10話 あなたは弟子を愛せますか?―これは………
「王子!偵察に向かった部下たちが帰ってきました!」
「やっとか………遅かったな、何があったのか全て話せ」
ようやく奴についての情報が手に入る。一体あの後どうなっていたのか………
「はい、我らは天空一武闘会の偵察に行って来たのですが、そこでとんでもない者を見ました」
とんでもない者、やはり本当にいたのだろう。もはや我らにとっては敵などあろうはずもないのに部下の顔は絶望に満ちていた。
「かの有名な魔導士、虹のエレメルでも敵わない強大な力を持った女………いや男がドラゴニアにいます」
なんと、あの虹のエレメルでも敵わないとは………!あの男は世界でも十本の指に入るほどの魔法の使い手だ。
「しかもその女………いや男?は上級魔法で生み出した海神と上級精霊を初級魔法一発で消し飛ばしました」
「噂の通りであったか………なら闇ギルドでは敵うまい」
闇ギルド、黒の獣達………
全滅との知らせは本当だったのか………!
「そいつは金髪碧眼で帽子を被っており、王子に教えて頂いた情報とも合致しております」
破創の魔女………あの結界村の結界を破壊したという化け物………敵に回れば我が国に勝ち目はないやもしれん。魔女に名を連ねる者は三欲の魔女以外にも何人かいるが、そんなのは比にならないレベルの実績がある。
最悪の場合、あの三欲よりも強い可能性だってある。
「早急に手を打て。金ならいくらでも積め!それで駄目ならなんとしてでもドラゴニアから引き剥がすか………」
王子は一拍置いて厳かに………
「奴を殺せ、何を使っても構わん。我らの………父上の野望を邪魔する者は誰であろうと万死に値する」
その言葉に部下たちは一瞬たじろぐがすぐに狂気を取り戻す。
「ハッ!『ネクス王国王直属騎士団』の誇りにかけてきっと奴を我が国に取り入れて見せましょう!」
◇
そこはすでにカオスと化していた。
「おい主!どれだけ飲む気だ!これは流石に飲みすぎだぞ………」
「そうですよリン君!それになんで私は飲んじゃいけないんですか!私だって立派な大人ですよ?!」
俺はメリルの方を向き…
「フッ」
鼻で笑った。
メリルが上級魔法を唱える声と会場の全員が止めにかかる姿を後目に俺はソルスとアルコールに溺れ続けた。
「ねぇねぇリン?私とっても楽しいわ!今なら私、この星位なら溶かせちゃう気がするの」
とんでもない事を言い出すが今はもうどうでも良かった。
「はっはっはっ!そういえばお前太陽の女神なんだもんな!ずっと馬鹿みたいなこと言ってるから、この女なんちゃって女神なんじゃねえかと思ってたけどこの星位なら溶かせちゃうよな!ぶはははっ!!」
「ちょっと!誰がなんちゃって女神よ!今のは聞き捨てならないわよ!こんなお城位なら一瞬で蒸発させちゃうんだから!」
何だか知らないが異常に魔力が籠もった魔法を唱え始めて、メリルの様に取り押さえられたソルスを見て俺はまた爆笑する。
負けて自棄酒………な訳もなく、結果から言うと勝った。文句無しのワンパンである。
だが………その後が問題であった。
「はっはっはっ!魔女殿!楽しんでおられるかな?」
真竜王国ドラゴニア国王グレイは………
「そろそろ答えを聞こうか。どうだ?魔女殿。我が娘を嫁にとり、この国を治める気はないか?」
この国の王を降りようとしていた。
俺の返答は決まっている。俺は笑顔でにっこり。半泣きで…
「………お断りします」
◇
翌日。
とりあえず採用は決まった。
そして借金が2倍に増えた。
理由はというと家の駄女神と猫耳爆乳くの一のせいである。
案の定帰り道でやらかしたらしい。
「私は頑張って止めたのよ?でもこの98レベルの腕力を持つ、この私の力でも止めらんないんだからしょうがないじゃない!」
城へと向かう道の途中に大きな噴水がある。そこに立っていた巨大な竜剣士の剣にビビってぶっ壊したらしい。
ソルスの腕力でも止められないってどうなってんだ、こいつは俺とタメ張れるレベルの数少ない奴だと思っていたのに………
「すまない、主………私は今回、何もできていないな………」
「気にすんなって!ソルスも何もしてないから!」
「だから!止めたって言ってるじゃないの!」
ピーピー騒ぐソルスを置いて俺は王女の部屋へと向かった。
数回案内して貰って、なんとか覚えた道順。王城の、しかも王女の部屋への道だ。入り組んでいて当たり前だろう。
