15話 あなたはこれで終わりだと思っていたんですか?ーそう思っていたときもありました。
状況は悪かった。
両軍入り乱れての滅茶苦茶な戦い。個と個が争い、数が押しつぶし、そして絶大な個の力に敵味方関係なく吹き飛ぶ。既に死傷者が敵側にも味方側にも出ているようだ。
「リン、治療は私と洞窟おじさんに任せて頂戴!あんたはまずこの戦いを止めることに全力を注ぎなさい!」
「洞窟おじさんと呼ぶのはやめてくれ………我はソルス様とサポートに専念する。貴様は精々奴らを止めてくるのだな」
フンッと鼻を鳴らすエロデさ………いやちょっと待てぃ!
「オイ、エロデオマエイマナンテイッタ?」
余りの驚きに感情が抜け落ちてしまった。
「む?精々奴らを止めてくるのだな……と」
「イヤソノマエ」
まさか………まさか貴様ぁ!?
「どうでもいいですそんなこと!エルデ様がホモだろうがなんだろうがさっさと戦いを止めてくださいお師匠様!」
そんなこと言われても………戦いをやめてください!って叫び続ければ良いのかな?
そうしたら雨が降って戦争が止まったり………しないですよねすみません。
「………あっ」
「お師匠様、どうしたのですか?」
そういえばちょうどいい魔法があった。
「ちょっと行ってくる!ユリア、こう叫んでくれ!『睡魔に身を任せろ』って!ついでにこれもやるから!『拡声』」
ユリアの体が淡く光り、魔法の効果が付与されたことを教えてくれる。
「わ、分かりました!『皆さん、安心して睡魔に身を任せてください!あとは………最強に任せて!』」
………そんなこと言われたら頑張らない訳にはいかないなぁ。
俺は空高く飛び上がった。
「オラァ行くぞぉ!!『睡眠霧』」
草原に霧が満ち、魔法抵抗力の低い前線で戦う兵士たちが倒れる。ドラゴニアの兵士たちの顔は一人残らず、笑っていた。
残ったのはドラゴニアの魔法使いと、主要戦力。そしてネクス王国の王子とその周りの人間。そして………
「がああァァァっっっっ!!」
ドラゴンスレイヤーたちだけだ。
俺が降り立つと同時に倒れたドラゴニアの兵士たちに襲いかかる茶髪の少年。その見た目からは想像のできない程の速度で駆け始めたことと、淡く光る体から身体強化系の支援魔法が多い地属性の使い手だろう。
だがその速度も俺には及ばない。
降りてきた直後に走り始めた俺は、瞬く間に少年のそばまで辿り着き、
「『吸収』」
闇属性の初級魔法、吸収を放った。
地属性と相性がいいのがこの闇属性で、ドラゴンスレイヤーは相性が悪い属性にめっぽう弱い。
この魔法は普通なら相手から少し魔力を吸い取る程度の魔法なのだが、異常なまでのステータス補正と属性相性の補正で魔力を全て吸い取った。もちろん体力まで全て吸い取ってしまい殺してしまった。なんてことにはならないように手加減した。
少年は魔力を根こそぎ奪われた事により、大きな疲労感に襲われそのまま倒れた。
「もう一人は………っと」
水色髪の少女が魔法を放ってきた。
直径十数メートルはあろうかという巨大な水球に飲まれるが、破壊スキルで打ち破り抜け出す。
濡れちゃったけど透けない服なので安心である。
俺が水球から抜け出そうとするうちに、少女は2つ目の魔法を紡いだようだ。
超高圧をかけられた水の糸がまるで蛇のようにうねりながら高速で飛んでくる。
俺は避けなかった。高圧をかけられた水は岩盤さえも打ち砕く威力を持つ。
だが………
「効かないねぇ、最強には」
俺の肌に水の糸が触れても特になんの変化も起こらない。俺の異常な魔法抵抗力が俺に当たるそばから魔法を無効化しているのだ。
「…………………っ!」
流石に相手も焦ったようで、魔法を中断しもっと高度な魔法を紡ごうとする。
