21話 あなたはサンタを信じますか?ークリスマス特別話 前編
皆様、お久しぶりでございます。今日はクリスマス・イブということで、それに因んだお話となっております。是非楽しんでください!
今年もこの日がやって来た。
異世界に来てからは、日付などそう意識することも無かったものだ。それでも、この日は来ていた。俺の知らない内に。
白く、柔らかな雪が降る雪原で、俺達は奴と相対していた。
その巨大な肩に大きな白い袋を担ぎ、二体の鹿に見えなくもない精霊を従えた白髭生やしたお爺さん。右手には血の滴る鉈が握られている。
その衣服は、今まで奴に挑んだ者達の血液により、深紅に染まっている。
奴はその巨体を揺らし、こう叫んだ。
「メリークリスマースッッ!!!」
本日12月24日。人生最悪のクリスマスイブだと、胸を張って言えるだろう。
◇
「「「クリスマス?」」」
「そう、クリスマスだ。この日は、太陽教とは違ってすごい宗教の教祖様の誕生日でな?それを皆でお祝いしようってイベントなんだよ」
確かそんな感じだったはずだ。元はキリスト教のイベントだったものを、日本が吸収した。まぁ日本で行われているクリスマスのイベントは、本来の物とはまた違った日本独自の物に仕上がっているのでそんなものは関係ないのかもしれない。
懐かしい日本に思いを馳せていると、案の定日の当たる窓辺から離れない太陽教の駄女神様が食いついた。
「ちょっと、太陽教とは違ってって何よ!まるでこの私を崇拝する、清く正しく自由な太陽教徒がすごくないみたいじゃない!信者に裏切られた可哀想(笑)なイエスさんが率いる教団が私達に勝てるとでも?」
やめろ、全国のキリスト教徒に謝れ!
仕方ない、ここは俺がイエスさんの仇を討ってやる!
太陽教にすごいとこなんざねぇだろ?と表情だけで言ってやる。具体的には、ものっそいイラつく顔で、鼻で笑ってやった。
「……フッ」
「あぁぁぁっっっ!!鼻で笑ったわね!?いっつも私のこと馬鹿にして!今日こそ分からせてやるんだから!」
とうとうキレて掴みかかってくる暴力女神を片手であしらいながら、俺は説明を続ける。
「で、だ。その日は皆でパーティーとかしたり、プレゼントあげたり楽しんで、夜寝たらサンタさんにプレゼントが貰えるって日だ。こどもだけだけど」
「サンタさんって………もしかして」
ユリアが何やら思案している様子だ。
「ユリア、どうした?」
「いえ、その、大したことではないんですが……」
いつにも増して歯切れが悪い。
「いいよ、言ってみ?」
その理由はすぐに分かった。
散々溜めたユリアは。
「サンタさんって………」
「サタンのことですよね?」
突然起きてきたメリルに良いとこを持っていかれた。
◇
その姿はまるで、燃え盛る地獄の業火。手に持つ鉈で万物を薙ぎ倒し、その身を真紅に染めていった。らしい。
「毎年違う場所にどこからともなく現れ、この結界村に進んできていました。その視界に入った者は、一人残らず鉈で切り捨てられたそうです」
「結界村に辿り着くと、結界に向けて攻撃しまくって諦めて帰るのがルーティンだ、という話らしいですよ」
「なんとビックリ、精霊も使うらしいです」とメリルが教えてくれる。精霊は心を許した者か、服従を誓った相手としか契約しない。今回は間違いなく後者だろう。
俺は今、村を歩きながらユリアとメリルに説明を受けていた。もちろん、サタンについてである。名前をもじっただけな気がするのは俺だけではないだろう。
「数年前まではドラゴニアに来ていたらしいのですが、ある年突然標的を結界村に切り替えたそうですよ?」
と、ユリア。
今まで受けた説明をまとめるとこうだ。
名前はサタン。名乗った訳ではなく勝手につけられた名前。毎年12月24日に世界中のどこかにランダムに現れ、この結界村に向けて進んでくる。その道中、目に入った者を見境なく殺す。契約精霊を使う。そして、昔はドラゴニアに向かっていた。といった所だ。
なるほど、分からん。
結界は音も通さなかったし、今まで気付かなかったのも無理はない。
「というかちょっと待てよ。それじゃあサタンは村に来るってことか?サタンって魔獣か?それなら大丈夫なハズなんだが」
「いいえ、サタンは魔獣認定を受けていません。サタンは人を殺しはしますが、それもヤツの視界に入ればという条件の元で、です。家に籠れば殺されない、それだけで対策が出来てしまうんですから、わざわざ魔獣認定なんてして犠牲者を増やす意味はありません」
メリルちゃん暗いよ!ほら笑って!にっこにっこにー!
