11話 あなたの名前はユリアですか?ーいいえ、ユリエルです!
タヒんでませんよ!生きてます!続きをどーぞー!
開け放たれた窓。その部屋には2つのベッドが置かれており、全ての家具が2つずつあった。
だが、その部屋に存在するのはただ一人のみ。
「アリアはエルデ様の自慢話においてきたし、お兄様の家庭教師も今日はないし………」
左側のベッドに横たわり、ゴロゴロと転がりながらブツブツと呟く少女。
金髪碧眼、腰まで伸ばした長い髪は双子の妹、アリアと瓜二つである。
「はぁ~、ヒマです………」
そう呟いても、さして時間は潰れない。
だが、一枚の紙が一瞬でその役目を果たしてくれた。
開け放たれた窓から紙飛行機が入ってきたのだ。
「………………!」
彼女はひと目見てそれが何であるかを理解した。
そしてそれを拾い上げ、サッと目を通すとクローゼットから深いフードの付いた外套を取り出し、羽織る。
一言。
「お父様、アリア、お兄様、皆さん………」
「行ってきます!」
真竜王国ドラゴニア、王女ユリアは………
幾度目かになる、王城からの脱出を果たしたのだった。
◇
俺がユリアとアリアの家庭教師を始めて十日ほどが経った。俺たちは、王城内の客室に寝泊まりしている。
ソルスは、この期間に王城の探索を終えたらしく色々珍しい物を借りてきて遊んでいる。偶にとんでもない物を持ち出そうとして叱られている。
ヨミは、この部屋からほぼ外に出していない。というか本人が出たがらない。まぁ王城内にも、たくさん刃物はあるし、しょうがないだろう。
メリルも相当暇をもて余しているようで、自分の先祖、つまり睡眠欲の魔女の本を借りてきて読んだりしている。また死にたいとか言い出さないか不安だが、いつも楽しそうだし多分なんとかなるだろう。
そして俺はといえば………
「魔女殿………おお!お噂に違わぬ美しさ!私聖竜族のルーベルと申します!ああ、魔女殿、こちらをどうぞ。魔女殿の為に、先程大急ぎで作らせた最高級のショコラケーキでございます。私は聖竜族の末端ではありますが、名前だけでも覚えて頂ければと………」
「………はぁ………ありがとうございます………」
客の対応に追われていた。
ここ最近は、今まで家庭教師を理由に後回しにしていたため、特に酷い。
だが、今日はこの人で最後だ。疲れたから他の人には帰ってもらった。
「お疲れー、ねぇリン!これを見て頂戴!」
そう言って、お偉いさんの対応を終えた俺にソルスが見せつけて来たのは………
「それってあれじゃないのか?たしか………なんとかカリバー、みたいな名前の………」
何かスゴそうな剣だった。普通の剣からは感じ取れないような凄まじい魔力が放たれている。例えるなら、まるで勇者が使ってでもいそうな………
「御名答!これはまさに伝説の聖剣、なんとかカリバーよ!」
なんと本当になんとかカリバーという名前らしい。この世界の住人には、名付け方面でもうちょっと頑張って貰いたいものだ。
「んなもん持ち出してきていいのかよ、伝説級の力が秘められている!とかいうのじゃないのか?」
「もちろん神器よ?というか神器は元々神の作ったものなんだから私が持って行って怒られるわけ無いでしょ?」
名付け親は神様でしたか………頑張れよ神様。
「あぁっ!それは国宝のなんとかカリバー!ソルス様!あなたは一体何度言ったら………コラ!待ちなさい!」
偶然入ってきたメイドさんに追い回されるソルスを放っておき、俺はかねてより計画していたあることを始めた。
◇
「それでリン君、一体何を買いに行くのですか?」
俺は今、メリルと共に王都の街を歩いていた。天空一武闘会で活躍した為か、結構人目を集めている。それだけならいいのだが………
「あのパツキンのチャンネー超カワイクね?俺いっちょかましちゃおうかなー!」
こんなセリフが聞こえてくると軽く街の一つでも破壊したい気分になってくる。やっぱり元に戻りたいなぁ………
「おいおいお前知らねぇのか?あいつ実は男なんだぜ?しかもバケモンみたいに強ぇーんだぞ?」
フッ、良い友を持ったなチャラ男よ………今回は見逃してやろう!
