13話 止まない雨と不確定要素
まだまだー、気張っていこー!
私は目を覚ましたくなかった。
ずっとここに居たかった。
これはいつかの記憶。温かい母との記憶。仲間達との楽しかった時の記憶。兄であり、師匠であるあの人に魔法について習った記憶。ここには温かい物しかなかった。
これらを離したくなかった。だが私は目を覚ました。
非情で、冷たい、最悪の現実を受け入れる為。
◇
「まずはユリアの保護が優先ですね。私が行ってきましょう」
緊急事態であるので、今すぐ動ける俺がアリアの保護に名乗り出る。
「何を言うか汚らしい人族めが!こんな非常時に自分の株を上げようというのか!」
「おいエルデ、黙らんか。あの優しいユリアちゃんの危機じゃ、それにお前さんは高度な風魔法のテレポートを無詠唱で行使出来るというのか?」
「ぐぅっ………!!」
こんな時でも人間嫌いを発症するエルデを、マトモな老人カースが黙らせる。
「それでは決定ですね」と早速出発しようと椅子から立ち上がった俺に。
「ああ、魔女殿。出発は少し待ってくれ。作戦の最終確認がしたい」
なんだよさっさと迎えに行きたいんだよ心配なんだよ悪いかよ!
なんともイライラしてしょうがない状況なのだが、ここで暴れてもなんの解決にもならない。
俺は渋々………
「………分かりました」と、返事をして着席する他ない。
今現在俺たちは、王城内の『会議の間』にて絶賛会議中である。
ここにいるのは俺、聖竜王グレイ、土竜王エルデ、闇竜王カースとアリアである。
ユリアの話とネクス王国の話を聞いた。
昔のユリアは周囲の期待と、周囲との違いに摩耗し、いつも暗い顔をしていたという。
だからユリアは時折家出をしていたらしい。冒険者ギルドに行き、仲間と冒険して、夕方頃に帰る。
本来ならばこんなことは許されないが、『ユリアがあんなに暗い顔をしていた責任の一端が私にはある』と、グレイはそれを容認していたらしい。
だから『どこにいるのかも、何をしているのかも分かるのだが』と言っていたのか。
強くあらねばならぬという責任。強くあらねばならぬという義務。
こんな重荷に、たかが13歳の少女が耐えられるはずがなかった。
ネクス王国は昔はドラゴニアとも友好的であったという。変わったのは突然、とのことらしい。
乱心の王を監視するために送った諜報部員は全滅してしまったという。一切の情報もないまま、戦争を行うのは墓場に自分用の棺桶とスコップを持って向かうのと同義だ。戦争とは、情報戦である。
というわけで、ヨミを送った。あいつなら、ソルスにも勝る腕力がある。殺されてしまう、という最悪の事態にはならないだろう。刃物を持つ者が視界に入らなければ、という制約はあるが。
『任せろ主!良かった…私にも活躍の場があって………』
と、やる気十分だったので多分大丈夫だろう。
ソルスとメリルは部屋で待機中である。メリルには王都近辺の守りを、ソルスには前線の兵士の回復を任せる。
そのためソルスは俺が連れて行くことになるのだが………
こいつがいると、何かと上手く行かない事が多いので些かの不安がある。
その不安を払うかのように俺は首を振る。
「それでは再度作戦を確認する。魔女殿はユリアの救出、及びネクス王国軍の足止め。エルデはソルス殿と共に前線の支援。カースはメリル殿と共に王都近辺の守護を頼む。アリア、お前もカースやメリル殿と共に民を守ってくれ」
皆が頷く。
「何故私が人族などと………」
一人いつまでも不満をこぼしているやつがいたが放っておこう。
「我は王都の住民をトーレンと共に避難させた後に前線へ向かう。それでは今より………」
「作戦を開始す………」
『テレポート』
瞬きの間に、深い森の中に転移する。
テレポートスキルは、行ったことがない場所でも自由に転移することができる。消費魔力は上級魔法並、といったところだ。
転移させる人数に必要魔力は比例するが俺の保有魔力に比べれば体内の細菌にも満たない程度の魔力だ。
いやそんなことはどうでも良くて………
「あっちか!」
一際大きな魔力を感知したので、そちらへ向かう。俺の前に立つ木々をなぎ倒しながら。
◇
