も別に歌うのは嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。暇なときは鼻歌を歌ったりする。
「皆さん、おはようございます。何があったのですか?」
「スピー………スピー………」
ユリアがメリルを背負って階段を降りてきた。おいおい、危ないぞ。
俺はメリルを起こすと、二人に事の顛末を話した。
「やりましょう」
やる気を見せたのは、メリルだった。
「珍しいな、お前が寝ること以外に何かしたがるなんて」
「リン君、うるさいですよ。というか何が嫌なのですか?リン君だって歌は嫌いじゃないのでしょう?」
「出来ることなら皆で出たいと思ってな。誰か嫌がるようなら見送ろうと思っただけで、別に俺が嫌って訳じゃないよ」
「なあ主、私は歌は歌えないがリコーダーなら吹けるぞ!」
ドヤ顔で報告してくるヨミ。
ぉおう……ちょっとトキメキかけた。
「まぁ、皆が嫌じゃないらしいし出てもいいぞ」
実質紅白出場って訳か。いや比べるのもおこがましいですすみません。
そう言って村長を振り向く。
そこには。
「おい!?村長!?そんちょーう!!!」
ヨミによって死刑(既に少なかった頭髪絶滅の刑)に処され、白目を剝いて気絶する村長の姿があった。
◇
今日は本番前日。
そんな日に俺たちは。
「お師匠様、ドの音が上手く出せないんです。どうか御指南を!」
「主、この弦楽器はどう扱うのだろうか?」
「ヨミちゃん、昨日教えたんだけど………」
「スピー………スピー……………」
お前らやる気あんのか。
このままでは観衆の前で演奏など出来るはずもない。
「ったく、しかたねぇなあお前らは」
「なによ、言葉と態度の割りには楽しそうじゃない」
うるさい。
「あぁぁぁぁっっっ!!やめて!こめかみをグリグリしないで!地味に痛いのよ!」
言外に顔に出やすいと煽ってくるソルスにグリグリの刑を執行していると。
コンコン、とドアを叩く音と共に、今世界で一番聞きたくない声が聞こえてくる。インターホンは直すのが面倒で放置してあるので使えない。
「師匠!ここにいるのは分かってるんですよぅ!早く出てきてください!お願いします凍死しちゃいますぅ!!」
「ふぃーっ、体の芯から温まる………」
俺の特製スープ(レシピが俺の特製なだけで俺が作った訳ではない)をズズッとすすり、ホッと息を吐くヒナタ。
「ねぇヒナタちゃん、あなたどうして私の家の前で凍死しかけてたの?毛根絶滅おじいちゃん家に居候してたんじゃないの?」
毛根絶滅おじいちゃんは流石にやめてあげてほしい。これ以上はもうほんとに。何度もショックで死にかけてるから。あとさらっと私の家って言うな。
「そのーそうなんですが…いえ、そうだったんですが………」
「何があったのだ?」
会話にヨミも入ってくる。お前は練習しろよ。
視線だけでそう訴えたのだが、一切気付かない。俺たちの主従の絆はまだまだのようだ。
「追い出されてしまったんです。理由は確か………」
「追い出されたですって!?この寒い中に人を放り出せるなんて、家の悪鬼羅刹と同レベルよ!これは即天罰を下しに行く必要がありそうね!」
「家の悪鬼羅刹ってもしかしなくても俺じゃないだろうな」
「やめておいた方が良いと思いますよぅ?どうやら来客中のようでしたし、お客さんも私には皆無なお金持ちオーラを放ってましたし」
ヒナタは「それに………」と、ユリアを指差す。
「あそこの守ってあげたくなる金髪幼女ちゃんにそっくりな子も見ました」
「~♪うーん、まだ違う………」
自然に、相変わらずドの音が出せない新人ギターボーカルちゃんに視線が集まる。
まさか………
◇
「お姉様!お兄様!お久しぶりです!」
一つのセリフの全ての文の初めにおを付けるという神業をやってのけた金髪幼女。
「アリアっ!」
一番にユリアが動いた。走ってアリアの下に向かい、抱き締める。
アリアも優しく抱き返してくれている。
「アリア、元気だった?」
「はい、私は見ての通りの健康体です!お姉様こそ、私が居なくて泣いたりしてませんか?」
「そ、そんなわけないでしょ!?」
「………ちょっとだけよ」と、アリアから離れたユリアが小さく呟くのを、俺は聞き逃さなかった。
「ソルス様は………放っておきましょうか。あっ…ヨミ様、これをどうぞ!頼まれていた呪Y蟹とブチブチイクラです」
発泡スチロールもどきに入れられた高級食材をヨミが受け取る。
「あぁ、ありがとうアリア」
おい待て。
「ヨミ、仮にも俺の妹とはいえ、相手は一国の王女だぞ?もう少し言葉遣いを改めた方が………」
「いえ、お兄様。いいのです。私がそうして欲しいとお願いしたんですから」
なんだ、そうだったのか。別に、俺一人が王族とタメ口きけるというアドバンテージが失われるのが怖かった訳ではない。ぜっ…全然ちがうんだからねっ!