だが遅い。心を操られているからなのか、本来の実力を全然引き出せていない。
俺は少女の背後に周り、
「『吸収』」
少女も気絶させた。
さて………
「どうする、お前ら。大人しく諦めてくれるか?」
残った王子とそのおまけたちに問いかける。
「王子、あんな化け物に敵うはずがありません!」
「王子、ドラゴンスレイヤーですら敵わないのですぞ!ここは逃げるしか………」
「お前達、黙っていろ」
俺より、1つ2つは年上くらいの青年が歩み出てきた。
またしてもイケメンだった。気取った感じはない。だが、狂気は感じた。
「破創の魔女………か。お前がいたことがこちらの敗因という訳だな。だが私達が折れることはない、たとえ何度倒れようとも私達は再び父上の悲願を果たすまで、民に安寧をもたらすまで、貴様らに戦いを挑み続ける!」
なるほど………そういえばこいつも洗脳されてんのか。しかも王子ってことは王に一番近いんだよな、怯まなくて当然か。
「あのなぁお前、ドラゴニアがネクス王国に何をしたっていうんだ?」
「とぼけるな!貴様らがネクス王国領から土地を力ずくで奪い、民を虐殺したのだろうが!」
俺はユリアに視線で問いかける。ユリアは首をブンブンと横に振る。
嘘のようだ。
「そんな事実は確認されてないぞ。何かの間違いだろ?」
「間違える訳がないだろう。現に街を襲った者共がドラゴニアの者であると証言し、巨大な竜に乗ってきたと民も言っているのだ。貴様ら以外に誰がいる」
やはり洗脳されているようで、所々おかしい部分がある。
「待て、襲ってきたヤツが普通本当の名前を名乗ると思うか?そもそも巨大な竜に乗ってきたとか言うけどドラゴニアの竜たちはこんなに可愛いんだぞ?」
俺はユリアに視線を向けさせる。可愛いと言われたことに照れているのか、それとも注目されて恥ずかしいのかは定かではないが顔が真っ赤になっている。
「うん?そういえばドラゴニアの竜は人形だったか……?あれ?いやそんなはずがないし………」
洗脳の効果が弱まっているのだろうか?本来の記憶を取り戻そうとしているようだ。
というか今更だが大変なことに気づいた。
ウンウン唸りだした王子を無視してユリアに問いかける。
「なあ、ユリア。もしかして洗脳ってスキルとか魔法でしてたりする?」
ユリアならアリアに聞いたことがあるのではないかと思い問いかけてみた。
「いえ、それは分かりませんが………?ちょっと待ってください」
ユリアも思い出せそうなようでウンウンと唸りだしてしまった。
洗脳がスキルか魔法による物なら破壊スキルで解けるのだが………
そこに怪我人の治療を終えたソルスが戻ってきた。
「怪我人の治療はしといたわよ。あら?何か邪悪な力を感じるわね………『却下』」
王子の体が淡い光に包まれる。
「お前却下スキル使えたのな」
「仮にも女神様なのよ?それくらいできるに決まってるじゃない」
じゃあなんで今まで使わなかったんだとツッコみたい。
「………っ!!!思い出した!」
王子は全ての記憶を取り戻したようだ。
よしよし、これで解決かな………と、考えてしまったのが間違いだったのだろう。
ソルスが安堵の溜息と共に呟いた。
「思ったよりあっけなく終わったわねー。なんか嫌な予感はするけど」
フラグ立てんな!
「おいソルス!お前は毎度毎度フラグを立てなきゃ………」
『主、聞こえるか!竜を逃した、追跡を頼む!』
通話は二言で途切れた。
「おいソルス」
「フラグ立ててごめんなさい」
ソルスは流れるように土下座をした。
初めてお話をストックして、2日で使い果たしました。また投稿ペースは遅くなりますがお付きあい頂けると嬉しいです。次はいつ出せるかな………




