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あなたは神を信じますか?  作者: 唸れ!爆殺号!
第2章 妹と弟子
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17話 あなたは家族を愛していますか?ーYES

ドラゴニア編、最終話です。まだまだ続いていきますのでこれからのあの子の活躍に乞うご期待!


━━━深い深い夢の中。私は私と似て非なるモノを見た。



「それじゃあ皆さん、ジョッキは持ったかな!?持ってなくても始めちゃうぜっ!せーのっ!」


「「「「かんぱーーーーーい!!!!」」」」


天空一武闘会で実況をしていたお姉さんが乾杯の音頭をとる。


ここは真竜王国ドラゴニア。王城の巨大テラスの上だ。


城下町を見下ろせば、ドラゴニアが無償で提供する食べ物や飲み物を、思い思いに飲んだり食べたりして過ごすドラゴニアの国民たちが見えた。ついでに操られていたネクス王国民、ドラゴンスレイヤー達も楽しそうに祭りに混ざっている。


「リン君………」


メリルが話しかけてくる。


「どうした、お前だけジュースなのはしょうがないだろ?ソルスとヨミをよく見てから発言するようにしろよ」


ソルスが「私の見立てによるとこれは今日出てるお酒の中で一番高いわよ!」と鼻息荒く持ってきたワインらしきものを飲みながらロリっ娘体型のメリルに現実というものを教えてやる。