「お兄様、私、皆様が「ばんど」を組んで、「らいぶ」をやられると聞いて飛んできたのです。実はお父様も来たがったのですが、仕事の都合で来られなくて………でも、良かったです。これならお父様に良い報告ができそうで」
「良い報告?」
「はい。皆様は……お姉様は元気でやっていると」
そうだな。どうせなら、最高の土産を引っ提げてユリアの近況をグレイさんに伝えてやりたい。
「おいお前ら」
俺はパーティーメンバーを呼び寄せる。
村長に対する折檻(長かった顎髭絶滅の刑)を終わらせたソルスが側にやってくる。
寝ていたメリルも無理矢理起こす。
「皆がこんなに楽しみにしてくれてるんだ。明日が本番だけど、今から頑張って見ないか?」
全員がコクリと頷くのを確認。そして俺は確信する。
俺たちなら、出来ると。
「本番、絶対成功させるぞ!」
「「「「おーっ!!!」」」」
高らかな叫びが、家の中に響いた。
◇
「あははは………ひとりぼっちなのですよぅ。楽しいなぁ孤独。はっ!?今ここに暗雲を消し飛ばす北風のようなインスピレーションがっ!聞いてください、『帰らぬあの人』………」
超虚しいですよぅ。
◇
なんやかんやあって迎えた本番当日。
俺たちは、会場へと足を運んでいた。
そして。
「すごいな」
「すごいわね」
「すごいです」
「すごいな」
「すかー………すぴー………………」
あまりにも大きな規模の会場に呆気にとられていた。
いやでかすぎだろ。武道館とか比べ物になんないくらいなんだが。
村を囲む草原の一部を切り開いた場所に、巨大なライブ会場と数えきれない程の屋台が出店していた。
あまりの驚きに固まっていると、どこかから声が聞こえてきた。
「おーい、魔女さーん!」
声がした方には、見たことのない女性と筋肉の姿が。俺を呼んだのは筋肉の方だ。
「イクス様!ウィンテ様!」
ユリアが彼らの名を呼ぶ。知り合いだろうか?
「「ユリア(ちゃん)!」」
俺たちの近くまで駆け寄ってきた二人が、喜びの笑みを浮かべる。
「いやぁ、久し振りだなユリア!元気にしてたかよ!」
ユリアの背中をバンバン叩く筋肉。頭髪は燃えるような赤色で、体つきはがっしりががっしりして、がっしりしたぐらいがっしりしている。見た感じから、この筋肉がイクスさんだろう。
その隣の女性はニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべ、ユリアを眺めている。
イクスさんとは対照的に落ち着いた雰囲気だ。薄い黄緑色の頭髪は肩辺りで切り揃えられている。珍しく髪の短い女性キャラだ。この人がウィンテさんだろう。
「えーっと………ユリアの知り合いってことでいいのか?俺はスズキリン。破創の魔女とか呼ばれているが………」
「あぁ、知ってる知ってる。自己紹介はいらねぇ。というか俺たちがしなきゃなんねぇだろ?」
是非お願いしたい。
俺はコクリと頷いた。
「俺はイクス。真竜王国ドラゴニアの火竜王だ」
まさかの火竜王とは。国の一大事に残りの竜王はなにしてんだ、とあの時は思ったが、この人が………
待てよ、ということは………
「そ~、私が風竜王の~ウィンテだよ~。六竜王の~紅一点なんだよ~」
なんとも間延びしたしゃべり方の人だ。字面では到底分からないだろうが、『~』これ一つあたり五秒も間が空いているのだ。しかも一切息継ぎなし。最早超人の域である。
俺だってやろうと思えば一度も息をせず魔王討伐まで暮らせるが、それだって不死性や創造スキルあってのものだ。
「私たちは~あなたに~お礼をしにきたんだよ~」
お礼?なんのことだろうか。この二人とは今日が初対面のハズだが。
すると二人は、地面に頭をつけた。
「すまねぇ!俺が馬鹿なばっかりに、あんたに全部押し付けるハメになっちまった!」
「あなたがいなければ~きっとドラゴニアは~滅んでいたんだよ~」
………確かに残りはなにしてんだと、あの時は思った。
でも。
「顔、上げろよ。お前らに非があった訳じゃねぇさ」
「えっ?」
その言葉は、どちらが発したものだったのだろう。
「多分、色々あって自領から出られなかったんだろ?それならしょうがないし。それに、あの時はあれが一番良かったんだと思う」
そう、誰にとっても。この二人がいれば、なんなら俺抜きで問題の解決に至ったかもしれない。でも、それではダメだった。多数の犠牲者が出ただろうし、そして何より。
ユリアに決着を付けさせてやれなかったと思う。
だから。
「あれが一番良かったんだよ。逆にお礼の一つでも言いたいくらいだ」