「今日はちょっとやりたいことがあってな………前から考えていた事なんだが、結界村の中じゃ見つかんなくて………」
「見つからない?ということはそれを探しに行くんですか?」
「いや、見つかってるしもう買った。今日は受け取りに行くだけだよ」
実は俺、魔道具が作れるのです。しかもかなり高度な物を。
そんなことを話していると。
「あのーすみません。あなたがもしかして、破創の魔女様ですか?」
謎の集団に話しかけられた。
「はぁ、そうですけど」
面倒くさいので適当に対応するが、男達は胡散臭い笑みを消さない。
「魔女様にお話がありまして………これを見てください」
うおーっ、スッゲエーーーーー!!!!!!!!
見せられた箱の中身は前世で一生かけても稼げないような大金だった。
「なに、これくれるの?」
目が¥マークになっているのはしょうがないだろう。
「もちろんです。ただし一つ条件があります」
嫌な予感がする。
「ドラゴニアから離れ、隣国のネクス王国へ来ていただけ………」
「悪い、断る」
俺は即決した。長い目で見ればこっちの方が儲かるし、何より陰謀の匂いがするからだ。
「それでは………死んでもらうしかな………」
襲いかかってきたので全員打ちのめした。
相手が喋り終える前に倒すのが俺の十八番だとソルスに自慢したら、お約束くらい守りなさいと言われてしまったが、ここには紙装甲のメリルもいるし、仕方がないだろう。
「メリル、大丈夫か………」
安否確認のため振り向くと、そこには………
倒れたメリルの姿があった。
◇
頬を叩いて起こした。
「と、言うわけで………」
俺は一軒の店の前で立ち止まった。
古ぼけた看板、曇ったガラス、歪んで開けにくい入り口のドア。だが品物は一級品だ。
「ここですか?なんだかすごく汚いんですが………掃除したくなっちゃいます」
重度の潔癖症みたいな事を言い出すメリルを無視。
「そう、ここだ。おっちゃーん!邪魔するぜー!」
歪んで開けにくいドアを本来とは逆向きの外側に開けてぶっ壊す。
「………お前か………以前も壊さず入れと言ったはずだが………まあいい。商品の受け取りだな?」
The老人!といった見た目の爺、この店の店主兼闇の竜王、カース。
以前名乗られたときは、流石の俺もぶったまげた。『爺のドラゴンおるんかい!というか闇の竜王何しとんじゃい!』と。
そう尋ねると、
『老人のドラゴンはそうそうおらんな。何故かはわしも知らん。お前さんなら知っとるかと思ったんだが………お前さんの方が長生きじゃしな!あと魔道具屋はわしの小さな頃からの夢だったんじゃ』
と返された。おじいちゃん………
俺より年下だった。
「ん?お嬢ちゃんははじめましてか。私は闇の竜王、カースだ。よろしく………」
そっと手を差し出すカース。
「はじめまして、私睡眠欲の魔女、メリルと申します。よろしくお願いします」
メリルも、そのシワだらけの手をとった。
「お嬢ちゃんも魔女か………しかも三欲とは、これまた豪勢なパーティーメンバーじゃのう、破創の魔女さんや」
「あと、爆乳くの一と太陽の女神がパーティーメンバーだからな」
「それじゃあ今商品を持ってくる。少し待っとれ」
残りのパーティーメンバー紹介は太陽の女神のせいでスルーされた。
いつものことなのでもうどうでもいい。
メリルと一緒に椅子に腰掛け、足をブラブラさせて待っていると思いの外速く帰ってきた。
「ほれ、持ってきたぞ。全く…年寄りに重いもんを持たせおって………」
「ハイハイアリガトウアリガトウ」
「感情がこもっとらんぞ………まあ良い、それじゃあな」
俺たちは商品を受け取り、その場を去った。
「で!結局何を買ったんですか!」
◇
その頃………
「皆さん、お待たせしました!」
私は、久し振りに会う『仲間達』に挨拶をする。
「全く………この間はちょうど一ヶ月後に会おうとか自分で言った癖に………」
「そうそう!約束すっぽかすのは良くないわよ!もうちょい高い頻度で顔出しなさいよ!」
「まぁまぁ、皆さん落ち着いて…『ユリエル』さんにも色々事情がありますから………」
あはは………と苦笑いを返すことしか出来ない。この前は、私もちょうど一ヶ月後に抜け出すつもりだった。でも………
「ちょっとすごい人に会ってしまったもので………」
「「「すごい人?」」」
3人の声がピッタリハモる。
ここらで彼らの紹介をしよう。
まずはこのパーティーのリーダーを務めるカイン。火竜族で、少々キレやすいのが玉に瑕。両手に剣を持つ、二刀流のスタイルで戦う。