「違います、そのことじゃありません!それも気になるのですが、今は………」


メリルが視線を動かすのに釣られ、俺の視線も動いていく。


その先には………


一人で佇むユリアの姿が。


「ユリアちゃん、ずっと一人でいますよ。さっき話しかけたのですが、居た堪れなくて………」


確かにユリアは露骨に話しかけんなオーラを出している。全く、俺の弟子は………


俺はユリアに近づくと、暗いオーラに飲まれないように気さくに話しかけた。


「ユリア、なにしてるんだ?せっかくのお祝いの席なんだからしっかり楽しまなきゃな!」


「はい、そうですね」


会話終了。


ダメだわこれ。可愛い顔は無愛想な形に無理矢理歪めているように見え、じっと何かを堪えているようだ。


まあ、仕方がないだろう。


俺に慰めの言葉をかける資格はない。


俺はユリアを楽しませることは諦めた。そっと、ユリアの隣で壁に体重を預ける。


「お師匠様………」


不意にユリアが声を発する。


「どうした?」


「私は一体どうなるのでしょうか………」


やっぱりそれが原因か………。


「どうなる………か。ユリア、お前に俺の話をしたことがあったっけか?」


「いえ、伺ったことはありませんよ?」


強引に話を切り替えたからか、ユリアは俺に胡乱な視線を向ける。


「それじゃあ今話してやろう。とは言ってもただの昔話だ、つまらなかったら聞き流してくれていいから」


俺は静かに、昔話を始めた。



楽しい時はあっという間に過ぎる。まだ続いて欲しいのに、それは唐突に終わりを告げる。まだきっと続くはずだった物語は閉幕の二文字に隠され、俺達の前から姿を消す。


だが、主人公は、ヒロインは、その先で素晴らしい日々を謳歌するのだ。


輝ける未来は、暗幕の先にこそ存在する。


それはきっと、この幼い少女にも伝わったことであろうと信じて。


物語の序章は閉幕へと向かう。終わらない物語に、ただ一つの可能性を残すため。



祭りから数日が経ち、私はいつもと同じ日常を過ごしていた。


「ユリアちゃんユリアちゃん、見て見てー?」


「はい!ソルスさん、どうしたのですか?」


「いいから見ててって!行くわよー!せーのっ!」


ソルスさんの掛け声に合わせ、部屋中が淡く光る。


すると私達の家具が………


「ねぇ、ちょっと………?心なしかこっちに来てるような………」


空を舞った。


そして………


「うわあぁぁ!キャァァァ!イヤァァァァァァァ!!!」


ソルスさん目掛けて飛んでいく。


「ユリアー、入るぞ………ってなんじゃこりゃ!」


『破壊』!と彼が叫ぶと家具は全て地に落ちた。


「全く………お前って目離すと本当ロクなことしないよなぁ…お前を3日間縛っておいたら世界から犯罪が消えるんじゃないか?」


「遂に本性をあらわしたわね縛り魔!きっと前々からどう私のことを縛ろうか考えてたんでしょ!そうでしょ!」


「変なあだ名を付けんな、俺にそんな性癖はないから………ユリア、親父さんが呼んでるぞ。事情が事情だから俺は着いてけないけど………外で待ってるからな」


そう言い残して彼は私達の部屋を出ていった。


……………少しの間続いた沈黙の後。ソルスさんが口を開いた。


「ユリアちゃん、気をつけなさいよ?いつ縛られるか分かったものじゃないんだから!」


一体この人はどうすれば良いのだろうか………



このまま行ってしまっていいのだろうか。不安ばかりが胸をよぎる。


私はこの先に向かって、平気でいられるだろうか。


だが、あれは私の罪で、人の手により創られた彼の罪である。


彼はもう、十分報いを受けた。ならば私も………と思うのだが、中々踏ん切りがつかない。


私は今まで出会った皆を思い出した。彼女は私と関わった為に不幸になった。彼らは私が存在するから操り人形にされた。彼は………あの人だけは………まだ、大丈夫だ。


もちろん、全て彼に任せるわけにはいかない。ここからは私が頑張るのだ。私が、私であるために。


私は、大きく溜息をつく。そしてその分、大気から空気を取り入れる。その空気は甘くて、苦くて………



今までで一番、美味しかった。



私は歩き出した。地に足がつく、確かな感触を感じながら。



私は、謁見の間に辿り着いた。威厳の漂う大きな扉の横には私の師匠であり、兄でもある美少女、もとい男性が立っていた。


私を見ると、憐れむような、それでいて少し嬉しそうな顔をする。だがその表情も一瞬で掻き消えてしまう。


彼は何も言わなかった。


大きな扉を開いてくれたのでお礼を言い、私は中へと入っていく。


私が完全に入りきったのを確認してから彼は扉を閉めた。



私は玉座の前に歩を進める。一歩一歩、着実に踏みしめて。


私は、父を見上げる。


………眩しい。父の後ろには大きな窓があり、そこから暖かな光が差し込んでいる。


私が眩しさに目を細めていると、父は話しだした。


「ユリア、今回の事件はドラゴニア中に多大なるショックと、影響を与えた」


思えばこれは、私と父が初めて心から会話した瞬間なのではないだろうか。一対一、ふたりきりで。心から通じ合う日は………無いと思っていた。


「はい」


そう返すのが、限界であった。


「魔女殿の手により、ドラゴニアは、ネクス王国は救われた。だがな、ユリア。今回の事件はお前によって引き起こされたと言っても過言ではないのだ。お前も、裁きを受ける必要がある」