「魔女さん………ありがとう」
「私からも~ありがとうなんだよ~」
二人は立ち上がり、もう一度ユリアを見た。
「そうだね~これが~」
「最善……だったんだろうな」
イクスが問いかけるようにユリアを見やる。
視線を向けられたユリアは。
「はい!きっとそうです!」
と、元気な返事を返したのだった。
◇
「何かあったらいつでも頼ってくれ!」と言い残して、彼らは去っていった。きっとアリアの下にむかったのだろう。
昨日は夕飯の買い出しに出ていたらしい。どうせ唐突な訪問だったんだろうなぁ。
俺とユリア以外は早々に俺たちの会話に飽きたようで、どこかに行ってしまった。どうせ沢山出ている屋台に並んでいるだろうし放っておくことにした。
「ライブまで時間もあるし、屋台を見にでも行くか?どうせ暇だし」
「いいですね、行きましょう!私、お祭りって普通に参加したことがないので楽しみです!」
ほーん。まあ王族だったわけだし、なんか色々やることがあったのだろう。
俺は、スキップで進んでいくユリアに苦笑を溢しながら、可愛い一番弟子の後を追った。
見たことのないものばかりが売られている屋台をあらかた周り終わったので、俺たちはステージに向かうことにした。
「ぺろぺろ……お師匠様、これ美味しいですよ?食べます?」
日本の屋台でよく見るリンゴ飴に酷似したものをユリアが差し出してくる。それは、採れたての臓物の実というものを飴でコーティングした、リンゴ飴ならぬ臓物飴。
もちろん名前の通りに超グロい。できれば視界に入れたくもない。
というかユリアさん?それさっきまであなたが嘗めてましたよね?
(マスター、こういう妄想は私を被っていないときにしてください)
うるさい!今まで静かだったんだからそのまま黙ってろ!
ジーッと見つめ返されて顔を赤くするユリア。どうやら気付いたようだ。
「す、すすすみません……」
と、消え入りそうな声で呟く。
全く、これだから箱入りのお嬢様は……この辺りの教育はしっかりしておかねば。いつか悪いおじさんがコロッと逝って、拐われたりしたら大変だ。
でも、そのおかげであれを食べなくて済んだ。誰だよあんなもん作ったの。
と、一騒動(イベント?)ありながらも、ステージにたどり着いた。
「おおっ、魔女様!お早いご来場で。まだ準備は終わっていないので中には入れませんが……」
最近会うたびに毛を抜かれるかわいそうな村長を発見した。そんな村長が聞きづらそうにしながらもこんなことを聞いてきた。
「魔女様、失礼だとは分かっているのですが……その、お仲間の皆様の方は……」
まあ心配したくなるのは分かる。なんなら俺だって心配だ。でも。
「俺の仲間が大丈夫だって言ったんだ。俺は信じるよ。だからお前も、信じてくれ」
強引だし、自分勝手だと自分でも思う。でも。
「えぇ、信じますとも。なにせ、私の尊敬する魔女様のお言葉ですから」
村で一番付き合いの長いコイツなら、分かってくれる。
「そういえば。魔女様、何という曲を演奏されるのですか?聞いておかないと演奏前の曲紹介が……」
そういえばまだ伝えてなかったっけ。
今日俺たちが歌う曲は、作詞作曲俺の完全オリジナル楽曲である。元々作曲なんてしたこともないが、俺に眠る言葉選びのセンスと、最近取った作曲スキル。そして物作りにかけては最強の創造スキルさんの助力により完成させた物だ。
ここらへんで、スキルについて説明しよう。
スキルには様々な種類があり、それら全てを語るのは面倒なので一部割愛させてもらう。
まず、スキルには大きく分けて二つの種類がある。
先天性のスキルである『ユニークスキル』。これを持つ者はごく少数の生物のみである。どれもこれも強力なスキルであることが特徴だ。他に共通点はない。
例を挙げると、俺の『破壊』、『創造』。ユリアの『スプリーム・ドラゴニア』などである。
そして後天性のスキルである『ノーマルスキル』。ギルドや教会、騎士団などにある、あの謎の石板を使用して取得することができ、産まれた時や、レベルアップ時に貰えるSP(才能ポイント)を消費することで取得できる。SPに関しては、俺もスキルポイントじゃねえのかと散々思ったが、この世界の生物の名付けに関しては口出ししないのが得策だ。ちなみに俺はあの謎の石板の解析を行い、その仕組みと原理を応用して、いつでもどこでもスキルの取得ができる魔法を生み出した。この魔法は俺しか使えないが、先天性のものではないのでユニークスキルとは呼べない。ユニークスキルは先天性!ちゃんと覚えておけよ!テストに出るからな!