私は主の命に従い、ネクス王国王都にある王城内に侵入していた。
流石に王城というだけはあるようで、侵入には少し手間取ったが王城内には入り込めた。
さて、仕事を果たすか………
主から言い渡された任務は王を発見し、異変があれば魔導具で知らせることであった。
私は主から互いに連絡ができるという魔導具を賜った。
全く、私の主は本当にすごい。こんな魔導具を偶然作っていたと言う今の状況を考えるに、ここまで読んでいたように感じてしまう。
そのことを聞いてみたら『ご都合主義ってやつだな多分』と返された。
「ゴツゴウシュギとは一体何なのだろうか?」
ふと呟いてしまったが、バレた様子はないので構わず進んでいく。
まずは王の居場所を探さねば。
私は主に『上の方を探せば多分いるから』と言われているので、上に向かうことにした。
確かに聖竜城の王の間も高い階層にあったな………
そのことを踏まえた発言だったと考えると得心がいく。やはり私の主はすごいのだろう。
私は周囲に人がいないことを確認し、上階へ登っていく唯一の手段である階段を登る。
バレなかったことに安堵を感じ、ため息をつく。と、後ろから視線を感じた。
嫌な予感がする。
そーっと振り向く。
「……あ…っあ………あの………」
そこには一人の兵士が立っており、そして。
「どちら様ですか?」
鋭い穂を持つ、長槍を持っていた。
私は自分が何をしにきたのかも忘れ、全力で叫んだ。
「ギィヤァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!」
逃走開始!
◇
見つけた!
俺は森の木々をなぎ倒しなぎ倒しついにユリアを発見した。
ネクス王国軍兵士と謎の少年付きで。
「お兄様!」
ユリアが俺が来たことに安堵する。授業中ではないのでいつもの呼び方が出たようだ。
「むっ?あやつは破創の魔女!C隊!隊列を………」
軽めの掌打っ!
隊長らしき男を悶絶させる。
「なんだこいつ?!めちゃくちゃ速いぞ!」
「怯むな、やれ!」
残った兵士たちも腹部に軽い掌打を決めて悶絶させた。
ユリアは地面にぶっ倒れていた。意識があるのはさっきの声を聞けば明らかだ。
だがその隣に、あと一人残っていた謎の少年がいた。
少年は苦しそうな表情で何かをブツブツと呟いている。
「ドラゴンなのに………ドラゴンなのに………殺さなくちゃならないのに………殺したくない………殺したくない………!あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!」
急に発狂した少年は、ユリアに向かって大きく手を振りかぶり………
させるかよ!
俺はステータス補正によって馬鹿みたいな脚力で吹っ飛び、ユリアを助け出す。
「お兄様、私………」
抱きかかえたユリアは泣き出した。
「私、私のせいでこんなことに………皆は、私の仲間たちはどこですか?!」
だが今はユリアに返事をすることは出来ない。
「悪い、ユリア…仲間たちは後で探す。今は………」
目の前で俺に向かって咆哮を放つ少年を倒さねばならない。
この少年は一体何者なのだろうか。発狂してから一気に魔力が跳ね上がった。
三欲の魔女の一人、睡眠欲の魔女メリルに届きうる程の魔力だ。それに並ぶ者がもし何人も居るというのならネクス王国がドラゴニアに戦争を仕掛けてきたことにも納得がいく。
真っ赤だった髪が一瞬で真っ白に変わり、少年が巨大な火球を発射する。難なく躱し、破壊スキルで威力を散らす。
「『ウォーター』」
下級の水属性魔法を魔力を多めに込めて少年に放つ。体と連動して魔法を放つタイプのモンスターは真逆の属性に弱いことが多いので試しに打ってみたのだが、一撃でのしてしまった。
あの異常な魔力を持ちつつ紙装甲というのは中々珍しいタイプだ。保有魔力が多いと自然と魔法防御も高いものなのだが。
「ユリア、立てるか?一旦王城に戻ろう。ソルスと洞窟野郎も出撃させないといけないし」
「………はい」
転移するためユリアの手をとる。
「『テレポート』」
俺は泣き止む様子のないユリアと共に王城へと戻った。
次は一時ー、一時でございまーす