「………はい」


………分かっていたのだ。分かっていたはずなのだ。


「引受人は魔女殿が請け負ってくれるとのことだ。ユリア、お前を………」




「真竜王国ドラゴニアから追放する!」




………まぁ、これくらいが妥当だろう。私と彼の責任で一国を滅ぼしかけたのだ。死刑に処されない分、まだ救いがある。



思っていた程、辛くはなかった。私は一言。


「はい。お父様………」


私は踵を返し、部屋を出ようと………


「待て、ユリア」


して止められた。


私は振り返る。


父は、呟いた。


「一度だけ………一度で良いから………」


「お父さんと………呼んではくれまいか……?」


その精悍な顔に、似合わぬ涙を流しながら。


最後………か。


もし、この機会が二度と訪れないと言うのなら。


普通の娘として、今だけは………


「お、お父さん………」


「ありがとう」


私は精一杯の笑顔を浮かべる。浮かべられたかは分からないが。


くうっ、とお父さんは声を漏らし、涙腺を崩壊させた。


次から次へと流れ出ている涙を見て、私は苦笑していた。


お父さんの言葉がなければ、私もきっとこうなっていただろう。


「お父さん、泣かないで。私はいつでも、どこでも、お父さんもお母さんも、アリアの事も」


「ずっと愛してるから」


崩れ落ちたお父さんを優しく抱きしめる。


「すまない………ユリア、すまない………」



私は、泣かなかった。



お父さんが落ち着きを取り戻したのを確認し、私は部屋を出た。きっと二度とここには来られないだろう。


部屋を出ると、お師匠様がそこにいた。


私の方を見ると、そっと一言。


「よく頑張った」


もう、ダメだ。


私は走った。たった数メートルの距離を、全速力で。彼の元に、誰より速く辿り着くため。


私は彼に抱きついた。


「私、頑張りました。だから………」


「いいよ」


全てを言い終わる前に、彼は了承の意を示す。


私ももう、我慢の限界だった。もう、耐えられなかった。私は、温かな彼の胸に顔を埋め、誰にも見られないように泣いた。


彼も私を抱きしめると、その細い腕のどこから来るのか分からない程の力強さを持ってして、私の頭を撫でてくれた。



翌日。


秋も終盤に差し掛かって来たのか、冬の寒さが肌を刺激する。


天気は快晴。



旅立ちには絶好の日だ。



そんな朝に私は………


「あの、お姉様?一体何を………?」


「大丈夫、変な事をするわけじゃないわ。ちょっと言いたいことが………」


私だって、こんな馬鹿なことになんの意味があるのかは分からない。だが、どうしてもこれはやっておかなければいけない気がするのだ。


「アリア、私はドラゴニアを追放されて、実質皆とは絶縁状態になってしまうわ」


「………お姉様、今からでもなんとかならないのですか?今回の事件はお姉様は言ってみれば被害者な訳で………」


どうにもならないことが分かっているから、そんな絶望的な顔をしているんでしょ?と言ってやりたい。


そんなこと、言えるはずもないが。


「………ならないわ。さっきの続きよ?私はドラゴニアの王族では無くなる。つまり魔女様、お兄様とも縁は無くなってしまう」


アリアは私が何を言っているのか見当もつかないといった顔をする。


私だって何が言いたいのか分からない。


でも、これだけは………


「お兄様は、あなたにあげる。だけどその代わり、お師匠様は私が貰っていくからね?」


「へ?」


ポカンと口を開けるアリア。


「な、何回も言わせないでよ。だから、私はもうこの家の子じゃなくなるから魔女様とのお兄様としての縁はなくなるでしょ!?で!私はこれから魔女様のところで弟子として暮らすから、お師匠様って呼称は私が貰うからねってこと!分かった!?」


「は………はい」


自分でも何を言っているのか分からなくなって、訳の分からない事をぶちまけてしまった。


でも、これで良かったのだと思う。


「アリア、今までありがとう。もう、会えないけれど………」


愛する妹に、お別れを言おうと………


「もう会えない?なんでですか?お兄様と一緒なら入国許可が出るってお父様が………」


「なっ!?ちょ…ちょっと待ってアリア!今の話は本当!?」


「はい、ホントの事で………」


つまり私はもう二度と会えないと思ってあんなに恥ずかしい事を………!?


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!お父さんのバカァァァァァァ!!!!!!」


私は顔を真っ赤にして走り出した………



「……ブエックシッ!うぅむ、風邪でもひいたか………?」



旅立ちの時が来た。


ドラゴニアでは長い事過ごしたが、そろそろお別れだ。


「主、この前借りた魔導具だが………」


ヨミが、魔導具をおずおずと差し出してくる。


寂しそうな顔をしているので、本当はまだ持っていたいのだろう。


「いいよ、返さなくて。お前にやるよ」


「本当か!?私がこれを貰ってしまってもいいのか!?」


良いって言ってんだから良いに決まってんだろ………


2度も確認してくるヨミに呆れながら、俺は小さく微笑む。


………まぁいっか、喜んでるみたいだし。


俺の横には顔を赤くしたユリアが。


「なあ、何でお前そんなに顔赤いんだ?」


「何でもないです………」


睨まれた。怖いよユリアちゃん!


