12話 私と我と、過去と未来
私の話をしよう。
真竜王国ドラゴニアの王女ユリアにして、なんかすごい魔法の使い手ユリエル。
生まれたときから私は王女で、聖龍族としてドラゴニアを将来引っ張っていく者として期待されていた。
生まれてすぐに、冒険者ギルドにある謎の石板に手をかざさせられた。
異常はすぐに発覚した。
通常より2倍に近いほどの魔力を有し、今までただ一人を除き保持していなかった特殊な魔法スキル、『ドラゴンフォース』と『スプリーム・ドラゴニア』を保持していたのだ。
ただ一人、このスキルを保持していた者と言うのが、千年前勇者と共に魔王を倒し、挙げ句の果てには勇者やその仲間を相手に大暴れしたという、初代聖竜王ファイツなのである。
父は初代聖竜王の再来だとして大いに喜んだのだが、母は心配していた。『私の娘は、皆と違うことに苦しまないかしら』と。
◇
それから12年が経ち、母が亡くなった。死因は未知の病気らしい。とても良い母だった。私の事も、アリアの事も深く愛してくれた。
妹であるアリアは正常に生まれてきた。とても優しいいい子で、私はアリアが大好きだった。私はよくアリアと一緒に遊んだ。
だが好きなものがあれば、嫌いなものもある。
私は小さな頃から、英才教育を施すために色々な分野の家庭教師がいた。
だが魔法に関しては………
「アリア様……お言葉ですが、アリア様は魔法には不向きでおられるようです。こんな高い魔力を持っているのに………」
最悪だった。
何人家庭教師を雇っても、『これしか使えないのなら………』と言われ、私はより劣等感と、私は異端であるのだという自覚を深めていった。母の心配は大当たりだった。
周囲からは次期聖竜王の妻としての期待という名の強烈なプレッシャーを浴びせられ、私はどんどんダメになっていった。
強くあらねばならぬ。
国民を守らねばならぬ。
期待に答えねばならぬ。
たかが最弱が、たかが1少女が、たかが異端が。
そんな義務と責任に打ち勝てる訳がなかった。
そうなれば私が取る行動はこれ一つしかない。
私は、初めての家出を決行した。
◇
誰にも、バレなかった。
逃げて、逃げて、逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて………
その先にあったのは、冒険者ギルドだった。
モンスターとの手に汗握る戦闘。気のおけない仲間たち。朝から夜まで飲みまくったり、広い世界を冒険したり。
そこには自由があった。
私は片っ端から冒険者達に声をかけまくった。
だがある者は、「い、いや俺のパーティーなんかに入ってもらうわけには………」と言う。
またある者は、「俺たちはそんな強くないですし………」と言う。
ことあるごとに避けられ避けられ避けられ。
誰も私をパーティーに入れてくれなかった。
私は絶望しかけた。
その時。
「おい、お前」
不意に肩を叩かれ、私は飛び上がった。
「ひゃいっ!な、何でしょうか………?」
そこには腰に二本の剣を携えた、見る限り火竜族のような少年が立っていた。
私はそれほどひどい顔をしていたのか、少年は憐れむようにこちらを見た。いや、そんな気がしただけで本来は無表情だったのだが。そんな彼は私に言った。
「お前、入るパーティー決まってないのか?」
と。
「は、はい。そうです」
外套のフードで顔は隠しているため、バレはしていないはずだが念のため、声も変えておいた。
「それじゃあ俺たちのパーティーに入れよ」
「へ?」
「だから、俺たちのパーティーに入れよって言ってんだよ」
キレ気味だった。彼は沸点が低いらしい。
私はこうして彼ら、カイン、アベル、エルと出会った。
たくさんの冒険をして、仲良くなった。
「『ユリエル』!また来いよ!お前のなんかすごい魔法、すごかったぞ!」
私は笑顔で手を振り、半日中王女がいなかったというのに、とても静かな王城にバレないように帰っていった。
何故『冒険者登録』をしていないのに、報酬がもらえたのかも知らないままに。
◇
我の話をしよう。
竜族には6種類ある。
火竜族、水竜族、地竜族、風竜族、闇竜族、そして聖龍族。
そして今ではどこの誰もが覚えていないこんな噂が流れたことがあった。
『人の手により創られ、全ての生物の心を思いのままとする人竜族が存在する』と。
◇
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
何故我は存在しているのだ。何故我は奴らの偽物であるのだ。何故我を創ったのだ!!!