ダメだ、効果がない!諦めよう!
魔獣ではない、ということは俺の張った結界では侵入を阻めない。ヤツは例年通り、ここに来るだろう。魔獣認定して犠牲者を増やす意味はない、という台詞から相当の腕を持つことも分かる。ならば相対するのは………
「俺達が適任って訳か」
「そういうことになりますね。まあリン君が撒いた種ですし、対処はお願いします」
ふわあ、と欠伸をしながら俺に押し付けてくるメリル。
俺が悪いみたいに言われているが、結界を破るというのは村民の総意だったからな!
「あぁ、そういえば」
ユリアが思い出したことを語り出す。
「サタンはですね、その残虐非道な性格と恐ろしさから、『絶望の配達人』や、『ハッピーラッキープレゼンツ』、『真紅の悪魔』といった二つ名があるそうです」
瞬間、背筋がゾワッとした。特に最後の二つ名。あいつあの時、悪魔退治がうんたらって………
もう嫌な予感がすごいんだけど………
◇
村には、サタンが来るということがいち速く伝わっていたらしい。
「と、いうわけで!私も着いていきますよ!」
「誰だあんた」
サタン襲撃に備えそれぞれ別れて準備を整えた後に、俺達は冒険者ギルドへとやって来ていたのだが。
「失礼、申し遅れまぎっ!?」
盛大に舌を噛む、目の前の女性。年は二十歳くらいだろうか?
「うぅ……いたいれす………」
前言撤回、二十歳には見えない。
「では改めまして自己紹介をば!」
彼女は背負っていた荷物を下ろし、中から楽器を取り出した。俺はこっち方面には疎いので、なんという楽器なのかは分からなかったが弦楽器だということは分かった。
ポロロン、と弦が振動する。
彼女は弦楽器を掻き鳴らしながら歌い始めた。
「名を問われたら!わたしゃあーこう答えるんですよぅ!どんな状況だろうと構わず臆さず!」
腰辺りに生えた短い尻尾と、ふわふわのお耳を振り回しながら。
「私は吟遊詩人のヒナタ、一曲いかせてもらいますってね!」
凄かった。色んな意味で。
こんな演奏を聴いた、又は見たのは初めてだ。良くも悪くも。
「あー、えーっと………すみません」
彼女、ヒナタは誰にともなく。流れるように土下座した。きっとモデルはウサギであろう長い耳が、ペタンと垂れていた。
「すみませんすみません!自分、歌が下手くそで!でもまさか………」
ヒナタはギルド内をグルリと見渡す。そこに死屍類類と横たわる人々を見て、再度土下座を敢行した。
俺の仲間たちはなんとか守った。創造スキルで作った耳栓は効果抜群だったようだ。
「ねぇ、あなた」
「はい、なんでしょ…あっ!?」
唐突に、ソルスがヒナタから楽器を引ったくる。
静かに聴いてたと思ったら、いきなり何すんだ!