大広間から十分ほど掛けて、ようやく辿り着いた。
「失礼致します………フォッ?!」
ドアを開けると突然、枕が飛んできた。なんとか避けたが、その先にはパラダイス………もとい下着類しか身に着けていないユリアとアリアの姿があった。
「魔女様!まだ入って来ないで下さい!というか入って来るならノックをするのが普通でしょう?!」
「…………………グスッ」
アリアが泣き出した。
そりゃそうだよな、全裸を見られるところだったんだもんな。俺からしたら眼福の限りだが。大事な所はなんとか隠れているが、それでも他は丸見えである。
俺はゆっくりドアを閉める。
「速く閉めて下さい!」
次の枕はまともに食らった。
数分後………
ユリアが出てきて、
「………もういいですよ」
軽く睨まれた。顔は真っ赤だ。
部屋に入った俺に出来ることはこれしか無かった。
「すいませんでした………………」
日本での最大の謝意の表れにして、世界でも一位二位を争う(当社比)屈辱的なこのポーズ。見れば、相手は許さずにはいられない。
そう!DO☆GE☆ZAである。
「ま、魔女様!そんなことをしなくても………!」
DO☆GE☆ZAの効果は抜群だったようだ。
「うんじゃあやめるよ」
「やっぱりもうちょっと反省してください………」
アリアの目が怖い!
「いやまあ、とりあえず採用は決まったからさ。今日から働かなくちゃいけないんだよ」
王女相手にこの口調。俺がこの仕事を引き受けていなければこんな事はできなかっただろう(一応二人から許可は貰っている)。
「そうなのですか!それでは早速行きましょう!ほらアリアも!早く早く!」
ユリアが興奮し、俺達二人を引っ張っていく。
「お、お姉様!痛いですよ!すみません魔女様、よろしくお願いします………」
「あはは………こちらこそ………」
こうして、俺の教師生活が始まった。
◇
「よし、それじゃあ早速授業を始めちゃおう!皆さん、起立!気を付け!礼!お願いします!」
「「お願いします!!」」
二人は十三歳なので、年齢に合わせて中学校風にしてみた。というか俺も実質中学までしか行けてないため、高校風は知らない。
「さあ、まずは二人に質問だ。魔法についてどれくらい知ってるかな?」
ここは王城付近の草原だ。夏だし暑いかなーと思っていたのだが全然そんなことはなく、むしろ気持ちいい。優しいそよ風が草原ごと俺たちを包んでいく。
「はい!」
ユリアが元気よく挙手をする。
「はい、ユリアさん!」
「発動したらドーン!!!!!ってなって私は倒れます!!」
ユリアさん残念!
「残念、不正解だ。どんな魔法でもドーン!!!!!ってなるわけじゃないぞ?それにそんなにすぐには倒れないな。それではアリアさん!」
ユリアが凹んでいるが、構わずアリアに振る。
「は、はいっ!魔法というのは私達の魔力を特定の形にすることによって発生する超常現象です。魔法には主に火属性、水属性、土属性、風属性、闇属性、そして無属性に分かれており、無属性を操れる方は数少ないと聞いています」
正解!というかもう全部言っちゃったね。
「先生、アリアちゃんに全部任せちゃおっかなー!」
「そ、そんなに詳しい訳ではないので………」
と、遠慮するが顔が赤いことから照れている事は伝わってきた。可愛いな………
「魔女様、続きをお願いします」
ユリアは拗ねているのか先を急かしてくる。
うーん、魔女様って呼ばれるの実はちょっと苦痛なんだよね。
「ユリア、アリア、悪いけど魔女様って呼ぶのその……ちょっとね?」
この一言でユリアとアリアは察してくれたらしい。
「すみません!魔女様は男性だったんですもんね。でも何が良いでしょうか?何か候補はありますか?」
うーむ、候補と言われても………
「先生?いやいやちょっと硬いな…師匠…とかいいかもなぁー………でもでも!お兄ちゃんってのも捨てがたい………!」
「それで?どれにするか決まりましたか?」
ユリアに聞かれるが、そう簡単に決めてしまっていいものではない。
ぬあぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!悩む悩む悩む………
と、俺の頭の中で第一次呼称戦争が始まりそうになっていた所に救世主が現れた。
「授業の間はお師匠様、それ以外ではお兄様、でどうですか?」
おおおぉぉぉぉっっっ!!!!アリアさんSUGEEEEEE!!!