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い………………………
我は目の前の少年を蹴りつけた。
二本の剣を携えた、火竜族の少年だ。その隣には大盾を持った土竜族の鎧少女と神官の様な服装をした同じく土竜族の少女が顔になんの感情も浮かべぬまま跪いている。
蹴られた少年も何ら反応を示さない。当たり前だ。
こやつらは我の操り人形なのだから。
大人しく跪いている少女達も、その長大な尾で弾き飛ばす。体が壁にめり込むが、その程度では死んだりはしない。我の真なる姿であるという真竜族が、これぐらいで壊れてしまっては興ざめである。
「父上、失礼致します」
軽いノックの音の後に少年が入って来る。
「グルアァァァァゥゥゥッッッ」
少年には『何の用だ』と聞こえているはずだ。
我が心を操っているのだから、全てが我の思うとおりだ。この醜い姿も彼の父親そのものに見えている。
本当の彼の父親は既に存在していないというのに。
「ハッ、真竜王国の結界が破れたようです」
「グアァァァゥゥゥ」『ついにやったのだな』
これで長年我を苦しめ続けた竜共を一匹残らず滅ぼせる。
「グアァァァッッッ、グルルァァァッッッッッッ!!!」
『全兵力を注ぎ込め、必ず奴らを滅ぼすのだ!』
「父上、これであなたの悲願が叶うのですね………」
少年は目から涙を流す。
「取られた土地も返ってきて、常に隣りにあった恐怖に民が怯えることも無くなる………!」
この日、全てが決する。
「ガウッ、グルルァァァゥゥゥッッッッッッ!!!」
『行け、ドラゴンスレイヤー!!!』
◇
真竜王国ドラゴニア王都を、大きな揺れが襲った。
ようやく完成させた魔道具を取り落とす程には強烈な魔力だった。
あまりにも言うことを聞かないソルスにほっぺたを引っ張るという平和的なお仕置きを与えていたメイドさんも、ほっぺたを引っ張られているソルスも、暇すぎてのの字を書いていたヨミも、俺の魔道具作りを見学していたメリルもその動きを止めた。
「この魔力は………」
ソルスが呟く。
多分こいつの推測は当たっている。
どう考えてもユリア以外に有り得ない。
「あいつ、どこで………」
「魔法を打ったんだ?」と続けようとしたところで、城内に大音量で緊急警報が鳴りまくった。
「ねぇ、ちょっと!何が起きてるの?!」
「わ、私にも………!」
ソルスがメイドさんの肩をガクガクと揺さぶる。
あまりに突然すぎて俺にも状況が飲み込めない。
ユリアと、ユリアの魔法が関係している、位は分かるが………
と、放送が始まった。
『緊急放送、緊急放送!対ネクス王国用の結界が一部破損しています!しかもそこから大量のネクス王国兵が!』
ネクス王国?ネクス王国ってたしか………
「さっき襲いかかってきた人たちの国ですね」
そうだそうだ。そういえば。
「なによ、襲いかかってきたって!どう考えても危ない人たちじゃないの!逃げましょう!サッサと逃げましょう!」
ビビリすぎだろ。
「落ち着け駄女神、お前は98レベルだろ?そんなヤバイ奴はそうそういねぇよ」
「そうよ、私強いんじゃない!」
「………………」
「何よその目は!」
んなこと忘れるか?フツー。
自分の事すら忘れる駄女神に心の中で嘆息する。
勢いよくドアが開かれる。
「魔女殿、おられるか!」
グレイが入ってきた。
何やら相当焦っているようで、せっかく綺麗な服がホコリだらけだった。
「グレイ様、そんなに急いでどうなされたので?まさか今の警報に関係が?」
「ああ、そうなのだ。隣のネクス王国の軍が攻め込んで来たようでな、既にヒラカレ森は突破されている。まぁ、当たり前といえば当たり前なのだが………」
隣国が唐突に戦争を仕掛けてきたらしい。でもそれだけならば特に問題はないはずだ。そう思って尋ねてみる。
「攻め込まれたなら反撃してしまえばよいのではないですか?真竜族の兵が、普通の人間の兵隊程度に遅れをとるとは思えませんが………」
真の姿に戻れなくなったとはいえ、竜族は竜族。魔物や魔獣の中でも最上位(三欲の魔女には敵わないだろう。メリルを見る限り)に位置する程の力を持っている。戦争なら不安要素は一切ないはずだが………
「まさか………」
「あぁ、魔女殿も気づかれたか。ユリアがいないのだ。どこへいるのかも、何をしているのかも分かるのだが、ユリアの現在位置が最悪なのだ」
「ヒラカレ森………とやらですか」
全く、俺の周りにはトラブルメーカーしか現れないのか!
明日また頑張ります