俺たちの逆側では………


「ねぇねぇメリルちゃん。やっぱり負けたら洗濯当番交代ってルールはなしに………」


「しません。王手」


「あぁぁぁぁぁっっっ!!!もう完全に詰みじゃない!ちょっとリン!洗濯当番を賭けて私と勝負よ!」


と、洗濯当番を押し付けられたソルスが叫ぶ。


「フッ、俺に挑むとはいい度胸だな………知力のステータスさえもカンストした俺に勝てるとでも………」


「ねぇねぇユリアちゃん、一緒にこのゲームで遊びましょ?もちろん賭けるのは洗濯当番ね?」


「え、遠慮しておきます………」


「なんでよー!!!」


俺、ちょっと楽しみだったのに………


俺がのの字を書いていると。


「ユリア様ー!魔女様ー!忍びのおねーちゃーん!」


「魔女様!我らをお助け頂き、本当にありがとうございました!」


「ソルス様ー!癒やしてくれてありがとうー!」


馬車の外からたくさんの人達の声が。


皆が身を乗り出し、外を見る。


ゆっくりと、馬車が動き出す。


「魔女様ー!魔女様ー!えーと、なんかあったっけ……?」


あの憎たらしい水龍王のイケメンは、いずれぶっ飛ばしに帰ってこよう。


「魔女殿!本当に世話になった!ユリアの事も、よろしく頼む!」


少しずつ遠くなっていく、ドラゴニアの人々。


「お兄様ー!お姉様ー!いつかまた、遊びに来てください!明日でも明後日でも、いつでもお待ちしています!」


俺の………いや、俺たちの可愛い妹がそんな健気な事を………


そんなお祭り騒ぎの中で、一際大きい声がした。


「おーい、ユリエル!聞こえるかー!」


ユリアがハッとして、そちらを向く。馬車はどんどん進んでいる。


「ユリエルー!聞こえるー?聞こえてるわよねー?大金叩いて拡声魔導具買ってきたんだから!」


あの後、回復したユリアの仲間たちは全てを覚えていたらしく、王女に対する態度ではなかったと謝罪していた。


その時のユリアはとても悲しそうだったのを覚えている。


「ユリエルさーん、行きますよー!」


拡声魔導具に向けて叫ぶ少年少女の手には、大きな筒が。


「『暗黒世界』」


闇の上級魔法と空間魔法と呼ばれる魔法を組み合わせた、暗黒世界を少女が発動する。


この魔法には、殺傷性が一切なく。


真昼だった空を、真夜中の常闇へと変貌させた。


「行くぞオラァ!『ファイア』」


筒から伸びた導火線に着火魔法で着火する。


筒から物体が飛び出し、ヒュルルルルルルルル………と、高い音が聞こえる。


彼らは、親友の門出に常闇に大輪の花を咲かせてみせた。


ユリアの目からはポロポロと涙が溢れる。


何発も何発も打ち上げられる大花火。


ユリアは意を決したように涙を拭う。


「皆さん…ありがとうございます。私からも精一杯の贈り物を………」


こいつも何か用意してたのか………と思いユリアを見やると、莫大な量の魔力が。


ちょっ、お前まさか!


「最高の花火をお見せします!『ドラゴンフォース』からのぉ!『スプリーム・ドラゴニア』!!!」


「「「ちょっ!」」」


拡声機から少年少女の声が聞こえた。


夜空を彩る大花火の間を突っ切り、空高くまで登っていく。


はるか高い。どの花火よりも高くで、最強の爆発を起こした。それに、美しさなんてものはなく。


夜の帳も、輝く大花火も巻き込み。




全てを破壊したのだった。




こうして破創の魔女のパーティーに、最高の弟子、聖竜ユリアが加入した。




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