と、誰に向けてでもなくスキル講座をしていると、ガシャガシャうるさい騎士を連れた青年が近寄ってきた。
目の前まで来た青年が手を差し出すので、反射的にとってしまう。
「魔女殿、久し振りだな。流石に覚えていると思うが、再び自己紹介をさせてくれ」
うーん、なんか見たことある顔だな。誰だったか……
「私は、ネクス王国国王、ネクス・クロス・アーネロイドだ。名前が長いのでな、ロイドと呼んでほしい」
「あー!あの時の!」
「やはり忘れていたか………」
仕方ないだろ。あんだけ色々あったのだ、コイツの名前なんて一々覚えてられない。
というか気になることが。
「今国王っていった?ロイドって王子じゃなかった?」
思いっきりタメ口なのだがそんなことは意にも介さず、その疑問にこたえてくれた。
「あぁ、君のおかげで私は記憶を取り戻した。そして、父の死も確認された。もちろん悲しかったさ。でも、誰かの上に立つ私がいつまでも動かなければ意味がない。そう思って、私は王位を継いだ。最近になって国も落ち着いたのでな。こうして遊びに来たのだ」
一国の王がそんなに簡単に遊びに来んなよ、と言いたかったが、家の妹も似たような物なのでなにも言わないことにした。
「それにしてもこの会場は凄いな。噂では魔女殿が主催と聞いた。大分金もかかっただろうし、少ないが援助を……」
「いやロイド、待ってくれ。主催は俺じゃ……」
ない、と続けようとしたのだが、その先を村長に阻まれた。
「いえいえ、ロイド様。実は主催はこの私でして……」
さっきまで俺は関係無いみたいな顔して気配を消していた癖に、金が絡むと急に元気になるなコイツ。
なんかもう面倒になってきたので、ロイドに別れを告げる。
とても少額とは思えない大きさの革袋を抱え、ホックホクの表情の村長が尋ねてくる。
「魔女様の交友範囲はおかしくありませんか?」
まあおかしいと思う。俺は村長にこう返した。
「主人公補正ってやつだよ」
「なるほど、分かりませんな」
コレ、他人にやられるとこんなに腹立つんだな。
そんな新たな発見をした所で、俺は残りのパーティーメンバーを探しに行くことにした。
◇
くじの屋台に有り金を全て注ぎ込み大破産した駄目神の目の前で俺たちが連続で大当たりを引き当て、泣かしたりと、少し事件があったのはさておき。
ようやくメンバーが集まった。
今は皆、自分の楽器の最終調整や、声だしをして、コンディションを万全に整えている最中だ。
「なぁ、お前らなんで準備してんの?まだ出番は先なんだが?」
「「「え?」」」
知らなかったのか。
「私は、皆でやる前に出番があるから。二番目だからすぐね」
そういえばコイツ、いつもの感じからは想像も出来ないが、音楽に関しては家で最強といっても過言ではないほど音楽に精通しているのだ。
楽器であれば全てを操り、その歌声は万物の心を動かす。
まぁ仮にも神で、普段ちっとも役にたたないのだ、それくらいしてもらわなきゃ困る。
だが、ソロで出番があるとは。是非聞きたいものだ。
「そうか、じゃあ俺たちは観客席で聞こうぜ。ソルス以外はソロの出番はないだろ?」
「いえいえ、ありますよぅ!この私を忘れて貰っては困りますとも!師匠以外で唯一ソロの出番が任された、このヒナタさんのことを!しかも一番最初です」
「よし、もうちょっと練習してていいぞ。ちょっと経ってから行こうな」
「あぁ、賛成だ。練習はどれだけやっても足りないからな。あとあの歌声は二度と聞きたくない」
「だ、大丈夫ですよぅ!今日は私、歌いませんから!楽器のみで勝負します!」