俺の中で第一次呼称戦争を始めようとしていた輩(誰だそいつら)がこの提案を飲み、第一次呼称戦争は始まる前に終戦した!そして第二次はない!
「うん、そうしよう是非そうしようやれそうしよう」
「「お、お師匠様………」」
「うん?どうしたのかな?」
いい!すごいいい!なにがいいってなんかいい!
「よーし、お師匠様はテンションが上がってきました!次は魔道具について行ってみよう!はい、ユリアさん!」
「はい!分かりません!」
分からないなら手を挙げるでない!
「じゃあアリアさんに教えてもらおう!それではどうぞ!アリアさん!」
「はい!魔道具と呼ばれるものは、ほとんどが魔石、つまり魔法を無限に放ち続ける石を使用して作られています。特に有名な物では『三欲の魔砲』などでしょうか………?これは絶対に壊せないと言われる素材で作られており、3つあるくせに1つあれば世界が滅ぼせるとか………」
例まで挙げてくれる完璧な説明だった。やっぱり俺、いらないんじゃないかな………
「よし分かった、魔道具についてもいらないかな!それじゃあそろそろ二人の実力を見せてもらおうか」
ユリアがビクッとする。
「使える魔法、まあ何でもいいか。好きな魔法をこの草原にぶっ放しちゃってください!」
魔法の一つくらいは使えるよね?
「好きな方からでいいけど………どっちからにする?」
そう言うとユリアとアリアは話し始めた。
「「ゴニョゴニョゴニョニョゴニョニョーニョ」」
すごい!ホントにゴニョゴニョで会話してやがる!
「はい!私から行きます!」
元気よく、だが先程よりはいくらかテンションがさがっているようなユリアが手を挙げる。
「それじゃあユリア、ドーンとやっちまえ!」
「はい、行きます!」
ユリアは詠唱を始める。その声は重く、厳かに草原に響き渡る。そして膨大な魔力が………って、ちょっ!
「………………ッ!破壊!」
あまりにも膨大な魔力がユリアに集まって行くものだから、反射的に破壊スキルを使ってしまった。
当然、魔法陣は音を立てて砕け散り、魔法は発動しない。
「お、お師匠様?」
ユリアが不安そうに尋ねてくる。
「あぁ、悪い。あまりにも魔力が凄かったもんだからつい………次は気を付けるから!な?」
破壊スキルは、魔法陣を破壊し魔法の発動を止めているため魔力は残っているはずだ。
「それじゃあユリア、もっかい頼む」
「お師匠様………私のこと、怖いと思ったりしないんですか?」
何を言っているのだこの女子は!こんな可愛いナリして怖いとか言うやつがいたら是非お目にかかりたいわ!
「思うわけ無いだろ?これくらいの魔力なら俺なら中級魔法で出せるしな」
まあ一瞬ビックリしただけだから!別にここここ怖く何かないんだからね!本当に怖くはないのだが。
「ありがとうございます。私、頑張りますから!」
今のどこに感動ポイントがあったのか分からないが、ユリアの目尻には涙が溜まっていた。
「おう、やっちまえ!」
何か俺も感動してきちゃったよ………うう、涙で前が………
ユリアはもう一度詠唱を始める。先程よりも多い魔力がユリアに集まって行く。
「行きます!『ドラゴンフォース』!!」
おお!かっけぇ!コレコレこういうのだよ異世界って言えばさ!火が出るとか風が吹くとかライターと扇風機でいいだろって思ってたけど!やっぱり魔法はこうでなきゃ!
魔力を体の表面に放出することで、一時的に全パラメータが上昇しているようだ。以上、鑑定スキル君からのお知らせでした!
だが、これで終わりではなかった。
「フハハハハハ!!!これ程全力を出したのは久しぶりであるな!我が師よ、これからが本番であるぞ!」
口調が一気に変わった。何か中二病臭いのは気のせいだろうか。
「行くぞ!これこそ我らが竜族の最終奥義!」
詠唱も無しにとてつもない量の魔力を集める中二ユリア。
幾重にも魔法陣が重なり、大魔法を放つときの余波なのか、ユリアの周りにパチパチと青白い電流が流れている。
「『スプリーム·ドラゴニア』!!!」
草原に降り注ぐ理不尽な暴力は、そこにあったであろう草原を完膚無きまでに破壊し尽くし、全てを終わらせた。
やべぇなこれ、俺でも死ぬわ。
「どうでしょう、お師匠様!」
口調が元に戻り、ぶっ倒れた体制でユリアが問うてくる。
俺は一言………
「………これは封印しようか」
そしてユリアも一言………
「………私、これしか使えないんです」
は?