そして、前衛職のアベル。カインとは幼なじみの土竜族で、防御系統のスキルを大量に保持しており、守りに関しては歴戦の強者にも引けを取らない。作戦立案も担当している。
最後に回復職のエル。彼女も同じく土竜族で、ほんわかとした雰囲気だが状況を把握する力に長けており、『高速思考』スキルを使って、後方から私達の司令塔的役割を果たしつつ、回復もこなしてくれている。
私については皆さん既にお察しだろうが、真竜王国ドラゴニアの王女ユリア、もといこのパーティーではユリエルで通している。そして私はあの魔法しか使えないのでなんかすごい魔法で、詳細は私も知らないという設定にしてある。
「すごい人と言えば………あの人!天空一武闘会でグレイ様を倒しちゃった!」
「あぁー、あれはすごかったですねぇ。どんな相手でも一撃で倒しちゃってましたしね」
そんな話を聞くと、自分の事ではないのになんだか嬉しくなってくる。そんな人が私のお兄様、もといお師匠様だと知れば、彼らはどんな反応を見せるのだろうか。
だが一人、そんな私の思いを切り裂くような発言をする。
「あんなもん人じゃねぇよ、ただの化け物…っ!」
手が出ていた。
「ちょっ!ユリエル?!」
アベルが驚きに目を見張るが………
今のは、駄目だ。
「カインさん。今の言葉、取り消して下さい」
案の定カインはすぐにキレる。
「なんだよテメェ、お前には関係ねぇだろ!」
「ありますよ………」
あんな人が化け物?異端である私を許容してくれたあの人が?そんなことがあってたまるか。それなら!
「私は一体、何だって言うんですか………」
気づけば私は涙を流していた。気づいても止めることができず、涙は何粒もこぼれ落ちていく。
「あ……あぁ、悪い………」
カインは泣き出した私を見て思い出したようだ。
私が、ここにいる理由を。
◇
さてさて、取り掛かっていきますかー!
心の中で気合を入れつつ、現実でも頬を叩く。
特に意味はないが、魔道具作りというものは結構な集中力を要するものなので、一応毎回やっている。
「それで、その『共鳴石』を使って何を作ろうと言うのですか?」
さっき散々焦らしたからかちょっとキレ気味のメリルが問いかけてくる。
「うーん、ちょっと説明がめんどいんだけど………」
睨まれた。すいません!説明するから!
「まあまずはこれからだ。この共鳴石っていうのはな?魔力を流す事で出す音波の波長を変えられるんだ。そこまでは分かるな?」
メリルはコクコクと頷く。
「でもそれだけじゃないですか。特に用法がないことから、採掘してきてもなんのお金にもならないダメ鉱石だって聞いたことがありますよ?」
「だがそこで、だ。魔力を流す事で波長を変えられるってことは、2つの共鳴石を同じ波長にもできるって訳。」
「……!ということは………!」
メリルも気づいたようだ。
そう、俺が作りたいのは通信機である。
波長を合わせると、一方の石から出る音波の波長にもう片方が共鳴し、その石が出す音波と同じ音波を出すって寸法だ。
共鳴石は魔力を流す事で、思念を乗せたり、言葉を乗せたりできる。音は振動だからね。
今回は共鳴石に加え、色々な魔法等を組み合わせて波長をいくつか固定できるようにして、このボタンを押せば○○と繋がる!みたいのを作ろうとしている訳だ。魔力を流せば自然と考えていることが音波に乗るので、自分が喋れない時でも心で念じれば相手に伝わるのだ。
「なるほど………確かにそれは便利ですね。」
「だろ?何ならこれを思いついた俺を神と崇め奉ってくれてもいいぞ?」
「遠慮しておきます」
俺は神格を得られなかったようだが、構わず魔道具作りを始めた。
◇
「カインさん、今日の目標は何でしたっけ?」
「おいおい、もう3回目だぞ?しっかりしてくれよ………」
「あははっ!いいじゃない、これがユリエルよ。直そうと思って直るもんじゃないし、私はこのままの方がいいと思うわ」
アベルさん………!!うぅっ、目から汗が………
「ユ、ユリエル?!」
再び泣き出した私を見て、カインが慌てだす。
「いや…そのっ!悪い!あれ?俺なんかしたっけ………?」
「………いえ、なんにもしてないですよ。大丈夫です、泣き止みました」
カインが自分は悪くないことに気づき、安堵のため息をもらす。
「今日の目標はヒラカレ森に出たフォレストタイガーの討伐だ。奴は脚力が異常だ、俺でも追いつけん」