なるほど、それならいいかも。コイツ、楽器は上手いし。楽器だけは。
(マスター、嫌な予感がします)
やめろよ、そういうこと言うの……フラグくさいから……
「お師匠様!観客席に見に行くなら、今一度合わせ練習をしておきましょう。なにかミスがあるのなら、今の内に直しておきたいですし」
「うーん、まあやるに越したことはないしな。一回やっとくか」
俺がそういうと、各々が自分の楽器を構える。
ソルスはドラム。ソロの時は、ギターで弾き語りをするらしい。
ヨミはなんか弦楽器。名前は忘れた。少なくともギターやヴァイオリンではないのは確かだ。
メリルはギター。だが、大体途中でぶっ倒れるのでいないも同然である。
ユリアはギター。しかもボーカルも務める。歌って弾けるユリアさん。超カッケー!
ヒナタは、未だになんと言う名前なのか分からない弦楽器。弾くだけならめちゃくちゃ上手いのだが……
そして、万を持して俺参上!参上はしてないけど。俺は、メインボーカルを務めさせてもらう。理由はもちろん、ソルスの次に上手いから。
「そんじゃあお前ら!行くぞ!」
◇
練習を終えた俺たちは、観客席に移動してきていた。
間もなく、ヒナタのソロの出番がやってくる。
「ヒナタは楽器だけは上手いですからねぇ~」
楽しそうな顔で結構キツいことを言うメリルさん。
「おっ、始まるようだぞ」
会場の明かりが落ち、ステージのみが光に照らされる。
喋り声に満ちていた会場が、一瞬で静まりかえった。
しばらく静寂が続くが、それもステージに現れた村長によって破られる。
『レディースアーンドジェントルマーン!ただ今より!結界村歌合戦を開催致します!』
「「「「「オオオオオオオオッッッ!!!」」」」」
観衆の叫びが会場に響きわたる。会場内は、この一瞬で熱狂に支配された。
『それでは最初に!「災厄」の名を冠する少女!吟遊詩人のヒナタさんによる、独奏です!』
ステージ上に、ヒナタが現れる。緊張しているのか、耳は倒れている。少女?
「えーと、どうも…どうもです……」
ペコペコと、観衆に向けて会釈をする。その仕草が可愛らしかったからか、会場内には笑いが木霊した。
その笑いに、さらに赤面するヒナタ。うーん、まともにしてれば可愛いのに。残念無念。
『えぇーと…私、吟遊詩人のヒナタと申します。で、では!早速ですが聞いてください!「愛の対価」』
そして、ヒナタは。
歌い出してしまった。
◇
「ありがとう、助かったわ」と、ハンドサインで伝えてくるソルス。どうやら耳栓は届いたようだ。
現在、会場にて意識を保っているのは俺たちとロイド。ヒナタくらいのものである。アリアたちにも耳栓を飛ばしたのだが、気づいてくれなかったようだ。
「全く、あんたって子は……」
「すすすみません!すみません!」
そうしてペコペコ謝る姿に、先程のような可愛らしさを見いだすことができないのはなぜだろう。
「しょうがないわね……まあ、私達がいる限り事件が起きないことなんてないし。ここは私が一発、かましてやろうじゃない!」
ヒナタと入れ替わりにソルスがステージに出てくる。ソルスが抱えるギターは、なんとも言えない力強さを放っていた。何か特殊な仕掛けがあるわけでもなく、ただただ存在のみで周囲を圧倒する。
俺たちは無意識の内に、耳栓を外していた。欲望が沸き上がってくる。純粋に、今から始まるものを聞きたい。ただひとつも、余すことなく。
「さぁさぁ、お立ち会い!」
それは落語だ。
「えーっと、セリフなんだったかしら?まあいっか。あんたたち!盛り上がってるー?」
もちろん返事はほぼない。というかセリフは覚えとけ!