だが、その心配は杞憂に終わったようで。
「ほら、私が今から奏でる音程を声で再現してみなさい。あなたちょっと酷すぎるわ、よく吟遊詩人なんて名乗れるわね」
「は、はぁ………」
ソルスは善意から、ヒナタの音痴の矯正を行ってあげるようだ。確かにあれは酷かった。出来ればもう二度と聴きたくない。
俺達はヒナタをソルスに任せ、ギルド内の人々を揺り起こしに行った。
◇
全員が目を覚ました所で、俺は村長(つい最近任命された。理由は名前がソン・チョウベエだったから)を問いただしていた。
「おい村長、あいつは一体なんなんだ?とんでもない歌声だったんだが」
ホントに。なんであいつここにいるんだ。
村長は、長い顎髭をさすりながらこう答えた。
「魔女様、実は最近結界村から客足が遠のいておるのです。おかえりなさいブームの熱も冷め、今度はどうやってこの村を興すか。足りない頭で一所懸命に考えたのです。そうだ、祭りをしようと」
なるほど、悪くない案だ。もうすぐ年末だし、祭りは楽しいし。
「と、言うわけで彼女です。彼女の二つ名を聞いたことがありますか?『災厄の権化』ですよ!?こう、なんか心踊りませんか?」
「踊りすぎてそのまま心不全でポックリ逝っちまえ。お前バカだろ!そんな理由であの災害みたいな奴連れてきたのか!?もっとマシな奴はごまんといるだろうに!」
「魔女様落ち着いて!このままだと本当に心不全でポックリ逝きかねません!」
おっと、熱くなりすぎた。
俺は村長の胸ぐらから手を離す。
俺の手から解放された村長は、ゴホゴホと咳き込みながらも続きを話す。
「聞いてください魔女様、これには重大な理由があるのです」
ほう?
「聞こうじゃないか」
「税金から出しているので、国に献上する分を考えると私の取り分が………痛い痛い!魔女様、本気で死んでしまいます!」
やっぱりいっぺん死んでこい!
◇
それからなんやかんやあって、日が沈み出す時刻となった。
「ヘイ師匠!このヒナタ、いつまでも貴女の教えを忘れません!」
「ふふっ、なら太陽教に入信を……」
「あっ、それは結構です」
「なんでよー!」
ワーワー喚きながらヒナタを追いかけ回すソルス。よし、放っておこう。
「それでは、お師匠様!サタン退治開始です。気張っていきましょう!」
「おう、気張っていこうとか今日日聞かねえな」
「おい主、なぜこんなにも長い間私は話の展開においてけぼりを食らっていたのだ?」
知らんがな。
「魔女様!私はなんとしてでも付いて行きますよ!なにせこれから新しい伝説が生まれるんですからね!ありとあらゆる伝説を歌い継いできた吟遊詩人がその瞬間に立ち会わない手はありませんとも!」
ソルスに関節技をかけられながらも、鋼の意志を貫くヒナタ。関節のようにその意志ごと曲がってしまえばいいのに。
「あのなぁ………」
「お師匠様、待ってください」
ユリアが割って入ってきた。
「お師匠様、ヒナタさんを連れて行きましょう。きっと役にたつはずです」
「なんでだ?」
「……分からないですけど、でもそんな気がするんです!」
必死に訴えるユリア。その瞳は微かに潤んでおり、上目遣いとのコンボは殺人的な威力を発揮していた。
「ぐぅっ………わ、分かった……」
嬉しそうに微笑むユリア。マジ天使。
「はぁーっはっは!ついに伝説への片道切符を手に入れましたよ!待ってろサタン!貴様を私の伝説コレクションに加えてやりゃりゅりゃー!」
思いっきり舌を噛んだ。ここでは勿論、あのリアクションをしなければならない。
「わざとじゃない!?」
◇
「主、私の出番は………」
次回、ヨミさん回!ぜってー見てくれよな!
プレゼントは、大人になっても貰えるんです。