なんと!火属性支援魔法の『バーニングアクセル』が使えるカインでも追いつけないとは………
ヒラカレ森とは、王都北のネクス王国との間に位置する広い森だ。特殊な魔法を唱えることで迷わず進めるらしいのだが、ネクス王国の人達しかその魔法を知らないため、結界で隔てている。
最近、ネクス王国では王が急に打倒真竜族を叫びだしたという噂が流れており、ネクス王国の王都から離れた場所に住む人々は今に徴兵されるのではないかと思うと夜も眠れない生活を過ごしているらしい。
物思いに耽ってしまったが、今回の敵は結構な強敵だ。
ということは………
「私の魔法が輝く時ですね!」
「ええ、期待してますよ」
エルがにっこり微笑む。まるで太陽のような微笑みだ。仲間たちを見回すと、皆期待の目を向けている。
こうして私を必要としてくれるのは彼らだけだ。
いや、もう一人いた。私の一番尊敬する人………
世界最強が。
ー3時間後ー
ヒラカレ森と王都との間には、ツワモノ草原というとても広い草原があるため到着に時間を食ってしまった。
「やっと着いたな………にしても焦ったぜ………まさか地図が食われるなんてな。ユリエルが予備を持ってきてなかったらどうなってたことか………」
そう言って貰えれば満足だ。1ヶ月かけて準備してきた甲斐がある。だが結構奥まで歩いた。流石に対ネクス王国用の結界が見える位置までは来ていないので壊してしまうことは無いだろうが。
「あれがフォレストタイガー………結構デカイわね…」
全長3メートル程はある巨大な虎がそこにいた。滑らかな毛並みは王城の敷物にも利用されるほど上質で、モフモフだ。
ちょっと触りたくなってしまったが、ここは我慢我慢。
「それじゃあみんな、いい?」
アベルが作戦を再確認する。
「カインはエルの支援魔法を貰ってから突撃、エルは結界で壁を作ってポイントまで誘導して」
カインとエルが頷く。
「そしたら二人は私の後ろに。ユリエル、ポイントまで誘導できて、なおかつ二人が私の後ろに逃げ込めたら………」
アベルは私をピシッと指差し………
「ドーンとやっちゃいなさい!………あっ!ちゃんと詠唱は終わらせといてよ!」
魔法は詠唱したら勝手に飛んでいくわけではない。術者の力量や保有魔力と消費魔力によって時間は変わるが、いくらかの間なら発動しないこともできる。
「分かってますよ!流石にそんなヘマはしません!」
私のドヤ顔を見て、三人が同時に吹き出す。
「ちょ、ちょっと!なんで笑うんですか?!」
「「「な、何でもない………」」」
ならいいですけど。
アベルがポイント近くの草むらに隠れると私達も動き始めた。
「それじゃあ行くぞ。『バーニングアクセル』」
「『アースアシスト』」
カインとエルの支援魔法の重ねがけにより、カインの脚力が爆発的に上昇する。
「ユリエルさん、頼みましたよ!『物理結界』」
カインが飛び出す。
「分かってます!『ドラゴンフォース』」
準備は万端だ。
「おらあっ!ネコ野郎!こっち来やがれ!」
目でギリギリ追えるほどの超スピードで走るカインが、すれ違いざまにフォレストタイガーの顔をぶん殴った。
もちろんフォレストタイガーは激怒する。
「ニャオォォォォォォォン!!!!」
鳴き声かわいっ?!
作戦通りフォレストタイガーはカインを追っていく。
カインは草むらから出てきたアベルの後ろに入り込み………
「「「ユリエル(さん)!」」」
「フハハハハハッッッ!!!完璧だお主ら!此奴に我が魔法を使うのは少しもったいないが、生憎これ以上もこれ以下も無いのでな!消えよ!『スプリーム・ドラゴニア』!」
未だに何故自分が魔法を放つ時にこんな口調になるのかは分からないが、これだけの長文を話していても命中させられたのは仲間たちの努力のお陰だ。
「やりましたね!」
フォレストタイガーは跡形も無く消滅しており、仲間たちも無事である。
「「「ユリエル(さん)」」」
仲間たちが私を呼ぶ。
「お疲れさん」
カインが地面に倒れた私を背負ってくれた。
「お疲れ!あんたのお陰で今回も目標達成できたわ!」
アベルが砂まみれのまま、笑いかけてくる。
「ユリエルさん、お疲れ様です」
エルが優しく微笑む。
ああ、私はなんて………
自由なのだろう。
不意に睡魔に襲われた。私は全てを仲間たちに預け、深い眠りに落ちた。
一瞬だけ、空から降り注ぐ透明な破片が目に入ったはずなのだが、私はこの時全くそのことに気づかなかった。
次は一時ですー