「災厄に呑まれた世界を救うのは女神の役割だもの。さあ、あんたたち!聞きなさい!私の魂の叫びを!」
どっかで聞いたことのあるセリフを叫びながら、ソルスによる単独ライブが始まった。
「「「「「オオオオオオッッッ!!!」」」」」
ソルスの演奏が終わり、会場は熱狂していた。もちろん俺たちも。
「うおおおっっっ!!うおおおっっ!!!」
興奮で叫びが止まらない。もしかしたら俺は、音楽を初めて聞いたんじゃないかとさえ思えてくる。それほど情熱と、思いが込められた歌だった。
「たーだいまっ……て、どうしたの?皆スゴい顔よ?」
「うぉおう、あぁぁぁぁっっ!!」
「ちょ、ちょっと!なんなの!?みんなして抱きついたりしちゃって!……ちょっと!鼻水ふかないでよ!」
歌が始まった瞬間。その場の全員が意識を取り戻した。そして熱狂に呑まれたのだ。
こんなのと歌うなんて、おこがましいにも程があるってもんだ。だが、引き受けてしまったからには歌うしかない。ただ、あの演奏にあわせても恥ずかしくないほどの全力で歌おうと、俺は思った。
◇
その後、突如乱入したドラゴニアの面々が国歌を堂々と歌いきり、会場を湧かしたり、ソルスに新たに弟子入りしたいという人々が殺到し足を踏まれて泣かれたりと色々あった。
だが、これ程素晴らしかった時間もそろそろ終わりを迎える。
「リン君、いよいよ……ですね」
「お前は寝るから関係無いだろ」
だが、メリルは心外だと言いたそうに頬をプックリと膨らませる。
「あんな歌を聞いた後に歌わないなんて選択肢はないですよ!というか、眠気が一瞬で蒸発しちゃいましたよ」
まぁ、そうだろう。あれを聞いて寝られるやつなんて、いたらぶっ殺してやる。
「主、結局私の楽器はなんと言う名前なのだ?」
分かんない。
(マスター、私はソルスに弟子入りできませんか?)
話せないんだから無理だろ。というか、歌っても俺にしか聞こえないし。
(そうですか……はぁ…)
とても悲しそうにため息をはく。いやぁ、どうしようもないよ。
(あと、命令は出ていませんが、ソルスの歌は全部絶対記憶で記憶しておきました)
そうだ!そうすればよかったんじゃん!聞き惚れてしまっていて、頭が回らなかった。ナイスだぜ!
「あはははははっっっ!!!こんなに燃える演奏は久し振りなのですよぅ!今ならどんな難曲でも弾ききってみせますよぅ!」
「ヒナタちゃん……歌わないでね」
「すみませんでした」
次は俺たちの出番。この歌合戦、最後の歌だ。いや、合戦ではないのだが。
「お師匠様……」
ユリアがそっと袖を掴んでくる。彼女は小さく震えていた。
「心配すんなよ、たとえミスったとしてもそれが自分の最高だと思えればそれでいいんだ。最高である。それが、俺たちに出来る音楽への姿勢だ」
「……はい、よく分かりませんけど……でも、頑張ります!」
やっと笑った。そうそう、笑顔が一番!
「お前ら、準備はいいか!?」
「「「「「おーっ!!!」」」」」
『それでは、本日の大トリ!破創の魔女率いるろっくばんど!「結界」の皆さんです!』
眩いほどのスポットライトの光が俺たちを照らす。太陽には届かないにしても、あのスポットライトよりは輝けるように。
「会場の皆!来てくれてありがとう!」
もちろん緊張している。元々、人前に出るのは得意ではないのだ。
だけど。
「今から歌うのは、作詞作曲この俺の完全オリジナル楽曲だ!家のソルスさんの御墨付きだぜ!」
その言葉に、会場が沸き立つ。
そう、この熱狂。俺たちをも飲み込んでいく謎の温かさ。いや、熱さ。不快感など感じるはずもない。ただ最高。
「皆聞いてくれ!コレが俺たちの………『最高』だ!」
今回のお話にて、第三章を締めさせて頂こうと思っております。また、作者が変なことを思い付き、延びる可能性もなきにしもあらずですが、どうぞ、お付き合いください。ちなみに、総PVが1000目前まで迫っていました。本当に皆さんのお陰です。ありがとうございます。(本編でも少し触れるつもりですが、1月1日はソルスさんの誕生日の設定です。もう過ぎてますが)